どの世界の女の子も、甘いものが好きなのは一緒です。
「おはようございます、シンジさん。」
目が覚めると、何故か俺の目の前にリディアがいた。
……というより、リディアが一緒に寝てた……何故?
「えーと?」
「あれ、覚えてないんですか?……昨夜はあんなに激しく……。」
そう言ってリディアが顔を伏せる。
昨夜?……昨夜って、俺何をやったんだ?
「私……初めてだったのにぃ……イヤって、言ったのにぃ……。」
リディアが小さな声で呟いている。
「でも、アレが忘れられなくて……。」
ちょっと待て……俺、本当に何をやったんだ?
俺は昨日の事を思い出してみる……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いやぁ、本当に引き上げるとはなぁ。どんな魔法を使ったんだい?」
ミカリウス王子が馴れ馴れしく俺に寄ってくる。
かなり酔っているようだ。
王子だけでなく、他の兵たちも浮かれ騒いでいる。
……まぁ、それも仕方がないかもしれない。
場合によっては、この中にいる何人、何十人、何百人かは命を落としていた可能性だってあったのだ。
隣国から攻めて来た、8千からなる兵士を束ねる放蕩貴族を捕らえて、あまつさえ残った兵士たちを国へ追い返したのだ。
しかも犠牲者0で。
これでは、浮かれ騒ぐな、という方が無理だろう。
加えて、俺の両脇にはドレスアップしたエルとリディアが付き添っている。
彼女達の華やかな姿は、否が応でも男たちのテンションを盛り上げる。
「嬉しいのは分かりますが、ちょっと浮かれすぎです……シンジさん、ごめんなさい。」
リディアがミカリウスをたしなめている。
「大丈夫だよ、それより……。」
俺はリディアとエルを誘ってその場を離れる。
「あの……シンジさんどちらへ?」
「ココだよ。」
俺は厨房へ二人を連れ込む。
「ここは、一体……。」
「フフフ……ここならしばらく誰も来ないからな。」
俺の姿を見て、エルと、リディアがジリジリと後ずさる。
「イヤ……、何するの……。」
リディアがおびえた目で見つめる。
「なに、辛いのは最初だけさ。最後には、もっと、もっと、と自分から求めるようになるよ。ククク……。」
「イヤ、イヤ……私、初めてなの……。」
「ククク……。」
怯えるリディアにじりじりと近づいていく。
ポカッ!
「いい加減にしなさい!」
エルが俺を叩く。
「リディアが怯えてるでしょうが!」
「いやぁ、怯えるリディアが可愛くて、つい……。」
エルがリディアを抱き起す。
「エルさんー……。」
「よしよし……最初は辛いけど頑張ろうねっ。」
「えっ?」
「大丈夫よ、自ら欲しがるようになっても、私が止めてあげるわ。」
エルがニタァーっと笑う。
「ヒィッ!エルさんまで……イヤぁぁぁ―――――。」
俺達の他に誰も居ない厨房に、リディアの悲鳴が響き渡った。
◇
「うぅ……辛いですぅ……もう嫌ですぅ……許してくださぃぃー。」
リディアの泣き言が続いているが、俺は取り合わない。
「ダメだよー……ほらもっと……こう……。」
俺はリディアの手に俺の手を添えて、その棒を一緒に握り激しく動かす。
「私初めてなのにぃ……いきなりこんな激しいのムリですぅ。」
イヤイヤとするリディアの頭を優しくなでる。
「こんなに強くして大丈夫なんですか?」
リディアが不安そうに聞いてくる。
「あぁ、大丈夫だよ……そろそろ舐めてみる?」
