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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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妹のお願いは無条件で聞くべし!

 「……なぁ?」

 俺を見つめるつぶらな瞳……エルと、エルが抱きかかえている小さな……。

 「……ダメ?」

 エルが上目遣いで聞いてくる。

 愛らしさに、つい頷きそうになるが、ここは心を鬼にしなければ。


 「ダメ!何でもかんでも拾ってくるんじゃありません!返してきなさい。」

 「でも……放っておくとウルフに食べられちゃうかも。」

 確かに、こんなに小さかったら、身を守る術など無いに等しいだろう。

 「そうなったら、寝覚めが悪いよね?ねっ?」

 ここぞとばかりに、エルが訴えてくる。


 「ほら、あなたもお願いしなさい。」

 そう言ってエルは抱きかかえている子を俺の目の高さまで抱き上げる。

 俺と目が合う。


 「えーっと……にゃぁ?」

 抱き上げられた少女は、困ったように、そう言った。


 ◇


 「で、君の名前は?」

 俺はエルに抱きかかえられた少女に問う。

 「リディアと言います……あの……どうなっているのでしょうか?」

 リディアと名乗った少女は、現状が把握できていないのか、困惑気味だ。

 「……俺が聞きたいよ。」

 エルを見ると、幸せそうな顔でリディアを撫でている。


 俺とエルは昨日シャンハーの街を出て王都に向かう途中なのだが、ここの場所で野営をするための準備をしていたら、森の奥へ行っていたエルが、リディアを抱えて戻ってきた。

 だから、なんでこんなことになっているかは分からない。


 「道に迷っていたみたいだから連れて来たのよ。」

 エルがそう言うのでリディアに確認する。

 「そうなのか?」

 「えぇ、まぁ、確かに迷ってはいましたが……。」

 「まぁ、連れが迷惑かけたようだし、行きたいところがあるなら送ってくよ。」

 俺がそう言うと、リディアは嬉しそうに頷く。

 「では、この森を越えたマカロンの砦までお願いできますでしょうか?」


 出発前にこの辺りの地図は頭の中にいれてきた。

 リディアの言う「マカロンの砦」は王都から少し離れた国境沿いにある砦だ。

 まぁ、1~2日程度の寄り道にはなるが、それぐらいなら構わないだろう。


 「後……私はこのままなのでしょうか?」

 エルに抱きしめられたままの状態でリディアが訊ねてくる。

 「スマンな、エルは今、妹成分に飢えているみたいなんだ。」

 我慢してくれ、とリディアの頭を撫でる。

 ……撫で心地がいい頭だ。

 しばらく撫でていると、リディアが再度訊ねてくる。

 「あの……いつまで撫でられるのでしょうか?」

 「……スマン、俺も飢えていたみたいだよ。」


 ◇


 「でも、リディアは、なんであんなところにいたの?一人で森の中をうろつくのは危ないわよ。……はいアーン。」

 エルがリディアにスープを食べさせながら言う。

 「えっと、それはですね……。」

 リディアが口籠る。

 「言いたくないなら無理に言わなくてもいいさ。ただな、エルも言ったように一人でうろつくのは感心しないな。魔獣だけじゃなく、野盗とかもいるし、もし悪い奴らに掴まっていたら、身動きできないように縛り上げられて、あんなことやこんなことなど、口に出せないような酷い事されることもあるんだぞ?」

 俺は一口大に切ったハンバーグを、リディアの口元にもっていって、アーンとしてやる。

 リディアは、恥ずかしそうにしながらも、それをパクッと食べる。


 「でもそれって……今の状況と、何が違うんでしょうか?」

 ハンバーグを飲み込んだ後リディアが聞いてくる。

 「何がって……。」

 どう見ても違うだろう、と俺は現状を見直してみる。


 エルにしっかりホールドされて、身動きが取れないリディア。

 頭を撫でられたり、二の腕をぷにぷにされたりしているリディア。

 嬉し恥ずかし、アーンをされているリディア。

 ……。


 「まぁ、なんだな、悪い奴らに掴まらなくてよかったな。」

 俺はそう言ってリディアの頭をポンポンとする。

 「あー、今誤魔化しましたね!誤魔化しましたよねっ!」

 ちょっと怒った顔も可愛い。

 しかし、そんな可愛い姿を見せるとね……。

 「きゃーん、リディア可愛いぃ……ねぇ、シンジ、やっぱりこの子連れて帰っちゃダメ?」

 リディアをギュっと抱きしめながらエルが言う。

 取りあえず、力を抜いてあげて……リディアがアップアップしてるから。

 

 「ダメ、ウチにはレムがいるでしょうが。」

 「うぅ……でも、でも……。」

 「私はこれからどうなるのでしょうか……。」

 残念そうな声を出すエルと、諦めきった顔のリディア……。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「困ったなぁ……。」

