54話
タイセイヲトトノエルゾ!
紅魔館前。そこにはレミリアの言うままに外に出たフランとパチュリーがいた。案の定門番は睡眠状態である。
「何でお姉様は私たちを外に出したのかなぁ…?」
不思議そうに首をかしげるフラン。
「まあ…、レミィの言うことですからね。気まぐれってこともあるかもしれませんよ?」
「お迎えとか言ってたんだよなぁ…」
「咲夜なら喜ぶかもしれませんな」
もし、咲夜が帰宅時にフランが出迎えてくれたならば彼女は泣いて喜ぶだろう。その姿が容易に思い浮かぶパチュリーは無意識に呆れたようなため息をついていた。一方そんなことを考えるはずのないフランは空に光る星を指で辿っていた。
「パチュリー!見て見て!」
星を指しながら嬉しそうに飛び跳ねる。フランの指さす方向には星がただ輝くばかり。
「あれとー、これ。で、そっちとこっちを繋ぐとね、お魚!」
身振り手振りで空の星を繋いで遊んでいた。少々ぎこちない形ではあったが、確かに星を線でつなぐと魚に見えないこともなかった。
「魚座ですかぁ…。知ってますか?魚座と言った本物ってわけでもないですけど魚の星座があるのですよ?」
「えー」
残念そうに顔をしかめる。が、再び空を見上げひたすらに星と星とを指でつないでいた。
***
「お嬢様、次は何を?」
「そうね…。咲夜"達"を労うためにも多めに食事でも作りましょうか?」
「…"達"…?」
複数形の言葉に思い当たらず、ふと考える小悪魔二人。
「まったく…霊夢に魔理沙――――――それと"おみやげ"よ」
嬉しそうにほほ笑むレミリアの表情に"?"が頭の上に浮かぶ。理解ができないまま、小悪魔たちはキッチンに並んだ。
「…霊夢さんって何が好きなんでしょうね?」
「好き嫌いとかなさそうな性格よね…」
行き当たりばったりの計画に頭を抱えるこあとレミリア。が、ここあは黙々と料理の支度を進めていた。
「なにやってるんだ?ここあ?」
「ふと思いついたんだけどね、異変を解決したとはいえまだ外には雪が積もってるじゃない?…ですし」
レミリアにも話を振ろうと敬語に変えたここあ、だったが。
「お寿司!…ごめん、ここあ許して、お願い…許して!!」
ふざけたこあによって話が遮られてしまったのであった。無論、その後のこあはいわゆる「いいやつだったよ」的な扱い――――にはならないのだが、ショボンとしょげた状態が続くのであった。
「…と、気を取り直して。まだ寒いですし、お鍋でも皆で囲みませんか?」
ピタリ、とその場の空気が止まった。困ったようにオロオロし始めたここあにレミリアは飛びついた。
「――流石よ、ここあ!」
「ふぇ?」
突然のことに、こあの理解が再び追いつくことができず展開が進む。一方ここあを取り残して、こあとレミリアのテンションはうなぎのぼりの如く、「最高にハイってやつだ」と表せばいいのだろうか?…、と張り切ったようにレミリアは袖を捲った。
「さ!作るものも決まったし、さっさと作るわよ!急がないともう少ししたら帰ってきちゃうわ!」
「あいあいさー!!」
「あ、あいあいさー?」
***
一方その頃。自機組一行と"おみやげ"は霧の湖付近をのんびりと歩いていた。
「もうすぐ着くけど、心の準備はいかがかしら?」
と、嬉しそうに夕月の顔を覗き込む咲夜。
「まあ…、故郷に帰る息子の気持ちですかね?」
冗談交じりでそう答えた。ふと、夕月は空に星が瞬いていることに気づいた。いつか見たような光景、そう…。
「嗚呼…、星が綺麗だ」
外の人間が忘れてしまったのかもしれないと、不遇を感じたあの取材の日に見た夜空とまるっきり同じだったのだ。
「お前、射命丸にもおんなじこと言ってたなぁ」
「外の世界じゃ、こんな綺麗に星は映らないんだよ」
「へえ…」
夕月の顔を見つめる魔理沙。空を静かに見つめる夕月の顔はいったいどのように映ったのかは、彼女だけが知っていた。
「さてと…そろそろ門の前につく頃じゃないかしら?」
背伸びをしながら霊夢はこう呟いた。確かにそろそろ紅魔館につく頃である。視界にはとうに紅魔館が映っていたのだが、意外にも誰もそのことには触れていなかったのだ。
「…あれがパンでー、あれが…うーんなんだろう…?」
聞きなれた高い声が一行の耳へと届いた。あるものは嬉々とした表情を浮かべ、またとあるものは安堵の表情を浮かべた。そして視界に入った声の正体は茫然と一行のことを眺め、
「…おがえり!」
笑顔で泣きながらフランは彼の元へと駆け寄った。
「ああ…ただいま」
忙しくて剥げそうです




