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コワモテ!  作者: リソタソ
友達!!
10/105

公園で見つけたもの・・・・・・・拾ったのは!?

 やっと楽しくなりそうな学校生活だったけど、放課後のなると私は結局一人になった。このみちゃんはバイトだって言ってたし、他の三人はどこかに遊びに行くらしい。私誘われなかったなぁ。本当に友達になれたのかなぁ?

 そんなことを思いながら坂道を降りていると、だんだんと気持ちが暗くなっていることに気が付いた。

 だ、ダメダメ! こんな風にふさぎ込んだりしちゃ、さらに一人ぼっちになっちゃうかもしれない。ここは気分を思い切って変えてみよう!

 帰り道の間に何かしよう。どこか遊びに行こうかなぁ。でも、この辺で楽しいところにいっても一人っきりだしなぁ。それだとあんまり楽しめないかも。一人で楽しめる場所、どこかにあったかなぁ。

 思い出を頼りに、どこか近場で気分転換になる場所を探す。いろいろと思い出していると、巡り巡ってまたワンちゃんとの昔の思い出にたどり着いた。

 そう言えば、あの公園、こっちに帰ってきてからまだ行ってなかった。 思い出の公園。私にとって最高の場所。うん、ここなら気分転換に最適に違いない。善は急げ、よし、帰りに公園に寄って帰ろう!

 私は、帰り道を変更して、その公園に向かうことにした。


 思い出の公園は海浜公園でもあって、シーズンになれば海水浴もできる。その上、随分と広い公園で、遊具のある場所や、スポーツをするのに最適な広い芝生、さらに児童センターもあるし、猿の飼われている小屋もある。まぁ、そこそこ田舎だから、この辺りにある一番大きいこの公園に全部を詰めただけって感じもするんだけどね。

 久しぶりにそこに行くと、通りの舗装の黒と茶のモザイク柄の模様も、青々と茂った街路樹も、何もかもが十年前と同じだった。まっすぐに伸びた道のに行けば二階建ての児童センター、左手に行けば広場と公園、まっすぐ行けば階段があって、その向こうに海が広がっている。ほんのりと潮の香りを乗せて漂う風が心地よかった。

三つの車止めのポールを抜けて公園に入ると、砂利道が伸びていた。その右手の、海側の方に広い芝生と遊具のあるスペースがある。

 昔、あそこの遊具でワンちゃんと遊んだんだっけ……懐かしいなぁ。つい思い出す純朴そうなワンちゃんの顔。丸っこい子犬みたいな、人懐っこい顔だ。あぁ、思い出すだけでもきゅんってしちゃう。今のワンちゃんとは比べものにならないよなぁ……あ、いや、別に今のワンちゃんが嫌いってわけじゃないんだけどね。

思い出の晴れた空から、現実の曇った薄暗い空の下に戻ると、昔のことがやけに遠く感じた。私はまだワンちゃんにしかあってないけど、昔の友達もみんながみんな変わっちゃったんだろうなぁ。私はその変化を知らないし、多分見ればみんな誰だかわかんないことも多いと思う。そう考えると、なんだか昔と比べて全然変わっていない気のする自分が、取り残されているような気がした。

 いや、それどころかむしろ友達も昔より減ったし、バイトと勉強も両立できない子だったし、しかも今も勉強とか全然しないで昔を懐かしむために時間を割いてるし……もしかして、私悪いほうに変わっちゃってる?

 はぁ、と意図せずに深い溜息を吐いてしまう。せっかく気分転換に来たのに、これじゃあ、ダメだね。折角来たんだけど、なんだか気持ちが沈んちゃいそうだから、帰ろうかな。

 踵を返そうとすると、芝生が青々と茂った広場から、同い年くらいの男の子が走ってくるのを見かけた。小麦色に肌が焼けていて、きりっとした目をした眼鏡を掛けた人。彼は段々と私の方に近づいて来ていた。

 な、何!? 私、なんか悪い事してた!?

