表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海獣達の野球記(ベースボールライフ)  作者: Corey滋賀
5章 分岐点
58/65

55 ノーノー風邪


9月上旬…


ロサンゼルス、ドラゴン・スタジアムにて


ドラゴンズの守護神、ジャクソンがスライダーで最後のストライクを奪うと球場はグワッと盛り上がる。


『The game is over!(試合終了!)ドラゴンズ、両リーグ最速で90勝到達!今年も地区優勝はドラゴンズが濃厚です!』


放送席で実況が叫ぶ中、解説は喜びつつ冷静に話す。


『今年で地区7連覇ですか…それにしても今年のドラゴンズは強い。要因は沢山あるのですが、特筆すべき点は今日も決勝ホームランを放った今季からライトで定着しているアオイ・ミスミでしょう』


また、解説者は手元の資料を指さして説明する。


『打率、出塁率はそこまで高くないものの、チーム2位の24本のホームランと78打点。そして広い守備範囲とバズーカのような強肩で攻守に渡ってチームを救っています』


そんな風に褒められていることを知らない三角はチームメイトと勝利を喜んでいた。


「よっしゃー、今年も優勝は俺らだな!」


「喜ぶのはいいが、油断するなよ。それに優勝といっても地区優勝だ。本当の頂点にはほど遠い」


そう釘を刺すのは28歳の若きチームリーダー、マット・カンポスである。


今季リーグトップの34HRを放っている主砲で、守備位置はファースト。


投手がピンチのときは真っ先に声をかけたり、プレーだけでなく精神面でもチームを引っ張る様子から「キャップ」と慕われている。


「そうだよな、キャップ。メジャーは気を抜いたらどうなるかわからない世界だもんな…」


三角が真面目な顔で頷くと、カンポスは笑っていた。


「はは、お前は素直だな。ブライアンにも見習ってほしいよ」


「はぁ?俺だって素直だろーが」


彼に指摘されたブライアンとは先月デビューした現メジャーNo.1プロスペクトのブライアン・コーラスである。


強打俊足強肩の三拍子揃った20歳のショートで将来は40本40盗塁を達成できると言われている程である。


課題は三振の多さと、かんしゃくを起こしやすい精神面で、早くもデビュー3戦目で死球から乱闘を起こしている。


実力は申し分無いが、そういう面で首脳陣もチームメイトも手を焼いている。


「お前は素直じゃなくて自分の感情の赴くままに突き進んでるだけだ。それを制御できるようにならないとチームに迷惑をかけてしまう」


「でもチームは普通に勝ってんじゃねーか。最強集団が人一人程度で状況変わるかよ」


カンポスは首を横に振ってため息をつく。


「そういう問題ではないんだが…まぁ、若さ故か」


ロッカールームに戻ると、三角は日本の野球の情報をチェックしていた。


細かく言うと和人の成績である。


(さてと、今回の登板はどんな結果だったかな?)


速報アプリのスコアボードを見てみると見事なまでにスネークスの攻撃に「0」が並んでいた。


完封したのか、と思ったがすぐに異変に気づいた。


点数どころかヒット数も0だ。


(……ん?)


なんとなく察したところで、数時間前に速報アプリの通知が来ていたのを見て確信に変わった。



【速報】横浜シーレックス・佐々城がノーヒットノーランを達成。球団50年ぶりの快挙。




※和人視点


「最高でーーーす!!」


満面の笑みでヒーローインタビューを受ける。


降雨と水を大量にかけられたせいで多少冷えるけど、そんなことはどうでもよくなるほど興奮している。


これで今シーズンの初勝利から13連勝。


リーグの勝利数(ハーラー)トップに躍り出た。


「まず援護とファインプレーで助けてくれた野手陣、そして応援してくださるファンの方々に感謝したいです!僕一人の力では間違いなく達成できなかった」


帽子を取って深く頭を下げて感謝の意を伝え、球場は温かい拍手に包まれる。


「これで2位のタイガースとは3ゲーム差になりました。連覇への意気込みをお願いします!」


インタビュアーさんのお願いに応えて、宣言する。


「もっと2位に差をつけて、逃げ切って、まずリーグ優勝。そして日本一も達成します!なのでファンの方々も全力で応援よろしくお願いします!」


そう球場を盛り上げてインタビューを終えると、足早にマンションに帰る。


帰りを待つ人はいないが、ただいま、と言って家に上がる。


なぜ早く帰宅したかというと、見れずに溜め込んでいたアニメの消化をするためだ。


ラフな格好になってレコーダーから録画したアニメを再生する。


そういえば僕ノーヒットノーラン達成したんだよなー……あれ?


