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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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戦いは準備が大事ですよ。準備段階で勝敗が決まるのです。

 「はぁ、ホント、シンジはバカよね。」

 エルが今日何度目かのため息をつく。

 「そうですねぇ、シンジさんキレやすいですぅ。カルシウムが足りてないんじゃないですかぁ。」

 散々な言われ様だ。

 「でも、私はちょっと嬉しかったですわ。」

 ポッと頬を赤らめたアイリスがいう。


 「私は面白くないですよぉ。」

 ぷくっと頬を膨らませたリディアが、後方のクリスを見ながら言う。

 「あのぁ、まだ決まったわけじゃないですし……。」

 クリスことクリスティラが困ったように言う。


 「決まったようなものよ。シンジはすごいんだからね。」

 さっきまでバカって言っていたエルが、今度は持ち上げてくる。

 「それにぃ、負けたらクリスも困るんじゃないですかぁ。」

 「それはそうなんですが……。」

 クリスがさらに困惑顔になる。

 「愛妾と愛奴ってどっちが上なんですかねぇ?」

 アイリスのつぶやきは……聞かなかったことにしよう。


 「お前達、そろそろ予定のポイントだからな、準備してくれよ。」

 俺はみんなに指示を出しつつ、このような状況になった原因を思い出していた。

 ……ホント、困った事になったもんだよ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 御前会議の連絡が来たのは、国王を交えた茶会から三日たってからだった。

 その間、俺は先んじて許可が下りていた王立図書館に籠りっきりだった。

 流石に禁書庫の許可までは降りていなかったが、それでもっ出来るだけの資料を漁り、魔術具の開発をしていた。

 その日も、閉館ギリギリまで粘っていて追い出される様にして図書館を出たところで、クリスに捕まり、御前会議の日程を知らされたのだ。


 「その様な冒険者風情の戯言など聞く必要はありませんぞっ!」

 「口先だけに決まっている。」

 「根拠がないっ!」

 あらかじめ、俺の提案は周知されていたのだろう。

 会議場は始まる前から喧騒に包まれていた。

 

 「大体メリットがない。」 

 「そもそも、魔王が召喚されたということ自体信じられぬ。」

 「王、騙されてはなりませぬぞ。」

 会議が始まっても、前向きな発言、具体的な発言はなく、全ては否定・批判・嘲りだけだった。

 うーん、これが普通なのか、グランベルクの家臣が思っていたより無能なのか…?

 俺はそんな事をリディアに小声で聞いてみる。

 

 (しぃーっ、ですよぉ。私も同じ事思いましたけど、そんなこと言っちゃダメですぅ。)

 リディアから見ても無能な家臣が多いらしい……お忍びで茶会に来てまで俺と直接話をしたかった国王の気持ちがわかったような気がした。


 「アシュラム王国なぞ、一挙に攻め滅ぼせばいいのではないか?」

 「あのような姑息な真似など……。」

 「正々堂々と戦えば我らに勝利アリ!」


 俺がリディアとコソコソ話している間に、会議は変な方向に盛り上がっていた。

 「国王よ、惑わされてななりません。」

 「そうです!アシュラムなど、我らの手にかかればなんてことないですよ!」

 「そこの冒険者は、単に国王の関心を買いたかっただけであろう?」

 

 言いたい放題言う大臣たちを見ていると段々イライラしてくる。

 「そもそも、そこの娘が本当にアシュラムの姫と言うのであれば、まずは捕らえるべきじゃないか?」

 「そうだ!捕らえて謝罪させ、尋問するべきだ!」

 「そうだ!そうだ!」

 「拷問にかけろ!」


 プチっ!

