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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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悪事が成功したためしはない……お約束って、破ってみたくなりませんか?

 「おー、壮観だなぁ。」

 俺は国境の向こう側を見てそう呟く。

 眼前にはおよそ8千の兵が陣を敷いている。


 「さてと……。」

 俺は自分の使える魔法とスキルを検討する。

 今回、人知れずあの陣に忍び込むためには……と。

 

 まず、闇属性スキル『潜伏(ステルス)

 これは、自分の気配を最小限まで消し去り、周りと同化させる能力だ。

 ただし移動すると同化出来なくなるので見つかりやすくなってしまう。

 

 なので、これに加え闇魔法の『透明化(インビジブル)』を使うと、自分の存在感が限りなく薄くなるので、静かに動けば気づかれることも無くなる。

 まさしく、アサシンや諜報員たちには必須と言っていい属性だ。

 ……そう言えばシェラも闇属性持ちだったな。


 更に風魔法の『沈黙の場(サイレスフィールド)』を俺の周りに使えば、物音が外部に漏れることはない。

 つまり、足音や息遣い、衣擦れの音などで気づかれることも無くなるわけだ。

 後俺の空間属性のスキルや魔法で、周りの探知は出来るし、覗き見や盗み聞きも出来る……。

 あれ?俺って、諜報員に向いてる?

 ……いや、『次元斬(スラッシュ)』もあるから……アサシン向きか?


 ……取りあえず、向かいますか。


 ◇


 俺は『潜伏(ステルス)』を発動し『透明化(インビジブル)』をかける。

 なるべく陣の近くまで移動し、『空間転移(ディジョン)』で陣の中へと忍び込む。

 『沈黙の場(サイレスフィールド)』をかけて、俺は陣の中をゆっくりと進んでいった。


 途中何人かの兵隊とすれ違ったが、俺に気付いたものは誰一人としていなかった。

 しばらく適当に陣の中を歩いていると、色々な情報が耳に入ってくる。

 それらをまとめると、どうやらこの出兵は一部の貴族が勝手に動かしたものらしい。


 国はそれを見て見ぬふりをしているそうだ。

 つまり、成功すればよし、失敗すれば、一部の貴族が勝手にやった事として、処分して謝罪にあてる……まぁやり方は汚いがよくある話だな。


 ◇


 「いつになったら進軍できるんだね?」

 「フフフ、もう少しの辛抱です。そうですな、あと3日程お待ちいただけませんでしょうか?魔物達を揃えるのに時間がかかってます故。」

 陣の奥、少し豪華な天幕の前を通りがかった時、中から、そのような会話が聞こえてきた。

 どうやら、黒幕を見つけたようだ。

 俺は暫く、その場で様子を伺うことにした。


 「魔物が王都を攻め、混乱に乗じて我が砦を攻め落とし、近隣の町や村を支配下におさめるというわけじゃな。」

 「そうですな。事が成った暁には、この辺り一帯を治める大領主になりますな。」

 「ウムウム、もう少しでそうなるな、アッハハハハ……。」


 「では、私は魔物どもの最終確認をしてまいります。わが命をかけた大魔法故、もうお目にかかることは出来ないかもしれませぬが、無事に再会できた時には……。」

 「ウム、わかっておる、お主を宮廷魔術師に取り立てるように、取り計らってやろう。」

 「よろしくお願いしますぞ……では。」

 魔術師を名乗る男が天幕から出てくる。


 「……フン、あんな怪しい奴でも、使えるうちは使ってやるぞ……しかしあと3日か。」

 天幕の中からそんな声が聞こえる。

 俺は天幕を後にし、魔術師の後をつけることにした。


 「……フン、俗物が。まぁいい……もう少しで我が復讐がなる。それまでの我慢だ。」

 天幕から離れたところで、魔術師の男がそう呟く。

 「もうすぐだ……もうすぐ、ベルグシュタットの王都はモンスターに……ククク……。」

 魔術師は懐から何かを取り出す。

 男が手にしたものから魔力が流れ出し、男の足元に魔法陣が浮かび上がる。


 あれは……。

 俺は男が持っている魔道具?に目をやる。

 どういうモノかは分からないが、あの魔道具が足元の魔法陣を制御しているのは間違いない。 

 このまま発動させたら不味い、という事だけは分かったので、邪魔をする。

 『物質転移(トランスポート)!』

 俺は『沈黙の場(サイレスフィールド)』を解除して、魔法を唱える。

 一瞬の後、男の手の中にあった魔道具?は俺の手の中に納まる。

 ……と同時に、男の足元の魔法陣が掻き消える。


 「誰だ!」

 男が誰何しながら杖を構える。


 『堅牢なる壁(プリズン)

 男が魔法を唱えるよりも前に、俺は魔法を放つ。

 プリズンは力場を応用した魔法だ。

 対象を力場で囲み、対象を閉じ込めるというもの。

 閉じ込められた対象は中から力場を破壊することは叶わず、また、外部からの干渉も受け付けない。

 まだ、人一人分、ギリギリのスペースしか作れないが、今回はそれが幸いする。

 狭い空間の中に押し込められて、身動きが取れなくなった魔術師の前に立つ。


 「モンスターの事について聞かせてもらおうか?」

 俺は男に向かって、そう告げる。

 「な、何だ、貴様は!ここから出せ!」

 しかし、男は話そうとせず、出せ、出せと喚いている。

 ……仕方がないか。

 