 その人は私の前で立ち止まると、荒れた息を整えもせずに、

「なぁ、はぁはぁ……あんた、お嬢…………いや、髪が長くて、紺色のブレザーを着た俺と同い年くらいの女の子見なかったか?」

 と尋ねた。よかった、なんか怒られることとかしてたかと思った。紺色のブレザーの女の子か……見てないなぁ。良く見れば、彼も紺色のブレザーを着ている。確か、このブレザーって、私立高校の制服だったような……。

「いえ、見てないです……」

「そうか、ふぅ……いったいどこに行ったんだお嬢の奴……。すまなかった、ありがとう」

 彼はそう言うと、眼鏡をぴん、と伸ばした人差し指で直してまたどこかに走って行ってしまった。

「……迷子? いや、でもこんなところで迷子になることないだろうし……」

 私は彼の後姿を見ながら、ぽつりとつぶやいた。

 帰ろうかな、なんて思ったけど、もうちょっといてもいいかも。もしかしたら、さっきの彼が捜している女の子にも出会うかもしれないしね。

 人の良そうな場所、海の方かな?

 海浜公園のここには、夏場になったら泳ぐことのできる砂浜もあった。そして、そこに行くと、案の定ブレザーを着た女の子が、海の方を眺めていた。

 しかも、足元に大きな石を置いて、何かを待つようにじっと海を見ている。

 な、なにしてんのかな?

 その子は、遠目に見ても上品そうな黒髪の可愛らしい女の子で、海を見ているだけでまるで絵画みたいに様になっている……いるんだけど……その石、何?

 私はちょっとずつ、ちょっとずつ歩いて近づいて行った。そうしているうちに、その子がぽつり、と言った。

「今日もダメね。砂浜を覆い尽くすような大波が来ないと必殺シュートは完成しないわ」

「なにそのサッカー漫画みたいな台詞!? ……あ」

 ついうっかり、ツッコミを入れてしまった。

「あ」

 そのせいで、女の子とも目が合ってしまう。

「あなた……」

 私の方を見ながら、女の子が近づいてくる。や、やばい、もしかして見ちゃいけないものを見ちゃった?

「あ、いいいいいや、その私はそのぉ……」

 私が言い淀んでいると、女の子は私の手を取った。

「あなたももしかして、必殺シュートを完成させにきたのね!?」

「なんでそうなるの!?」

「あら、違うの? うーん、それじゃあ……海に向かってバカヤローって叫びに?」

「それも違うよ! そんなことする人普通いないよ」

「そうなの? おかしいわねぇ、順一の持っている絵付きご本にはそう描いてあったのに……」

 この子、ちょっとおかしい子? でも、なんだかしゃべり方もほんわりしていて、おっとりとした上品な感じがする。あ、そうだ。誰かが捜してたって伝えないと。きっと、この子がそうに違いない。うん、こんな子を野放ししておいたら私だって心配して捜しに出るもん。

「あ、あの……」

「なにかしら? やっぱり一緒に必殺シュートの練習を……」

「いや、それはしないよ……さっき、君と同じ高校の男の子があなたの事捜していたんだけど……」

「あら、順一のことかしら? そう言えば、シュートを完成させることに夢中で、順一をどこかに置きっぱなしにして来ちゃってたの忘れてたわ」

 うーん、この理由。至極変な理由なのに、言っている彼女自身は真剣そのものだ。

「どこで出会ったの?」

「えーと、公園の中の砂利道の辺りで……」

「そう。ありがとう、親切な方。そうだわ!」

 彼女はそう言って、私へ握った拳を突き出した。

「……え?」

 何をしたいの?

「さ、あなたも拳を突き出して」

「は?」

「いいから、早く」

「あ、うん……」

 言われるままに拳を突き出すと、

「えいやっ!」

 女の子は、私の拳と自分の拳をこつん、と突きあわせた。

「はい、これでいいわね」

「何が!?」

「じゃあ、私は順一を捜しますので、これで……。本当にありがとうね」

 そう言うと彼女はさっそうと走って、海と私に背を向けて、砂浜と公園を隔てている木々の陰に隠れて見えなくなった。

 なんだか、変なノリの子だったなぁ……。

 凄く変な体験もしたし、そろそろ帰ろうかな。私は海を少しだけ眺めてから、後ろを振り返った。

「よしよし、いい子にしてたか?」

どこからか優しそうな声が聞こえた。あれ? どこかで聞いたことがある声な気がする……もしかして、私の知ってる人かも。そう思って声がどこからするのか耳を澄ましていると、芝生と、砂浜との間にある木々の茂みの方から聞こえていた。。

