第2話 心赴くまま
【前回のあらすじ】
カイを失ったルチアとベッティに寄り添うため、ラウエンシュタイン城で過ごすリーゼロッテ。ジークヴァルトと離れて過ごす日々に、実父イグナーツとの交流がひとつの支えとなって。
一方ベッティは、ルチアとともにラウエンシュタイン公爵家の養子となっていたことに不満を覚えて。カイと交わした約束の結末に、思わず文句のため息を漏らします。
そんな中、未だ心の平衡を保てないでいるルチアに、鎮静作用のある薬草を使用するベッティ。そのことにリーゼロッテは胸を痛めるも、自分ではどうすることもできなくて。
出かけた花畑で歌を口ずさむルチアを見守りながら、時が解決してくれることをただ願うのでした。
夢うつつの状態でルチアは薄目を開けた。
さっきまで編んでいたのは花冠だ。
それなのに、この手のひらが空っぽなのはなぜだろうか。
「ゆめ?」
かすれ声が空虚に響く。
(もう少しだけ――)
あの時間に浸っていたい。
ぼんやり思って重い瞼を再び閉じた。
ルチアにとって花冠はしあわせの象徴だ。
いつか出かけた花畑。ふたりきりの時間。冠を編みながら鼻歌を口ずさむ。
(あれは……誰といたのだっけ……?)
大切な誰か。ぼやけた輪郭だけが頭に浮かぶ。
思い出せそうで思い出せない。それがたまらなくもどかしく感じられた。
(母さんと? ううん、違う。もっと別の……)
忘れてはいけない誰かのはずなのに――。
どうしても大事な何かを取り戻すことができない。
夢の続きを手繰り寄せるも、とりとめのない思考が邪魔をする。
あの花畑に戻りたい。そう願うほど夢の世界からは遠ざかっていった。
待てども一向に眠気は訪れず、観念したルチアは気だるい体をゆっくりと起こした。
薄暗い天蓋の中で磨かれた爪に視線を落とす。
――今日もベッティにうんと可愛くしてもらわなくては。
ふとそんな思いが湧き上がる。
しっかりと化粧を施して、最大限綺麗だと思ってもらえるように。
『あの方もよろこんでくださいますよぅ』
身支度の最後にいつも言われるベッティの口癖だ。
そうだったらルチアもうれしいと、頬を染め無意識に口元が弧を描いた。
しかし同時に違和感が頭をもたげてくる。
(あの方って……?)
自分は誰のために綺麗でいたいのか。生じた疑問に、霞がかった記憶の中をさまよった。
会いたくて、待ちわびて。
胸を焦がす感情だけが、とめどなく奥から込み上げてくる。
『ルチア』
ふいにその声は木霊した。
瞬間、頬に涙が伝う。
「カイ――」
琥珀の瞳。甘い吐息。やさしく触れる長い指。
めくるめく記憶の渦が一気になだれ込んでくる。切なさのあまり、ルチアは胸元をぎゅっと握り締めた。
(カイ、カイ……)
こんなにも狂おしく求めずにはいられない。
それなのに、一時でもカイを忘れていた事実に恐怖を覚えた。未だまだらになった曖昧な記憶が、その思いに拍車をかける。
焦燥にかられるまま、ルチアは寝台を抜け出した。
真夜中の廊下をあてどなく進んでいると、暗がりの向こうで扉が薄く開かれた一室が見えてくる。
漏れ出る明かりを頼りにして、ルチアはその扉を押し開けた。
中にいたのはソファで寛ぐイグナーツだった。年季の入った地図を手に、いきなりの訪問者に驚き顔で固まっている。
しかしすぐに柔らかな表情となって、ルチアに手招きをしてきた。心細さのあまり、誘われるままふらふらと奥に歩み寄る。
力尽きたルチアは、イグナーツの足元で直にぺたりと座り込んだ。見上げると、やさしい笑みを返される。
「怖い夢でも、見ましたか?」
あやすように頭を撫でられて、ルチアは小さく首を振った。
夢の世界はいつでもルチアをやさしく包んでくれる。怖いのはむしろ現実だ。
「……カイがいないんです」
誰に聞いても。どこを探しても。
唯一ベッティだけが、カイの訪れを待ちわびるルチアのために、毎日身支度を整えてくれる。
しかしあれすらも体の良い誤魔化しだったのではないか。それとも自分はまだ夢の世界のいるのだろうか。
様々な疑念が押し寄せる。
カイがいなくなってからの出来事はひどく曖昧で、虫食いのようにあちこち記憶が抜け落ちてしまっている。
何が本当で何が嘘なのか。孤独と不安に苛まれ、誰ひとりとして信用できなかった。
知らず唇を噛みしめる。目が合ったイグナーツは、穏やかな瞳で見つめ返してきた。
(あのときと同じだ――)
母アニサがルチアを遺して旅立ったとき、同じ表情をしたイグナーツがただ黙ってそばにいてくれた。
同情するでもなく、憐れむでもなく。その中立で不思議な距離感が、どこか心地よく感じられたことをルチアは思い出した。
イグナーツはまるで、自分とは無関係の世界にいる住人のようだ。
そんな現実味を帯びない感覚が、きつく閉じたルチアの心をほんの少しだけ解かせる。
