新しい街に入ったら最初に何をやりますか?
ドォォォン!
遠くで、激しい音が聞こえる。
魔法を打ち合っている音だろう。
「始まったか。」
俺は準備はいいか?と周りを見ると、皆は一様に頷いてくれる。
「じゃぁ、レックス頼んだ。」
「おぅ、任せておきな。……行くぜ野郎ども!」
レックスの掛け声に、傭兵を含む、アッシュから借りたグランベルク兵が駆けだす。
「リディアとエルはタイミング見て撃ち込んでくれ。アイリスは援護を頼む。」
俺はそう言って、レックスたちの後を追うように駆け出す。
敵陣内は、予定通り混乱の渦に飲み込まれていた。
警戒をしていなかったのか、後詰めに残されていた兵が予想より少なかったのが、混乱に輪をかけていた。
「火を消せっ!」
「落ち着けっ!これは罠だ!」
「反乱だとっ!」
統制も取れず、各個の判断で動いている為、はたから見れば右往左往しているだけの様にしか見えない。
そして、定期的に撃ち込まれる魔法が更に混乱を招く。
「司令はどこにいる。早くお助けせねば。」
俺は適当な兵を捕まえて指揮官の居場所を聞く。
「向こうだ。司令を頼む……。」
その兵は俺にそれだけを告げると、ゆっくりと倒れていった。
見ると背中か焼け焦げている。
敵ながら見上げた根性だな。
あそこか?
兵に指された方へ行くと、指揮官らしき人物を守る様にして囲んでいる一団が見えた。
俺はその集団の足元に煙幕弾を撃ち込む。
「何だ?」
「クソッ、周りが見えん。」
「みんな落ち着けっ!落ち着くんだ。」
いきなり視界を塞がれて、右往左往している集団を無視して、俺は中央の人物を空間転移で攫うことに成功する。
突然の事に、敵の司令官は為す術もなく拘束される。
「何奴!」
司令官に答えようとした瞬間、背後に殺気を感じる。
振り返る間もなく、シュッという擦過音と、「ぐわっ!」という悲鳴が同時に聞こえた。
振り返ると、胸に剣が刺さり絶命している兵士の姿があった。
「まだまだ甘いな。」
そう言って俺のほうに歩いてくるレックス。
俺は素早く魔銃を抜き放ちレックスに向けて魔弾を放つ。
狙いは違わず、レックスの脇をすり抜けて、背後から狙っていた敵兵を撃ち抜いた。
「お互いにな。」
俺はレックスにニヤリと笑って見せる。
「ソイツが敵の司令官か?」
レックスが何事もなかったように近づいてくる。
「あぁ、この陣も半壊状態だし、後はこいつを連れていったん引き上げよう。」
「そうだな。」
そう言うとレックスが敵の司令官にあて身をくらわせ、昏倒したところで担ぎ上げる。
俺達は陣を抜けて、森の中へ引き返した。
◇
「戦闘、終わった。アシュラムの兵、引き上げている。」
戦場を見届けていたミィが戻ってきてそう報告してくれる。
「何とか勝てたか。」
俺はふぅっと肩の力を抜く。
敵司令官がいなくなっても、暴走した兵達が砦を襲う危険もあった。
そうなれば数の差で押し負ける可能性もあったから、正直なところ、敵兵士達が冷静な判断で引いてくれて助かったと思っている。
「じゃぁ、後はコイツの処遇だな。」
レックスがまだ意識を取り戻さない敵指揮官のマスクを外す。
フルフェイスのマスクを取ると中から色鮮やかな金髪が零れ落ちる。
「……女だったのか。」
レックスも想定外だったのか、マスクを手にしたまま固まっている。
「邪魔。」
固まっている俺達を押しのけて、ミィとエル達が鎧を外していく。
軽装になった所で、改めて縛り上げていくが……ミィの縛り方が、手慣れている上に、なんかエロい。
思わずレックスを見るが、奴は気まずそうに顔を背けるだけだった。
「あ、目を覚ますよ。」
意識を取り戻すまで休息していると、司令官を小枝でツンツンしていたリディアがそう声をかけてくる。
「……んっ……ここは……?」
「気が付いたか?」
俺は意識を取り戻した敵司令官の前にしゃがみ込み声をかける。
「お前はっ……グッ……動けない……。」
「一応、アンタの今の立場は捕虜なんだが、大人しくしてもらえるとこっちも助かる。」 「うっ……分かった……協定に基づいた扱いを所望する。」
「OK……じゃぁ、まずはアンタの名前を教えてくれ。」
「……クリスだ。」
「じゃぁクリス、お前達が攻めて来た目的を教えてくれるか?」
「それは……。」
クリスから聞き出したところによれば、グランベルクを攻める足掛かりとして、マルタ砦が狙われたという事だった。
