ナルシスアフタヌーン
掌編
(愛 愛、
愛が欲しいなあ
何処かに転がってないかなあ
……愛。)
夕焼けで団地は変な色をしていた。多分生肉と同じような色だ。
僕はこの色が嫌いだ。
道の端でこちらに背を向けてしゃがんでいる少女がいた。一般的な夏服のセーラー服を着ていた。長い紺色のスカートが、アスファルトに同化を拒まれたように広がって寝ていた。
その少女も、全体的にサーモンピンクがかっていた。
立ち止まった僕の気配を感じたのか、彼女は振り返った。丸くて大きくて濁っていない綺麗な瞳が僕を見た。
生肉みたいな夕方の色は嫌いだけど、彼女を染めると美しく見えた。
僕はこの少女に声を掛けた。
「愛を手に入れる方法を知っている?」
彼女はそのままの姿勢で固まっていた。でも瞳の輝きと肌のなめらかさが、彼女は別に死体でも人形でもないことを告げていた。
少女は答えた。
「自慰をするの」
僕は残念に思った。
「その方法じゃ、無理だよ」
「それ以外に方法はないよ。だって自分を本当に理解して愛せるのはこの世で一人、自分だけだもん」
「それはそうだと思うよ」
「気が合うね」
少女はちょっと笑って見せた。少女の手元には手折られた小さい花が息絶え絶えに重なって倒れていた。
僕は彼女が好きになった。彼女の愛が欲しくなった。
「僕は君を愛してしまいそう」
「たとえそうだとしても私はあなたを愛さない」
「どうして?」
「自分以外を愛する愛は偽物なの」
僕は考えた。彼女が好きになった今のこの気持ちは偽物だろうか。
答えが出た。イエスだった。
「じゃあ嘘でいいから愛してくれる?」
僕が提案すると、少女は無表情にしばらく喋らなかった。
やがて立ち上がり、地面に置き去りにした花達をローファーの先でぐいと踏み潰した。
悲惨な姿になったそれらを彼女は取り上げ、今切ったばかりの美しいマーガレットを差し出すように僕のほうに突き出した。
「嘘でいいなら」
僕はその花を受け取った。
20100625




