戴冠式2
貴族らしい口喧嘩(自分基準)です。会話が長いとこは切っているんですが一つにして投稿した方がいいんですかね?もし希望ありましたら感想か活動報告書でお伝えいただけると幸いです。
手間かかりますが、ツイッターとpixivもあるので書きやすい方で。
あたたかな雰囲気で包まれている新王誕生のパーティーの人垣を冷たい雰囲気を隠そうともせずに突き進むアルガディア国王夫妻、二人の横に並ぶエバルスは優雅な微笑みを浮かべており、それを見た令嬢たちは紅潮した頬を扇子で隠す。
更にその後ろに並ぶルキウスとその隣を一歩離れて歩くシギも微笑みを浮かべて歩いているが、ルキウスの顔を見た者は一瞬眉をよせるが、ほとんどは特に顔を動かさない。
「この度はご即位おめでとうございます、セタンタ女王陛下。同時に新組織の立ち上げ、おめでとうございます」
「ありがとうございます、急なことにも関わらずお祝いの言葉をいただけて嬉しい限りです」
玉座の前までたどり着いた国王夫妻の挨拶をしっかりと受け取るセタンタ。
「えぇ、本当に驚きました。タリアからは何も言われていなかったので」
「本当、みずくさい方」
夫の言葉にほほほと愉快そうに笑ってはいるが、情報共有されていないことに明らかに苛立っているアルガディアの王妃。その態度を見てもセタンタたち特に変化はない。
「幼い頃から、父上たちがいつもアルガディアの方々に驚かされていたのを見ていたので、私も今回は不意打ちを使わせていただきました」
今までのアルガディアからの急で無茶な要求のことを指した返しに夫妻が完全に顔をしかめる。それを察知したエバルスが交代だと言わんばかりに話し始めたことでようやく和やかな空気がもどった。
「この年で即位とは、セタンタ陛下と年が一つしか変わらない私からしたらまさに尊敬に値することです。しかも即位早々、このような催しを取り仕切るとは、ゲッダの民たちも安心でしょう」
「優秀と誉れ高いエバルス様にそうおっしゃられると自信がつきますわ」
「キーニャ殿も新組織の最高責任者とは、弟にも見習ってほしいものです」
「はは、案外すぐ、そのご要望は叶うかもしれませんね」
「?」
キーニャの返しに首をかしげる夫妻と何かに勘づいたように目を一瞬鋭くするエバルス。
「兄上の期待にどこまで応えられるか分かりませんが、その時は私の新しい門出を祝ってくださいますか?」
「お前の新しい門出か…。まるで旅立つようで兄として寂しいな、できればずっとこの兄の下にいてほしいが」
「かようなめでたい日に兄上の愛情まで感じられて幸せです」
まるでさみしがっているかのように振る舞うエバルスの本心は、余計なことはするな、だろう。それに対して言葉通りに受け取った時の返しをすることで拒否するルキウス。
貴族らしい口げんかにセタンタたちは満足そうだ。
「そのように兄弟愛を見せつけられると私たちも負けてはいられない気持ちが溢れますね。私たちも姉弟で力を合わせてゲッダを盛り上げとうございます」
そのまま、作り笑顔を貼り付けたまましばらく会話をしていたが、しびれを切らしたのか適当に話しを終わらせた国王夫妻は、ルキウスどころかエバルスすらも置き去りにして、会場の隅にいた元ゲッダの国王夫妻に小声で詰め寄る。
「タリア! これはどういうことだっ」
「新組織だって、私たちアルガディアの人間を蔑ろにするつもり!?」
とりあえず様子見でセタンタたちには下手にでたものの、何度も会っている元国王夫妻には以前のような横柄な態度で接する。
「番人の資格を奪われました…。私はもう、何も口出しできません」
「資格の剝奪とはなんだっ、そんなものがっ」
「ゲッダは国である前に庭で、我らは国規模の庭の管理をするために王族の身分を与えられたのに、役目を間違えたのだ」
目も合わさずに、色が抜けきった死人のような顔色で返す様子をみて気味が悪くなったのか、足早に挨拶もそぞろに立ち去ろうとした二人を呼び止めたのは、ルキウスだった。
「両陛下、急な報告になってお詫び申し上げます、実はセタンタ陛下にお声がけされていまして、しばらくゲッダに泊まる予定にございます」
「きっさま、勝手なことを何回もっ」
「両陛下!お会いできるのを楽しみにしていました!」
言葉を遮ったのはシザルだった。意地の悪そうな顔を浮かべて酒の入ったグラスを掲げながら向かってくるのを見て、夫妻は今までどうにか隠しそうとはしていた嫌悪感をついに剝き出しにした。
「精霊教会なぞに属する信徒風情がっ!誰に向かってその口開いている」
シザルの登場で声を荒げることになるのは目に見えていたルキウスは、事前にシザルが近づいてきたら、それとなく周りに響く音量を下げてくれとシギに指示を出していた。おかげで他国のパーティーで招待客に怒鳴る王族、という醜態を晒さずにすんだがもし二人が掴みかかりでもしたらと完全には気はぬけなかった。