「カイが……いないんです」
ほかに言いようもなくて、ただ同じ言葉を繰り返した。
ルチアの頭に手を乗せたまま、イグナーツがわずかに顔を覗き込んでくる。
「気配、は感じますか?」
「気配……?」
「ええ、カイの気配です。小さくても、微かでも。彼の気配を、感じることはできますか?」
小首をかしげ、ルチアは告げられた意味を自分なりにかみ砕こうとした。
しばらく考え込んだのち、カイを探してまぶたを閉じる。
「感じる……感じます。遠いけど、カイはちゃんとどこかにいます」
イグナーツが言うように、今もカイはこの世界に存在している。
根拠などなかったが、誰に何と言われようとルチアには確かにそれが感じ取れた。
「そうですか」
イグナーツは柔らかく微笑んだ。
安心できるまなざしに、ゆるゆるとルチアの心が動き出す。
同時に自分を取り戻したかのように、金色の瞳に強い光が宿っていった。
「イグナーツ様。わたし、カイに会いたい」
「では、探しに行きますか?」
「いいの!?」
思いもよらない返答に、驚いて目を見開いた。
見つめ合ったイグナーツは、しかし冗談を言っているようには思えない。
「その代わり、まずは平気なふり、をしてください」
「平気なふり?」
「嘘でもいいです。今のルチアのままでは、周りが心配して止めてくるでしょうから。どうです? できますか?」
「そうすればここから出られるの?」
「ええ、父親の権限で、ルチアを自由にしてあげられますよ」
意味が分からず小首をかしげる。
そんなルチアを見て、イグナーツは愉快そうに目を細めた。
「聞いていませんか? ルチアはラウエンシュタイン家の養子、ボクの娘になったのですよ。ベッティも一緒にね」
「ラウエンシュタイン……? 公爵家の?」
「はい。だから貴女とボクは、もう親子ということです」
「……ブルーメ家のお義父様は? どうなっちゃうの?」
「ルチアはインゴ殿の方がよかったですか? それなら、ブルーメ子爵家に戻る手筈も整えられますが……」
思案するように問われ、はっとする。
イグナーツの膝に手を掛けて、慌ててルチアは身を乗り出した。
「だ、駄目! それだとカイを探しに行けなくなっちゃう!」
「ではこのまま、ラウエンシュタイン家に籍を、置く形でいいですか?」
勢いよく首を縦に振った。
雪深いブルーメ領は王都から遥か遠い地にある。子爵家に戻ったら、屋敷から抜け出すことさえも難しくなるだろう。
それにあそこにいては、いずれ望まない誰かに嫁がされてしまう。貴族令嬢である以上、それは避けられない現実だ。
「イグナーツ様も……わたしを無理に結婚させる?」
「しませんよ、そんなこと」
「本当に?」
「ええ。ルチアの望まないことはしないと約束します」
「だったらわたしが望むことは? ひとりで王都の下町に行って、こんがり亭に寄って、カイの家まで行って来てもいい?」
「そうですね……」
考えるそぶりに不安が募る。
懇願する思いで見上げるルチアに、イグナーツはいたずらな笑みを返してきた。
「ひとりでは少々危ないですね。ですから、そこは誰か人をつけましょう。ルチアの身に危険が及ばない限り、邪魔はしないよう、言っておきますから」
「じゃあ、わたしが思った場所に自由に出かけてもいいのね!」
「もちろんです。ですがその前に、ちゃんと食べてしっかり寝て、体調を整えることが必要ですよ?」
「分かったわ! わたししっかり食べるし、朝起きて夜になったらお布団に入る。カイがいなくっても平気なふりもちゃんとする!」
早口でまくし立てる。
そんなルチアを落ち着かせるように、イグナーツはやさしくぽんぽんと頭をたたいた。
「どのみち、この城から王都に移動、しなくてはなりません。そうですね……こんがり亭に行くのなら、そこまではわたしと一緒に行きましょうか」
「イグナーツ様も一緒に……?」
「わたしもそろそろ、山へ出発しようと思っていたところでした。ようやく雪も、少なくなってきましたし」
「山……イグナーツ様は今も奥さんを探しているの?」
以前、カイに聞かされた話を思い出す。
イグナーツはいなくなった妻を、毎年山まで探しに行っているらしい。
「ええ。かれこれ十五年近くになるでしょうか」
どこか遠くを見やったイグナーツが、ルチアにはカイを求める自分の姿と重なって見えた。
「もしかして、イグナーツ様も奥さんの気配を感じているの?」
「はい、今も確かに。ボクは必ず、マルグリットを取り戻してみせます」
思いがけない同志の出現に、希望の光が射したように感じた。
それにイグナーツの元にいれば、心の赴くままにどこにだって自由に行けるようになる。
イグナーツは用心深かった母が唯一頼った人間だ。
そんな彼なら信じられる。ルチアはそう確信を抱いた。
