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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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調子がいい!って言うのはトラブルのフラグって知ってた?

 「策と言っても大した事ではないんですよ。」

 俺はそう前置きをしておく。


 「要は『反乱』という事実をなかったことにすれば問題ないんですよね?」

 「それはそうなんだが……。」

 俺の言葉にクロードさんが訝しげに答える。

 「反乱は無かったんですよ。ベルーザ卿は盗賊退治に行ったんですよ。」

 「どういう事?」

 カリーナさんが聞いてくる。

 

 「あの町の周辺で大規模な山賊の被害があるんです。その報告を受けたベルーザ卿は勝手に兵を動かして討伐に向かった……というわけですよ。」

 俺はニヤっと笑ってそう言う。

 「そう言う事か……しかし本来ならば、冒険者ギルドに依頼が行くべきことが何故ベルーザ卿が?」 

 「そうですよね、不思議ですよね?だから領主としては事実確認の必要があります。ただ、大規模な盗賊が出没するところに少数のお付きの者だけで行くのは危ないですね。」

 クロードさんの疑問に俺はそう答えると、クロードさんは、分かったというようにニヤリと笑う。

 「そうだな、安全の為にも1個中隊ぐらいは連れていくべきだろうな。」


 「でも、ソレだと根本的な解決にならないんじゃ?」

 カリーナさんがさらに聞いてくる。

 「そうですね、領主のクロードさんが着く前に、ベルーザ卿の活躍のお陰で盗賊は壊滅。しかし、ベルーザ卿も戦死。何故、勝手に軍を動かしたのかの謎は残りますが……調べればわかりますよね?」

 「そう言う事ね。」

 俺が応えると、カリーナさんは納得したように笑う。


 「筋書はそれでいいとして具体的にはどうするの?」

 ひとしきり笑った後、カリーナさんが聞いてくる。

 「柄の悪く見える兵を100人ほど用意してください。

 そして現地で実際に盗賊の真似事をしてもらいます。

 モチロン襲った相手は無事に逃がすようにしてください。

 そして俺達が現地入りしたところで、ベルーザの軍にちょっかいをかけてもらいます。

 これは陽動程度で構いません。

 その間に、ベルーザ卿を襲い拉致してきます。

 後は、闇で葬るなり何なりとしてください。

 彼の名誉を守る為に、盗賊と戦って戦士でもいいですし、悪行を晒すのなら、盗賊を裏で操っていたので処刑したでもいいんじゃないですか?」


 「まぁ、どちらにしてもすでに生かしておくわけにもいかないところまで来ているからな。」

 クロードがここ2~3日で調べただけでも、横領、不正もみ消し、違法奴隷の売買、強姦、殺人など、ベルーザ卿が直接・間接関わらず関わったとみられる悪行が数十件上がってきているらしい。

 その中に、ファルグ準男爵に関わる件もあったらしく、この事が片付いたらそれなりの対応をしてくれることになっている。

 これで、レム親子も安心して暮らしていけるだろう。


 「ただ、問題が一つ……俺もエルもベルーザ卿の顔を知らないんだ。」

 策の根本での問題。

 拉致る相手の顔がわからなければ失敗する確率が跳ね上がる。

 「それなら私が一緒に行くわよ。」

 カリーナさんが事も無げにそう言う。

 「カリーナさんなら問題ないですけど……いいんですか?」

 俺はちらっとクロードさんの方を見る。

 「構わん。それに言い方は悪いが、お前らの監視だと思ってもらえればいい。」

 元冒険者のカリーナさんなら、何があっても大丈夫だ、とのこと。

 まぁ、たとえ血のつながりがあるとはいえ、数日前に会ったばかりの人間をそう簡単に信用する方がおかしいしな。

 それにカリーナさんの腕については先日目の当たりにした。

 彼女の腕なら、俺達が裏切ったとしても何とかしてくれるだろうと信頼をしているに違いない。

 「そう言う事なら……では、明後日出発しますのでよろしくお願いします。」

 俺とエルはカリーナさんに頭を下げる。


 そして俺達は領主の館を後にする。

 ちょっとした招待だったはずが、なぜか貴族間の争いに巻き込まれることに……何故こうなった?

