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東方陰影記  作者: 凛
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37話

大丈夫だ、問題ない

振り下ろされた鎌は夕の体に吸い込まれるように、目の前に落ちた。

「―――なんてね、冗談だよ」

「……」

夕は頬に流れていた冷や汗をぬぐった。彼女の眼は獲物を狩る獣の眼だった。おろした瞬間の笑みがいまだに汗の噴出を促している、ということが夕の恐怖心を掻き立てている。

「ったく、これじゃあまた映姫様に怒られちまうねえ」

「そ、そうなのか…」

「アタイはねえ、アンタを殺すように映姫様に命令されたんだけどね…。どうも殺す気にはなれないんだなあ、これが」

"映姫様"、という人物が夕を殺すように仕向けた。誰なのだろうか、と首をかしげる夕に小町は話を続ける。

「怖がらせて悪かったね。そもそも映姫様は何でアンタを殺すように命令したのかねえ?」

「…生前何かやらかしたんじゃないか?」

「ハハッ、それならとっくに地獄送りにされてるさ」

「なら、何をしたんだか…」


***


「まあ、いいでしょう。保険に小町を彼の元へ向かわせていますから」

「そう、なら今すぐ場所を教えなさい」

映姫は霊夢に要求を断られたことを予想していたらしく、小町を彼の元へ向かわせたらしい。

「何故あなたに教えなければいけないんですか?彼を助けることは博麗の巫女の仕事ではないはずです。貴方も以前そう発言したはずですが」

「何でも知ってるみたいね」

呆れたような顔で映姫を見る。彼女が何故霊夢と射命丸だけでしていた会話の内容を知っているのか気になるところではあるが、今はそれどころではなかった。

「でもね、映姫様。これ以上私の友達を悲しませないためには彼を助ける必要があるのよ。もう、魔理沙や射命丸、咲夜やレミリア達をこれ以上悲しませたくはないのよ。たとえそれが貴方の意向に反したり、幻想郷を危険に追いやってもね」

「どんなことを言われても教えませんよ」

映姫は目の前の巫女を睨み付けた。理解することができたのだ、博麗霊夢にはこれ以上言葉では彼女を理解させることができないということに。

「では、力尽くであなたを理解させてもらいましょうか。無論、貴方たちの愛用する弾幕ごっこ、とやらでね」

「私に勝つつもりなのかしら?これでも一応弾幕ごっこの創案者なんだからね、そう簡単に負けるわけにはいかないのよ」

この言葉を最後に、二人の会話は途切れた。空へと飛びあがった二人は色とりどりな弾幕を幾何学模様に描き、一進一退の攻防を始めたのであった。



「なあ、射命丸。そろそろあの日のことを話してくれてもいいんじゃないか?」

二人が空に描く弾幕を眺めながら、魔理沙は俯く射命丸にこう問いかけた。

あの日、とは射命丸が夕と人里で遭遇した日のことだ。射命丸はその日何を見たのかを話そうとはせず、けれど時間があれば魔理沙や霊夢とともに行動するようにしている。幾度とさりげなくその話題に触れようとするものならば、彼女は突然口を固く閉ざしてしまうのだ。

「―――魔理沙さん」

「…どうしたよ、射命丸」

空に描かれる弾幕を見上げ、射命丸はこう続けた。




「霊夢さんが勝ったら話しますよ」

肩を震わしながら、目尻に涙を溜めながら射命丸は微笑んだ。

弾幕ごっこ、何それおいしいの?

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