頭をなでてくる手がとても心地良い。ずっと張り詰めていたものが解かれて、安心感からか急激に眠気に襲われた。
飼い主に甘える子犬のように、うとうとと顔を寄せていく。
そのままイグナーツの膝に頭を預け、ルチアは深い微睡みに沈んでいった。
◇
空の寝台を見て、ベッティは難しい顔になった。
煎じた薬草に対し、ルチアの体に耐性ができ始めているのかもしれない。
「だとしたら厄介ですねぇ。うぅむぅ、これ以上量を増やすのは危険ですしぃ……」
しわの寄ったリネンに手を当てて、残された温もりを確かめる。ルチアが抜け出してから、そう時間は経っていないようだ。
廊下に出て、薄暗い中で屈みこんだ。敷かれた絨毯を注意深く眺め、僅かな毛羽立ちからルチアの進んだ先を判断する。
慎重に足跡を辿っていくと、ほどなくして扉が開いている部屋に辿り着いた。
気配を殺し、そうっと中を窺った。目に飛び込んできたのは、イグナーツの股の間に顔をうずめているルチアの後ろ姿だ。
あまりにも驚いて、ベッティはいきなり室内に駆け込んだ。
「ルチア様ぁ、一体何をぉ!」
強引にイグナーツから引きはがす。
腕にもたれ掛かってきたルチアは、すやすやと寝息を立てていた。
「随分と、賑やかな夜ですね。ベッティも怖い夢でも、見ましたか?」
「……なんなんですかぁ、その気持ちの悪いしゃべり方はぁ?」
無遠慮に胡乱な目を向けた。
ベッティの知るイグナーツは、いつだって粗野で下品な下町口調だ。
「オレも貴族のはしくれだからよ。まぁ、状況に応じてってやつだ」
軽薄な笑みを浮かべ、イグナーツはあっさりと擬態を解いた。
それを見て安堵するというのもおかしな話だが、こちらの方がよほど見慣れたイグナーツだ。
腕の中で身じろいだルチアを、倒れないように抱え直す。乱れた様子のない着衣を確認し、改めてベッティはほっと息をついた。
しかし上質なシルクの夜着を着たルチアは、体のラインがくっきりと見えてしまっている。
(いくらイグナーツ様でもぉ、リーゼロッテ様と同じ年頃の女には手は出さないですよねぇ……)
しかもルチアはイグナーツの養女となった。
そう思いつつも、つい疑いの眼差しを向けてしまう。
この男の女ったらしっぷりは嫌というほど目にしてきた。そんなベッティにしてみれば、当然の反応と言えるだろう。
隠すようにルチアをさらに遠ざけて、イグナーツをぎりっと睨みつけた。
「まさかとは思いますけどぉ、ルチア様に変な気を起こしたりしてませんよねぇ?」
「へっ、さすがにカイのモンにゃ手は出さねぇよ」
敵意丸出しのベッティに、イグナーツはへらっと笑い返した。
理由はソコなのかと嫌悪感がますます募る。
カイに女遊びを教え込んだイグナーツに対して、いまだ恨みを抱いているベッティだ。
「にしてもちょうどよかったぜ。運ぼうにもルチアの部屋がどこか分からなくてよ」
「それはそれはお手数をおかけしましたぁ。ルチア様は今すぐ連れて帰りますのでどうぞご安心……あっ」
言い終わる前に、慣れた手つきでイグナーツがルチアを抱え上げた。
不覚にも奪われたルチアを、ベッティはすぐさま取り戻そうとした。
「やめてくださいましぃ、わたしが背負ってお運びしますからぁ」
「何、遠慮すんな。起こすのも可哀そうだろ? このままオレが運んでやるよ」
「遠慮なんてこれっぽっちもしてませんよぅ。ルチア様から今すぐその汚い手を離しやがれって言ってるんですぅ」
これまでたまりにたまった鬱憤を、ここぞとばかりに吐き出した。
ベッティもイグナーツと養子縁組した身。このくらいの暴言は笑って許されるというものだ。
「おっ、なんだ、ベッティ。もしかして反抗期か? いい感じで父娘感が出てんじゃね?」
「ぐふぅっ」
しかしイグナーツはノーダメージだ。
それどころかこの状況を心から楽しんでいる様子に見える。
「うう、坊ちゃまぁ。やっぱりこの状況はあんまりですよぅ」
「ま、そう言うなって。せっかく父娘になったんだ。これからも面白おかしくやっていこうぜ?」
全力で遠慮したいところだが、嫁にでも行かない限りこの男と縁切りすることはできないだろう。
ルチアを抱えさっさと部屋を出たイグナーツを、仕方なくベッティは追いかけた。
部屋まで先導する道のりで、何か良さげな言葉はないかと思案した。こうなっては、少しでもイグナーツにダメージを食らわせなければ気が済まない。
「だけど信じられませんよねぇ。あんなにも品行方正なリーゼロッテ様がぁ、よもやイグナーツ様の血を引いてるだなんてぇ」
愛娘であるリーゼロッテに対してだけは、さすがのこの男も多大な負い目を感じているに違いない。
最大の急所を見つけ、ベッティは暗がりの廊下でほくそ笑んだ。
「へっ、違いねぇ」
当ては大外れし、心底可笑しそうに返される。
(こんっのクズ男がぁ……!)
