プリーズ セイ ミー
「そー、それあたしも思ってたぁ」
昼休みだ。予鈴が鳴ってもクラスメイトは殆ど次の授業を意識することなく、好きな位置で話を続けている。五限は少人数制も移動もない授業なので、余裕があるように感じているのだろう。
梯九は教室内を見渡して、幸也がいないのに気付いた。そういえば何かの委員会の集まりがあった気がする。それが長引いたか、帰ってくる途中で別クラスの友人と話し込んでいるかのどちらかだろう。なんでいないんだ、と悪態をつく反面、いなくてよかったとも思う。
「ここが嫌とか思ってるんでしょ、どうせ」
ちらと好佑の方を見る。梯九が一番後ろの席で、彼は一番前だからそれなりに遠いが、様子くらいは分かる。こちらは見ていない。ただ机に向かっている。制服の上着の色が妙に暗い。背中が硬い。
梯九の左斜め、二つ前の席で女子が集っていた。内の三人がどこか気分良さそうな顔をしていて、二人は強張っているように見えた。昨日教室に残っていた二人だ。
「日本語覚えようとしないから孤立するんじゃん」
「だよね! 睨まれても困るんですけど!」
よく見ると、端の方でまた別の女子達がそわそわしていた。こちらは後に帰ったグループだった。
ねえ、と、左斜め前の中の一人が加熱する会話を制止するように口を挟む。
「…、聞こえてない?」
怖ず怖ずと彼女は好佑を見、直ぐに視線を戻した。会話をしていた女子は、重大そうな顔をする理由が分からないまま、「大丈夫だって」と笑って流そうとした。
「聞こえてても多分理解してないもん」
口出しした女子は、反論する術がなかったのか、それとも反論しても仕方がないと感じたのか、口をつぐんだ。三人はまた同じような言葉を交わし始める。
梯九には、先ほどの言葉が酷く響いて聞こえた。「梯九が言う通り、好佑は日本語ちゃんと聞けてる」と、幸也は以前そう話を始めた。次いで、反感を持って口にした「諦めてない」という言葉と、「当たり前だろ」と言ったときの彼の表情、声音を思い出した。
二度、自分の机を叩く。彼女達は振り向きもしない。
「アイ シンク ザット ヒー アンダースタンド ホワット ユア セイズ」
声がぶつかった先が自分だと気付いたらしく、左斜め前の女子達がこちらを見た。一人が、「何、伊野」と梯九に軽蔑に似た冗談笑いを含む目を向けてくる。例の二人は、安心しているようにも心配しているようにも思える雰囲気を漂わせていた。奥を見ると、好佑がこちらを向いている。
「ヘイ、ミスター木村! プリーズ リッスン ディス ジャパニーズ!」
立ち上がり手を叩く。それから、手を振って合図する。もしかしたら幸也の言う通り、この片言な英語こそ理解していないのかもしれない。
(でも日本語は分かるんだろ。)
「好佑くんの親友は誰ですか! ハイ!」
答えを促す手の平に、少しの間を置いて彼が笑ったように見えた。
「My close friend is Yukiya」
20101119