 俺は左腕から『魔力喰らい(マナイーター)』を引き出す。

 ……うまくいくといいが。

 『次元斬(スラッシュ)

 俺は『魔力喰らい(マナイーター)』に纏わせるイメージで『次元斬(スラッシュ)』を唱える。

 『魔力喰らい(マナイーター)』が白銀に光る。

 どうやらうまくいったようだ。


 俺は魔術師の腕に向かって『魔力喰らい(マナイーター)』を突き刺す。

 「グワァッ!」

 『魔力喰らい(マナイーター)』は『堅牢なる壁(プリズン)』の壁をすり抜けて、魔術師の腕に突き刺さり、魔術師の魔力を吸い上げる。

 「グゥッ……ガァッ……。」

 二度三度と突き刺す。

 その度にうめき声をあげる魔術師……しかし、その声も段々と小さくなる。

 やがて動かなくなったのを確かめると『堅牢なる壁(プリズン)』を解いて縛り上げる。

 そして、インプットに設定したマカロン砦を脳裏に浮かべる。

 『空間転移(ディジョン)


 ◇


 マカロン砦に戻った俺は、縛り上げた魔術師を引きずって、広場へと赴く。

 近くにいた兵に頼んで、リディアと、ミカリウス王子を呼んでもらう。

 暫くしてミカリウス王子がやってくる。

 リディアは、エルと一緒に森に言っているそうだ。


 「シンジ、これは一体……。」

 ミカリウス王子が、転がっている魔術師を見て、怪訝そうな視線を向けてくる。

 「黒幕の一人っぽいですよ。まだ何も聞きだせていないですが……。」

 俺が詳細をミカリウス王子に話そうとしたところで、誰かが飛び込んでくる。


 「シンジが戻ったって!」

 エルに続きリディアも飛び込んでくる。

 「シンジさん、森が、森に……。」

 「二人とも落ち着いて!」

 エルはともかくとして、リディアまでこの慌てよう……ただ事じゃない事が起きているらしい。

 俺は後の事をミカリウス王子に頼んで、二人とともに森へ向かう事にする。

 

 ◇


 「それで何があったんだ?」

 俺は森へと急ぎながら二人に聞く。

 「森の奥に、沢山のモンスターが集まっているんです。」

 「砦からも王都からも兵を回せないって……どうしたらいいんでしょうか?」

 ……モンスターって、この事だったのか?


 俺は二人の案内で、森の奥へと入る。

 そこにはゴブリン、オーク、ウルフ種にオーガもいた。

 他に、巨大蜘蛛や巨大ムカデなどの昆虫系の魔物や、ドラゴンフライといった、今まで見たことがないモンスター迄みられる。

 その数は1000匹ぐらいだろうか?

 この数のモンスターが一斉に襲い掛かってきたら、マカロン砦の兵数ではひとたまりもないだろう。


 「二人とも、少しいいか?」

 俺は大体の方針を決めて二人へと声をかける。

 「まず、リディアの土魔法で、あのあたりに……。」

 俺はモンスター達が集まっている所から離れた広場を指さす。

 「出来るだけ深い穴を掘るんだ。そしてそこにエルの水魔法で水をためる。その上を俺が薄い力場を張って、落ち葉等で穴を隠す。」


 「いつもの落とし穴ね。」

 エルが、得心が行ったというように頷く。

 「あぁ、その通りだ。数がいて単純な奴らには、単純な罠がよく効く。」

 「そうなのですね。」

 「準備が出来たら、エルとリディアは一番威力のある広範囲魔法をあの群れの中央に向けて放ってくれ。」

 俺は二人にそう言う。

 エルなら『流星嵐スターダスト・ストーム』か『大爆流渦(メイルシュトローム)』あたりがいいだろう。 リディアは……何か使えるのだろうか?

 「じゃぁ、私は『隕石衝撃(メテオストライク)』を使いますね。」

 「使えるのか?」

 『隕石衝撃(メテオストライク)』は土属性の上級魔法だ。

 「えぇ、私は土の上級と水の中級が使えます。」

 「そうか、じゃぁ、『隕石衝撃(メテオストライク)』の後は『土壁(クレイウォール)』や『落とし穴(ピットフォール)』を多用して、敵の脚を止めてくれ。」

 「分かりました。」

 俺が言うと、リディアは頷いてくれる。


 「二人の魔法の後、モンスター達は逃げ惑うはずだ。その内の何割かは落とし穴に落ちるはず。そうしたらエルは落とし穴を凍らせてくれ。その後は、俺が囲まれないように援護を頼む。」