 誰だろう? 気になるし、こっそり、そう、こっそり気づかれないように行って見てこよう。ゆっくり、そっと抜き足差し足忍び足で近寄って、茂みの中を覗いてみると、

「よしよし。へへ、可愛いなぁ」

 段ボールに入った子犬の頭を撫でている金髪のサイドテールが風に揺られていた。しかも見覚えのあるセーラー服にだぼだぼのブラウンのカーディガンを着ている。

「このみちゃん?」

「えっ?」

 振り返ったつり目の女の子は間違いなくこのみちゃんだった。

「わ、わ、わ、わあああああああああああ!!! な、なんであんたがここに!?」

 このみちゃんは、大声を出して驚いた。そのせいで子犬が段ボールから出ようとしてしまう。

「わ、お前、ここから出ちゃだめじゃん」

 このみちゃんはそれに気づいて子犬を元の段ボールに戻してあげた。慌てている様子が、普段はかっこよくクールに振舞おうとしているこのみちゃんとギャップがあって、なんだかおもしろい。

「ねぇ、ここで何してるの?」

「な、何って見りゃ分かるでしょ?」

 このみちゃんは照れながらそっぽを向いた。

「バイト?」

「違うわよ! こんなバイトあるわけないでしょ!?」

 このみちゃんが怒鳴るとまた、子犬がどこかに逃げようとして、それをまたこのみちゃんが慌てて元に戻す。

「あんた、私で遊んでる?」

「ごめんね、つい可愛くって」

 私が頭をかきながらそう言うと、このみちゃんははぁ、とため息を吐いた。

「バイト前なのに子犬のお世話してるの?」

 回り込んで子犬の入っている段ボールを見てみると、ファーストフード店のナゲットが置いてあった。

「そうよ。悪い?」

 そう言うこのみちゃんは、きっ、と私を睨みつけるけど、少しだけ頬が赤くってなっていたから、照れ隠しだってバレバレだった。

「ううん、全然。むしろ、意外な一面で面白いかな」

「どうせ、私みたいな冷たい奴がこんなことしてる、って心の中で笑ってるんでしょ?」

「そんなことないよ。それに、このみちゃんは冷たくなんて……」

 私がそう言いかけると、しゃがんでいたこのみちゃんが立ち上がった。

「冷たいわよ、私」

 そう言うこのみちゃんに、さっきまでの照れている様子は無くって、まだ友達になる前のあの怖いこのみちゃんみたいな雰囲気を纏っていた。

「でも、こうやって子犬のお世話も……」

「それが一番冷たい行為なのよ」

「えっ?」

「本当に心のあったかい人なら、たとえ親が反対してでも家に連れて帰るわ。でも、私の場合は……」、このみちゃんは私から子犬の方に目線を写し、「ただ可愛いだけだからって、可愛がって餌を与えて自己満足。きっとこの子は人間に養われることを覚えて、うまく自然で生きられなくなって、そのうち人間に媚びていたら保健所に連れていかれて殺されるのよ」

「そんなこと……」

「あるわよ、たくさん。今でだってこれからだって。一番この子にしてあげられる人間の手助けは自然にちゃんと返してやることよ。でも、私はそれをしないの。自分を慰めてあげたいから……ほらね、私って自分勝手で、冷たい人間でしょ?」

