リアルタイムのSLGって忙しいよね。
あけましておめでとうございます。
2021年第一弾です。
「シンジ様、来ましたわ。」
アイリスの言葉に、俺はスキルを発動させる。
『天空の瞳』
空間スキルの一つで、フィールド全体を空から見下ろす事が出来る。
「んー、まだ結構距離があるなぁ。アイリスよくわかったな。」
「えぇ、感知系の魔法は得意なのですよ。」
俺が頭を撫でると嬉しそうにそう答える。
『女神の剣』を得てから俺のスキルが大幅に変化した。
新しく使える様になったスキルもあるが、全体的に見れば出来ることが少なくなり、その代わり使いやすく整理された気がする。
例えるならば、今までは雑多に散らかっている部屋から目的の本を探していたのに対し、今は整理され検索も充実した書庫から本を出してくるような感じだ。
「俺らの出番だな。」
レックスが声をかけてくる。
「あぁ、頼んだ。敵は今ポイントRBの地点にいる。数は4千ってところか。伏兵がいる可能性もあるからな、決して無理をせず、少しずつ削りながらポイントBまでおびき寄せてくれ。」
「あいよ、任せておきな。」
「必要なら、連絡、する。」
ミィがイヤリングをちらりと見せながら言う。
「気をつけてな。」
俺はレックスたちを見送ると、腕輪の魔石に魔力を通して話しかける。
「リディア、聞こえるか?」
「はい、聞こえまぁーす。」
「敵はポイントRBだ。今レックスたちが向かった。引いてきたところで作戦通りに頼む。」
「分かった。任せてねぇ。」
俺はそれだけ聞くと流していた魔力を止める。
「便利なものですよね。」
アイリスが自分の耳に手をやり、そう呟く。
その耳にはミィがつけていたのと同じイヤリングが揺れている。
同じイヤリングをエルとリディア、クリスもつけている……通信の魔術具だ。
御前会議から戻った後、レックスがこの魔術具の元になる魔法陣を俺に差し出してきた。
「これは以前、借金のカタに錬金術師から取り上げたものだ。俺には必要の無いものだがお前ならわかるんじゃね?」
そう言って金貨1枚を要求してきた。
なんでも街の酒場にツケが溜まっていて、支払うために急遽金が必要になったそうだ。
最初は色々助けてもらった礼だと思って金を渡したが、魔法陣を解析した後は追加で支払ってもいいとさえ思った。
それほどまでに有益な魔法陣だった。
魔石に刻印し、その魔石に魔力を流すことで、対になる魔石へと声を届ける。
届く距離は、魔石の質と術者が込めた魔力量に比例する。
俺は出発までに刻印した魔石を使ったイヤリングを作成し、彼女たちに渡すことが出来たおかげで、戦場での連絡が取りやすくなった。
戦場で遅延の無い情報共有は大きな武器になる。
魔法陣を譲ってくれたレックスに感謝しないとな。
「エル、ポイントB1N6に広域魔法を。伏兵が隠れている。」
「分かったわ……『流星嵐!』」
魔石から爆音が聞こえてくる。
また派手なのを使うなぁ……っと、リディアの方だな。
「リディア、もうすぐレックスたちが引き返してくるぞ。」
「ハーイ、確認してますぅ。いっくよー『大地崩壊!』」
レックスたちの部隊を追ってきたアシュラム軍の足元が突然崩れ、崩壊に巻き込まれていく。
「リディアはそのまま待機。兵が来たら同じように頼む。」
「ハーイ。」
「エル、聞こえるか?」
「聞こえるわよ。」
「そこはもういいからポイントBN3の方へ移動してくれ。」
「了解。」
「シンジ、聞こえる?」
ミィから連絡が入る。
「どうした?」
「敵はどこ?」
「ポイントRを移動中。数が多いから先にリディアの魔法を使ってもらって、残った奴らの処理を頼む。」
「分かった。」
『天空の瞳』とこの魔術具の相性は抜群だ。
俺は向こうの世界でのSLGを思い出す。
あれは敵味方両方の位置がわかるから、あれだけ的確な戦術を駆使することが出来たが実戦ではあまり役に立たないと思っていた。
しかし『天空の瞳』で全面が見えて、声を届ける魔術具でリアルタイムに指示が出せるのであれば、難易度はSLG並まで下がる。
「クリス、アルタ砦に向かっていた兵2千がこっちに向かっている。ポイントZSで、通り過ぎた背後をついてくれ。」