会場の出口付近にいたおかげで、漂う剣吞な空気も他の招待客の高揚感に飲まれる。
「ルキウス様の話しを聞いてつい抑えられずに…、私も今日はお声がけ頂いてしばらく泊まることになりましたので。いや、つい数日前に王宮に招待されたばかりだったので、本当に最近は、精霊協会にとって良いことばかりで…。今回のことでまた、良き方向にいけばいいのですが」
「王宮に…?」
「なんってことをしてくれたの?」
王宮に精霊協会の信徒を入れたことを知って最早、言葉もろくに出なくなっているのを見て、シザルは実に楽しそうな顔をしている。
シギが精霊としてついてから使用人はだいぶ従順になった。彼らが無下にできないのは上級精霊持ちの泉で自分ではない、ということはルキウス自身分かっていたが、この好機を逃す気はなかった。そんな手配ができるはずがないと高を括っていた夫妻にとっては二重に腹立たしいことだった。
「愚弟とカレハテタモノの集団の長が一緒になって泊まるのか?」
「えぇ。そうです」
いつの間にか追いついてきたエバルスの蔑称使いを二人ともあえて否定せずに笑顔で返す。
「ふんっ、気分が優れないので失礼する」
エバルスのその言葉を合図に国王夫妻とエバルスは、今度こそ会場から去っていった。
「シザル、茶会から数日しか経っていないが、元気そうで何よりだ」
「ルキウス様もお変わりない様子で、いえ茶会の時より笑顔が増えているような気がしますね。何か嬉しいことでも?」
「今日という日を楽しみにしていたのだ、笑顔が増えるのは当然のことだろう。もちろん、そなたにまた会うことも含めて楽しみだったとも」
「私のような存在を心に留めておいてくれたこと感謝申し上げます」
(交渉はこれからだというのに、精神の疲労がすごいな)
美しいお辞儀をするシザルの頭を見たルキウスは、内心疲れ果てていた。両親にあのような態度をとるのも、ましてや、なんだかんだで結局憧れを捨てられずにいる兄と貴族らしい言葉の殴り合いをするのも全て緊張しっぱなしの中やっていたのだ。
しかし、同時に自身の言葉だけでかわせたのも、それ以上突っ込ませないようにできたことに達成感を覚えたのも事実だ。
今日やるべきことの本番はこれからだというのに一仕事終えた感が心を占めるのを、シザルとの乾杯の酒と一緒に飲み込むことで抑えた。
パーティーのざわめきは止むことなく、そのまま夜は更けていった。
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茶会の主催者の緊急呼び出しに集まった人々はいつもの庭園ではなく、地下に呼び出されたことに、よほどの事態になっているのかと不安を感じていた。
主催者の横にはジンドが控え、影で見えない主催者の代わりに横に控えているジンドの様子から事態の緊急性を図ろうとするが、ジンドすらも詳細を知らされていないため無駄なことだった。
「ゲッダの独立に向けた動き、正直問題とは思えません。ルキウス様の味方が増えることに関わらないのでしょう?」
「それに、緊急の集まりならここにシザル卿がいないのが…」
「シザルならゲッダに泊まる予定だ」
茶会の主催者は集まった者たちに向き直ると、空気が張り詰めた。皆、主催者の口が開くのを黙って見ている。
「この夜中によく集まってくれた、まずは感謝しよう。そして急だが本題に入る。まず、ジンドが言っていた通り、ゲッダの動き自体は喜ぶべきものだ、そこは間違いない。問題はキーニャたちが立ち上げる新組織だ」
「魔力及び植物研究開発特殊機関でしたか。むしろ、最終目的のために必要かと。確実に成功するまでは決行できないこの計画、その間に悲しむ民を少しでも減らしたいという願いが叶うのでは?」
「あぁ、間違いではないとも。だが、それではこの世界の呪いが解けた後、また精霊の扱いが以前のように戻ってしまうかもしれない」
会場にざわめきが広がっていく。
「それでは、セタンタ陛下たちの努力が水の泡に…」
「いっそ、こちら側に引き込んでしまうというのは」
「いや、それではルキウス様のお心が…」
対策と懸念事項を話し合う人たちの中で一人が挙手をした。
「あっ、あの、お聞きしたいことがありますっ」
「申してみよ」
「シザル卿から何もお聞きにならなかったのですか?」
「シザルとは皆と違い、全ての情報共有は行ってはいない。斧の立場である以上、もちろん五百年前のことと計画は話してある。ただ、私は精霊教会、ましてや信徒を助けることはできない、だから運営に関してはあまり口を出さなかったし、聞かなかった。すまない、私の落ち度だ」
頭を下げる主催者を見て慌てる質問者をジンドが制す。
「キーニャの目標は、精霊がゲッダでも問題なく活動できるよう、問題を解消することだ。しかも、ゲッダのあり方に反してはいない。双緑花も止めることはできないだろう」
打つ手なしと思われた中、沈黙を破ったのはそう思わせた主催者だった。