 そんな事をつぶやくと、エルが呆れたように言ってくる。

 「アンタが余計な事を言ったからでしょ?」

 いや、まぁ、そうなんだけど……でも、気になったからしょうがないじゃん?

 「はぁ、それは置いといて、取りあえずレムちゃん達の所に行きましょ。」

 「そうだな。ネリィさんもそろそろ回復してるだろうしな。」


 ◇

 

 「シンジさん、いらっしゃい。待ってたわ。」

 俺達がレムの家を訪ねると、リオナが出迎えてくれる。

 「シンジさん、エルさん、どうぞ上がってください。」

 続いてレムも顔を出して、家の中に招いてくれた。

 扉や壁、床など、バルザックの手下が暴れた跡は、すでに修復されていた。

 色々継接ぎや当て板などしている所を見ると、二人が一生懸命直したというのがわかる。

 「今お茶いれますから座っててください。」

 奥の方からネリィさんがそう言ってくる。

 「ネリィさん、もう動いて大丈夫なんですか?」

 「えぇ、もうこの通りすっかり元気ですよ……この度は娘共々すっかりお世話になりまして……。」

 ネリィさんが俺達に深々と頭を下げる。

 「やめてください、頭を上げてくださいよ。」

 俺は慌ててそういう。

 「そうですよ。私はレムちゃんの笑顔が見たかっただけだからね。」

 エルもそう言うと、丁度お茶を運んできたレムと目が合う。

 「えーっと……。」

 レムが真っ赤になって、何て言っていいか分からずにもじもじとしている。


 「やっぱりレムちゃん可愛いぃ……持って帰っていい?」

 お茶を置いたレムを捕まえて抱きしめながらエルがそう言う。

 「バカな事を言うな。見ろ、ネリィさんも困ってるだろ?」

 俺は、エルに突っ込みつつネリィさんの方を見る。

 「えぇっと……その子不作法ですけど、それでも良ければ……。」

 「いいんかいっ!」

 ちょっと困ったように言いながら、お持ち帰りを許可するネリィさんに突っ込む。

 「えっと、じゃぁ私もシンジさんに……。」

 ポッと頬を染めながらそんな事を言うリオナ。

 いや、持ち帰らないからね。


 「二人とも馬鹿な事を言ってないで……ほらお茶が冷めるだろ?」

 俺は折角入れてくれたお茶をゆっくりと味わう。

 ハーブティだな……何の葉かは知らないが、落ち着いた気分になれる。

 「本当ですか?良かった……それ、お姉ちゃんが作ったんですよ。」

 レムが嬉しそうな声で言う。

 なんでも、レムが摘んできた薬草類と、ハーブをブレンドしたものらしい。

 「良かったです……ちゃんとしたお茶がないので失礼かとは思ったんですが……。」

 「いや、美味しいよ。ハーブティだろ?」

 「「ハーブティ?」」

 レムとリオナが不思議そうな声を上げる。 

 エルに聞いたところによると、この世界ではハーブティというものはあまり知られていなくて、リオナが作ったのは薬膳茶と呼ばれるものらしい。

 ただ、苦みやえぐみが強いものが多い為、あまり一般に流通はしていないそうだ。

 

 「シンジさん、ハーブティの事詳しく教えて貰えますか?」

 リオナは、ハーブティに興味を持ったらしく、俺に色々聞いてくる。

 なので、ハーブと呼ばれる薬効効果のある植物の事や入れ方、幾つかの代表的なブレンドの仕方など、俺の持っている知識と、以前ミリアに教えて貰った事を含めて話してやった。


