52話
「春ですよー!」が書きたい
自機組の少女たちとの戦闘はあちらこちらに弾幕を散らしながらも戦況は相変わらず、進むことなく退くこともなく。変わらぬ状況が続いていた。
一方は弾幕を放ち、一方は弾幕を防ぎ続ける。終わりの見えない攻防の中で着実に両者の体力は擦り減っていった。
「…っ」
疲れからか拾いきれない弾幕が腕を掠った。若干の痛みが腕から体へと走り、最終的には脳へと痛みと恐怖が伝わり――――。
「夕…さん…?」
顔色がだんだんと悪くなり、刀を持つ腕が小刻みに揺れていた。刃先で狙いを定めることができなくなっている、と妖夢は一目で気づいてしまった。彼、神崎夕月に何があったかを知らない妖夢は何故彼がここまで恐怖によって何かに対して怯えているのかさえ理解できていない。が、彼に声をかける間もなく次から次へと弾幕は彼らを襲い続ける。
「………!」
「当たった…!」
狙いの定まらない刀を振ったところで刀が獲物を捕らえられるはずがなかったのだ。撃ち落とし損じた弾幕の一部が神崎の体を襲った。痛みから顔を歪め、霊夢たちに気付かれないように小さく呻きながら呼吸を整える。弾幕が当たったことによる鈍い痛みから若干ではあるが意識が朦朧として来ている。視点の定まらない目と恐怖から震える体では彼女たちには到底かなわないだろう。
相反するように弾幕がヒットするようになった彼女たちは嬉々とした表情を浮かべる。ようやく勝利への希望が見えたのだ、その勝機を捨てないためにも次の攻撃はかなりの高い確率で畳みかけてくるはずなのだ。
「よし!私に任せろ!」
意気揚々と霊夢と咲夜の前に飛び出した魔理沙はミニ八卦炉を構えた。歪む視界にそれが移った瞬間、神崎は妖夢の前へ盾になるように飛び出した。
「ゆ、夕さん!?」
「いいから黙って俺の後ろに隠れてろ!!」
ピクリ、と咲夜が視線を外していた夕月へと視線を戻した。あえて言うとしたら違和感を感じた。何に違和感を感じたかを問われるとすぐには出てこないあたりが微妙なところではある、だが咲夜は夕――――否、夕月に違和感を感じたのだ。
しかし、時すでに遅しというべきだろうか。魔理沙の構えるミニ八卦炉は発射準備を終えていた。
「食らえ!恋符・マスタースパーク!!」
彼女のスペルカード宣言の言葉とともに巨大な光線が彼らを目指してかなりの速度で彼らを飲み込み、大きな爆発を起こした。砂埃があたりに立ち込め夕月たちはおろか、自らの姿さえ砂埃に隠れてしまっている。
「…魔理沙…あんたやり過ぎよ…」
「ゲホッ…、確かにそうかもしれないぜ…」
「で?確実に仕留めてくれたのよね?」
勝利した、と言わんばかりに彼女たちはいつもの調子で会話をしていた。そう、砂埃が晴れるまで。
「…く…っ」
砂埃の中から姿を現したのは傷だらけの夕月と何が起こったのか理解できない、と目を丸め驚く砂に汚れた妖夢の姿であった。刀を地にさし、それを支えとしてフラフラと立ち上がった夕月は妖夢に少しだけ微笑み頭の上に手を置き、力尽きたようにその場に倒れこんだ。
「…ゆ…夕…さん?お、起きてくださいよ…、ほら…幽々子様が中で待ってますよ…?西行妖を満開にしようと頑張ってますよ…?ね…え…聞いてますか…?」
両の目から止まることを知らぬかのように涙が溢れて視界を歪めている。そして涙を拭わぬまま、妖夢は刀を構え霊夢たちを睨みつけた。
「…よくも…よくも夕さんをっ!!」
意識を失ったままの夕月を半霊で引っ張るように白玉楼の中へと運ばせながら妖夢は色鮮やかな弾幕を彼女たちに向けて放った。
まるで何事もなかったかのような綺麗な服を翻しながら…。
ポテイト食べたい