クリスに与えられていた司令は、マルタ砦を落とした後は本隊が来るまで死守する事、だったらしい。
「という事は、少しは時間が稼げる、という事ですね。」
アイリスがホッとしたように言う。
「そう言う事になるが……。」
「シンジ様、何か気にかかる事でも?」
歯切れの悪い事に気づいたアイリスが訊ねてくる。
「いや、コレの扱いをどうするか……とかな。」
俺はぐったりとしているクリスに視線を向ける。
尋問中、素直に応えてくれない時にエルとリディが構い倒した結果だ……まぁ何をしたかは、彼女の尊厳の為に黙っておこう。
「何か問題があるんでしょうか?」
アイリスが訊ねてくる。
「いや、普通なら捕虜として、このクリスをグランベルクに連れて行くんだが…… 。」
「シンジさんは、女の人に甘すぎですぅ。」
リディアがプンプンと膨れている。
「何か問題があるんですか?」
アイリスは分かっていないようだ。
「普通は、敵の指揮官を捕らえたとなったら、それなりの扱いはするんだけど……女性となると、色々な名目でどんな目にあわされるか、考えると……ねぇ?」
エルが、痛ましそうな目でクリスを見る。
「まぁ、戦場で討ち死にした事にすれば、どういう扱いでもできるしな。」
レックスが言い、それでアイリスも状況を理解する。
「そんな事……。」
「一番の問題は……。」
俺はレックスとミィを見る。
理解しているのだろう、レックスがニィっと笑って俺に声をかけてくる。
「分かってるよ、この後の事は俺とミィは何も見てないし何も知らない、そう言う事にしておけばいいんだろ?」
「話しが早くて助かるが、……要求は何だ?」
傭兵を名乗るコイツが、タダで受け入れるわけがない、何かあるはずだ。
「そっちも話しが早くて助かるぜ。何も難しい事じゃない、しばらくの間アンタらと行動を共にしたい、それだけだ。」
レックスの要求は予想外の物だっただけに、すぐに返事が出来なかった。
「……一応理由を聞いてもいいか?」
「アンタらが面白そうだから、退屈しなくて済みそうだ。それだけの理由だが?」
他に何か必要か?と訊ねるような顔でレックスがいう。
「OK。ただ御期待に添えれなくても文句は言うなよ。」
契約成立だ。
俺はレックスにそう言ってからクリスへと顔を向ける。
「私に何をする気だ……これ以上は……って、へっ?」
突然拘束が解けたことに驚いておかしな声を上げるクリス。
「俺達は、敵兵を捕らえようとして失敗した。」
俺がそう言うと、クリスも状況が理解できたようだ。
「逃がす……と言うのか?」
「何のことだ?俺はクリスなんてアシュラム兵の事なんて知らない。」
その言葉を聞いて、クリスがふっと笑う。
「そうか、では感謝はしないでおく。」
ゆっくりと立ち上がり、手足を振って異常がないかを確かめると、そのまま立ち去ろうとするクリスをアイリスが引き留める。
「少しだけ待ってください。」
「……あなたは!?」
アイリスがクリスに駆け寄り、その手を取る。
アイリスの顔を間近で見たクリスが驚愕の表情を見せる。
「あなたにお願いがあります。ムリにとは申しませんが、国へ戻っても再び戦場に出るようなことはしないでください。出来れば争いを止める様にしてもらえると……。」
アイリスの言葉を聞いたクリスはゆっくりと首を振る。」
「あなたの言葉ならば聞き遂げたいと思います。ですが、我々は軍人ですので、命令があれば……。」
「分かっています……。ですが……。」
「あなたのお気持ちに敬意と感謝を。またお会いできる日を楽しみにしています。では。」
クリスはアイリスに一礼すると、今度こそ立ち去って行った。
「さて、俺達も戻ろうか。」
クリスの姿が見えなくなるまで見送った後、俺はみんなに声をかける。
「砦に報告したらそのままグランベルクに入国だよね?」
「あぁ、流石にこの戦の功労者を砦に留めるって事は出来ないだろう。」
エルの言葉に俺は頷く。
「アシュラムと通じてるって疑われるんじゃないのか?」
レックスが笑いながら言ってくる。
「俺達を信じさせるための芝居にしては、兵士の損害が大きすぎると思うが?」
そんなレックスに、俺も笑いながら言い返す。
「違いない。」
レックスも本気で言っているわけではないのだろう、笑顔のまま首肯する。
「置いていく。」
ミィの言葉に前方を見ると、いつの間にか距離が開いていた。
「すぐ行くよ。」
俺とレックスは慌てて追いかける。