俺はそう言って棒の先をリディアの口元まで持っていく。
リディアは、小さな口から、可愛い舌をペロッと出し、棒の先についた白い液体を恐る恐る舐める。
「っ!」
舐めたエルの顔が驚愕に歪む。
そして、リディアはペロペロと棒を舐めだす。
「ちょ、ちょっと、リディア、ストップ、ストップ。」
一心不乱に激しく舐めるリディアを引き離す。
「もっと、もっと舐めさせてくださいぃー。」
「ダメ、これ以上は……お預け。」
「そんなぁ……何でもしますから……。」
「頑張ればもっと、イイモノを上げるよ。」
「ホントですか!じゃぁ、次は何をやればいいですか、教えてください!」
リディアがやる気を出す。
「じゃぁ、頑張って。」
俺はリディアに棒を握らせる。
「これはもう嫌ですぅぅぅ-----。」
リディアの叫び声が厨房に響き渡った。
◇
「こ、これが……。」
リディアは目の前に置かれたものを見て、息をのむ。
「あぁ、リディアが頑張ったお陰で出来た『プリン』だよ。」
「これが……あの腕が疲れるぐらいに棒でかき混ぜたモノが、これに……。」
「感動するのもいいけど、早く食べて見なよ。」
「ビックリするわよ。」
俺とエルは、ニヤニヤしながらリディアがプリンを食べるのを待っている。
プリンを食べた時の反応が見たいのだ。
生クリームを舐めただけであれだけの反応をするリディアだから、プリンを食べた時の反応はとても可愛いだろうと予想される。
「では……頂きます。」
リディアがスプーンでプリンを一口分掬い、パクっと咥える。
「んっ!!」
リディアの瞳が見開かれる。
「これはっ!」
一心不乱に食べ始めるリディア。
「美味しいですぅ……。」
うっとりとした表情で、空になった器を見つめるリディア。
「シンジさん、いえシンジ様、もっとください。一つだけなんてあんまりですぅ。」
うるうるとして目で訴えてくるリディアにプリンを二つ差し出す。
パァーッと目を輝かせて、再びプリンに取り掛かるリディア。
とても幸せそうで、見ているだけで和む。
エルも同じようで、抱きしめたくてうずうずしていた。
あっという間に二つのプリンを平らげるリディア。
「もっとください!もっと、もっと、欲しぃですぅ―。」
「ダァーメ。」
エルがリディアを後ろから抱きしめて抑える。
「そんなぁ……もっとくださいぃ……。」
「ダーメ、もっと欲しいと言っても止めてあげるって言ったでしょ?」
「でも、でも、でもぉー……。」
じたばたと暴れるリディアを優しく押さえつけるエル。
あー、可愛ぃなぁ。
もっと餌付けしたくなるけど、ここは我慢だな。
しかし、リディアのこの食いつきようから見ると、王都でプリンは受け入れられそうでよかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……昨夜ってプリンを作っただけだよね?」
「えぇ、あのプリンは私にとって忘れられないものになりました。」
そう言いながらリディアが俺に抱きついてくる。
そして耳元でささやく。
「忘れられないんですぅ。もっと欲しぃの……。」
……あー、コレはイカン奴だ。
歯止めが利かなくなったエルと同じ目をしている。
とりあえずプリン以外に意識を逸らさないとな。
「あー、ところでエルは?一緒に寝てたんじゃぁ?」
「あぁ、エルさんなら……ひぃっ!」
いつの間にか、俺達の傍にエルが来ていた……が、その顔が怖い……一体どうしたんだ?