 あまりにもの勝手な言い草に俺の中で何かがキレる。

 思わず『女神の剣(エフィーリア)』を抜きかけるが、エルとリディアに手を抑えられる。

 (シンジ様、私は気にしませんので、どうかお心を鎮め下さい。)

 アイリスも、俺の手をそっと握ってそう言ってくる。

 だが、あのバカどもを許す気はない……この喧嘩、買ってやるよ。


 「さっきから、言いたいこと言ってくれてるが、現実を見たらどうだ?先日もクルミア砦が落ちたんだろ?」

 俺は敢えてバカにするような口調で挑発する。

 「な、何を!」

 「アレはアシュラム国が卑怯な手を使って……。」

 「奴らは既に追い返したのだ!」

 予想通り反論してきたが、結果が思わしくないのは自覚しているらしく、言い訳も微妙なものになっている。


 「勘違いしているようだから、改めて言っておく。アシュラム王国で魔王は召喚された。ここに攻めてきているのはアシュラム王国じゃない、魔王だ。」

 ……まぁ、正確には魔王を利用したアシュラム王国なんだけど、それを言うと後々厄介なので言わない。

 「別に俺の言葉を無視しても構わない、精々頑張って魔王に立ち向かってくれ。後言っておくが、アイリスは生贄にされそうなところを逃げ出してきただけだから、アシュラムに対して利用しようとしても無駄だからな。」

 「だが、王女の身柄を押さえれば、アシュラムとて……。」

 大臣の一人がなおも言いつのろうとする。

 「口を出すだけしか能のない奴は黙ってろっ!ガズェルは魔王と言う力を手に入れた。手元には王子が残っている……つまり、逃げた王女は邪魔な存在なんだよ。お前らが王女をどうしようがガズェルには何の影響も与えない。」

 何故こんな事が分からないんだ。


 「さて、国王様、返事を聞かせてもらいましょうか?いい加減このような茶番に付き合うのには飽きてしまいましたので。」

 俺はそう言って前方に座る国王とその隣のクリスを睨む。

 「一応最初に言っておきますが、私の要求を退けていただいても、当方は一向に構いません……グランベル王国のみで魔王を倒せるというなら、私も余計な苦労を追わずに済みますので。」

 「何をっ!」

 憤った大臣が言葉を発するが、国王はそれを制する。


 「フム、其方の言い分は理解した……が、其方の実力を余は知らぬのでな。今のままでは、そこにいる奴らと同じく、口先だけと言われても仕方がないだろう?」

 「別に俺はどっちでもいいと言ってるんだがな?」

 「まぁ、そう言うな。今のままではそこの奴らも納得せぬだろう。そこで、どうだ?お主の力で、今攻めてきているアシュラム軍を撃退してくれぬか?それが為せるなら大臣たちも納得するだろうし、余の責任において全面的に協力してやろう。」

 国王の言葉に俺は考える。

 まぁ、確かに今の眼前の脅威を取り去れば、この大臣たちも納得してくれるか……?

 (ちょ、ちょっとシンジ、落ち着きなさいよ。)

 (そうですねぇ、騙されかかってますよぉ。)

 (シンジ様をうまい事利用しようとしてるんですよ。)

 俺が国王に答えようとする前に、エル達に止められる。


 こっちが利用するはずだったのに、いつの間にか利用されそうになっている!?

 ふぅ……危ない、危ない。

 エル達が止めてくれなければ、危うく利用される所だった。

 俺は大きく息を吐いてから国王に答える。

 「お言葉ですが、その話では当方にメリットがありませんね。全面的な協力と言いますが、こちらが提示したものではあっても、必ずしも必要な事じゃないですしね。くだらない事で戦力を消耗する気はないですよ。」


 「そんなこと言って、実は自信がないのではありませんか?」

 国王の横に座っているクリスが口を開く。

 その自信に満ちた碧眼は挑発の色を放っていた。

 「なんだって!?そこまで言うなら……。」

 (ちょ、ちょっと落ち着いて。)