地団駄を踏みたい気持ちをどうにかこらえ、屈辱の中、ベッティは胸にリベンジを誓ったのだった。
◇
イグナーツとともに朝食を済ませ、一度部屋へ戻ろうとしたときのことだ。
いつもなら午前中はひとりでまったりと過ごしているが、珍しくリーゼロッテはイグナーツに呼び止められた。
「ロッテ、このあといいか? どうしてもロッテに会いてぇってヤツがいてよ」
「わたくしに? ええ、それはもちろんですわ」
時間は有り余るほどある。
ふたつ返事でイグナーツについて行くと、入ったことのない部屋に通された。
(ここは父様の執務室かしら……?)
ペン立てに刺さった羽根ペンは随分と使い込まれている。
だが立派な文机の上には、さほど書類は置かれていなかった。常に山積みの書類に埋もれているジークヴァルトとは大違いだ。
物珍しげに部屋を見回していると、イグナーツが突然空中に向けて話しかけた。
「さぁ、あなたのご要望通り、ロッテを連れてきましたよ」
その言葉にリーゼロッテはさっと居住まいを正した。
イグナーツが貴族仕様ということは、会いたいと言っているのはそれなりの立場の人間なのかもしれない。
しかしどこをどう見ても、今この場にいるのはイグナーツとリーゼロッテだけだった。
(え、なに、まさかわたしには視えないナニかがいたりとかしないわよね……?)
動揺に潤む瞳で部屋の中を見回した。
異形の者にはすっかり慣れたつもりでいたが、これ以上ホラーな展開は御免こうむりたい。
「あの……イグナーツ父様?」
内心冷や汗を流しつつ、遠慮がちに声をかけてみる。
そこに御座すは幽霊か、透明人間か、はたまた裸の王様か。だがいくら見回せど、やはりそれらしき人物はどこにも見当たらない。
「何を恥ずかしがっているのですか? 隠れてないで、早く出てきてください」
リーゼロッテの葛藤を余所に、イグナーツは再び見えない誰かに声をかけた。
隠れていると聞いて、リーゼロッテはなんとなく上飾りが豪華なカーテンに目をやった。
それでも厚手のカーテンは微動だにせず、その裏側にも人影は見いだせない。
視線を戻そうとして、リーゼロッテは驚きで身を強張らせた。すぐそこの足元に、何やら黒い塊がこんもりと鎮座している。
(い、いつの間にっ)
声を出さなかったのは、ロッテンマイヤーさんの厳しい指導の賜物だ。
『淑女たるもの如何なる時も動揺を表に出してはなりません』
この教えは、もはやリーゼロッテにDNAレベルで刻み込まれていた。
「ようやく出てきたと思ったら……黙っていないで、何か言ったらどうなんです?」
平静を保ったままイグナーツが問いかける。すると黒い塊は、さらに縮こまるように身じろいだ。
よくよく見ると、その塊は真っ黒い服を着たお団子ヘアの女性だった。片膝をつき、リーゼロッテに対して床に頭がつかんばかりに平伏している。
一向に動こうとしない女性を前に、何か得心がいったようにイグナーツは小さく肩をすくめた。
「ああ……そういうことですか。すみませんが、リーゼロッテ。彼女に発言の許可をしてあげてください」
やれやれといった感じの口調で言われるも、相手の立場が良く分からない。
身なりからして貴族ではなさそうだが、戸惑いの中リーゼロッテは女性に向かって声をかけた。
「遠慮せず、どうぞお話しになって」
「ありがたきお言葉を賜りまして、恐悦至極に存じます」
さらに深々と頭を下げられる。
そのままいったら、ぐるんとでんぐり返ってしまいそうな勢いだ。
「あの、そのようにしなくても。どうかお顔を上げてくださいませ」
そこまで言って、ようやく女性は上半身を起こした。
「リーゼロッテ様……お久しぶりでございます」
片膝をついたまま、見上げてくる女性は全くの無表情だ。
と言ってもジークヴァルトとはまた違ったタイプで、感情のないアンドロイドのような印象を与えてくる。
(どうしよう……会った覚えがまったくないわ)
こんな特徴的な顔立ちなら、一度会えば記憶に残りそうなものだ。
ということは、家令のルルと同様に幼い時分の知り合いなのだろう。
「こうして再びご挨拶できましたこと、心からうれしく思います」
そう言って、女性は先ほど以上に深々と頭を下げた。
ここまで畏まれると、却ってこちらが恐縮してしまう。
「そんなふうに言ってもらえて、わたくしもうれしいですわ。ですからもうお立ちになって?」
