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議題:恋愛(前編)

 次の会議は、一週間後だった。

 木曜日の夜だった。


 結人はちょうどシャワーを浴びようとしていたところだった。一日の疲れを落とそうと、脱衣所のドアを開けて、シャツを脱ぎかけた状態で——気がついたら会議室にいた。


 幸い、下半身はまだ着ていた。ジーンズのまま、というのは少し安心だった。しかし上半身はシャツの袖を片方だけ通した、なんとも言えない半端な状態だ。


 会議室に、四人の視線が集まった。


「おい」とベルフェゴールが言った。

「今度は着替え中か」


「召喚のタイミングを、もう少し選んでほしいんですが」と結人は言った。もはや驚かなくなってきた自分が、少しだけ怖かった。


「申し訳ありません」とクロノスが言った。椅子に座ったまま、微かに頭を下げた。

「精度の問題が、いまだ解決しておらず」


「精度の問題、精度の問題って、何百回と会議をやってきた機関として、そこが改善されないのはおかしくないですか。基本的なことじゃないですか、時間と場所の精度って」

「宇宙的な時間の概念で言えば、一万年前に改善済みの案件なので」

「じゃあ地球時間でお願いします」

「地球時間で言えば、承認が下りるのが二十年後です」

「……遅い」

「宇宙の行政は、どこも遅いんです」とラファエルが申し訳なさそうに言った。白い翼が、少し縮こまっている気がした。


「書類が多くて。承認を出せる存在が少なくて。管轄の問題もあって」

「宇宙にも書類があるんですか」

「山ほど。私のところには常に三百件くらい来ています」

「お前たちの予算会議など序の口だ」とベルフェゴールが言った。スーツの袖をまくりながら。


「宇宙全体の存続申請書類は、毎回百ページを超える。私が担当した最長のものは四百三十七ページだった」

「それはつらいですね」と結人は思わず言った。


「だろう」とベルフェゴールは言った。その一瞬だけ、妙な親近感があった。


 宇宙も大変なんだな。どこに行っても書類と締め切りと承認待ちがある。人間も宇宙人も悪魔も天使も、みんな同じ苦労をしているのかもしれない。それが少しだけ、可笑しかった。


「あの」と、少し迷いながら結人は言った。

「シャツ、どうにかなりますか」


「これで」とアトラスが言った。

 どこから取り出したのか、白い上着を差し出した。シンプルで、素材感がいい。地球で売っているものとは少し違うが、着心地は悪くなさそうだった。


「ありがとうございます」

「どういたしまして」とアトラスは言った。


 感情のない声で言うと、なんとなくシュールではある。でも悪意がないのはわかる。むしろアトラスなりの気遣いなのかもしれない、と結人は思った。データとして人間は肌を露出した状態を不快に感じることがあるという情報を持っていて、それに従って行動した。それはそれで、優しさの一形態だ。


 上着を着て、袖を通した。思ったより馴染んだ。


「では、始めましょう」とクロノスが言った。

「今日の議題は、恋愛について」



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― 新着の感想 ―
滅ぼすと結論がでても、その用意や何やかの間に人類が自滅している可能性の方が高いかも
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