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57 その先へ


 ビクスの酒場の隅で、ブレイズが足を机に乗せて、昼間からお酒を飲んでいる。ようやくブレイズを見つけたルリナは躊躇いがちに話しかけた。


「あ、あのブレイズさん……」


「あ? あぁ……何だルリナか。どうした? 新しいヒーラーは見つかったか?」


 かなり酩酊しているのか、ブレイズはろれつの回らない口で、ルリナに応えた。


「い、いえ……そうじゃなくて」


「んじゃあ、どうした?」


「先ほど王国軍の方から連絡があり、北東のダンジョンが攻略されたと……」


「なんだと? 他の勇者はここらにはいないハズじゃなかったのか?」


「そうなんですけど……それが……ここじゃなくて、ミズキの街のギルドに完了報告に来たのが……その……」


「なんだ? はっきり言えよ」


 歯切れの悪いルリナの様子に少し苛立ち、ブレイズは先を促した。


「リリーさんと、その仲間たちだったみたいです……」


「何だと……!」


 ブレイズはその名前に突然意識を叩き起こされると、身体を起こす。


「馬鹿な……俺達でも手を焼くような魔物がうじゃうじゃいたはずだぞ? リリーにそんなことできるはずないだろう」


 ルリナは現実を受け入れられないブレイズから、気まずそうに目を逸らした。


「でも、王国の人がそうやって……」


「いいやおかしい。何か裏があるに決まってる。そうだ! 他の勇者でもいるに違いない。俺の時みたいに、寄生してるに違いない! あいつはそういう女だ、そうだろ!」


「うう……」


 感情をむき出しにするブレイズが怖くて、ルリナは涙目になった。

 ルリナにだって、そろそろわかってきている。

 ブレイズはリリーに頼り切りでここまで来たんだ。リリーがいなくなって、他で活躍していたって、それがルリナ達よりよっぽどうまくいっていたって、もはや何も不思議じゃなかった。


「まあいい……いいから俺たちのパーティにちょうどいいヒーラーを探してこい……北東が潰れたのなら、少しは北上しやすくなるだろ。北の街を解放して、それから……あぁ……ったく……」


 ブレイズは現実逃避するようにぶつぶつ言いながら、再び酒を飲みだした。


「ヒーラーは、ジュールさんが見つけたみたいです……」


「あいつが? 変なのだったら承知しねぇぞ」


「王国に相談して……」


「はぁ⁉ 何、勝手なことしてんだよ!」


 ブレイズは元々、王国の手を借りるのを嫌がっていた。なぜなら、王国の手を借りるなら、リリーと別れた経緯を話さないといけないと思っていたからだ。それが癪だった。

 しかし、実際のところジュールは王国にうまく説明して、これから先の戦いは厳しくなるから、ヒーラーは二人必要だのなんだのと誤魔化し、何とか支援を取り付けていたのだった。