手を引いて女性を立ち上がらせた。
細身の彼女はこの国では見かけない変わったパンツスタイルだ。
黒装束を思わせるその服はベトナムの民族衣装アオザイのようなデザインをしている。
長身の彼女と目が合って柔らかく微笑み返した。社交界で淑女の鑑ともてはやされる、いわゆるリーゼロッテスマイルだ。
「リーゼロッテ様……本当にお美しくお育ちになられて……」
「えっ、あのっ」
黒装束の女性は静かにほろほろと涙を流していた。
しかしその表情筋は、何ひとつ仕事を果たしていない。
「マルグリット様もきっとお喜びになられることでしょう」
リーゼロッテに手を取られたまま、女性は再び頭を下げた。
俯いた頬から、透明な雫がいくつもいくつも滑り落ちていく。
(……このひとはきっと、古くからマルグリット母様に仕えていたのね)
それなのに彼女の名前すら憶えていない。
そんな自分にリーゼロッテは後ろめたさを感じてしまった。
「彼女はラウエンシュタイン家の使用人です。主にボクたちを、陰で支える働きをしてくれます」
「陰で……?」
イグナーツのフォローに、リーゼロッテはこてんと首を傾けた。
(なんだか忍びの者みたいね。さっきも気配なくいきなり現れたし……)
真っ黒な出で立ちからしても、確かに忍者のような雰囲気だ。
「しかし貴女がそんなふうに泣くとは驚きでした」
「わたしとしたことが……お見苦しく取り乱してしまい、誠に申し訳ございませんでした」
「いいえ、見苦しいだなんてそんなこと……」
距離を置き、礼を取ろうとするのを慌てて止める。
取り乱すと言うには、彼女の涙はあまりにも静かで綺麗に思えた。
今でも母を大事に思ってくれている。それがひしひしと伝わってくる、嘘偽りのないそんな涙だった。
「リーゼロッテ様は昔と変わらず、本当に、本当に、おやさしいまま大人になられて……」
「そうでしょう? 本当にロッテは、驚くほど昔のまんまです」
無表情なのに感極まっている様子の女性の横で、イグナーツがうんうんと頷いた。
ふたりの言葉にリーゼロッテは困り顔を返すしかなかった。
まるで子供のまま成長がないと言われている気がしてきてしまう。
「さぁ、どうです? これで気は済みましたか?」
「はい、わたしは十分すぎるほど。ですが……」
イグナーツの問いかけに、女性は遠慮がちな視線をリーゼロッテに向けてくる。
「あと少しだけ、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんよ」
快く頷いた。
なんならリーゼロッテの覚えていない昔話を、たくさん聞かせてもらいたいくらいだ。
「寛大なお言葉、心より感謝いたします。わたしの不肖の弟が、リーゼロッテ様にどうしても謝りたいと申しておりまして……」
「弟さんが?」
予想外の言葉に頭をひねる。それに会ったところで、その彼と面識があるとは思えない。
もし仮に、過去に謝罪が必要な出来事があったとしても、リーゼロッテはやはり何も覚えていないだろう。
「弟よ、お許しをいただいた」
「ありがたき幸せ」
そのとき天井からしゅたっと黒い塊が降ってきた。
今度は黒装束の男がリーゼロッテの足元で跪いている。
(ふお! び、びっくりしたっ)
本当にまんま忍びの者だ。
リーゼロッテスマイルを保てた自分を、スタンディングオベーションで褒め称えてもらいたい気分だ。
「リーゼロッテ様! その節は何もお力になれず、誠に申し訳ございませんでしたっ。任務遂行中だったとはいえ、心から、心からお詫び申し上げます!!」
床にめり込む勢いで、黒装束の男はリーゼロッテの前で平伏した。
困惑の中、首をかしげるしかない。何をどう考えても、そこまでの土下座をされる覚えはまったくなかった。
「あの……悪いのだけれど、わたくし子供のころのことはあまり良く覚えていなくって……」
「いいえ! つい一年ほど前の話ですっ」
「い、一年前!?」
だとしたら覚えていないのは失礼過ぎる。
しかし考えてみたら、男はいまだに下を向いたままだった。
(顔を見たら思い出せるかも……?)
一縷の望みをかけ、とりあえず立つようにと促した。
音もなく立ち上がった黒装束弟は、直立不動で見つめてくる。淑女の笑みを返しつつ、その裏でリーゼロッテの背中には嫌な汗がひと筋伝っていた。
(うっ、やっぱり見覚えないし!)
