崩壊
木剣の切っ先が。
ついに、黒い肉の奥にある 核 に触れた。
その瞬間だった。
ドクン
低い鼓動が、世界に響いた。
俺の腕が止まる。
時間加速の中でも。
その振動だけは、はっきりと感じられた。
核は、生きていた。
黒い肉の奥で。
ゆっくりと脈動している。
ドクン
ドクン
その表面には。
無数の細い血管のようなものが走っていた。
それがショゴスの肉体へと繋がっている。
まるで。
巨大な生命体の心臓。
(これが……)
本体。
直感がそう告げていた。
だが。
その瞬間。
核の表面に――
目が開いた。
ギョロリ
それは小さな目だった。
しかし。
そこには確かな意思があった。
俺を見ていた。
Tekeli-li
声が響く。
それは怒りだった。
次の瞬間。
ショゴスの肉体が暴れた。
ズルン!!!
巨大な触手が一斉に動く。
加速しているはずなのに。
速い。
対応しきれないほどに。
本体が危機を理解したのだ。
触手がこちらへ集まる。
分体も戻る。
黒い肉の海が、本体へと流れ込む。
(間に合わない)
俺の時間はもう限界だ。
胸が焼ける。
視界が揺れる。
体が悲鳴を上げている。
それでも。
剣は止めない。
俺は叫んだ。
「黒鉄先生!!」
この濁流と轟音でほとんど俺の声は聴こえていなかったかもしれない
それでも。
次の瞬間。
ギィィィィィィン!!!
巨大な衝撃波が走った。
黒鉄の剣だった。
分体の群れを。
まとめて吹き飛ばす。
肉塊が空へ舞う。
触手が弾ける。
その一瞬。
本体の周囲に――
空白が生まれた。
(今だ)
俺は最後の力を振り絞った。
木剣を握る。
全身の筋肉を動員する。
「自己時間加速 - 3倍<タイムアクセラレート - ドライ>!!!」
さらに時間を加速させる。
本体から伸びてくる触手を打ち落とす。
そして。
俺は。
木剣を。
ショゴスの核へ。
突き刺した。
バシュッ!!
木剣が核を貫いた。
その瞬間。
世界が静止した。
ショゴスの肉体が止まる。
触手が空中で固まる。
分体の動きも止まる。
そして。
核が。
割れた。
ピシッ
小さな音だった。
だが。
その亀裂は。
一瞬で広がった。
バキッ
バキバキバキバキ!!
そして。
核が砕ける。
その瞬間。
ショゴスの肉体が――
崩壊した。
ズルン
巨大な肉塊が崩れる。
触手が落ちる。
分体が溶ける。
黒い粘液が、力を失って地面へ流れた。
Tekeli……
最後の声だった。
それは。
どこか遠ざかっていくような音だった。
やがて。
すべての動きが止まった。
黒い肉は、ただの粘液となって地面に広がっている。
風が吹いた。
森の葉が揺れる。
静寂が戻った。
俺はその場に膝をついた。
周囲の時が戻る
世界が元の速さに戻る。
途端に。
体中に痛みが走った。
「……はぁ……」
呼吸が荒い。
視界が揺れる。
そしてそのまま。
俺に駆け寄ってくる人の気配を感じながら、意識を失った。