「だが、キーニャの最終目的はそれではない。人の魔力回復薬の開発だ」
「そっそれはっ」
見えたと思った一筋の光はあっけなく閉ざされた。人用の魔力回復薬は彼らが一番避けたいことだった。
「もちろん、危ない賭けだ。それこそ五百年前のようなことになる、だが私は逆に好機とも見ている。寧ろ、シャーキ草の生産が追いつけば、本格手に精霊が労働力として扱われるだろう。では、逆に魔法の扱い方を今のうちに決めてもらうのはどうだろうか」
「魔法の…使い方…?」
「そもそも五百年前のことは、魔法を人間が好き勝手使ったことにより起きたことだ。現在でも魔法はそこまで発展していないし、何より先祖たちが消したことによって最盛期には当分戻らないだろう。それまでに新しき魔法の使用に関しての考え方を作るのだ」
「半分賛成、半分反対です。いずれキーニャ様のような魔法の研究をやろうとする人が出てくるでしょう。今は良くても、その考え方が将来、先入観となって若い芽をつむことになるのではないでしょうか?」
自分は現在の少数派であることを自覚している彼らは、今の自分たちのように隠れながら生きることを強いることに抵抗があった。
「私もそうなることは望んでいない、しかし我らがどんだけ手を打っても問題はそれを受け継ぐ者たちだ。後の時代のためにどんだけ真心を注いで育てようとも、環境や本人自身の心変わりによって簡単に変わってしまう。実際、ゲッダがそうだったろう」
主催者の言う通りだった。実際、ゲッダは全てを伝えることはできずとも、どうあるべきか、そして誇りを締め付けすぎない伝統、という形で伝えて続けてきたはずだった。しかし、それはアルガディア側の王族を中心として勝手な解釈とゲッダ側の心変わりによって崩されてしまった。
「私たちにできることは未来の不安要素をできるだけ摘むこと、そしてこれから世界を支える者たちが生きる環境を整えるだけだ。本来なら、これも私たち大人だけが勝手に解決していい問題ではないが、今回ばかりは仕方ない。皆の者、詳細は追って伝える故、後は頼む」
「はっ」
主催の命令に応えた声は、先ほどまでの暗い空気を消す程の気合のこもったものだった。
次々と消えてゆく人々、その場に残るのは主催者とジンドだけだ。
「ジンド、Fランク冒険者たちのついて情報をまとめたものをくれ。教会に好意的な者だけでいい」
「承知いたしました」
「負担ばかりかけるな」
「貴方様に拾われていなかったら、私のような者には到底任されなかった大役です。それに最近は優秀な部下が増えたので」
貴族の捨て駒だった彼の事務能力が予想外に高かったことはジンドにとって喜ばしいことであった。あれから、監視と教育のためしごかれている彼は順調に成長している。
「そう言ってくれると私も頑張れるよ」
最後にジンドとも解散した主催者は一人部屋に戻り、また明日に備えて就寝した。
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遠い昔のこと、窓から差し込む夕日が部屋を照らしていた。
整えられた服を少し緩めて、窓辺とソファーが一体型になった所で、二人の男が並んで座っている。二人とも、手には書類を持っており細身の男は足の間に冠を置いていた。並ぶふくよかな体の男は冠の雑な扱い方を目線で気にしつつ話している。
「あそこを庭園に?」
「精霊と魔物たちからの許しは得ています」
「計画書は見た。ただ、私たちができるのは土台を作り上げるまでだ。どうあがいても、そこから先の習慣作りは難しい」
「習慣づけないと生きていけない仕組みを作るのです」
「魔法文明を農業向きに発展させることで、今の精霊、魔物の支配を目的とした方向への発展の勢いをそぎます」
「勢いをそぐといっても、そう上手くいくかは…。あぁ、そうかそのための人員移動か」
「魔法研究員の中でも優秀な者、教えがいがある者を何人か見繕っております。その中からまた何人か選出して管理させましょう。何人か抜けば、戦力が減った向こう側は研究が滞るどころじゃないでしょう」
「だが優秀な人材を引き抜く以上、彼らも黙っていないだろう」
「陛下は普段お優しいでしょう。貸しはかなりあるかと、こないだの提案書をちらつかせれば問題ありませんよ」
「お前はそういう物言いをどこで覚えてくるのだ。…私が外部の人間の引き抜きを任せきりにしたせいか…」
「そうおっしゃらないでください」
「お前には期待しているぞ、ジュッセ」
「はい、兄上」
今回は早めに投稿できましたかね?戴冠式パーティー、頑張ってるルキウスと貴族してるエバルスはどうですか?
斧の立場、最初の集会。【闇夜の茶会】で出てましたね。
しばらくは週一を目指して執筆頑張ります。次回はルキウス、シザル、セタンタたちとの交渉です。最近は作業枠とか入りたいとか考えてるんですが、なかなか勇気出ないんですよね。無言でいて大丈夫なら入りたいんですが…。




