12 最終話
最終話です。
最後は明るくいきます。
「たった二年だ。たった二年で国が崩壊寸前までいっていたのだ……戦になれば、どれだけの国民を失うことになるか……例え退けられたとしても、残るのは傷跡ばかり」
殿下のお顔が、いろいろな感情が綯交ぜになっているようで、言い表すことができません……殿下の掌が、私の右頬を優しく包み込んできました。
「リーナ。君の存在がどれだけこの国にとっても宝となっているか――神に感謝する――君と共に生きていけるこの人生を与えてもらったことを」
「……あの日……一緒にこの国を守っていこうと仰ったのは、この事だったのですね」
「ああ……私は言葉が足らなかった。私が君の笑顔が見たいと素直に言えばよかったのだ。たった一言……たった一言が言えずに……君を……」
私の頬を包み込む殿下の手にそっと自分の手を重ねて。
「私も、素直にお伝えすればよかったのです」
もう片方の手で私が殿下の頬に手を添えると、ちょっと驚いた様子でいらっしゃいますね。可笑しくなるのはどうしてでしょう。
「愛しております、ジョルジュ様」
そっと殿下の頬に口づけを送って身を離そうとしたら――。
「え、ちょ、あっ」
突然ソファに押し倒されたのですがっ!
あ、あれ?――わ、私は殿下の逆鱗?に触れたのでしょか!あのお顔を……男のアレのお顔をされていますよね!貞操観念が人と違う私はわかってしまうのです!!
「――今のは君が悪い。ああ、そうとも。君が悪い。やっぱりまずかった。君と二人になるのは。うん。君が悪いんだよ。男の欲望というものはね、時には制御が難しいんだ。今みたいにとんでもない不意打ちを食らうとね、抑えが利かなくなるんだ」
「で、殿下。それだけお話しできるのですから……理性の糸を繋ぎ合わせられてはいかがかと……」
「無理だな」
「いえ、無理とかではなく……ここは執務室ですし……婚儀も済んでませんし」
「問題ない」
「問題大ありですよね!!」
は、初めて声を荒げたのですが!!
「おい。何があ――――――殿下……摘み出されたいか? 俺は言ったよな? 本当に大丈夫かと――殿下! いい加減目を覚ませ!!」
私の叫び声が聞こえたのか、執務室に飛び込んできたパトリック様。私の姿はソファの背凭れで見えない筈ですが、殿下の体勢でお分かりになったようで!!
「――――パトリック。無粋な真似をするな。理性くらいちゃんとある」
えええ??
「リーナが私に初めて怒鳴った!」
「……おい……貴方はガキか!!」
「今のリーナの顔は私のものだ。パトリック、いいから出ろ」
「――――」
たっぷりの間を取られた後、パトリック様が執務室の外に行かれました。
といいますか!どんな顔をしているというのですか!!
「リーナ! ああ、可愛い、リーナ!」
ええええ??
「リーナ。ああ、早く婚儀を済ませたいな。君のどんな顔が見られるか楽しみだ」
蕩ける様な笑顔を浮かべておられますが……それはどういう意味で??
私は!ジョルジュ様の開けてはいけない扉を開けてしまったのではないでしょうか!?
一方、部屋の外では――。
「パトリック、リーナは中か?」
パトリックは、憐憫の目でアドルフの肩にそっと手を置いた。
「ん? どうかしたのかい?」
ヴァーンが、珍しい反応をするパトリックを面白そうに見ている。
「――俺は……見てはいけないものを見た気がする……」
「は? どういうことだ? 中にはリーナがいるのだろう? はあ! 止めなかったのか!!」
アドルフが鬼の形相で扉の取っ手に手をかけようとしたら、背後からヴァーンが羽交い絞めにして止めている。
「馬鹿! アドルフ! 何を中に入ろうとしている! 正気になれ!!」
「離せ! 何故止めるヴァーン! お前が正気になれ! 妹の危機なんだぞ!!」
「待て待て! アドルフ、落ち着け! 俺が悪かった! そういう意味じゃない!!」
がちゃり!!
「お兄様の馬鹿ぁぁ!!」
くるりと半回転したイリアーヌ。
「ジョルジュ様も馬鹿ぁぁ!!」
顔を真っ赤にして、頬は風船のように膨らんだ涙目のイリアーヌは、目を吊り上げて四人を一睨みして執務室を出て行く。
破廉恥な想像で騒がしい通路の声が、執務室内にも聞こえていた。
「もう、知らない!!」
珍しく足音を鳴らしながら足早に去っていくイリアーヌを呆然と見送っている四人。初めて妹に馬鹿と叫ばれたアドルフは面食らい、他の三人も初めて見る感情全開にしたイリアーヌに驚いているのだ。
「……あぁ……うん……わかった……殿下……その理性の糸を”綱”に変えなね……」
「ああ? ヴァーン! どういう意味だ!」
「見てみなよ……殿下を……」
アドルフが執務室を見遣るとそこには、扉に手をついて、口元を手で押さえて俯きながら、その体はぷるぷると震えているジョルジュの姿。
「――あぁ……あの上目遣いの怒った顔っ、可愛い!! あれが素か! そうなんだな!!」
「……な?」
パトリックの小さな同意を求める声に苦笑いを返す二人。
ジョルジュの叫びにドン引きながらも、長年二人を見てきた三人は、今の彼は幸せそうなので、”しょ~がないかぁ”と思うのでありました。
沢山の方に閲覧頂いたことが励みとなりました。
心より御礼申し上げます。
追記(2017/4/23):本当に沢山の方に温かい評価を頂き厚く御礼を申し上げます。
拙い処女作ではありましたが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
改稿の章は、誤字脱字を修正しています。