 そんなことないと、言い返せなかった。なんだかこのみちゃんの悲しげな諦めと怒っているような自嘲の前に、私の言葉は何の意味もなさないと思ったからだ。

「じゃ、私はバイト行くから。あんたも早く帰らないと雨に濡らされちゃうわよ?」

 このみちゃんは鞄を持って歩いて行ってしまった。

「このみちゃん………」

 私は遠ざかって行く彼女をじっと見送った。

「きゃん、きゃん」

 子犬もまだこのみちゃんに構って欲しそうに可愛らしく鳴いた。

「ごめんね、私が邪魔したせいでこのみちゃん帰っちゃって」

 子犬を見ていると、今にも段ボールから出ようと、前足を二本とも段ボールの縁に乗り出させていた。

「ああああ! ダメダメ、出たら怖いおじさんたちに連れてかれちゃうよ」

 私は、このみちゃんと同じく、子犬を段ボールの中に戻した。

 手で触ると、体の毛はすっごくふさふさとしていて、意外と体の部分は細かった。しかも……

「わん!」

 つぶらな瞳が私を見上げてくる! ああ、な、なんて可愛い生き物なの?

 気が付けば、私はこの子犬の虜になっていた。喉の後ろふわふわ~。くぅくぅ鳴ってる~。ああああ、尻尾振ってかわいい~。

 戯れていると、十分、二十分、三十分と、どんどん時間が経過していた。


 空の雲が、随分と厚く黒い物になってきた。そろそろ雨が降る頃だ。

「ごめんね、もう帰らなくちゃ」

 謝りながら頭をなでると、子犬は寂しそうに「くぅん」と鳴いた。

「ごめんね、子犬ちゃん。私の家でも犬は飼えないんだ」

 マンションだし、動物禁止だもの。…………このみちゃん。私だって同じだよ。家で飼えないのにこんなに遊んで、人に慣れさせて。挙句にその責任を取ることもできなんだもん。私だって、冷たい人間だよ。

 いつまでも一緒に居たいけど、このままずっとこの子といると、本当に家に帰らなくなりそうだ。決心をして立ち上がる。

 そのとき、ふと気づいた。雨が降ったら、この子びしょ濡れになっちゃうかも。頭上を見ると、生い茂った緑の屋根があるけれど、どう考えてもこれじゃ足りないと思う。

「そうだ」

 私は鞄の中から、今日使うように持ってきていた折り畳み傘を開いて、子犬ちゃんの段ボールの上に置いてあげた。これで、簡単な屋根の完成だ。

「じゃ、私ももう行くね」

 手を振って踵を返す。背中に「きゃん」と子犬の鳴き声が浴びせられて、私はどうしても立ち去ることに罪悪感を覚えてしまった。

 帰っている最中に雨が降り始めた。きっと、すぐに本降りになってしまう。この地方の雨は、降り始めは緩やかだけど、本降りになるとスコールみたいに一気に強い雨に変わる。その前にコンビニに寄って傘を買わないと……。

 コンビニを捜している最中も、どうしても子犬のことが頭をよぎった。可愛らしい鳴き声が忘れられない。あの確かなぬくもりのあるからだが、雨に冷やされてしまっているかもしれない。

この雨、きっと強くなる。しかも風もちょっとずつ強くなってきている。もしかしたら、私のあの傘じゃすぐに吹き飛んで、屋根が無くなっちゃうかもしれない。

「冷たい人間よ」

 このみちゃんの一言が、ぐさりと胸に刺さっていた。痛む胸を抱えて、私はその場に立ち尽くした。このままで……いいわけないでしょ!

 うん! やっぱり戻ろう。それから、あの子犬をいったん保護するんだ。もしかしたら、学校に子犬を飼ってくれる人がいるかもしれない! と、友達は少ないけどなんとかで、できる! い、いや、何とかしてやるんだから! 私はどしゃぶりになり始めた雨の中を走って公園の方へと引き返した。

 待ってて、子犬ちゃん。私が必ず飼い主を見つけてあげるからね……。

 走って、公園の入り口の、垣根と垣根に挟まれた小道に差し掛かった時。

「きゃん!」

 子犬の声が間近で聞こえた。

「ど、どこ!?」

 と、その鳴き声のする方を見てみると

「何してんだ?」

 聞き覚えのある低い声がした。

「わ、ワンちゃん!?」

 子犬を腕に抱えて、大き目の傘を持っているワンちゃんが、芝生の方から歩いて来ていて、私をじっとりとした目で見つめていた。



ども、作者です。ちょっと今回は台詞がお気に入り。

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