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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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開戦……戦場で士気を上げるなら女の子の応援が一番だよね

 ズキューン!

 ズキューン! ズキューン!

 森の中に銃声が響き渡る。

 「……ふぅ、だいぶ慣れて来たな。」

 俺は、仕留めた獲物を収納しながらつぶやく。

 

 『女神の剣(エフィーリア)』の銃モード。

 対魔王戦のメイン武器はこれになると思い、色々試している所だ。

 まぁ、俺の素人剣術じゃ、魔王どころかアッシュやクリスにも通用しないしな。


 魔王を倒せるとすれば、意識外からの一撃必殺……これしかないと思う。 

 その為には……。

 ズキューン! ズキューン!

 俺は物陰に潜む魔獣に魔弾を撃ちこむ。

 不意を突かれた魔獣は、その場に倒れ込む。


 「シンジさぁーん、何処にいますかぁ?」

 獲物を収納にいれていると、俺を探すリディアの声が聞こえてくる。

 「ここ……っと。」

 ここだと言いかけて、俺はある悪戯を思いつき、こっそりとリディアの後ろへと忍び寄る。


 「もぉ―、シンジさぁーん!」

 早く出てきてくださいよぉ、と言うリディアの背後からそっと近づき、背中をツツーっと指でなぞる。


 「きゃぁーーーーーーーーーーーー!」

 リディアの悲鳴が森の中に響き、俺の足元が崩れ落ちる。

 「えっ?」

 俺は状況を把握する間もなく、瓦礫と共にうずもれていく。


 「はぁ……危なかった。……リディア、大丈夫か?」

 『空間転移(ディジョン)』を使って、崩壊した穴の中から脱出すると、蹲って泣いているリディアに声をかける。

 「ひっく……ひっく……大丈夫じゃないですよぅ。」

 ぐすっ、と泣きべそをかいているリディア。

 「びっくりしたんですよぉ……心臓が止まりましたよぉ……ぐす。」

 「あー、悪かった。ちょっとした悪戯のつもりだったんだが。」

 俺は気まずさに頬を掻く。


 「悪戯にも程が過ぎますぅ!」

 ぽかぽかと、俺を叩いてくるリディア。

 「ゴメン、悪かったって。」

 俺は謝りながらも、リディアの年相応の可愛らしさに、つい頬が緩む。

 「その顔は反省してないですぅ。罰としてお姫様抱っこを所望しますぅ!」

 「あー、はいはい。」

 ここは逆らわない方が無難だと思い、リディアを抱え上げる。

 リディアは俺の首に腕を回して、耳元で囁いてくる。

 「今回だけ、特別に許してあげますぅ。」

 そう言って俺の頬に唇を寄せてくる。

 「ハイハイ、ありがとな。」

 俺は軽くそう言って受け流す。

 「もぉー、シンジさんは不誠実ですっ!」

 俺とリディアの他愛のない会話は森を出るまで続くのだった。


 ◇


 「ん?レックスたちは?」

 みんなの元に戻った俺は、レックスとミィの姿が見えない事に気づき、エルに声をかける。

 「さぁ?朝から見てないわよ。」

 エルも知らないようだ。

 「あ、伝言預かってます。『先に様子を見てくる。アシュラムで会おう』って言ってました。」

 俺達の会話を聞いたアイリスが、そんな事を言ってくる。

 「まぁ、気まぐれについて来てただけだからな。」

 俺はそう言って、レックスたちの事を意識から切り離す。


 「それより、この後はどう動くおつもりで?」

 クリスが聞いてくる。

 「そうだな、軍の再編が終わり次第、アシュラム国へ向けて出発するつもりだ。」

 「再編はもう済んでますわ。」

 「そっか、じゃぁ休憩が終わったら出発しようか。」

 もう少し試したいこともあったが、あまり時間をかけたくないのも確かだ。

 先日の戦闘で、アシュラム軍の兵力はかなりのダメージがあったはずだ。

 時間をかけて敵戦力を回復させるのは、戦略的に言ってもよろしくない。

 クリスにはそう伝えたんだが……。


 ……クリスには言えないが、グランベルグを圧勝させるのならば、本当はもう少し時間をかけて、アシュラム軍の戦力をじわじわと削る方がいい。

 しかしそれをやってしまうと、戦後のアイリスが苦境に立たされることになるので、ここはグランベルグ軍にも相応のダメージがあった方が都合がいい。

 