無言のまま黒装束弟は、謝罪後の処遇をじっと待っている。
しかし記憶にない案件に対して、許すと言うのも違う気がした。
(こう真摯な眼差しを向けられちゃったら、こっちも誠実に対応すべきよね)
一瞬どうしようか迷ったが、ここは正直に伝えるしかないだろう。
「ごめんなさい、やっぱりわたくし記憶にないみたいで……」
「お忘れになられたなどと! こんなにも愚かなわたしめに、そのようなやさしいお言葉をっ」
それなのに、黒装束弟は前のめりでカッと目を見開いた。
同時に黒装束姉が、無表情のまま弟の背を押し出してくる。
「リーゼロッテ様、どうぞご遠慮なさらず。この不肖弟などに情けは不要でございます」
「姉者の申す通り! どうぞ存分に罰をお与えください!」
「だ、だけどわたくし本当に……」
そう言われても、心当たりがまったくないのだ。
(こうなったら形だけでも許すって伝えるべき……?)
だがリーゼロッテにしてみれば、演技でも居丈高な態度を取ることにモヤってしまう。
こちらが知らないと言っているのだから、このまま有耶無耶に流してほしいものだ。
答えが出せないまま、リーゼロッテはしばし黒装束弟と見つめ合った。
(にしても、やけに圧が高いわね)
目力と言うべきか、なんだか無駄に睨まれているような気がしてならない。
本気で謝ろうとしているのは確かなのだろうが、なぜだか蔑を感じてしまって、こっちがいたたまれない気持ちになってくる。
(ん? この視線……どこかで覚えがあるようなないような?)
浮上した既視感を確かめるために、リーゼロッテも負けじと目力を込めてみた。
そのままじっと見つめていたら、しびれを切らした弟がオーバーアクションで両腕を高く持ち上げた。
「ならばっ、こうすれば覚えがございましょう!」
胸の前で印を結んだかと思うと、黒装束の全身が疾風に包まれる。
次の瞬間、弟は白い長衣に様変わりしていた。しかも目出しの穴がついた怪しげな白い頭巾を被っている。
リーゼロッテは絶句した。
紛れもなくその姿は、攫われた神殿で見張りをしていた神官そっくりだったからだ。
(そうよ! この視線はあのときの――)
聖女にメロメロになっていたオスカーではなく、我が儘ばかり言うリーゼロッテを蔑むように見ていた神官の方だ。
鍵のかけられた扉ののぞき穴から、この視線にいつも冷たく見張られていた。おしゃべりなオスカーとは違い、あの神官が口を開くことは一切なかった。
「リーゼロッテ様が囚われていると分かっていながら、何もできずにいたことをどうか、どうかお許しください……!」
頭巾をはぎ取り、弟は再び床に伏して深く首を垂れた。
思えば蔑み神官は、途中からリーゼロッテの見張り役を完全に放棄していた。
そのおかげで気兼ねなくベッティと話せたし、ベッティが持ってきてくれた食べ物を口にすることも容易になった。
「そう……あれはあなただったの……」
「誠に申し訳ございませんっ」
額を床に擦り付ける弟の手を取って、そっと顔を上げさせる。
膝をついたリーゼロッテは、同じ目線で緑の瞳を潤ませた。
「ありがとう……あのときあなたが見張りの手を抜いてくれたから、わたくしは今こうしてここにいられるのね」
でなかったらリーゼロッテは、高確率であの場で餓死していたに違いない。
「そ、そんな、恐れ多い!」
「いいえ、あなたはわたくしの命の恩人だわ。本当にありがとう」
ぎゅっと握る手に力を籠めると、弟の唇がはわわと戦慄いた。
かと思うと、その姿が目の前から一瞬で掻き消える。気づけばもう、弟は部屋の隅っこで片膝をついていた。
「もうそのくらいでいいでしょう? さぁ、ロッテも」
「ありがとうございます、父様」
イグナーツに手を取られて立ち上がる。
いつの間にか黒装束に戻ったふたりが、仲良く並んでリーゼロッテを見上げていた。
(忍びの者が主の前で控えているような光景ね)
そんなことを思いながら、彼らの近くまで歩み寄った。
「ね、あなたたちの名前を教えてもらえない? その、ごめんなさい。わたくし昔のことを本当に何も覚えていなくって……」
正直に告げてみたが、ふたりは顔を見合わせた。
主従関係にあるとはいえ、名前すら忘れたと言われたらやはりいい気分はしないのだろう。
申し訳のなさでしゅんと俯いていると、姉が静かな口調で首を振った。
「わたしどもに名はございません」
「え? どうして?」
「姉者もわたしも、ラウエンシュタイン家の陰の存在――」
「ですので、わたしどもに名は不要なのでございます」
「そんな……」
あまりにも理不尽に思えて、リーゼロッテは泣きそうになった。
だのに黒装束姉弟は、当たり前にそれを受け入れてしまっている。
「だ、だったらせめてコードネームでも」
咄嗟に出た言葉がそれだった。
(やだっ、愛称って言うべきだった!? まったくもう、秘密結社じゃないんだから!)
