36話
えーきさまの登場です!
です!
季節は冬。
白く染まる博麗神社に珍しい客人が訪れた。
「博麗霊夢出てきてください」
静まる境内に響く女性の声。右手に笏を持つ少し濃いめの緑髪の少女はこの神社の巫女の名を呼んだ。
「誰かしら…って、映姫様じゃない。どうしたのかしら?お説教なら帰ってほしいのだけれど?」
「随分と堕落していたようですね…。そのことについても二三言いたいことができてしまったのですが…」
鬱陶しそうな視線で目の前の少女を見つめる霊夢。映姫は大きくため息をつき、続けようとした言葉を止めた。
「説教周りにばかり精を出してるからまな板なんじゃないかしら?」
「そ、それは関係ありません!そもそもあなたに言われる筋合いはないはずでしょう!」
拳を握り締め、怒りをアピールする映姫は見た目(一部を除き)とは相反するような幼稚な否定をした。
「で、話がないのなら帰ってもらいたいのだけれど?先客がいるのよ」
そういうと霊夢は神社ではなく、その隣の縁側を指をさした。そこにはお茶を啜る霧雨魔理沙と何処か気落ちしたように見受けられる射命丸文がいた。
「大丈夫です、ちゃんとした用事があってきました。というよりもあの二人にも少なからず関係する話ですし居ても問題はありません」
「なら、早く話してくれるかしら。私寒いのは嫌いなのよ」
「私だって嫌いです」
寒い癖に露出度の高い巫女服やミニスカートをはいているこの少女たちには若干の違和感のあるセリフだ。これこそまさにアイデンティティというものなのだろう。
「では、本題に入らせてもらいます。"神崎夕月"、覚えていますね?」
声の大きさを上げ、故人の名を上げる。ふと聞こえた【禁句】に背筋を震わせ、声の主を見つめる射命丸。先日の一件からどうも【禁句】に敏感になっているのは何故かをここにいる者は知らない、約一名を除いて。
「彼は確かに死にはしましたが、判決の末冥界行きが決まりました。即ち冥界に行ったその時より、彼の魂は再び幻想郷へ戻ってきました」
「それだけかしら?」
開き始めてきたのだろう、私には関係ないといったような口調で話を遮る。
「いえ、話はまだ続きます、ここからが本題です。博麗霊夢貴方に任を課します。神崎夕月を消していただきたいのです。例え人の姿をしていようとしてなかろうと、記憶があろうとなかろうと。彼の存在は幻想郷にとって危険だという私の考えのもとからのお願いです」
「―――っ!?」
「なっ!どういうことだぜっ!?」
遂に話には混ざっていなかったはずの二人までもが驚いたような反応をした。
「彼の魂を亡きものとして、博麗の巫女としての仕事を全うしてくれますか?」
「そうね。幻想郷の危険物質なら消さざるを得ないわね」
納得したように霊夢は肯定の言葉を述べた。その言葉を聞き、四季映姫は満足そうに口を歪めて笑った。
「おい霊夢!お前まさか本当にやるつもりなのか!?」
室内から飛び出し、怒りをあらわにして霊夢を掴む魔理沙。
「やめなさい霧雨魔理沙。貴方にはわからないでしょうがこれが博麗の巫女としての仕事です。そして彼女の答えも実に合理的かつ客観的に物事をとらえられています。さあ、博麗霊夢。神崎夕月を亡きものにしてきてください」
「………」
お祓い棒をゆっくりと持ち上げ、霊夢は止まった。
「?どうしましたか?早く行ってください」
「―――断るわ」
ただ、一言。されど一言。
その一言が四季映姫の表情を曇らせた。
「博麗霊夢。どういうことですか?」
「確かに、確かに博麗の巫女としては神崎を亡きものにするのが当然でしょうけどね」
言葉を区切り、一呼吸を置いた霊夢は映姫を睨み付け、
「だけどね、私の友達の大事な奴を殺すことなんてできると思うかしら?」
こう続けた。
「しかし彼にはこの幻想郷に多大なる害をもたらす可能性があるのですよ!?」
「その時はその時に考える。アンタは私の逆鱗の一部に触れたのよ?友達を不幸にしてまでアンタに従うつもりはないわよ」
***
「小野塚…小町…!」
「あら?光栄だね、アタイの名前を覚えててくれたのか?」
白玉楼にも珍しい客人が訪れていた。
紅い髪とその横に携える大きな鎌がトレードマークである、"夕"の記憶の中で出会った最初の人。
「いやもう一回会っちまったねえ?これこそ運命な出会いかな?」
冗談めいた微笑みで夕を見つめる小町。そして、視界が鎌で埋まった。
「悪いけど、もう一回死んでくれるかい?」
微笑みを崩さぬまま、彼女は鎌を振り上げ―――――――――。
最近、プロットと全く別の方向に話が進みつつあるんだが…。




