戴冠式1
お偉いさん方の上品な言葉の刺し合いが難しすぎて一旦区切りました。
今回はエバルスとルキウスが兄弟仲良くしています?シギはほぼ空気です。
最初は穏やかだった。暖かい日の光を浴びているような心地と宙に浮いている感覚。最初はやすらぎ、幸福感を感じていたがしばらくすると、自分のではない焦りを感じた。
揺さぶられて焦燥感は周りに、自身にも移ったような気がする。誰かの息遣いがひどく不快だった。そしてー
目を覚ましたキーニャは、しばらくボーっとしてベッドから動くことが出来なかった。珍しく寝相が悪く、毛布は半分以上床に落ちている。
しかし、五分もしないで今日が何の日か思い出して意識が完全に覚醒した。ついに来た姉の戴冠式と自身の任命式のために、いつもより早起きして使用人を呼び鈴で呼び、今日の日のための衣装の着付けをしてもらう。
戴冠式前の軽い打ち合わせをした後は、セタンタと合流した。今日、王位を継ぐセタンタの衣装は、当然キーニャより豪華で繊細に作り上げられていた。希少性の高い植物をふんだんに使って赤に染められた布地、花弁が綺麗で貴族から人気な植物は魔法で加工されて髪飾りになっていた。聖庭の門番に相応しい、植物を中心に使用して作られた衣装だ。
「綺麗でかっこいいよ、姉様」
「ありがとう、キーニャ。私も貴方がやりたいことが堂々とできる日がきて嬉しいわ」
二人を微笑ましく、ある者は涙ぐみながら見ている使用人たちに目を向けると二人はくすっと笑った。
戴冠式の会場は厳かな雰囲気に包まれていた。元国王夫妻とその両親、前々国王夫妻が地味な衣装に身を包み、憔悴しきった顔で立っている。周りにいる兵士たちは護衛ではなく、監視のためかいつもより厳しい目つきをしている。。
セタンタが目線だけを会場に向けると、その先にはアルガディア国王族とシザルがいた。ルキウスとシギは嬉しそうに、アントニオらしき青年はこの光景によっぽど興奮しているのか目をキラキラさせている。エバルスは無表情、アルガディア国王夫妻は苦虫を嚙み潰したような顔をしている。シザルは満足そうに、ゲッダの精霊教会関係者は今にも歓声を上げるのを我慢している。
キーニャの任命式は戴冠式と同じくらいの静かな熱気の中、執り行われた。
キーニャは研究者をやるために瘦せて醜くなった。本来、そしてアルガディアでなら手のひら返しで蔑まれるだろう。しかし、アルガディアより容姿の価値が少しだが低かったのと既に家臣と民の忠誠と支持を集めていたため、離れたのはほんの一部の人のみにすんだ。
戴冠式と任命式の両方が問題なく終了した後はパーティーだ。アルガディアの国王夫妻が動き出そうとした直後、彼らの目の前に現れる人がいた。
「両陛下、新国王にご挨拶なさるなら私もご一緒してよろしいでしょうか」
目の前に現れたルキウスとその言葉に、二人は他国の新国王主催のパーティーの場であるにも関わらず、不愉快な態度を隠そうしなかった。
「誰の前に立っている、この災厄が。精霊様といい、今回の代替わりといいお前は不幸をどんだけ招いたら気が済む」
「ご冗談を、めでたいことでしょう」
「図に乗るのもほどほどになさいな。ただでさえ醜い顔が酷いことになってるわよ。上級精霊を手に入れた途端調子に乗ってっ」
「誠に良い精霊に巡り合えて生き生きとしている自覚はあります。お恥ずかしい」
吐き捨てるように侮辱する両親に対し、今までとは別人のように受け流す。その会話を涼しい顔を取り取り繕いながらアントニオは聞いていた。
「両陛下、ゲッダの久方ぶりの大規模な改革を祝いましょう。もちろん、愚弟と共に」
意外にも賛同したのはエバルスで、ルキウスと同様別人のような対応だ。愚弟という言葉を強めながら、しかし笑みは絶やさず。夫妻はエバルスの言葉にたじろいだが、次の言葉を聞くと大人しく挨拶用の顔になった。
「今日は戴冠式で更に大規模な改革発表の日です、当然向こうもいざという時の対策はとっているでしょう。正面から行くのはよろしくないかと。それに…」
間をおいて、セタンタたちが座る玉座の上、天井に目を向ける。
「新しい後ろ盾がついたようですし、分が悪いかと…」
微かに精霊の魔力を強く感じたルキウスの眉がぴくと動いた。目線を下に移すとエバルスの服の袖から召喚された時より小さい蛇がこちらを覗いていた。
「兄上、素晴らしい魔力の練りをする精霊ですが、お披露目の場までお楽しみはとっておいた方がよろしいのでは」
精霊に可視化を許可することは、場と状況によっては攻撃意思があると捉えられる可能性がある。
「そう言うな、愚弟。我が身を案ずる精霊の願いに応えただけだ。まぁ、つい最近まで精霊とは縁なかった貴様には難しい話だったな、ゆるせ」
「既にそこまで精霊と通じ合えているとは、国の将来の明るさに安堵するばかりです」
以前のルキウスのような、エバルスの望む態度が引き出せないことがわかったのか、ふんと鼻を鳴らし、そのまま夫妻の後ろに続いてセタンタたちに挨拶しに向かった。
ルキウスの場合、各国に意思疎通可能の人型精霊を召喚したことが周知されているため、問題なく精霊を連れ歩けている。だが一番は、セタンタがゲッダの各要人に知らせているからだろう。
知らずにいた人たちもゲッダの者たちに警戒する様子がないのを見て、すれ違う際に一瞬驚くもののすぐに顔を取り繕った。
ルキウスとシギたちが行ったのを見てアントニオは胸をなでおろしていた。
今回のルキウスの別人のような態度は事前に話し合って決めたことだった。
エバルスは問題ないが、アルガディア国王夫妻は正面からセタンタたちに文句をぶつけるのを阻止する必要があったのだ。
今はまだ公表されてはいないが、ルキウスたちがキーニャ率いる新機関とシザルたち精霊教会を繋ぐ仲介者として発表される日もそう遠くない。身内が起こそうとする騒ぎを防げぬようでは、双方の信用を得ることは困難だ。なぜなら、ルキウスが王城、王宮どちらでも冷遇されていることは知られているため、結局はアルガディア国王夫妻たちの操り人形なのではと疑われているからだ。
その印象を払拭するためには、王城、王宮どちらでも常に強気でいなくてはならない。アルガディアでなら醜い者が何様だと悪い噂になるだろうが、今のゲッダにとってはむしろ、キーニャたちが切り捨てたがったアルガディアの王侯貴族たちに反抗する意思があることを示す、と判断する材料の一つになれるだろう。さらに、アルガディアほど醜い者に容赦しない国はない、その国民、ましてや貴族がルキウスに協力して都合のいい噂を流すとは双方思わないだろうことから、噂が広まった時、判断材料の信憑性が増すのではないかという推測をたてた。
アントニオは会話が聞こえなくなる距離まで離れていってしまったルキウスたちを心の中で応援した。
(頑張れルキウスっ!シギは手を出しすぎるなよっ!)
次回アルガディア王族 VS ルキウス&ゲッダ次世代組