冷静に考えたらマジで凄くね?スマホでもネットニュースなりまくってるじゃん…


SNSでも祝福のメッセージが大量に来ており、ようやく自分の偉業に実感を持てた。


9回無安打無失点1四球14奪三振。


気持ちよく投げられてはいたけど、まさかここまでのピッチングができるとは…自分自身の力に驚く。


無論浪川くんのリードとか野手のファインプレーあってこそだけど。


…ふと頭に「メジャー挑戦」という選択肢がよぎった。


三角くんがドラゴンズ首脳陣に猛プッシュしてくれた話も聞いたし、オルドリッジさんから「通用する」っていう太鼓判も貰った。


でも、僕より前からその願望を持ち続けている浪川くんがいる。


彼を差し置いてまで自分が行っていいのだろうか…と、いつも思ってしまう。


そんなことを考えてたら、なんだか体がダルくて気分が悪くなってきた…


濡れたままインタビュー受けたから風引いたのかな?


アニメの消化は後にして今日は早めに着替えて寝よう…



翌朝、体温計の数値を見て肩を落とす。


…38度…やっぱり風邪引いてた…


浪川くんに連絡すると「ノーノーの翌日に風邪引くのはおそらく史上初だな」と苦笑いされ、コーチに伝えておいてくれると言っていた。


誰か看病してくれたらありがたいんだけど……あっ、いいこと思いついた。


美波ちゃんに連絡し、看病を頼むことにしよう。


ちょうどよく今日は土曜日で彼女も仕事が休みなので都合がいい。


好きな人に看病され、更に親交が深められる。まさに一石二鳥だね。


準備したらすぐに行く、と言われたので薬を飲んで冷えピタを額に貼って寝る。


しばらくすると、インターホンが鳴りドアを開ける。


「こ、こんにちは。和人くん大丈夫ですか?」


美波ちゃんが不安そうな目と仕草で僕を見る。


「うん、立てないほどとかではないから平気だよ。心配かけてごめんね」


「それなら良かった!でも横になって安静にしててくださいね?ご飯とか私が作りますから。あ、ビタミンC取るために果物とかも持ってきたので食べたかったら言ってください」


まさかそこまでしてくれるなんて…なんだか看病を頼んだのが申し訳なくなってきたなぁ…


「美波ちゃんこそ無理しないでね。ちょっとした風邪だから」


そう言いつつ咳が出てしまい、余計に心配される。


「私のことはいいのです寝てて下さい!和人くんの体調はチームにも全国のファンにも関わるんですから」


ちょっと語気強めに言われて、「あ、はい」と素直にベットに潜り込んだ。


すると、美波ちゃんが「お借りしますね」とキッチンで果物を切り始めた。


髪を縛ってポニーテールにし、エプロンを付けている姿は家庭的でいいお嫁さんになると確信するほど似合っている。


相変わらず知れば知るほど嫌なところではなく好きになる要素が見えてくる。


こんなに魅力的な女性が彼女なのだから僕は幸せものだなぁ。


そんなことをしみじみ思っていると美波ちゃんがカットした果物を皿に乗せて持ってきてくれた。


「どれ食べたいですか?」


様々な種類の果物があり、そんなに買ってきてくれたのかと驚いた。


「んー…じゃあパイナップルで」


すると、彼女はフォークで刺したパイナップルを僕の口に差し出す。


「……ん??」


「はい、あーん、してください」


僕の脳に電流が走った。


受けの立場も…アリだな。


「え、そういうサービスもしてくれるんですか?」


「サービス?……と、とにかく、あーんしてください!去年のクリスマスのお返しです」


そういえばあの時ケーキで美波ちゃんに、あーんさせたんだよな…


いやぁ、なんと幸せなお返しなんだ。


ありがたく受け取るとしよう。


「あーん…」


…甘いっ!味だけじゃなくてこの行動が実に甘美!


数年前の僕に今の状況を言っても「エロゲのいちゃいちゃパートかよ」としか思われないだろう。


「おいしいよ。ありがとう美波ちゃん」


「えへへ、ありがとうございます」


なんだその笑顔可愛すぎるだろ…


風邪のせいもあるのかもしれないけど普段より胸がドキドキして顔が熱くなってる感じがする。


「私、居座らせてもらうので体調悪くなったらすぐ言ってくださいね」


「あ、ありがとう…」


一通りフルーツを食べると、再び横になって目を閉じる。


…昔、病弱だった時いつも母さんとか姉さん達が付きっきりで看病してくれてたよなぁ。


すぐ病気になるし、怪我するし、気弱だったし、勉強できなかったし、当時の僕を知ってる人達はまさかプロ野球選手になるなんて考えもしなかっただろう。


家族のサポートが無かったら今の自分は無かっただろうなぁ。


まぁ母さんとカズ(ねぇ)は溺愛の域に達してるけど…



目を覚まして時計を見ると夕方の6時。


すっかり眠ってたみたいだ…あれ?


