第17話「揺らぎを残せ」
王都会議室。
レオンは、新たな施策案を静かに机に置いた。
《流通制限一部解除》
《価格変動幅許容制度》
《小規模商会優遇枠》
ゴルドが眉をひそめる。
「……何を企んでやがる」
「企んでいません」
「今までで一番怖ぇぞ」
エルマが紙を覗き込む。
「変動幅を“許容”……? 安定を崩すんですか?」
「意図的に揺らぎを残します」
セレネが腕を組む。
「理由は?」
「市場は完全安定で停滞します」
レオンは淡々と続ける。
「小規模商会に価格裁量を与え、競争を戻します」
「競争はまた暴れるぞ」
「暴れます」
「認めた!」
「ですが、暴れない市場は死にます」
沈黙。
ゴルドがぼそりと呟く。
「……最近、お前の言葉が怖ぇより納得できるのがムカつく」
◆
数日後。
規制が一部解除された。
小規模商会が独自価格を設定し始める。
「うちは三枚!」
「うちは二枚五十銅!」
値札がばらつく。
市場がざわつく。
「また荒れるぞ!」
「でもちょっと楽しいな」
エルマが帳簿を抱えて叫ぶ。
「回転率が読めません! 最高です!」
「最高ではありません」
レオンが即答する。
「管理負荷が増えています」
「楽しそうですね?」
「業務です」
だがその瞳には、確かな色が戻っている。
◆
広場では、ゴルドが新作剣を並べていた。
「魔王領鉱石と王都鍛造の融合だ!」
値段はやや高め。
「売れるか?」
職人が不安げに聞く。
「分からねぇ」
ゴルドは笑う。
「分からねぇから面白ぇんだ」
レオンはその様子を遠くから見る。
線は複雑だ。
最短ではない。
だが市場は生きている。
「効率九二%」
「満足ですか?」
セレネが隣に立つ。
「最短ではありません」
「ええ」
「ですが、色は保たれています」
市場の喧騒。
笑い声。
値切り交渉。
彩度は明らかに戻っている。
◆
その夜。
役所の執務室。
レオンは帳簿を閉じる。
「破綻商会、ゼロ」
「奇跡ですね」
エルマが目を輝かせる。
「奇跡ではありません」
「え?」
「揺らぎを制御した結果です」
セレネが静かに言う。
「あなた、ついに“最短以外の設計”を覚えましたね」
「最短は単一解」
「揺らぎは複数解」
レオンは窓の外を見る。
灯りが揺れている。
騒がしい。
不完全。
だが生きている。
「合理だけでは世界は軽視される」
小さく呟く。
セレネが微笑む。
「その言葉、第一章では出ませんでしたね」
「誤差です」
だがその誤差が、世界を保っている。
◆
翌朝。
市場はいつもの騒がしさを取り戻していた。
値札は揺れ、
商人は叫び、
勇者はなぜかまた在庫を抱えている。
「なぜまだ売れ残る!」
「需要予測が甘い」
「助言しろ!」
「業務外です」
ゴルドが叫ぶ。
エルマが笑う。
セレネがため息をつく。
レオンは静かに手帳を閉じる。
「市場安定、暫定完了」
合理は市場を壊し、
合法悪は市場を止め、
揺らぎは市場を生かした。
総務は一つ学んだ。
最短は答えだが、
唯一の答えではない。
王都の空は、はっきりと青い。
次の案件が、静かに動き始めている。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




