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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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休日にバイトって息抜きになりますか?

 「ウルフバーガー5つ、オーダーですよ。」

 「あいよ、……ほらっ。」

 俺は焼いてあったウルフ肉をパンに挟み、アイリスに渡す。

 「ありがとうございます。」

 お礼を言うアイリスの声を聞きながら、俺は新しい肉を焼き始める。

 それほど大きくも、厚くもないウルフ肉はすぐに焼きあがるので、それを脇に除け、たれに付け込んである肉を新たに取り出して焼き始める。


 「ウルフバーガー3個ですぅ。」

 「ほらよ。」

 俺は焼きあがった肉をパンに挟み、リディアに渡す。

 「忙しぃですぅ。」

 リディアは忙しい忙しいと言いながら、楽しそうにしている。


 「何してんのよ。3つ早くよこしなさいよ。」

 「ちょっと待ってくれよ……よし。」

 俺は焼きあがった肉をパンに挟みエルに手渡す。

 「この分だと、後50個ぐらいで完売だとみんなに伝えてくれ。」

 「分かったわ。」

 出来たバーガーを手にして、売り子に戻るエル。


 俺は追加の肉を焼きながら、忙しそうにしながらも楽しそうにしている3人の姿を眺める。

 「こういうのもいいかもな。」

 俺は誰にともなく呟く。


 俺達がグランベル王国内に入ってから、すでに2週間がたっている。

 マルタ砦のすぐそばの街で情報を集めた後、王都であるこの街……グランドシティについたのが10日ほど前だ。

 アッシュが話をつけて、国王に謁見できる手筈が整うのを待っている所なんだが、ただ待っているのも芸がないという事で、何かをやろうという事になった。


 最初はギルドの依頼を受けようと思っていたのだが、戦争の影響か、商隊の護衛以外の碌な依頼は入っておらず、かと言ってこの街から離れる訳にも行けないので、依頼を受ける線は諦めた。

 代わりに始めたのがこの屋台……リディアがアシュラムの王都でやったような屋台がしたいと言い出したのがきっかけだった。

 アシュラム王国での反省を踏まえて、使う食材はコストが安く、在庫が余っているウルフ肉を使ったものにしようという事で、焼いたウルフ肉をパンに挟んだだけの「ウルフバーガー」に決定した。


 そのままでは硬いウルフ肉だが、ひたすら叩いて筋を切ったものが収納の中に大量に収めてある。

 それらを直径10㎝、2㎝厚程度に切り分け、特製のたれに付け込んだものをその場で焼いてパンに挟む。

 下ごしらえも、現場での作業もそれほど手間がかからないうえに、銅貨5枚と言う、屋台での価格では相場よりやや高めに設定したので、それ程忙しくはならないだろうと始めたのだが……。


 「今日も午前で店じまいか?」

 レックスが顔を出す。

 「バーガー一つ。」

 レックスの影に隠れていたミィがバーガーを所望する。

 「なぜか人気が高くてな。」

 俺は焼き上げたウルフ肉をパンに挟んでミィに手渡す。

 「熱いからな。」

 「ウン、ありがと。」

 ミィはウルフバーガーを受け取ると、早速齧り付く。


 「まだ、この街まで戦の影響は来てないからな。珍しいものを堪能する余裕があるんだろ。」

 そう言って、レックスは焼きあがった肉を直接口の中に放り込む。

 「おい、それは売りものだ。食べるならこっちにしろ。」

 そう言って俺は収納から取り出した肉の塊をレックスに投げる。

 「ったく、ケチケチすんなよ。」

 文句を言いながらも、受け取った肉をナイフで切り取り、焼き始めるレックス。


 「それで、戦の影響って?」

 俺は残った肉を焼きながらレックスに訊ねる。

 レックスとミィには、この街の周辺の情報を探ってもらっていた。

 「あぁ、マルタ砦以外の国境付近は軒並み食い荒らされているな。国も対応しているみたいだが、何分国境が広すぎて追いつかないというのが現状みたいだ。」


 どうやらアシュラム軍は、警備の薄い所を狙って進軍してはいるが、そこから先へは進まずに引き返して、他の警備の薄い所を狙う、と言う事を繰り返しているらしい。

 結果として、進軍されたところにグランベルク軍が到着した時にはもぬけの殻、略奪されつくした後があるだけという事になり、また、その間に別の所が襲われ、徐々に徐々にアシュラム軍に侵食される、という状態になっている。