美波ちゃんが僕のベットに寄り掛かってすうすうと眠っていた。


ずっと様子を見ててくれたのかな?このまま寝かせておいてあげよう、と思っていたところ、美波ちゃんもぱちっと目を覚ます。


「ふぁ…あれ、なんで寝てたんだっけ…」


彼女がぼーっとした頭で考えていると僕の顔が視界に映ったのか、はっ、となって目を見開く。


「あ、か、和人くんおはようございます!すみません私も寝ちゃったら本末転倒ですよね!」


「いやいや!もしずっと僕の様子見てたらそっちの方が心配になるよ」


…それにしても寝汗をかいたせいで肌がベトベトしてるな。


服を脱いで上半身裸になると、びっくりしたのか美波ちゃんは目を両手で覆っていた。


一応見られて恥ずかしくはない程度には鍛えてあるんだけど…


「どうしたの?」


「み、見ちゃいけないかな、と思って…」


なんというピュアさ!かわいい!


「で、でも、熱があるとあんまりお風呂に浸かるの良くないんですよね!だから私が体拭きます!」


「だ、大丈夫?美波ちゃん無理してない?」


僕の心配をよそに彼女は手早くお湯を溜めてタオルをそれにつけて絞る。


「背中は私が拭くので前は自分でお願いします」


そう言うと、早速僕の背中を暖かいタオルで拭く。


さっきの反応からするに男性の体に慣れてないだろうに、頑張ってくれてるんだな…


「へへ、美波ちゃんほんとに僕のこと好きなんだね」


「え?…そ、それはもちろんですよ!そうでなきゃ看病なんてしないでしょう?」


そこに更に質問する。


「美波ちゃん、前に僕に「私のどこが好きなんですか?」って聞いたよね?」


「はい。いろいろ言ってくれましたよね」


「あんなの本当は全部どうでもいいんだよ…僕が好きなのは「美波ちゃん」という存在なんだ」


言った直後になんて恥ずかしいこと言ってんだ!と脳内で反省しまくる。


が、美波ちゃんはふふっと笑って便乗してくれる。


「私もです。ノーヒットノーランやったとか、いろんな仕草とか様子よりも、私は和人くんそのものが好きです」


その甘い台詞と、熱のせいで脳の制御がバグったのか、勢いで一つ決心する。


「ねぇ、美波ちゃん。同棲してみない?」


「同棲ですか…同棲……同棲!?」


彼女は思わず驚く。


僕も今の僕の大胆な発言に驚いてる。


「だってここまでお互いのこと好きなんだから一緒に生活したら絶対幸せだよ!事実僕は今日美波ちゃんと生活…というか看病してもらって安心感というか、そんな感じがしたんだ」


「和人くんがそう言ってくれるなら…」


美波ちゃんは照れながらも頷いて、僕の考えに同意してくれた。


「でもそれは後にして、とりあえず今日は早く寝て風邪を治してくださいね?私そろそろ帰っちゃいますから」


「うん、ほんとにありがとうね。せっかくの休日なのに」


彼女が帰った後にまた眠りにつく。


明日には練習に戻って来週の登板に備えないと…




翌日、チームはミーティングを開いた。


前日の試合で山崎がセーブを失敗し、これで登板4試合連続でセーブ失敗となった。


優勝のために一つの負けも許されないため、これを期に守護神を日替わりにすると発表。


しかし和人は監督室に行き、直訴した。


「今シーズン、残りの試合の最終回は僕が投げます。やらせてください」


三村は目を丸くした。


一昨日ノーヒットノーランをした選手が守護神をやると言うなど考えもしなかったからだ。


「だがな…お前は今最多勝争いしてるだろ?タイトルはいいのか?」


三村がそう心配すると、和人はまっすぐ目を見てはっきり言った。


「チームの勝利のためならそんなの要らないです」


和人の熱い思いに折れ、了承する。


「…わかった。だが無理するなよ。いきなりリリーフに戻るのは肉体的にも精神的にも大変だろう?」


「はい。両方経験してるので大変さはわかります」


こうして守護神・佐々城和人が誕生。


10度のセーブ機会を全て成功させて、リーグ連覇に貢献した。


これによりタイトルとは無縁だったが、和人はそれ以上に大切なものを手に入れた気がした。




個人成績


佐々城 2.84 13勝 3敗 10S

    .220 2本 9点 OPS.692


浪川 .291 44本 120点 OPS1.025 28盗塁 本塁打王 打点王 最高出塁率 B9 GG賞


太郎 .254 26本 78点 OPS.803


川畑 58登板 2.84 4勝 2敗 24HP


沢 .216 4本 26点 ORS.670 ※二軍


カレラス .248 17本 40点 OPS.766


瀧内 3.48 12勝 5敗 新人王


小鳥遊 .271 9本 35点 OPS.783 代打の切り札


青木 .200 1本 7点 OPS.485 25盗塁 代走の切り札


宮村 10試合 6.00 1HP 支配下登録

   28試合 2.95 11HP ※二軍

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