 俺の目算では、範囲魔法と落とし穴で6~7割は殲滅できるはず。

 ただ、残るのはオーガや巨大虫系のタフな奴らばかりなので、気は抜けないが。


 ◇


 「準備はいいか?」

 「「大丈夫よ(です)」」

 「じゃぁ、タイミング合わせて……3……2……1……。」


 『流星嵐スターダスト・ストーム!』

 『隕石衝撃(メテオストライク)!』

 二人の範囲魔法が、モンスターの群れを襲う。

 光が矢となりて、オークやウルフ、ゴブリンたちを貫いていく。

 大いなる岩が、魔獣たちを押しつぶす。

 魔法から逃れた者達も周りに張り巡らされた落とし穴に嵌り、エルによって次々と凍らされていく。


 俺はそれを見て、魔物の群れに向かって飛び込んで行く。

 左腕から『魔力喰らい(マナイーター)』を引き抜き『火炎(フレイム)』の魔法を纏わせるイメージで唱える。

 『魔力喰らい(マナイーター)』の刀身が炎に包まれる……成功だ。

 

 魔法剣……俺が戦闘力強化のために出した答えの一つがこれだ。

 刀身に各属性の魔法を纏わせることが出来たら、俺のショボい初級魔法よりは威力が増すのではないか?と考えたところから始まった。


 今までは何度やってもうまくいかなかった。

 例えば、今回みたいに炎を纏わせようとしても、カイロみたいに暖かくなる剣が、氷を纏わせようとしたら、アイス枕みたいにひんやりとした剣が出来るだけだったのだが……。

 前回『次元斬(スラッシュ)』を纏わせることに成功してから、なんとなくコツがつかめたみたいだ。 


 俺は炎の剣を一振りする。

 巨大蜘蛛の脚を斬り裂き、炎が包み込む。

 糸を吐いてくるが、剣の一振りで糸を燃やし尽くす。

 蜘蛛の顔にとどめの一撃を突き刺すと『魔力喰らい(マナイーター)』のもう一つの能力『能力喰らい《スキルイーター》』が発動する。

 巨大蜘蛛が一瞬で剣に吸い込まれる。

 何か新しい能力を得たみたいだが、今は確認している暇はない。


 『次元斬(スラッシュ)』を刀身に纏わせる。

 向かってくるモンスターに対し、剣を一振り。

 熱したナイフでバターを斬り裂くように、何の抵抗もなく斬り裂かれていくモンスター。


 俺は剣を振り回し、斬りつけながらモンスターの群れを突っ切る。

 斬り裂かれ倒れたところに、エルが放つ光の礫が降り注ぎ、とどめを刺していく。

 俺の後ろから襲い掛かろうとしたモンスターが、突然バランスを崩す。

 足元にはリディアが放つ魔法によって大きな穴が開き、そこに足を取られる。

 その隙に俺は振り向きざまに剣を横薙ぎにする。


 リディアの魔法が隙を作り、俺が斬り裂き、エルの魔法でとどめを刺す。

 エルの魔法で弱ったところに、俺がとどめを刺す。

 俺を取り囲もうとする魔獣の群れを、リディアの魔法が阻害する。

 俺達は互いに連携を取りながら、確実にモンスターの数を減らしていった。


 「シンジ、上!避けて!」

 俺はエルの言葉を聞くと同時に、横へと転がる。

 俺がさっきまでいたところに火炎弾が着弾し、大きな穴を穿つ。

 俺は上を見上げる……ワイバーンだ。


 『次元斬(スラッシュ)!』

 俺が振った剣先から、見えない刃がワイバーンに向けて放たれる。

 小さな傷がワイバーンを傷つけるが、大したダメージにはなっていない。

 

 「リディア、合わせて!」

 「ハイッ!」

 エルとリディアが魔法の詠唱を始める。

 おれはワイバーンを牽制するためにスラッシュを連続して放つ。

 

 「「……風よ踊れ!穿て!弾けよ!『乱気流(タービュランス)!』」」

 エルとリディアの声が重なり風が渦巻く。

 ワイバーンを乱気流が襲い、翼をズタズタに切裂いていく。

 高度を維持できなくなったワイバーンは、風に弄ばれながら、地面へ激突する。

 俺はワイバーンの元に駆け寄り、剣を突き立てとどめを刺す。


 ◇


 「ふぅ……。」

 俺はその場に倒れ込む。

 さすがに疲れた。

 

 「シンジさん、ありがとうございます。」

 「イヤ、リディアのおかげで助かったよ。」

 「シンジ、お疲れ様。」

 「エルもお疲れさん、最後の魔法、すごかったじゃないか。」

 俺がそう言うと、エルはリディアを抱きかかえて言う。

 「リディアのおかげ。」

 「そうか。」

 俺もリディアの頭を撫でる。


 しかし、1000匹のモンスターか……。

 この森に生息していないものまでいたな……これはやっぱり、アイツの仕業なのか?

 「でも……このモンスター達が砦や王都に向かってたらと思うと……シンジさん、エルさん、本当にありがとうございます。」

 「イヤ、俺達だけじゃムリだったし、リディアの頑張りがあったからだよ。」

 俺がそう言うと、リディアが嬉しそうに笑う。


 「さて、一息入れたら、戻る前に一仕事な。」

 俺は眼前に広がる、死屍累々とした光景を見て、二人にそう告げた。 

 


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