「それは……」


 それを知っていたが、怒るブレイズに何も言えずに、ルリナは黙った。


「まあ、言っちまったもんはしょうがねぇ。王国が紹介するならそれなりにまともなやつだろ。これからは何とか、挽回できるな……」


「はい」


「よし! いいじゃねぇか!この先を祝して飲むぞ、ルリナ、ここ座れ!」


「え。私は、いいです……」


「ほらいいから座れって!」


「わかりました……」


 ルリナはリリーを追い出したことを心から後悔していた。

 むしろ、どうしてあの人はこいつの隣に座って楽しく飲んでいられたのだろうか。嫌々ブレイズの隣に座って、ルリナはぼーっと散らかった机の上を見ていた。



***



 しばらくフルール村に滞在したあと、アイナは北へ旅立つことになった。私以外の仲間もすっかりアイナと親睦を深めていたので、アイナと別れるのは辛くなっていた。


「う゛おぉぉ~~ん、アイナ、どうして行っちゃうの~! ずっとここにいようよ~」


 縋りつくニーナに、アイナは困ったように笑っていた。


「ニーナ、落ち着いて。またきっと会えるからさ……近くに来たら寄るし……」


「本当? 嘘じゃないよね? 絶対顔出してよ~!」


 だから、アンタのほうが年上なんだって、ニーナ。見苦しい真似をやめなさい。


「達者でな、アイナ。また色々と教えてくれ」


「うん、セレニア。また一緒に剣の稽古をしようね。それと……早めに装備の呪いを解いたほうがいいと思うよ……」


「お、おう……そうしよう……」


 セレニアは骨剣が気に入ったのか、未だに呪いを解いていなかったので、それ以外の武器が全く使えない状態だった。今はまだいいかもしれないが、この先他の武器が必要になった時に困るので、そのままにしておくわけにはいかない。


「アイナさん。あなたは私に教えてくれました……勇者が全員お金持ちで好き放題やっているクズではないということを……」


 モニカは独特の視点でモニカのことを評価していた。アイナはそれを喜んでいいのかいまいちわからないようだった。


「モニカ……そういうイメージを持っている人は新鮮だったけど、僕は誤解が解けてよかったよ」


「ええ。ただし、アイナに限って言えばの話です」


「そっか……勇者のイメージ回復に努めるよ……」


 モニカにわけのわからないことを言われても真面目に返事するアイナを見ていると、なんだか可哀そうになってくる。


「リリー」


 全員に挨拶をして、最後に私の前に立つと、アイナは声をかけた。


「いっしょに行けなくてごめんなさい、アイナ」


「いいんだ。後のことは僕に任せて。君は十分頑張ったよ」


 ずるいな。この子の言葉は、まるで生傷にポーションを垂らされているかのようだ。傷にとっては効果てきめんだが、その瞬間にはじんわりと痛む。


「気を付けてね、アイナ。強いのは知ってるけど、無理しちゃ駄目だよ。辛くなったら、いつでも戻っておいで」


 せめて安全を願い、私はそう言った。


「うん、ありがとう! でも、僕は大丈夫。世界を救ったら、また会いに来るよ!」


 その後、アイナは元気に手を振りながら、私たちに見送られ、街道沿いに北へ向かった。

 その一人ぼっちの背中に世界がのしかかっていると思うと、せめてそれを一緒に背負ってくれる仲間が増えて欲しいと思わずにはいられなかった。



「さて、と。私たちも頑張ろう!」


 アイナを見送り、私もできるところから頑張らなくてはと思った。

 今の私にできることは、この村の安全を守って、仲間のみんなの成長を手助けすることだ。


「そうだな、リリー。まずやることは、これだ」


 セレニアはにっこりと笑いながら、骨剣を指さした。


「呪いってどうやって解くんだ?」


「はぁー……」


 まずやること……が、コレか。

 何となく想像していたわくわくするようなこととは対極の、呪いを消すという仕事を突きつけられ、私は思わずため息を吐いた。


「ふう……。落ち込んじゃだめだ。コツコツやろう、コツコツ」


 それでもめげずに、私は自分を奮い立たせた。


「骨だけにコツコツ……ぷぷっ」


 モニカが後ろで笑った。


「そう言う意味じゃない!」


「ぎゃははははは! 骨だけに!」


 ニーナが爆笑している。その隣でなぜかセレニアが顔を真っ赤にして縮こまっている。


「全く……本当にアンタたちは……」


 私は呆れながらそう言った。くだらないことでいつも大はしゃぎするんだから。

 そうは言いつつも、私だって本当はわかってる。今の私にとって最も大事なのは、この三人だということを。


 欠点があってもお互い補いあって、ばか騒ぎしながらも、ピンチになれば結束する。私はもう、追い出された一人ぼっちでむせび泣いていた頃の私と違う。


 この子たちは、私を救ってくれた。私の最高の仲間だ。


お読みいただきましてありがとうございます!

一旦一区切りまで来たというところで、続きに少しお時間いただくかもしれません。

少しでも気に入っていただけたら、ブクマ、評価などいただけますと励みになります!

よろしくお願いいたします!

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