ニコチン・キス
短編
「何本目なの」
隣に腰掛けながら、彼女が言った。巧実は丁度新しい煙草を咥え、その先に火をあてていたところだった。
喋る為に口から煙草をはずすと煙が漏れた。
「一箱と二本」
「吸いすぎ」
そんなことない、多い人はもっと吸うよと言い終えると、彼はまた口に煙草を迎える。和は溜め息をつき、ついと横を向いてしまった。
「いつか死ぬよ。」彼女が言う。それは、人間誰でもそうだろうと考えてしまったが今はそういう話をしているわけではないので言わないでおく。代わりに「いつかな」と同意した。実感も危機感も何もない、会話を続けるためだけの返事だ。
それを分かっているから、彼女は顔を顰める。
「その“いつか”より前に、あたしが死ぬんだよ。副流煙で」
「ああ、そんな話あったな」
「保健で習ったんだからね」
「でも煙草吸ってるやつはふつうの煙も吸うし」
「主流煙」
「主流煙も吸うし副流煙も吸うから、先に俺が死ぬんじゃね?」
そう言うと大きな溜め息をつかれた。五歳も年下の少女にそんな見下すような態度をとられると立場がないが、彼女の方が頭脳明晰で素行もいいのでこの件に関しては勝ち目がない。
「もういいけど」全然よくなさそうに和はそう言った。巧実は灰皿の端を煙草でつつきながら何を言うべきか考えた。
「お前も吸ってみたら良さがわかるって」
「未成年なんですけど」
「吸わねえの?」
「吸わない。大人になっても吸わない。嫌いだもん」
興味もなにもないらしい。煙草吸ってたら似合いそうなのにとか思いながら、差し出した一本を引っ込めた。
それから数分会話がなく、巧実はひたすら主流煙を吸って、副流煙越しに見える和のしぐさをみつめていた。
「あのさ」
ふいにこちらに視線を向けた彼女が言った。
「受動喫煙は、別に嫌いじゃない」
「…なにそれ?」
「死因が巧実の副流煙ならそれもありかなって思っただけ」
嫌味かと思ったが、彼女は隠している本音を打ち明ける時の表情。真意がよく分からなかったのでとりあえず和に向けて煙を吐き出してみる。和はその煙に噎せて、巧実の頭を殴った。
(なんで殴るんだよ!?)
(それは、呼出煙っていうの!)
2010