 「ちょっとした物だったら簡単に栽培できるしな。」

 ついでに、簡単な栽培の仕方なども教えてやる。

 「ありがとうございます、シンジさん。」

 リオナが感極まって抱きついてくる。

 いや、いいんだけどね、その……胸がね……周りの視線も痛いし。

 ……特にエルの視線が痛い。

 しかも、レムを抱きしめる腕に力が入っているので、レムが「い、痛いですぅ―」と涙目で訴えている。

 レムの為にも、俺の安全の為にも、そろそろ離れようね。

 俺はさり気無くリオナを引き離す。


 「アッと、これ、今更だけど、お茶うけに。」

 俺は収納から、クッキーを取り出す。

 領主の館への手土産の残りだったりする。

 「これは?」

 不思議そうな顔でクッキーを見るリオナ。

 「クッキーというお菓子だよ、食べてごらん。」

 俺はリオナとレムにクッキーを渡す。

 「あらあら、じゃぁお茶を入れ直してきますね。」

 そう言って、席を立つネリィさん。

 リオナは、クッキーを一口齧って硬直している。

 

 「美味しいですぅ!」

 「でしょ?もっと食べなさい。」

 レムは、エルに餌付けされている。

 ウン、見ているとほのぼのするねぇ。

 「こ、これはシンジさんが作ったのですか!?」

 硬直から抜け出したリオナが聞いてくる。

 「あぁ、良かったら、今度教えてあげるよ。」

 「本当ですかっ!約束ですよ!」

 実は、クッキーはエルも大好物で、しょっちゅう強請られている。

 リオナやレムが作れるようになってくれたら俺の負担も減るから、ちょうどいい。

 

 「ちょっとしばらくこの街を離れるから、戻ってきたらその時にな。」

 「えっ、シンジさん達どこかに行っちゃうんですか?」

 俺の言葉にレムが悲しそうな声で聞いてくる。

 「ちょっと留守にするだけだよ。すぐ戻って来るからね。」

 エルが、レムをギュっと抱きしめる。 

 抱きしめられたレムがふにゅぅと脱力する。

 「シンジさん、気を付けてくださいね。」

 リオナが心配そうに言う。

 「大丈夫だよ。戻って来たら全てがうまく行くからな。」

 俺はリオナの頭をポンポンとたたく。

 

 その後は他愛もないおしゃべりを楽しんだ後、俺達はその家を後にした。



 ◇


 領主の館で計画を立てた二日後、俺達はここ、グレースの街に来ている。

 ベルザーはこの街の一角にある貴族の屋敷を接収しているのを確認した。

 そして、各地からこの街に向けて、ベルーザの集めた軍勢が向かいつつあるという情報も入っている。  

 その軍勢が来る前にはカタを付けておきたいところだ。


 翌日から俺達は街中で情報を集めることにした。

 「いい具合に噂は広まってるわね。さぁ、ここからどうするのかしら?」

 カリーナさんが興味津々といった様子で聞いてくる。

 「夜まで待ちですよ。タイミングが重要です。」

 俺はカリーナさんにそう答える。

 予定では今夜大規模な襲撃が行われる。

 ベルーザがどう出るかによって計画を少し変更する必要があるが、概ね予定通りに行けそうだ。

 「今夜でケリをつける……襲撃と同時に、屋敷に忍び込みます。」

 俺はエルとカリーナさんにそういう。

 作戦としては簡単だ。

 賊……に扮した兵士がこの屋敷に襲撃をかけてくる。

 その混乱に乗じて、屋敷の中に潜入してベルーザを拉致ってくる。ただそれだけだ。

 

 ◇

 

 襲撃が始まった。

 屋敷の内外が騒がしい。

 「エル、カリーナさん、行きますよ。」

 俺はエルとカリーナさんを引き寄せて空間魔法を使う。

 『空間転移(ディジョン)

 一瞬にして屋敷の中に移動する。

 そのまま気配遮断の魔法を使ってもらい、屋敷の中を探っていく。

 