忍者が頭から離れなくて、ついそんなワードを口にしてしまった。
脳内で自分に突っ込むも、一度口にしてしまったことは取り消せるはずもない。
「あ、あの、そうじゃなくて、呼び名がないと何かと不便でしょう?」
「それだったら、ロッテがつけてあげたらどうですか?」
「わ、わたくしが?」
「ええ、ふたりに何か良い名前を」
どこか笑いを含んだイグナーツの言葉に、リーゼロッテは真剣にならずにはいられなかった。
名は体を現すのだ。適当につけたりしたら、あまりにもふたりが可哀そうだ。
(いっそのこと本人たちに決めてもらおうかしら)
自分が言い出したこととはいえ責任重大過ぎる。
これからずっとその名で呼ばれることになるのだと思うと、決めるプレッシャーも半端なく思えた。
「ふたりとも、呼ばれたい名前だとか何か希望はあるかし……」
「ぜひともリーゼロッテ様がお決めくださいっ」
「わたしもリーゼロッテ様に決めていただきたいです」
かぶせ気味に即答される。
「ま、待って。そんな急に言われても」
「いいじゃないですか、ロッテ。早く決めてあげてください」
「で、ですが父様」
「大丈夫ですよ。ふたりはどんなものでもよろこびますから」
「そうです、お気軽につけてくださって構いません」
「そうですとも! どうぞご随意にっ」
三人から同時に迫られて、余計に焦りが強くなる。
高速で頭をフル回転させてみるが、何ひとつ良い名前は思い浮かんでこなかった。
「わたしどもは本当に何でも構いません」
「思いつくまま、どうぞお気兼ねなく!」
忠犬のごとく待てをする姿は、まさに主に仕える忍者といった佇まいだ。
(ふたりとも主の言うことには絶対服従って感じね。なんだかちゃっぴぃ♡とらっきぃ☆ってつけても素直に受け入れちゃいそうだわ)
しかしペットでもあるまいに、そんな名をつけるわけにはいかないだろう。
慌てて頭からちゃっぴぃ♡らっきぃ☆を追い払い、改めて黒装束姉弟の顔を交互に見やった。
(ええっと、名前、名前でしょ……名前、名まえ、なまえ、ナマエ……)
いたずらに名前の文字だけがグルグル回って、脳内でゲシュタルト崩壊しそうになってくる。
(こ、こうなったら連想ゲームでそれっぽいものを決めてみようかしら)
この際、愛称でもなんでいい。
とにかくふたりに合った素敵な名前を探さなくては。
(黒装束の姉に弟……ふたりとも見た目はやっぱり忍者なのよね。忍者、ニンニン、忍びでござる。忍びといったらハッ〇リ君? せやかて工藤、服部は苗字や! そ、そうじゃなくて、リーゼロッテ、忍者よ、忍者。もっとほらあるでしょう? 忍〇まとかN〇RUTOとか……っていうか別に忍者じゃなくってもいいじゃない! どうしよう、本当になんにも思いつかないしっ)
真面目に考えようとしているのに、ひとりツッコミの暴走が止まらない。
その間にも、ふたりはじっとこちらを見上げている。
もったいぶらずに早く教えてほしい。そんな見えないプレッシャーに、リーゼロッテの精神はギリギリまで追い詰められていく。
「あ、あなたたちの名は……」
「「名は?」」
「その、そうよ、あれよ、あれ」
「「あれ?」」
圧マシマシでいちいちハモられる。
蔑み視線な弟と、感情皆無な瞳の姉が、食い入るように返答を待っている。
なんとも種類の違った見えない圧に、リーゼロッテは必要以上にたじろいだ。
早く決めなくてはと思うほど、テンパり過ぎてますます頭が真っ白になってくる。
パニック状態のまま、姉、弟、姉、弟、姉、弟、姉、弟とリーゼロッテの瞳が忙しなく行ったり来たりを繰り返した。
「あなたたちは、あ、あ、あ、あ、あ」
いよいよ思考停止に陥って、リーゼロッテは姉と弟を順にビシビシぃっと指さした。
「アネとオトートよ!!」
声高らかな宣言に、場が沈黙に包まれる。
「アネ……」
「オトート……」
呆然とした表情で、同時にふたりがぽつりと漏らした。
我に返ったリーゼロッテは、はっとして慌てふためいた。いくら何でも安直過ぎる。いや、ネーミングセンス以前の問題だ。
「ち、違うの。今のは無かったことに……」
「それでこそリーゼロッテだ!」
いきなりイグナーツが大声を立てて笑い出した。貴族仕様をかなぐり捨てて、ゲラゲラと腹を抱え身悶えている。
その姿にぽかんとなったあと、リーゼロッテの瞳が羞恥でみるみる潤み出す。
(そ、そんなに笑わなくたって……!)