 私は森の中を彷徨っていた。

 私は、リディア=ミナクト=フォンベルグ……この国、ベルグシュタット王国の第三王女です。

 まだ、情報を秘匿されていますが、隣国がこの国に攻め入ろうとしているそうです。

 その知らせを受け、第二王子である、お兄様……ミカリウス兄さまがマカロンの砦へと出向きました。

 有事の際は率先して民を守るのが王族の務めとはいえ、あの優しいミカリウス兄さまが戦争なんて……とても心配です。


 そんな心配をしてたせいか、ある晩私に啓示が降りてきました。

 私のスキル『天啓』……巫女職についている者の中で稀に得ることが出来るスキルです。

 未来に起きる出来事に関し、重要な事柄・人物などの事を教えてくれるという、未来予知に似た能力です。


 今回私に降りてきた啓示は、隣国に攻め込まれ王宮が崩壊するというモノでした。

 そして、運命の転機点は「マカロン砦」「森」「姫巫女」「異国からの旅人」そして「私」でした。

 

 啓示は具体的な物ばかりではありません。

 降りてきたイメージの解読の仕方によっては全く別の解釈が出来ることもあって大変難しいのです。


 一つだけ言える事は、啓示に間違いはない、という事です。

 今回の場合、何もしなければ王宮が崩壊することは間違いないのです。

 それを回避するためのキーワード……それが何を意味するのか、どうすればいいのか分かりません。

 ただ、キーワードの中に私が入っている以上、私が動くことが重要なのだと思います。

 他のキーワードの事は分かりませんが、マカロン砦に行こうと思います。


 森の中は薄暗くて怖いです。

 この森を抜ければマカロン砦なのですが、普段この森を抜ける人はいません。

 森の脇に、整備された街道があるのですから、普通はそちらを使いますよね。

 でも啓示の中に「森」というキーワードがありましたので、きっと、この森の中で何かがあるはずです。


 ……疲れました。

 ずっと歩き通しでしたから、仕方がないですよね。

 少し休みましょうか……丁度いい川辺があります。

 魔獣を警戒しないといけないので、眠るわけにはいきませんが、少し腰を下ろすぐらいならいいでしょう。


 ……ハッ。

 しまったです……ついウトウトとしてしまいました。

 でも……この揺れが心地よくて……って!

 私、知らない女の人に捕まってしまいました。

 何故か、抱っこされていますが……誘拐でしょうか?

 私の身分を知られるわけにはいきません。


 私が使える土魔法と風魔法を駆使すれば……ダメです、逃げ切れるイメージが湧きません。

 

 私は、見知らぬ男の人の前に突き出されます。

 悪い人じゃなさそうですが……おふたりの会話を聞いていると、なんか捨て猫になった気分になってきます。

 「ほら、あなたからもお願いしなさい。」

 私を攫った女の人が言いますが、この状況で何を言えと……。

 仕方がないので、思いつく言葉を発してみましょう。

 「にゃぁ?」


 男の人はシンジさん、女の人はエルさんというらしい。

 私を攫ったわけでなく、迷子(という設定)の私を保護したつもりらしい。

 悪い人じゃないのは分かりました。

 もし、野盗とかに捕まったら、今頃はグルグル巻きにされて、口に出せない恥ずかしい目にあっていたと思います。

 シンジさんも同じようなことを言っていました。

 でも……この状況って……あまり変わらないように思います。

 

 エルさんは優しく、抱きしめられてるとなぜか安心します……ですが、そろそろ放して欲しいのです……全く動けないです。

 シンジさんも優しく、側にいると安心できます。

 エルさんよりは話が通じそうだと思いましたが……さっきからずっと私の頭を撫でています。

 「……あのぉ……私は、これから、どうなるのでしょうか?」


 人があまり来ないこの森で出会った二人の冒険者。

 これは偶然なのでしょうか?

 私はこの二人との出会いが天啓と無関係とは思えません。

 でも、事は国の一大事です。

 信用に足る人かどうか確かめなくてはいけません。

 幸いにも、私をマカロン砦まで送って行ってくれるそうです。

 

 砦に着くまでにお二人の人と成りを確認すること、そしてお二人の協力を取り付ける事、これが私のやるべき事だと思います。

 

 どうやらエルさんは完全に寝入ったようで、私を抱きしめていた力が少しだけ緩くなっています。

 私は、エルさんを起こさないようにそっと抜け出します。

 焚火の所にはシンジさんがいますので、少しお話を聞きたいと思います。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「あの……少しよろしいでしょうか?」