 「この奥だな。」

 俺はベルーザのいる部屋を探り当てる。

 「行くぞ……『空間転移(ディジョン)』」

 俺は魔法を唱え、一瞬後にはベルーザの目の前に現れる。


 「な、なんだ貴様らは!」

 いきなり現れた俺達を見てベルーザが慌てる。

 奴はベッドの中に女を連れ込みお楽しみの最中だった。

 取りあえず動けないようにと、ボウガンでベルーザを狙うが、ベルーザは傍にいた女を俺に向かって突き飛ばし盾にする。

 「クッ!」

 そのまま撃てば女にあたる。

 エルもカリーナさんも女を盾にされたことで動作が止まってしまう。

 一瞬の躊躇いが隙となる。

 その隙をついてベルーザがベッドの裏の隠し扉から逃げ出す。

 「チッ!……奴を追います。二人はその人たちの手当てを。」

 俺はそう言い捨てるとベルーザを追っていく。


 扉の先は通路になっていて、前方にベルーザの背中が見える。

 その先3m程の所に扉が見える。

 そこから外に出るのだろうか?このままでは追い付けない。

 かといって逃がしてしまったらここまでの苦労が台無しどころか、クロード達が窮地に陥る。

 それだけは何としても避けないといけない。

 「チッ、仕方がないか。」

 俺は覚悟を決めると剣を抜き、前方を走るベルーザに向けて振り下ろす。

 『次元斬(スラッシュ)

 見えない刃がベルーザの背中……左側の肩甲骨の下あたりを斬り裂く。

 深く突き刺さる様に放ったイメージは『次元斬(スラッシュ)』の効果を増大し、深く抉り込むようにベルーザの心臓へと達し、やすやすと斬り裂いた。


 俺は近寄るが、すでにこと切れているのは明白だった。

 そのままにして置いても意味がないので、俺はその手を掴み、『空間転移(ディジョン)』を繰り返し唱えて、部屋へと戻る。


 「シンジ……。」

 「生きたまま捉えることが出来なかった。」

 俺はそれだけを告げる。

 「いいわ、そこのベットに寝かせて……。」

 カリーナさんの指示に従い、ベットにベルーザを寝かせる。

 カリーナさんは近くのナイフを掴むとベルーザの心臓を一突きにする。

 「これでいいわ。ベルーザは侵入した賊に刺されて死亡……任務完了よ。後は任せてサッサと戻りましょ。」

 俺達はカリーナさんに促されて、屋敷を後にした。



 ◇


 「そんなに落ち込まなくていいわよ。どちらにしても処刑するはずだった男だから。手間が省けて丁度いいわ。」

 俺達が宿に戻り、一息ついたところで、カリーナさんがそう言ってくれる。

 しかし、なんとも後味が悪い。

 俺の目論見が甘く、もう少しでみんなを危険にするところだったという罪悪感なのか、人を殺した嫌悪感なのかがはっきりしないが、どんよりした気分が覆いつくし、気が晴れない。

 「私は色々と後始末してくるから、今夜は戻らないわ。二人でゆっくり休んでいてね。」

 そう言ってカリーナさんは宿を出ていく。

 族に扮した兵士たちとの連絡や、クロードへの連絡、ベルーザが集めた兵士への対処など色々とやる事があるらしい。

 俺達は言葉に甘えて、先に休むことにした。


 「……エル、早く休まないと疲れが取れないぞ。」

 宿の俺の部屋まで着いてきたエルに俺はそう声をかける。

 「シンジ、酷い顔してるの自覚してる?」

 エルはベッドに腰かけた俺の横に座り、俺の頬を両手で包み込む。

 その手の温かさが心地いい。


 俺はエルの手に自分の手を添える。

 「ムリ……しないで……。」

 エルがじっと俺を見上げてくる。

 色の違う左右の瞳が、じっと俺を見つめてくる。

 そしてその瞳が閉じられる。

 俺は自然とエルの顔に自分の顔を近づけていった。

 窓から差し込む月の光に照らされて、二人の重なった影が部屋の中に伸びていた。 



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