「リぃディアぁ……。」
「えーと、えーと、アハハ……。シンジさん助けてくださいっ!」
リディアが俺の背後に隠れる。
「えーと、エル、何があったの……かな?」
「ウフフ……大したことじゃないわ……ただ、プリンの誘惑に負けたリディアが私を動けなくして抜け出しただけよ。」
エルを動けなくって……俺はそっとリディアを見る。
俺はリディアを見くびっていたかもしれない。
「まぁ、そう言う事なら……。」
俺はリディアの首根っこを掴んで、エルに差し出す。
「酷いですぅ!裏切りですぅ!」
リディアがジタバタしているが無視しておく。
「俺はミカリウス王子の所に行ってくるから、後はよろしく。」
「ハーイ、行ってらっしゃい。」
リディアを羽交い絞めにしたエルが、満面の笑顔で送り出してくれる。
「あーん、助けてくださいぃ―――。」
リディアの叫びを背中に聞きながら、俺は部屋を出ていく。
「おや、シンジ起きたのかい?」
「おかげさまで、ぐっすりと休めましたよ。」
俺はミカリウス王子に挨拶をすると、今後の事について話し合う。
ミカリウス王子は、隣国を牽制するためにこのマカロン砦から動けない。
すでに黒幕である魔術師と隣国の貴族は、王都へ護送済だ。
つまり、俺達がここに居る理由はなくなっている。
「俺達は、今日にでもここを出ていくよ。」
「そうか、何処へ行く予定か聞いてもいいかい?」
俺が告げると、ミカリウス王子が聞いてくる。
「元々王都に行く予定だったからな、取りあえずは王都に向かうよ。」
「そうか、だったら頼みがある。」
◇
「……というわけで、リディアを連れて王都に行くぞ。」
俺は部屋に戻ると、二人にそう告げる。
ちなみにリディアはお仕置きの最中だったみたいで、とても恥ずかしい格好をさせられていた。
具体的には薄衣1枚の姿に、ネコ耳ネコ尻尾をつけられ、手には肉球グローブをはめられていた。
とっても可愛く、理性がぐらつきそうな姿だ。
「ふぇーん……シンジさん、助けてくださぁぁい。」
「こら、リディア、違うでしょ!」
「ハイ、スミマセン……シンジさん、助けてくださいにゃ。」
リディアは、にゃんにゃんとグローブを顔の近くにあげて招き猫みたいなポーズをとる。
俺はエルを見る。
彼女は、いい仕事をした!という様にふんぞり返っている。
色々言いたいことはあるが、とりあえずは……。
「エル……GJ!」
◇
「シンジさん、王都に行ったら、王宮に寄っていただけるのでしょうか?」
エルの前に座っているリディアが振り向いて、そう聞いてくる。
「まぁ、リディアを送り届ける必要があるからな。」
俺の言葉を聞いて、リディアの顔にぱぁっと笑顔が広がる。
「じゃぁ、じゃぁ、お礼をさせてくださいね。」
「いや、面倒だからいい。」
「面倒って何ですかぁ!あなたは、くにをすくったえいゆうなんですよ!お礼ぐらいさせてくださいよっ!」
「リディア、暴れると落ちるよ!」
手綱を握っているエルが、リディアを抑える。
「でもでもでもっ!」
「いいから、いいから。」
エルが手綱を握りながら、リディアを抱きしめる。
意外と器用な事をすると、エルの腰に掴まりながら思う。
……しかし、やっぱりこの図は、男として情けないものがあるなぁ……何か考えよう。
馬に揺られながらの1日半の短い旅ではあったが、それなりに楽しいものではあった。
先日、大量の魔獣を殲滅したために途中で襲われることもなく、採集や狩りなどを楽しみ、野営をした事が無いというリディアが、はしゃぎ過ぎて朝寝坊をしたりなど細々とした事が、この上もなく楽しかった。
そして、王都の城壁が見えてくる。
「……こちらへ。」
俺達の姿を……正確に言えばリディアの姿を見た衛兵が、門の横の特別な入口へと案内してくれる。
通常、貴族などが使う門の方だ……という事はリディアの素性を知っているって事か?
「門をくぐった所に馬車を用意しておりますのでそちらをご利用ください。……その馬は、こちらで丁重にお預かりいたします。」
「ありがとう存じます。」
リディアが衛兵に礼を告げる。
こういう所を見ると、リディアがお姫様だというのを思い出す。
……エルもお姫様だったはずなんだけどなぁ?
俺はちらっと、エルの方を見る。
「何よ?」
「……いや、なんでもない。」
俺の視線に気づいたエルが何か言いたげにしているが、気づかない振りをしておく。
「……コレって、王宮一直線ってやつか?」
馬車に乗せられた俺は、窓の外を流れる景色を見ながら、そう呟く。
「いいではないですか、丁度お礼もしたかったですし。」
リディアがニコニコしている。
……まぁ、もう少しだけ付き合うか。