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20 閑話 男の子? 女の子?

※お詫びとお知らせ※


諸事情につき、打ち切らせて頂きます。


二話連続投稿です。

「……って事で、強盗にさらわれたレアは無事に助け出されたって訳」

「あらあら」


 王都スピネルから帰宅した、その日の夜。リビングのテーブルでお土産話をするイルマとレアに、ラダはおっとりと相槌を打っていた。


「それは災難だったわねぇ、レアちゃん」

「ええ……。騎士の皆さんにはホントに感謝ですよ。それに〈オリオン〉も」

「助かったわぁ、ありがとう〈オリオン〉ちゃん」

『恐縮です』


 ラダのお礼に、レアのチョーカーから〈オリオン〉の言葉が返って来た。


「エリク君の落ち着いた対応にもね。イルマちゃん、あなたもちゃんとお礼言わなきゃ駄目よ?」

「もう言ったもーん。『お主、やるな……』って」

「お礼……?」


 何故か上から目線なイルマに、レアはぼそりと呟く。


 ふと、レアはラダとの会話にある疑問を覚える。


「そう言えば、ラダさんって、エリクの事は"君"付けで呼びますよね?」

「そうよ。男の子だものねぇ」


「で、あたしやイルマは"ちゃん"付けで呼びますよね?」

「そうよ。女の子だものねぇ」


「その上で聞きますけど、〈オリオン〉は何て呼びます?」

「〈オリオン〉ちゃん」

「……あの。〈オリオン〉って、男じゃないんですか?」


 レアの言葉に、ラダは首を傾げた。


「あら。女の子じゃなかったのかしら?」

「……そもそもさ、〈オリオン〉に性別ってあるの?」


 二人の様子を見たイルマは、〈オリオン〉に尋ねる。


『私に性別は存在していません。特に定める理由がないからです』

「だよねー。機械に性別うんぬんって、なんか変だし」

「そうかな? ……うーん、ノエルさんも君付けだったし、男の人って印象だったんだけど……」

「何で?」

「何でって言われても、何となく。……うーん、声とか低い感じだし、力強いイメージだし……とかかな?」


 顎に人差し指を置き、天井を眺めながら、レアは答えた。


「なるほどー。大して面白くもない理由だねー」

「面白さを求められても……。第一、どんな理由なら面白いのよ?」


 レアの問いに、イルマは「例えば……」と意見を並べて行く。


「それっぽいオーラがあるとか」

「またえらく漠然とした理由が来たなあ……」


「その佇まいに、透き通るような銀髪と耳をとろけさせるような甘いボイスを持った、高収入なイケメンの雰囲気を感じ取ったとか」

「またえらく具体的かつ個人的願望のこもった理由が来たなあ……」


「一緒に社交ダンス踊った時、〈オリオン〉は男性パートだったとか」

「社交ダンスはちょっと、身長差的に無理があり過ぎるから」


「河原で夕日を背景に殴り合った末に、心を通わせた結果とか」

「殴り合いはちょっと、身長体重腕力その他的にあたしが初撃でKOされちゃうから」


 並べられる理由に、レアは遠慮なくダメ出しを行っていった。


「……じゃあ、今度はラダさんに尋ねましょうか。何で〈オリオン〉を女の人だと思ったんですか?」

「あら。だって、〈オリオン〉ちゃんは女の子の特徴と一致するじゃない」

「例えば?」


 レアが尋ねると、ラダはピンッと指を立てて言った。


「ほら、まず〈オリオン〉ちゃんにはお髭が生えてないでしょ」

「いや、確かに〈オリオン〉には髭が生えてませんけれども」


「それに、お肌もつるつるじゃない」

「いや、確かに〈オリオン〉の表面はつるつるですけれども」


「胸の膨らみもないみたいだし」

「いや、確かに〈オリオン〉の胸は膨らんでませんけれども」


「一人称も私でしょ」

「いや、確かに〈オリオン〉の一人称は私ですけれども」


「ほらね。女の子の特徴に完全に一致してるでしょう?」

「いや、確かにラダさんの挙げていった特徴だけに絞れば完全に一致してますけれども」


 自信満々に"チェリーピッキング"と呼ばれる論法を披露するラダへ、全く同調していない頷きで答えるレアであった。


 二人の会話に耳を傾けていたイルマは、腕を組んで「うーん」と唸る。


「確かに、このままだったら〈オリオン〉が女の子だって証明するのは難しい感じだよねー」

「え、何? そう言う方向に、話進んじゃうの?」


「そうねぇ。……だったら〈オリオン〉ちゃんが女の子だと、みんなが分かるようにすれば良いんじゃないかしら」

「あ、何だか順調に話が脱線して行く気配を感じる」


 イルマの言葉にラダは手の平を『ポンッ』と打って同調する。


「だったらお母さん、言葉遣いを変えさせようよ。女の子っぽい口調なら間違わないんじゃない?」

「あら、それ良いわねぇ。だったら――」


『マスター。私はどうすれば良いのでしょうか?』

「……ごめん。多分、あたしじゃ止められそうにない……」


 あれこれと相談を始めるイルマとラダの様子を、レアは頭を抱えて眺めるのであった。






「……あ、おはようエリク」

「よお、レアに〈オリオン〉」


 その翌日。広場を歩いていたレアと〈オリオン〉は、エリクと出会った。


 片手を上げて挨拶をするエリクに、


『おっはよー、エリク。今日もとーっても良い天気ね』

「…………え?」


 全く抑揚のない〈オリオン〉の声が、信じがたい内容の挨拶を紡ぎ出した事に、エリクの思考は一瞬で凍結する。


『こーんなに良い天気だと、〈オリオン〉すっごくうっきうきな気分。きゃは』


 異界の珍獣でも見たような様子のエリクには構わず、〈オリオン〉はなおも挨拶を――あくまでも全く抑揚のない口調で挨拶を続ける。


『思わず私、踊り出しちゃいたーい。るんるんるるーん』

「………………」


『もーお、どうしたのエリク。そーんな暗い顔じゃ私、悲しくなっちゃうぞ。ほらほら、笑顔笑顔ー』

「…………レア?」

「…………分かるから。言いたい事分かるから」


 だらだらと滝のような汗を流すエリクに、レアは気まずそうに顔を逸らすばかりであった。


 結局『〈オリオン〉の口調を可愛く改造しちゃおう』計画は、反対意見多数で棄却される事となった。

 

その結果に、イルマは「何が駄目だったかなー?」と、ラダは「あらあら」とのコメントを残した。


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