 「どこかの守りを固めれば、他を侵食され、かと言って王都付近を守ろうとすれば他の地域は見捨てる事になる……お前ならどう対処する?」

 レックスは面白そうに問いかけてくる。

 「後手に回ってるから振り回されるんだろ。先手を打てばいいだけじゃないか。」

 俺はレックスにそう答える。

 「先手が打てないから、後手に回ってるんだろ?どうやって先手を打つんだ?」

 レックスがさらに問いかけてくるので、俺は肉を焼く手を止めて、レックスに向き直る。


 「いいか、アシュラム軍だって兵力が多いわけじゃない。少数の陽動を使ってグランベル軍を別の場所におびき寄せて、手薄になった所を狙っているだけだ。」

 レックスは俺の言葉に頷き、先を促す。

 「だから先手を取るには、アシュラム軍の狙う場所を限定させればいい。」

 アシュラム軍に狙わせる場所を決めたら、そこ以外の警備を厚くするだけで、アシュラム軍はその場所以外を狙うのが難しくなる。


 「後は演技力の問題だな。あからさまに隙を見せるのではなく、誘導されてそこに隙が出来た、と見せかければ食いついて来るだろ?」

 「成程な、お前賢いな。」

 レックスが俺の言葉に深く頷く。

 しかし、その時のレックスの瞳がギラリと怪しく光ったのに気づかなかった。


 「だけどな、それだけの兵力をどこから集める?グランベルグ軍だってそれほど多いわけじゃないだろう?」

 「それは国が考える事だろ?伊達に大国と言われてるわけじゃないんだ。その気になればアシュラム軍の5倍の兵力は揃えれるはずだよ。」

 実際には他国との関係とか色々絡んでくるが、それこそ国が考える事だ。

 「成程な。でもそれだけじゃぁ根本的な解決にはならないだろ?」

 更にレックスが訊ねてくる。

 「おかしな事を言うな?お前はさっき「どう対処するか?」って聞いてきたから対処方法を答えただけどろ?」

 俺はそう答えた後、逆にレックスに問いかけてみる。

 

 「レックス、何故そんな事に興味を持つ?普通傭兵は言われたことに対して働くだけで、戦術ならともかく戦略に興味を持つのはかなり珍しいんじゃないか?」

 俺の言葉に、レックスが笑う。」

 「お前は傭兵の事をよく分かってないみたいだな。一流の傭兵って言うのはどういう奴だと思う?」

 逆に問い返された。


 「うーん、やっぱりその戦いで確実に勝利を収める奴、じゃないのか?」

 「それは二流の傭兵だ。」

 俺が考えて出した答えを、レックスはバッサリと切り捨てる。

 「一流の傭兵って言うのは、何があっても生き延びる奴の事を言うんだ。」

 レックスがそう答える。

 「傭兵にとっての商品は自分自身だ。戦に勝とうが負けようが、生きてさえいれば、次の戦に売り込めるが、戦に勝っても死んでしまえばそこで終わりだからな。」

 レックスの言葉に俺は考え込む。

 冒険者として生きてく上でも通じるところがあるな。

 とにかく生き延びることが優先……か。


 「その考え方には同意できるな。」

 「だろ?だから生き抜くためには目先の事だけ考えているようではダメなんだよ。今回の場合だと、グランベルグ軍に勝ち目がないのなら、アシュラム軍に売り込む事だって考えなきゃならねぇ。今はお前の後についているが、勝ち目もなくアシュラム軍に飛び込んでいくようなら、サッサと逃げ出すことも考えないといけないからな。」