涙目で唇を噛みしめる。
ふと見やると、黒装束のふたりもうっすら涙目になっていた。
「ご、ごめんなさい、今もっといい名前を考え直すから!」
「いいえ。再び素晴らしい名をいただきました。わたしはこれからまた、アネとして生きていきます」
「わたしもです。再びオトートと名乗れること、本当にうれしく思います」
「え、また? 再び……?」
訳が分からず聞き返すと、目を赤くしたままふたりは同時に頷いた。
その横でイグナーツもまた涙目になっている。もっとも、こちらは笑い過ぎが原因だ。
「やべー、可笑しすぎてつい素が出ちまった」
目尻の涙を拭ったイグナーツは、すぐさまキリリと貴族仕様の顔つきに戻った。
しかしその口元は、未だ堪えきれない笑いを微妙にふすりと漏らしている。
「やっぱりリーゼロッテは、何も覚えていないのですね。ロッテがまだ小さいときに、三人でまったく同じやりとりをしていましたよ?」
「同じやりとり……って、今と同じやり取りをですか?」
意味不明過ぎて、よく分からない聞き方になってしまう。
「ええ、あのときロッテは、同じようにふたりの名付けを頼まれて、やっぱり同じように、ふたりに今と同じ名前を付けてあげたんですよ」
同じ同じと連呼され、リーゼロッテは思わず眉根を寄せた。
いまいち理解が追い付かなくて、聞き返さずにはいられなかった。
「子供のころにわたくしが?」
「はい」
「先ほどとまったく同じやり取りをして?」
「ええ」
「そのときもふたりにアネとオトートと名付けたと? 父様はそうおっしゃっているのですか?」
「その通りです」
そんな馬鹿なとふたりを見やる。
真偽を確かめるリーゼロッテに、アネとオトートは感慨深げに頷いた。
「だ、だったら始めからアネとオトートって名乗ってくれたって」
「申し訳ございません。ですが、リーゼロッテ様がお忘れになられたのであれば」
「我らもそれに従うのみです」
深々と頭を下げられて、それ以上言葉が出てこない。
陰に徹するふたりの矜持に、ツッコミを入れることなどリーゼロッテにはできなかった。
(それにしたって、思考回路が子供のころとまったく変わっていないだなんて……!)
体型だけでなく、精神年齢までも成長が見られないとは。
自分のことながら、涙目にならずにいられない。
そんなリーゼロッテに向けて、オトートとアネが同じタイミングで頭を下げた。
「リーゼロッテ様の貴重なお時間をいただき」
「誠にありがとうございました」
「さぁ、今度こそ気は済んだでしょう? だったらもう下がってください」
「はっ」
「仰せのままに」
言うが早いか、ふたりはふっとその場から掻き消えた。
(さ、さすがは忍者……!)
見回しても気配すら感じ取れない。
ふたりきりに戻った部屋で、イグナーツは大仰に息をついた。
「ああ、やっと素が出せるぜ」
「父様はどうしてふたりの前であのような言葉使いを……?」
疑問に思って問いかける。
使用人に対してだったら、別に口調を改めずとも何も問題はないはずだ。
「あいつら、そうしないと返事すらまともに返さねぇんだよ。ま、ちゃんとしてねぇと、マルグリットの伴侶として認めねぇってこったろうな」
「まぁ、そういうことでしたの」
アネとオトートは、母マルグリットに対して本当に忠義を尽くしているのだろう。
そう思うと、なんだか胸に熱いものがこみ上げてくる。
「そうだ、ロッテ。近々オレは山へ向かう。行きがてら、ついでにルチアを王都に連れて行くことになった。ロッテもついて来るか?」
「王都に? ええ、わたくしも一緒に行きたいですわ!」
「ならぼちぼち準備しとけ」
「はい、すぐにでも!」
前のめりで返事をしたものの、これはジークヴァルトに黙っていていい案件ではない。
一刻も早く手紙を送っておかないと、行き違いで返事を受け取れないかもしれなかった。
「わたくし、ジークヴァルト様に急いで文をしたためてまいりますわ!」
挨拶もそこそこに、リーゼロッテは部屋を飛び出した。
この城に来てからというもの、時が止まったかのような静かな日々を繰り返していた。そこからの急展開に、心踊らさずにはいられない。
逸る気持ちを抑え、リーゼロッテは急ぎ自室へと向かったのだった。
【次回予告】
はーい、わたしリーゼロッテ。イグナーツ父様たちと王都へ向かうことになったわたし。ジークヴァルト様がいない状況で、なんとか異形対策をひねり出します。道中みんなに迷惑をかけないよう、とにかく頑張らないとですわ!
次回、7章第3話「雪解けの王都へ」 あわれなわたしに、チート、プリーズ!!