 売り言葉に買い言葉という事で挑発に乗りかけた俺だが、俺の手を引っ張るエルの声に冷静さを取り戻す。

 っと、危ない、危ない……しかし、最初に我慢していたせいか沸点が低くなっているのかもしれないな……気をつけよう。


 「その様な挑発には乗れませんね。」

 「あら、挑発ではありませんよ?ただこの様な些事も解決できない方が本当に魔王を倒せるのかしら?と疑問に思っただけですわ。」

 クリスがにこやかに挑発してくる。

 ここで乗るのは簡単だが、それでは利用されるだけで終わってしまう可能性がある。

 ここは、相手から一旦引かざるを得ない状況を作って、一筋縄ではいかないところを見せないとな。

 「そこまで言うなら、引き受けましょう。」

 「ちょっとシンジっ!」 

 立ち上がりかけたエルを俺は手で制する。

 「ただし、当方のメリットが何もないのは困りますね。」

 「あら、国王の全面協力ではダメなのかしら?」

 「それはメリットになりませんね、逆に協力してでも俺達を動かさないと困るのはそちらでしょう?」

 俺とクリスは見つめ合う……しかしその間に流れるのは、張詰め緊迫した空気だ。


 「……そうですね。では何をお望みでしょうか?」

 しばらくの後クリスが口を開く。

 「そうですね……。」

 俺は考える振りをする。

 「アシュラム軍を退けたら、あなたが……グランベルク第一王女クリスティラ様が俺の愛妾になるというのはいかがでしょう?」

 俺が事も無げに言うと、周りの空気が凍り付く。

 「シンジさぁん?」

 リディアのジト目が痛い……。

 いや、コレは作戦なんだよ。

 流石に大国の姫が一介の冒険者に、しかも嫁ではなく妾になんてありえないだろ?

 だからここは一旦引くはずだから、……そう言う事で他意はないんだよ?

 声に出して言うわけにはいかないので視線で訴えるが、三人とも冷たい視線を向けてくるだけで伝わっている気がしない。


 「いいでしょう。しかし、私を得たいというのであれば、今回のアシュラム軍を退けると言うだけでは不足ですね。魔王を退けてこの戦に終止符を打てたら?という事でいかがかしら?」

 クリスが面白そうに笑いながら言う。

 その瞳は「私はそんなに安くはないわ」と言っているようだった。

  

 「ちょ、な、まっ、……。」

 ……ちょっと待て、なんでそうなる?

 突然の事に俺は言葉を失う。

 「妾だぞ?王女がそんなに簡単に決めていいのか?」

 「あら、国を救った英雄に姫が嫁ぐと言うのは古来からよくある事ですわ。何か問題がありまして?……それとも、そちらが言い出したことですのに、やっぱりやめます、とでもいうのかしら?」

 クリスが追い打ちをかけてくる。

 国王を見ると満足気に頷いている。

 ……はぁ、こういう駆け引きはあっちが上という事か。


 「分かった、そちらがそれでいいなら。」

 俺は全面的に白旗を上げる。

 「シンジのばか……。」

 そっぽを向いてそう呟くエルの声が胸に突き刺さる。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「エル、リディア、アイリス、クリス、こっちへ来てくれ。」

 予定のポイントについたところで俺は皆を集める。

 連れてきている兵士達は一旦休憩だ。

 

 「じゃぁ、最終確認をするぞ。」

 俺はそう言って中空に地図を映し出す。

 「現在、このクリタス平原にはアッシュが7千の兵を、東のロクヨン山脈麓付近はミリアが5千の兵を率いて警戒をしていてくれる。」

 俺は其々の場所を指し示す。


 今回の作戦に重要なのは、俺の指示通りにポイントをしっかり守り、柔軟に動いてくれる指揮官が必要不可欠だった。

 現状では他の指揮官がワザと指示を曲解して足を引っ張る可能性があるため、信頼できる二人を指揮官に据えてもらった。

 この二か所は所謂「見せ餌」であって、最悪アッシュやミリアの指示に従わない兵がいたとしても、そこに存在していることをアシュラム軍に誇示してくれればいいので、戦闘になる可能性は少なく、それほど大きな問題にはならないとみている。


 「この二か所でグランベル軍が警戒しているから、次にアシュラム軍が狙うとしたら、ここかここのどちらかだ。」

 俺はこの先の二つの砦を指さす。

 「だから、まず3千の兵をこっちのアルタ砦に向ける。指揮官はクリスが最も信頼する奴を選んでくれ。」

 「私が行かなくていいのかしら?」

 「あぁ、ただアルタ砦が襲われたら、クリスは3千の兵を率いて援護に向かってもらう。そして、今回の作戦はここからが肝だ。」

 俺は皆の顔を見回す。

 