「分かったわ。姫将軍の戦い方、よく見ておきなさい。」
「任せたよ。」
俺はクリスとの通話を切ると、再度戦場を眺める。
アルタ砦から回ってくる2千の兵は、クリス達に任せておけば問題ない。
エルのいる辺りから五百の伏兵がこちらに向っている。
これはエルに任せておけばいいが、その代わりしばらくはエル達はそちらにかかりっきりになるか。
リディアとレックスの部隊は徐々に本隊の数を減らしているが、相手も迂闊に近付いて来なくなっている。
「まだ、3千位残っているな。」
罠を警戒して距離を取っている部隊……本隊の残りだろう。
アレを潰せば、ここでの戦闘は終わるが、正面からぶつかるには、まだ戦力差があり過ぎる。
クリス達が戻ってくるのを待つか。
「シンジ様、いきなり黙ってどうしたんですか?」
「あぁ、戦況を見ていた……ちょっとした膠着状態に陥ったな。」
「膠着状態って……打つ手がないんですか?」
アイリスが心配そうに聞いてくる。
「まさか。相手が動かないなら動かしてやればいいだけの事だろ。」
俺は安心させるように笑いながら言う。
「それより、クリスはすごいな。前線で剣を振るいながらしっかりと指揮を執っている。」
「グランベルクが誇る『姫将軍』様ですからね。」
アイリスが嬉しそうに言う。
クリスの勇名はかなりの範囲に広がっているらしい。
「クリス達があっちを片付けて合流するのを待ってもいいが、クリス達がいないとムリだったって言われるのも癪だしな。」
俺はアイリスに後を頼むと、前線に向かう事にする。
「ミィ、レックスに伝えてくれ。一刻後にポイントOWに向けて進軍してくれって。」
「分かった。」
「リディア、聞こえるか?」
「ハーイ、聞こえるよぉ。」
「配下の兵はレックスたちに押し付けて、ポイントBOに移動して待っててくれ。俺もすぐ行く。」
「分かったぁー。」
エルの方は……ちょっと苦戦しているけど、大丈夫そうだな。
俺は『天空の瞳』を切るとリディアの待つポイントへと急ぐ。
◇
「おっそーい。」
リディアが膨れている。
「悪いな。ちょっと距離があったからな。それより、魔力は大丈夫か?」
「ウン、さっき回復薬のんだから大丈夫。」
「じゃぁついて来てくれ。」
俺はリディアと一緒に敵の本隊の裏へと回る。
(魔法を打ち込むんじゃないですかぁ?)
リディアが小声で聞いてくる。
(撃ち込むのに間違いはないが、物事には順序とタイミングと言うのがあるんだよ。)
俺はそう言って敵の本陣の様子を探る。
(リディア、あそことあそこの地面に穴をあけてくれ)
(うん……『堕し穴』)
(『純水生成』)
俺はリディアに続いて水を生み出す魔法を唱え、リディアの開けた穴を水で満たす。
そうやって、幾つか罠を仕掛けていると陣内が騒然としてきた。
どうやらレックスたちに気づいたらしい。
(いいか、タイミングが大事だぞ。)
(分かってますぅ。合図お願いしますぅ。)
俺はリディアに頷きタイミングを計る。
(準備はいいか?)
(いつでもOKだよ。)
(……3・2・1・今だっ!)
レックスの部隊に応戦しようと陣内の動きが外部に向いたところで俺は合図を送る。
『破砕流嵐!』
リディアの魔法が放たれる。
暴風が敵陣内を吹き荒れる。
大地が剥がされたように舞い上がり、近くの物を巻き込んでぶつかり合う。
範囲内にいる者達は、皆何かにしがみついている。
気を抜くと吹き飛ばされてしまうからだが、そこに器物が飛び込んできて兵を打ちのめす。
ぶつかった拍子に手が離れると、そのまま風に吹き飛ばされる。
アシュラム軍は戦闘どころではなかった。
やがて風が収まり視界が開けると、そのタイミングを待っていたかのようにレックスの部隊が襲い掛かる。
「リディア、戦闘はレックスたちに任せて援護に徹しろ。」
「ハーイ、シンジさんはどこ行くの?」
「敵の指揮官を倒してくる。」
「美味しい所を持ってくんですね。わかりますぅ。」
「クッ、これだけぐちゃぐちゃだと、歩くのも厳しいな。」
途中、敵兵が俺達が仕掛けた落とし穴に嵌まり、動けないでいるのをぶちのめしつつ、俺は敵の指揮官を探す。
「あいつか!」
俺は指揮官を見つけると『女神の剣』を抜いて駆けだす。
ザシュッ!