 「この先の予定はどうなってるの?」

 エルが聞いてくる。

 俺は皆の顔を見回してから口を開く。

 「予測ではあるが、国境を越えた辺りでアシュラム軍との大規模な戦闘になるだろう。先駆けてアイリスとエル、リディアには国境付近の町や村に忍び込んでもらい、逃げるように伝えてもらいたい。」

 俺は地図を映し出して、幾つかの村や町を指し示す。

 その中には、俺達が復興を手伝った村も入っている。


 「そして、最終的にはここで待機していてもらいたい。」

 俺は王都のすぐ近くのポイントを指さす。

 「シンジさんはどうするんですかぁ?」

 「俺はクリス達と一緒に進軍する。そして戦闘のどさくさに紛れて王都に向かうよ。」

 予測される戦闘域から割り出すと、エル達と合流するのは戦闘が始まってから二日後になる。

 そこから王宮付近に近づくまでに1日……そして魔王との戦闘。


 「……だから、クリス達には1週間は持たせてもらいたい。戦闘が始まって1週間経っても、敵が引かない場合は一旦国境の外まで撤退してほしい。」

 「敵が引いたら?」

 「その時は時を置かずして和平交渉の使者が来る筈だから、後は外交だろ?」

 「つまり1週間経っても敵が引かない場合は貴方が失敗したって事でいいのね?」

 「そう言う事。放り出す様で悪いが、その時はそっちで何とかしてくれ。」

 「無責任なのね。」

 クリスが呆れたように言うが仕方がない。

 「俺の責任は、魔王と相対したところで終わってるよ。戦後まで責任持てるか。ましてや死んだあと迄の責任まで持てないね。」

 俺が「死ぬ」という言葉を出した途端エルの体がビクッと震える。

 アイリスとリディアが、そっと俺の服をギュっとつかむ。


 「俺も死にたくは無いからな、出来る限りの事はしてみるけどな。」 

 クリスを愛妾として可愛がってやらないといけないしな、と冗談交じりで言うと、エル、リディア、アイリスの三人が俺を抓ってきた。

 地味に痛いんですけど?

 ……冗談だからね?