 「クリスが率いた兵が充分離れたところで、アシュラム軍の本隊がこっちのミラル砦を攻めて来る筈だ。敵兵力は今までの規模からするに5千と言う所だろうな。」

 「5千の兵を私達で食い止めるんですか?」

 「こっちに残すのは千に満たない数ですよね?もう少し残した方がいいのではないんですか?」

 「いや、こっちに兵はいないと思わせないと、本隊を釣れないからな。」

 俺は作戦の詳細を話す。

 

 ミラル砦付近はこの辺りでは珍しく複雑な地形になっている。

 途中にある丘陵地帯や、森などの地形を利用すれば砦付近までに1/4は削ることが出来るだろう。


 「クリスはミラル砦が攻められると言う連絡が入ったら、こう迂回して敵の背後に回ってくれ。」

 俺は地図上を指で進路をなぞる。

 「クリスが背後に回る頃には敵の本隊はこの辺りまで入り込んでいる筈なので、ここに仕掛けた罠の発動を合図に斬り込んでくれ。それと同時にこちらからの反撃を合わせれば、後は殲滅戦だな。」

 敵の魔法使いにだけは気を付けてくれとクリスに伝える。


 「もし、敵の本隊がアルタ砦に攻めて来る方ならどうしますの?」

 「さっきも言ったようにアシュラム軍の本隊は5千がいい所だ。援軍が到着すればグランベルグ軍は6千。数で上回っている上に『姫将軍』が指揮して負けるはずはないだろ?」

 俺は挑発するようにクリスに言う。

 「そうですわね、わが軍は口先だけの無能集団ではないという事を見せてあげますわ。」

 クリスも不敵に笑う。


 「じゃぁ、後は俺達だが……。」

 俺はエル達にどう動くのかを指示していく。

 今回、エルとリディアは400人の兵を率いて貰わなければならない。

 罠を仕掛ける場所と種類、広域魔法を打ち込むポイントとタイミング等々……。

 陽動が基本戦略なので、互いの連携は大事だから綿密に打ち合わせをしていく。

 アイリスは砦に防護結界を張りつつ回復役に徹してもらい、俺は指揮を執りつつ遊撃として動く。

 

 「じゃぁ、各自其々の役目に従って準備を頼む。」

 俺がそう言うと、クリスは兵達の編成に向かう。

 エルとリディアも自分が指揮する兵達の方へ説明の為に向かい、後には俺とアイリスだけが残される。


 「シンジ様……ありがとうございます。」

 「いきなりどうしたんだよ?」

 俺はアイリスの顔を見つめる。

 「いえ、シンジ様に出会わなければ、今頃私はここに居なかったなと思いまして。」

 「まぁ、な。アイリスに出会わなかったら、俺達もここには居なかっただろうな。」

 「ハイ……結局巻き込んでしまったみたいで。でもエルさんから謝罪はナシと言われているので……。」

 だからありがとうなのですよ、とアイリスは微笑みながら言ってくる。

 「そのお礼は、アシュラム王国を開放するまで取っておいてくれ。ここの戦いが終わったら、そのままアシュラム王国に乗り込むからな。」

 「ハイ、私の出来る限りの力でシンジ様をお守りいたしますね。」

 「いや……守るのは……ま、いっか。」

 俺はアイリスの頭を言撫でる。


 色々あったけど、ようやくアシュラム王国へ乗り込む目途がついた。

 アシュラム軍の相手はグランベルクに押し付けておいて俺達は魔王戦にだけ集中出来そうだしな。

 まずは、目の前の敵を一掃するところから始めようか。

 俺は砦の向こうに広がる荒野に目を向ける。


 開戦は目前だ。


今年最後の投稿になります。

次は年明けの投稿になると思います。

日付が変わると同時に投稿できたらいいなと思いますが、どうなるか分かりません(^^;

皆様良いお年を! 

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