第19話「バブルは笑って弾ける」
地方特産祭は、思った以上に“当たった”。
「この芋うまい!」
「魔王領の香辛料と合うぞ!」
王都の料理人たちが群がり、特産品は飛ぶように売れる。
エルマが叫ぶ。
「需要曲線が読めません! 最高です!」
「最高ではありません」
レオンは即座に訂正する。
「供給が追いつきません」
案の定、三日目には――
「在庫切れ!?」
「価格が三倍!?」
地方商人が青ざめる。
「王都の商会が買い占めてる!」
ゴルドが怒鳴る。
「今度は芋で儲けるのか俺は!」
「剣を売ってください」
「売れねぇんだよ!」
市場は再び熱を帯びる。
価格急騰。
投機再燃。
セレネが静かに言う。
「学習していませんね、あなた」
「学習しています」
「ではこれは」
「想定内です」
市場全体が叫ぶ。
「想定外だ!!」
◆
王都会議室。
「地方商会が供給を絞っています!」
「王都商会が転売!」
「芋が宝石扱いだ!」
エルマが目を輝かせる。
「農産バブルです!」
「楽しむな!」
レオンは静かに紙を広げる。
《地方生産拡張支援》
《価格上限暫定設定》
《転売税導入》
ゴルドが机を叩く。
「また合法悪か!」
「合法です」
「悪は否定しないんだな!」
セレネが小さく笑う。
「今回はどう落としますか?」
レオンは市場の動きを頭の中で追う。
最短は、全面規制。
だがそれはまた均質化を招く。
「……部分弾圧」
「物騒な言い方をやめなさい」
「投機筋のみ制限」
「まともな表現に」
「選択的流動性抑制」
「最初からそれで」
◆
三日後。
転売税が導入され、
価格上限が暫定設定される。
芋価格は滑らかに下落。
「助かった……」
「でも儲け損ねた!」
文句はあるが、暴動はない。
市場は大きく弾み、そして着地した。
レオンは広場を見渡す。
騒がしい。
だが崩壊はしていない。
「揺らぎ、制御成功」
セレネが隣で言う。
「今回は上手でしたね」
「前回の反省です」
「成長しましたね」
「誤差です」
◆
夕方。
広場では“芋と剣の抱き合わせセット”が売られている。
「意味が分からん!」
ゴルドが叫ぶ。
「戦場で腹が減るだろ!」
「今は平和だ!」
アルドが笑いながら剣を担ぐ。
「平和でも腹は減る」
子どもたちが笑い、
商人が値切り、
冒険者が警備の合間に芋をかじる。
不完全で、
騒がしくて、
効率八五%。
レオンの視界は、はっきりと色づいている。
◆
夜。
役所の窓から市場を眺める。
「バブルは弾けました」
「ええ」
セレネが頷く。
「今回は、壊さずに済みましたね」
「揺らぎを許容した結果です」
「そして?」
「最短ではありませんでした」
静かな間。
レオンは続ける。
「ですが、楽しかった」
セレネが目を細める。
「初めて言いましたね」
「誤差です」
だが否定しない。
市場は笑い、
芋は売れ、
剣は少しだけ売れ、
経理は歓喜し、
商人は叫ぶ。
戦争より騒がしい平和。
合理は市場を壊す。
だが揺らぎは、市場を笑わせる。
そして総務は、笑いながら火消しをする。
そのほうが、世界は長持ちする。
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