 まぁ、三人の雰囲気を明るく出来たみたいなので良かったけどね。


 ◇


 「じゃぁ、私達は先に行くね。」

 そう言うエルの表情は少し寂しそうだった。

 「あぁ、頼む、気をつけてな。ポイントについたら連絡してみてくれ。」

 声を届ける魔術具の範囲が分からないので、合流ポイントについたら連絡を貰えるように言っておく。

 もし、声がつながればアシュラム国の半分の距離はカバーできるという事になり、今後の国家経営において重要な役割を果たすことが出来る可能性が広がる。

 こんな時に、と思わないでもないが、先の事を考えるのは、ここ一番の踏ん張り時に力を与えてくれると信じている。


 「さて、こっちも準備するか。」

 俺はエル達を見送った後、クリスに声をかける。

 「今日はここで野営しつつ物資の再配をする。明日から1日かけてこのポイントまで移動、そこで様子を見ながら開戦……という流れだが、問題ないか?」

 俺は映し出した地図を見ながらクリスに問いかける。

 「大丈夫ですわ。戦場が近づいて士気も上がっていますし、問題はありませんわ。」

 クリスはそう言いながらも、軍の編成についていくつか案を出してくる。


 「そのあたりは任せる。素人の俺より姫将軍の方が経験も豊富だろうしな。」

 「はい、任されましたわ。」

 お互いを見てぷっと吹き出す。

 何だかんだと言ってもこの数日でクリスと俺達の距離は近づいていると思う。 

 そして彼女の采配は任せるに値するものであるのは間違いのない事だった。


 ◇


 「いよいよですわね。」

 「あぁ、予定通り、向こうも人を張って待ち構えているからな。」

 「まずはどうしますの?」

 クリスが訊ねてくる。

 聞きたいというより、この場にいる各隊長に聞かせようとしているらしい。

 俺はその意をくんでこの周りの地図を映し出す。


 「まず、今の布陣はこんな感じだ。」

 俺はこちらの戦力の配置及び敵戦力の配置を映し出す。

 「そしてまずはこの隊がこう動くと、相手がこのような対応をしてくると思われる。」

 俺は自陣の動きと相手の予測線を描く。

 「その場合はこう動く。すると相手はこうこざるを得ない。もし来なければこちらへ向けて……。」

 相手の動きの予測とそれに対する対処法を幾つかのパターンを変えて説明していく。

 動員数はこちらが多い為、多少の不利を受けたとしても、全体的には有利な形で膠着状態に持ち込める……と言うより膠着状態に持っていく戦術を説明していく。


 ここの戦闘で勝利するなら別のやり方があった。

 無理矢理ここで戦闘をする必要はなかったが、膠着状態を作り上げるためには、ここでの戦闘は回避するわけにはいかない。

 騙しているようで気が引けるが、ここでの勝利が必ずしも最終的な勝利につながるわけではない……戦略とはそういうモノだ。


 俺の説明が終わるそ、その場にいた指揮官たちは深く頷く。

 「じゃぁ、これから一刻後に開戦だ。気を引き締めていけよ。」

 俺の掛け声で指揮官たちは其々の隊へと戻っていく。

 「中々の名司令官振りね。」

 クリスが笑いながら言う。

 「と言うより、アンタの役目じゃないのか?」

 「あら、未来の旦那様に役目を譲るのは当たり前じゃないですか?」

 くすくすと笑いながら、茶目っ気たっぷりの眼で見上げてくる。

 「ハイハイ、アンタも準備が必要だろ。いかなくていいのか?」

 「くすくす……じゃぁ行ってきますね。」

 クリスは俺の頬に唇を寄せてから天幕を出ていく。

 あっという間の出来事に、俺は動けずにいた。

 姫将軍、恐るべし!


 ◇


 「これは、聖戦であるっ!!我が国を蹂躙してきたアシュラム軍に対して反撃をする時が来たのだっ!」

 うぉぉぉ!

 クリスの激に兵達が応える。

 「良いか!ここでの勝利が我が国の繁栄の第一歩だ!諸君らの奮闘を願う。」

 「うぉぉぉぉぉ!勝利を我らが姫将軍にっ!」

 「突撃っ!」

 「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 クリスの合図とともに兵達が戦場へ向かっていく。

 「始まったな……、じゃぁ俺も行ってくるな。」

 「はい、行きましょうか。」

 「えっ?」

 俺は一瞬何を言われたか分からなかった。

 「あら、あなたが本当に魔王と戦うのか見届けないといけませんもの。」

 当たり前でしょ?と笑いながら言うクリス。

 「ここの指揮はどうするんだよ?」

 「アッシュさんとか優秀な指揮官がいますわ。彼に任せておけば大丈夫ですよね?」

 「あー、もういいや、行くぞ。」

 俺は考えるのを放棄する。

 

 「……る?……き……る?」

 俺の腕輪からかすかな声が聞こえる。

 俺は腕輪に魔力を注ぎ力を増幅する。

 「シンジ、聞こえる?」

 エルの声だ。

 「あぁ、聞こえるよ。」

 「良かった。私達は無事にポイントについたわ。村や街は避難勧告しておいたから安心して。」

 「了解、今から戦場を抜けてそっちに向かうから少しだけ待っててくれ。」

 「ウン、分かった。気を付けてね。」

 「了解。」

 俺はエルとの通信を切るとクリスに向き直る。

 「聞いての通りだ、今から合流ポイントに向かう。ついて来るなら遅れるなよ。」

 俺は収納からゴーレムホースを取り出す。

 まだ馬には乗れないが、これなら掴まっていればいいだけなので何とかなる。


 「未来の旦那様は乗馬の練習が必要ですわね。」

 クリスが笑う。

 「馬なんか乗れなくてもいいんだよ!」

 俺は憮然とした顔で答える。

 馬で駆けなきゃいけない人生なんて望んでいない。

 どうしても必要なら、ゴーレムホースのようなものを作ればいい。

 俺はそうやって生きていくんだよ。

 「くだらんこと言ってるとおいていくぞ!」

 俺はゴーレムホースに魔力を注ぎ込むと、スピードが上がる。

 「ゴメンナサイね。おいて行かれるのは困りますわ。」

 クリスは笑いながらもついて来る。


 戦場を2騎の馬が駆け抜けていく。

 その速さに、グランベル軍もアシュラム軍も呆気に取られて見送るだけだった。


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