エルたちは笑顔で俺が追い付くのを待っていてくれた。
◇
「よくやってくれた、シンジ助かったよ。」
マルタ砦に戻ると、アッシュがそんな声をかけて出迎えてくれる。
「いや、指揮官も逃がしてしまったし、あまり役に立てなかったみたいだ。」
相手の指揮官の処遇とか探られると面倒なので、俺はそう言っておく。
「そんなことは無い。お前達が敵陣を襲撃してくれたおかげで、前線の兵達の士気はがた落ち、命令系統もガタガタになったから押し返すことが出来たんだ。間違いなく、お前たちの活躍のおかげだよ。」
アッシュがそう言ってくれるので、この機に俺達の要望を通すことにする。
「そうか。だったら、俺達の入国を許可してもらって構わないか?以前も言ったように、急いでるんだよ。」
俺がそう言うと、アッシュは頷いてくれる。
「あぁ、構わない。元々、冒険者のお前達ならギルドが身分を保証してくれるのだからな。」
「だったら早く通せよ。」
俺が文句を言うとアッシュが苦笑しながら言う。
「悪かったよ。戦とか色々あっただろ、こっちも余裕がなかったんだよ。」
「まぁいいか、じゃぁ、俺達はこのまま行くな。世話になった。」
俺はアッシュに礼を言って砦を後にする。
「例の件は決まり次第ギルドに連絡を入れるから、連絡のつく場所にいてくれよ。」
アッシュが後ろから声をかけてくるので、俺は背中越しの手を振って、それに答えておく。
「なぁ、例の件ってなんだ?」
訳が分からないと、レックスが聞いてくるが、俺はそれに適当に答えておく。
「そんな事より、宿を決めたら情報収集だな。俺とエルは数年ぶりだし、リディアもアイリスも初めてくる場所だろ?アシュラムとの戦争の影響も知っておきたいな。」
俺がそう言うと、みんなが一様に頷く。
「分かりましたぁー。頑張って食べ歩きをしますっ!」
リディアが間違った方向に力を入れている。
……まぁ、そうやって市場で情報を集めるのは間違いじゃないから、怒るに怒れない。
「銀貨1枚までな。」
とりあえず上限を決めて釘を刺しておく。
「大丈夫よ、私が見張っておくから。」
エルがそう言うが、食べ歩きに関しては、リディアもエルもそう大差はなかったりする。
「シンジ様、大丈夫です。消化を助ける魔法を覚えましたから。」
両手をぐっと握りこんで、任せてくださいというアイリス。
……アイリスも努力の方向が少しおかしい方へ行っている気がする。
「まぁ、程々にな……。」
俺は軽くため息をつく。
「嬢ちゃん達楽しそうだな。」
「ウン、楽しそう。」
レックスとミィが羨ましそうに呟く。
「そうだな。」と俺も誰にともなくつぶやく。
こいつらが笑顔でいる間は何も心配ないと思う。
そして目下の所、その笑顔が陰る原因を作っているのはアシュラム国の戦争だ。
なるべく早く、アシュラム国を止めてこの争いに終止符を打たなければならない。
俺はふと、横にいるレックスたちを見る。
「どうした?」
俺の視線に気づいたのか、レックスが聞いてくる。
「いや、お前達は行かないのかなと思って。」
「そこまでガキじゃねぇよ。」
「そこのはそうでも無いみたいだけど?」
俺はレックスの横にいるミィを指さす。
ミィは先に行ったエルたちを追いかけたくてウズウズしていた。
「言って来いよ、ほらっ。」
そんなミィを見て、レックスは金の入った革袋をミィに渡し、背中を押してやる。
ミィは暫く逡巡していたが、やがて「言ってくる」と言ってエルたちの方へ駆けだしていった。
「じゃぁ、俺達は大人らしく酒場に繰り出すか。」
レックスはニィっと唇を歪ませる。
「先に行っててくれ、俺はギルドに顔を出してから行く。」
俺はレックスに、そう断りを入れる。
とりあえず俺はギルドで色々調べたいことがあるのだ。
「そっか、じゃぁ、良かったら後で来いよ。」
そう言って酒場の方へ向かって歩き出すレックス。
レックスとミィ……二人の戦闘力はかなりのものだ。
なんの気紛れか知らないが二人がパーティに入ったことで、俺達の弱点だった前衛が強化されたのは間違いない。
あの二人が何を考えているか分からないが、今は頼りにさせてもらおう。
ただ、信用しすぎないようにしなければ……俺はそのことを忘れないように深く心に刻み込んでから、ギルドに向けて歩き出すのだった。
クリスマスなのに執筆をしている悲しさ(><)
企画用の短編と魔王~のSSも公開していますので、よろしければどうぞ。




