第25話「最短一手:帝国破綻」
第二波は、数字で来た。
「共和国の主要銀行が、王都商会との取引を一時停止!」
「北方同盟、信用保証の引き上げ要求!」
エルマが机に突っ伏す。
「資金循環が詰まります! 詰まります!」
ゴルドが叫ぶ。
「だから金が動かねぇって言ってるだろうが!」
市場の喧騒が、どこか硬い。
笑いが減り、怒号が増える。
◆
同時刻、魔王領境界。
強硬派の若い将校が、小規模な武装衝突を起こした。
「交易路を封鎖する!」
「裏切り者を討て!」
小さな戦火。
だが象徴としては十分だ。
情報が王都へ届く。
「衝突発生」
アルドが剣を抜く。
「行くか?」
「まだです」
レオンは低く言う。
「拡大していません」
だが視界は、ほとんど灰色だ。
赤いマントが、色を持たない。
◆
王都会議室。
三国協議は停滞。
共和国代表リディアは疲れた顔で言う。
「国内圧力が強いのです」
ヴァルケンは静かに告げる。
「我々も同様だ」
「封鎖を解けば政権が揺らぐ」
レオンの視界に、一本の線が鮮明に走る。
最短。
帝国通貨信用崩壊。
共和国債務暴露。
北方同盟資源依存切断。
一手目で帝国市場に疑念を流し、
二手目で投機筋を誘導、
三手目で信用連鎖を断つ。
一年以内に帝国は破綻。
封鎖は消える。
市場は王都中心に再統合。
完璧。
「……可能です」
声がわずかに震える。
セレネが横を見る。
「何を」
「帝国破綻」
空気が凍る。
ヴァルケンの目が細くなる。
「やってみるか?」
挑発ではない。
事実確認。
レオンは目を閉じる。
白い世界が広がる。
市場も旗も、区別がない。
完全安定。
完全支配。
音が消える。
「……実行すれば、終わります」
「ならばなぜ」
「世界が死にます」
静かな声。
アルドが低く言う。
「死ぬ?」
「揺らぎが消えます」
セレネが息を呑む。
「あなた、今どれくらい削れていますか」
「六割」
初めて具体的な数字が出た。
沈黙。
ヴァルケンがゆっくりと言う。
「君は合理の化身だ」
「違います」
「違わない」
彼は続ける。
「合理は力だ。だが君は、その力を制御しようとしている」
「制御しなければ」
「どうなる」
「白くなります」
誰も言葉を返せない。
◆
その夜。
強硬派が交易路を一部焼いた。
小規模だが象徴的。
市場が揺れる。
「戦争だ!」
「またか!」
アルドが剣を握る。
「今度は行くぞ」
「行ってください」
レオンは頷く。
「局所鎮圧で十分」
「お前は来ないのか」
「業務があります」
だが視界は白い。
音が遠い。
◆
レオンは一人、執務室に残る。
最短は、ある。
帝国も共和国も北方も、一気に崩せる。
包囲網は消える。
王都は唯一の経済中心。
だがその先にあるのは――
白。
揺らぎのない世界。
「……総務は世界を壊せる」
小さく呟く。
手が震える。
セレネが扉を開ける。
「やめてください」
「何もしていません」
「考えただけで削れている」
彼女は近づき、机に手を置く。
「あなたは最短を見すぎています」
「見ないと判断できません」
「なら、見ないでください」
その言葉に、レオンはわずかに目を見開く。
「……可能ですか」
「分かりません」
セレネは強く言う。
「ですが、あなたが消えるよりはマシです」
沈黙。
市場の遠い喧騒。
戦火の報告。
外交の停滞。
最短一手は、常に視える。
だがそれは、世界を救う刃でもあり、削る刃でもある。
「……選びません」
静かな宣言。
帝国破綻ルートを閉じる。
線が、ゆっくりと薄れる。
視界に、わずかに色が戻る。
完全ではない。
だが、白ではない。
戦火は局所で収まり、
封鎖は続き、
外交は難航する。
だが世界は、まだ揺れている。
総務は壊せる。
だから壊さない。
その選択が、彼をかろうじて世界に繋ぎ止めていた。
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