 そう言うレックスの眼からは何を考えているか読み取れなかった。


 「だったら、早めに逃げ出すんだな。」

 俺はレックスにそう告げる。

 「どういうことだ?」

 レックスが怪訝そうな顔で聞いてくる。

 「言葉通りだよ。ここの国王に会った後、俺達は魔王退治に向かうからな。」

 「……マジか?」

 呆れた声でレックスが聞いてくる。

 「マジだよ。さっき「根本の解決になってない」って言っただろ?根本の解決するには魔王をどうにかしないといけないからな。」

 「勝てると思っているのか?」

 レックスの眼からからかいの色が消える。

 「そんな事わからねぇよ。実際、城に入り込める手立てすら思いつかない状況だからな。」

 「そんな状態で魔王に挑むってか?お前、実はバカだろ?」

 「エルによく言われるよ……バカシンジって。でも魔王をどうにかしなければこの戦は終わらない。だったらやるしかないだろ?」

 俺の言葉にレックスが何かを考えるかのように黙り込む。


 「はぁ……ここまで面白い奴だとは思わなかったよ。」 

 しばらくして、レックスの口からそんな言葉が漏れる。

 「まぁ、面白そうなので、もう少しついて行くことにするわ。……そうだな魔王に会う手前までは付き合ってやるよ。」

 「手前までか?」

 俺は笑いながらレックスに言う。

 「手前までだ。魔王とは戦えないからな。」

 レックスも笑い返してくる。

 「じゃぁ、契約成立って事で。」

 まぁ、いついなくなるか分からないよりは、魔王戦の手前まではアテにできるというだけでもマシだろう。


 「オイオイ、契約成立って、契約料はどうなるんだよ。」

 そう言ってくるレックスに、俺は持っている肉の塊を指さす。

 「その肉はハイオークの良い所だ。売り方によっては金貨3~4枚にはなるだろうな。」

 同じ大きさのウルフ肉だが、今エル達が売っているウルフバーガーにして約500個……小金貨2枚半になるのだ。

 ハイオークの良質肉の肉串、銀貨1枚で売ったら金貨5~8枚位は稼げるに違いない。


 「マジかよ……。」

 レックスは肉を食べるのをやめ、残った肉を見つめて何やら考えている。

 どうせ売ろうかどうか考えているのだろうが、そのまま売ったら小金貨1枚にもならないからな。

 

 「ウルフバーガー後いくつできる?」

 エルが飛び込んでくる。

 「これで最後だよ。」

 俺は残った肉をパンに挟んで渡す……全部で15個だ。

 「了解、じゃぁこれで店じまいするね。」

 俺からウルフバーガーを受け取ったエルが、そう言って店頭へ向かう。

 俺はエル達の為に収納から串焼きを出して焼き始める。

 もう少ししたら、疲れたーとか言って戻ってくるだろうからな。

 串焼きで労ってやろう。


 見ると、ミィがじっと見ている。

 「みんなが戻って来るまで「待て」だからな。」

 俺は苦笑しつつ、そう釘を刺しておく。

 ミィは口数が少なくて、何を考えているか分かりづらいが、意外と食欲旺盛なのはこの数日の付き合いでよくわかった。

 なんて言っても、食事の用意をしていると、いつの間にか近くに現れるのだから、ある意味わかりやすいともいえる。

 「ハハッ、ミィは変わった料理に目が無いからな。」

 レックスがそう言ってくる。

 「全部レックスの所為。」

 ミィが拗ねたように言いながら、レックスの影に隠れる。

 この二人の関係もよく分からないけど、宿でもずっと一緒に居るから、……まぁ、そう言う関係なんだろうな。


 その後は皆が戻ってくるまでレックスと雑談をして過ごす。

 みんなが戻って来たら肉串の取り合いでひと騒ぎがある。

 ギルドから連絡が入るまでは、しばらくこんな光景が続くんだろうな。

 俺は目の前の光景を見ながらそんな事を考えていた。


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