俺の目の前で敵の司令官が崩れ落ちる。
「よぉ、遅かったな。手柄は貰ったぜ。」
「あぁ、一歩遅かったようだな。」
俺はレックスにそう声をかけると『女神の剣』を仕舞う。
そして拡声の魔術具を使って大声で叫ぶ。
「司令官を討ち取ったぞっ!」
戦場に俺の声が響くと同時に味方の兵達の勝鬨が上がる。
その声に押されるように、まだ動けるアシュラム兵達は一目散に逃げだす。
「逃げる奴は放っておけ、生きてる兵は捕縛しろ。」
俺は次々へと指示を出す。
◇
「私達の出番を残しておいてくれなかったのか。」
戦いが終わり、敵の兵をあらかた縛り上げたところで、クリス達が到着する。
「いや、アンタらの仕事は残してあるよ。」
俺はそう言って捕縛した兵達を指さす。
「あれだけの捕虜俺達だけで運ぶの大変だからな。後は任せた。」
俺はレックスとクリスにそう言って、リディアと先に砦に戻る事にする。
エルは伏兵を片付けて、すでに砦に戻っているという連絡が入っている。
後処理を任されたクリスが、恨めしそうに見てくるが、俺は気づかない振りをしておいた。
「ヘロヘロですぅ。おんぶを所望しますぅ。」
リディアがそう言ってくる。
かなり魔力を消耗したらしく、足元がふらついている。
実際、リディアの援護はがなければ、いくら奇襲したと言っても、もう少し手こずっていた事だろう。
それだけ、的確に、数多くの魔法を使ってくれていた。
「お姫様抱っこでもいいですよぉ。」
リディアがニマニマと笑っている。
体力的にはともかく、精神的にはまだまだ余裕がありそうだ。
「縄をつけて引きずっていくって言うのはどうだ?」
「アイリスじゃあるまいし、そんなの嫌ですよぉ。」
リディアが文句を言う。
「本当にヘロヘロなんですぅ。」
口調はふざけ半分だが、マジにヘタっているらしい。
リディアが足元から崩れ落ちるのを、俺は慌てて支える。
「仕方がないな。」
俺はリディアを背負うと、砦へ向かって歩き出す。
「えへへ、役得ですぅ。」
リディアが俺の背中に顔を摺り寄せる。
「大人しくしていないと振り落とすぞ。」
「落とされないですよーだ。」
そう言ってギュっとしがみ付いてくる。
「ねぇ、シンジさん、ちょっと真面目な話していいですか?」
リディアが急に真面目な声を出す。
「あぁ、なんだ?」
「この後はアシュラム王国に行くんですよね?」
「あぁ、しっかりと準備をしてからな。」
「魔王と戦うんですよね?」
「場合によってはな。」
「……勝てると思いますか?」
「さぁな。勝てるとは言えないが、負けるつもりはない。」
「どう違うんですか?」
リディアが不思議そうに聞いてくる。
「魔王との戦闘になったら、敗北はそのまま死に繋がる。だから、勝てなければ逃げればいい。生きてさえいれば、再度準備を整えて挑むことが出来る。」
「逃げれますかねぇ。」
「さぁな。ただ俺は魔王とまともに戦うつもりはない。」
「どういうことですかぁ?」
「魔王は召喚されたんだろ?だったら召喚主を倒せばいい。契約が解ければこの場にとどまる理由も無くなるだろ。」
「そううまく行きますかねぇ?」
リディアは懐疑的だ。
「あれだけの異質な魔力は世界のバランスを崩す……縛るものがなくなれば、それ程長い間留まるのは難しい……と思う。」
「うまく行くといいですねぇ。」
「そうだな。」
「………。」
その後も、他愛の無い話を続けていたが、段々とリディアの声が小さくなっていく。
「寝てしまったか。」
俺は、眠るリディアの身体の重みを感じながら、起こさない様にゆっくりと歩いていく。
リディアがあんなことを聞いてきたのは、やはり不安があるからだろう。
そして、それはリディアだけじゃなくエルもアイリスも一緒だと思う。
「戻ったら、しっかりと話さなきゃな。」
俺は誰にともなく呟いた。
本年もよろしくお願いします。




