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21 閑話 黒いかどうかは不明な三連星

※お詫びとお知らせ※


本日二話目です。


諸事情につき、今回で打ち切らせて頂きます。

大変申し訳ありませんでした。

「レア姉ちゃーん、おーっす!」

 とあるミメット村の昼下がり。ランブロウ商店からの帰り道、レアは顔見知りの子供から元気の良い挨拶を掛けられた。その小さな身体から、溢れんばかりの活発さを発散させるような男の子だった。


「ダンじゃない。こんにちは」

「〈オリオン〉も、おーっす!」

『あなたは確かダンでしたね。こんにちは』

「……二人共、挨拶がなってないなあ。おーっす! って言ったらおーっす! 

って返すのがレーギって奴じゃない?」


『おーっす!』の部分でシュバッと手を突き上げながら、ダンが言った。


『そのような礼儀があるとは、初めて知りました。ご無礼をお許し下さい』

「うむ、許す許す。面を上げーい!」

「ちなみに〈オリオン〉、冗談の一種だからね?」


 念のため、レアは補足しておいた。


『冗談でしたか。判断に困る状況でしたので、謝罪を選んでおいたのですが』

「……旧文明時代にもあったんだ。取り敢えず謝っとけ精神……」


 微妙な面持ちで呟く。気を取り直して、レアはダンに尋ねた。


「それはそうと。今日はマルコとメリーは一緒じゃないの?」


 マルコとメリーはダンの友達だ。いつも一緒に遊んでいる、仲良し三人組であ

る。


「ああ、そうだそうだ。その事でレア姉ちゃんを呼びに来たんだ」

「あたしを? どうして?」


「いや、あいつらと一緒にボール遊びしてたんだ。一人がボール投げて、もう一人が棒で打ち返す遊び。で、おれがマルコの球を打ち返したら、木の枝に引っ掛かっちゃって取れなくなって……。ちょうどレア姉ちゃんが近くを通っるみたいだったから、姉ちゃん……ってか〈オリオン〉に取ってもらおうとさ」


「ああ」とレアは頷いた。村では〈オリオン〉の姿は隠していないため、離れていても居場所がすぐに分かる。自分達を呼ぶために、ダンが一人でやって来たのだろう。


「なるほど、そう言う事ならあたしにまかせて」

「おう! じゃあ、急いで行こうぜ!」


 そう言うとダンは、レアの手をグイッ、と引っ張る。


「わわわ、焦らないの」

「いーや、焦るぜ! 嫌なヨカンがするからな!」


 なおもグイグイと引っ張りながら、ダンは言った。






「ねえメリー、良いだろう? もうぼくは……ぼくは……」

「ダ、ダメよマルコ……。これ以上は……」


「ダメって、何故なんだい?」

「そ、それは……」


「ダンの事かい?」

「……っ」


「……ズボシなんだね。ヒドイじゃないか、ぼくと二人っきりの時にアイツの事を考えるなんて」

「で、でも、彼の気持ちを裏切れないわ……。わたしは、あなた達との今の関係を終わらせたくない……」


「終わるんじゃないさ」

「え……?」


「始まるんだよ。ぼくとメリーの新しいカンケイが。ぼくは時計の針を進めたいんだ。君と歩む未来に向けて」


「マルコ……」

「メリー……」


「……やっぱりかチクショウ! そこまでだマルコ!」


 何やら妖しい雰囲気を醸し出しながら手を繋ごうとするマルコとメリーを、ダンの叫びが制止する。今にも触れそうだった二人の手と手がびくり、と強張り、互いの体温を伝え合う事なく、再びその距離を広げていった。


「チイィッ、ダンめッ! あと一歩だったと言うにッ!」

「させねえよッ!」

「……ええっと。こんにちはマルコ、メリー」


 苦笑いを浮かべ、レアは言った。


「レアさん、こんにちは」

「あら、レアさん」


 先程までの雰囲気はどこへやら、ごくフラットな調子でマルコとメリーはレアへの挨拶を返した。


「それで、ボールはどこに引っ掛かったの?」

「ああ、あそこです」


 マルコが指さした場所――二階の窓くらいの高さの広葉樹の上部に、青いボールが葉に絡まるように引っ掛かっていた。


「あれだったら、ちょっと揺すれば落ちて来そうね。〈オリオン〉、お願い」

『了解』


 そう言って〈オリオン〉は手を伸ばし、人差し指で枝をガサリ、と揺さぶる。数枚の葉と共に落ちて来たボールがてんてん、と地面に跳ねた。


「おー、サスガだな。サンキュー、レア姉ちゃん」


 ダンに続いてマルコとメリーも「ありがとうございます」とお辞儀する。「これくらいお安い御用よ」と、レアは微笑んだ。


「さあ、ショーブ再開だ! 三対二だったな」

「待って下さい、ダン。さっきのはノーカンでしょう? 二対二です」


「打たれたくせに何言ってんだ! どー考えても、さっきのはおれの勝ちじゃねーか!」

「木に引っ掛かったんだから、ノーカンです! 前にぼくが引っ掛けた時はノーカンでしたよ!」


「何だよ、負け惜しみ言ってんじゃねーよ!」

「そっちこそ、ごり押しするつもりですか!」


「マルコォォォッ!!」

「ダァァァンッ!!」


「ま、まあまあ二人共、その辺で……」


 遂には宿敵同士が戦場で出会った時のような怒声を上げ始めた二人を、レアは軽く引きながらも止めに入ろうとする。しかし、


「待って!! 二人共!!」


 レアの制止に先んじて、メリーの悲痛なる叫び声が、今にも拳を交わさんとする二人の間へと割って入った。


「もう止めて! わたし、二人が争うところなんて見たくないわ!」

「だ、だけどよ……」

「しかし……」


「思い出して! わたし達が初めて出会ったあの日の事を! わたし三人で歩んで来た、かけがえのない思い出の日々を!」

「「……!!」」


 メリーの言葉にはっとするダンとマルコ。脳裏に浮かぶは、めくるめく思い出の数々。十日前、四つ葉のクローバーを三人で探したあの日。五日前、ボール遊びをしたあの日。三日前、ボール遊びをしたあの日――(なお、物心付いた時には三人一緒だったため、"初めて出会った日"を想起するのは不首尾に終わった)。


 敵意を硬く握り締めた拳は静かに緩められ、憎悪の荒れ狂う瞳は湖畔の如き穏やかさを取り戻していく。完全に置いてけぼりを食っているレアを尻目に、メリー達の熱気は今、クライマックスへと差し掛かろうとしていた。


「メリー……おれが……おれ達が間違っていたよ……」

「ふ……。どうやらぼくらは大切なものを見失っていたみたいだ……」


「二人共、分かってくれたのね!!」

「ああ。目が覚めたよ」

「すまないメリー。そして、ありがとう」


 優しく温かい、感動的な空気に包まれながら、三人は肩を抱き合い、静かに頷き合い、


「で、さっきのは結局どーすんだ?」

「うーん、あれはノーカンね」

「助かりました……。次は空振りを取りますからね」

「ちぇー。……あ、レア姉ちゃんもう良いから。ありがとー」


 いきなり素に戻って、ボール遊びを再開した。


「…………。良いなら良い、んだよね……?」

『良いなら良いのではないかと』


 辛うじて出て来たレアの言葉に、〈オリオン〉はいつもの無機質な声を返した。


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