 俺が焚火の番をしていると、エルと一緒に寝ていたはずのリディアが俺の傍へやってくる。

 「良く抜け出せたな。」

 「えぇ、昔から抜け出すのは得意なのですよ。」

 リディアはペロッと可愛い舌を出して答える。

 「それより、シンジさん達の事、聞いてもいいですか?」

 「俺達の事って……単なる冒険者だよ。」

 「その単なる冒険者さんが、なんでこんなところにいたのですか?」

 リディアが聞いてくる。

 「王都に行く途中だったんだ。」

 「そうなのですか?でも、王都へ行く道からはそれているのでは?」

 リディアが細かいところをツッコんでくる。

 というか、普通は疑問に思うよなぁ。


 この森は、王都に向かうなら通る必要もない場所にある。

 この森から離れたところにある街道を真っ直ぐに進むのが普通だ。

 それなのに、なぜ俺達がこの森にいるかというと……。


 「迷ったんだよ。」

 「えっ?」

 リディアは聞き間違えたのかと、再度聞いてくる。

 「だから、迷ったんだよ。チョット食料を確保しようと森に寄ったのはいいんだけどな……。」


 森の近くに来た時、何故か、エルが森に寄ろうと言い出したのだ。

 まぁ、エルの事だから、何か考えがあったのだろうと思う……が、まさかコレ(・・)を拾うために寄ろうって言ったんじゃない……よな?


 「リディアは、マカロンの砦に何しに行くんだ?」

 俺の記憶が確かなら、あそこには特に何もなかったはず。

 国境が近いので、戦争でも始まれば重要な防衛拠点として役立つ場所ではあるが、平時は何もないところだ。

 少なくとも、年端も行かない女の子が遊びに行くようなところではない。


 「シンジさんは……そうですね、例えば誰かが、離れたところで自分を守るために戦っていると知ったらどうしますか?」

 リディアは俺の質問に答えず、そんな事を聞いてくる……イヤ、それともこの質問が応えにつながるのか?

 「……状況によるな。大体頼みもしないのに守る奴なんかいないしな。」

 「そうですかね?……例えば国の兵士さんとか?」

 「イヤイヤ、兵士はそれが仕事だろ?それに、兵士は国……まぁ、王族や貴族を守っているのであって俺を守ってるわけじゃないだろ?」

 「それはそうなんですが……。」

 リディアは、自分の言いたいことをうまく伝えられないという感じで困っている。


 「シンジにそんなこと言っても無駄よ。」

 不意に後ろから声がかかる。

 「シンジ、リディアを困らせたらメッ!だよ。」

 エルがリディアを後ろから抱きかかえる。  

 「起きたのか?」

 「無駄ってどういう事でしょうか?」

 俺とリディアの声が重なる。

 「リディアがいなくなったから、寒くなったのよ。……無駄っていうのはね、シンジは守られる人じゃないから、かな?」

 エルが、律義にも俺とリディアに応える。


 「守られる人じゃない?」

 リディアがエルの言葉を反芻する。

 「そう、シンジは守る側の人だからね。」

 「はぁ……勝手に決めるなよ。」

 そう言いながら、今までの事を振り返る……そう言えば守ってやる対象ばかりで、守ってもらうって事はなかったな。

 

 「シンジは私が守るよ?」

 エルが笑いながら言う。

 しかしエルに守られる俺……ダメだ、想像できん。

 「イヤ、守ってもらう姿が想像できないからやめておく。」

 「ほらね?シンジは守られたことがないから……守られるって事が分からないのよ。」

 エルが呆れたように言う。

 「守られたことがない……守る人……。」

 リディアが、エルの言葉を聞いて何かを考えている。


 「あの……出会ったばかりの人に言うのもなんですが、私を守って下さいって言ったら守ってもらえますか?」

 リディアが真面目な顔で言う。

 あの表情は、何かを秘めている……どうやら厄介毎に巻き込まれそうな予感がするなぁ。


 「リディアは私の物なんだから守るのは当たり前よ!」

 いやいや、お前の物じゃないし。

 俺が厄介毎を回避しようと考えているのに、考えなしで突っ込んで行くエル。

 以前クロードさんが俺の事をトラブル体質だって言ってたけど、エルのせいでトラブルに巻き込まれている気がするのは、俺の気の所為なんだろうか?


 「私、自分で言うのもなんですが、色々付随していて面倒な女ですよ?」

 リディアがそんな事を言う。

 その表情からは、ムリして大人ぶろうとしているのがよくわかる。

 ハァ……結局、俺は年下の女の子に弱いって事か。

 「ムリすんなよ。まだ子供なんだから、助けてほしい時は素直に助けてって言えばいいんだよ。」

 俺はリディアの頭に手を置いて撫でまわす。


 「もぅ!子ども扱いしないでください!私はもう12歳ですっ!子供だって産めるんだからっ!」

 そう、ムキになる処がまだまだなんだけどな。

 それにそんな姿を見せると……。


 「やーん、大人ぶるリディア可愛ぃ!……やっぱり連れて帰るぅ!」

 エルが思いっきり抱きしめる。


 「あのぉ……本当に助けて頂けるなら……私エルさんの物になってもいいです。」

 リディアがそんな事を言ってくる……どうやら、俺が考えている以上に深い事情がありそうだ。

 ……もっとも、エルはそんな事は気にしていないようだけどな。

 俺は、これから起こる厄介毎を思い頭を抱えるのだった。


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