08話 魔女の呪い
次に異世界へとやってきた時、奏楽は真っ先に大木吉塚が入院している病院へと向かった。羽虫のモンスターに狙われていた女性のことでこの世界を知る先輩としての意見を聞きたかったのだ。
今回は面会室ではなく入院している部屋の個室へと案内された。
個室に入るとベッドに腰掛けて座っている吉塚がいた。
「よお、元気か?」
それは奏楽のセリフだったが、今の奏楽の様子は誰が見ても元気がなさそうだ。
「実は相談があって……」
会うたびに羽虫のモンスターに襲われる女性がいて、その女性がわざと襲われることで自分が魔女だということを隠しているのではないかということだ。
吉塚は「聞いたことがねえな」と言うが、心当たりがあるアイテムの話を始めた。
「俺が使っているアイテムの中にはドラゴンを呼ぶ笛があってな。その笛を吹くと飛竜が飛んでくるんだ。なんとなく分かると思うが使用するタイミングが大事でな。自らモンスターを呼ぶという言い方を変えると自ら危険な目に合うための道具ともいえる。もしかしたらそんな道具があって、羽虫のモンスターをおびき寄せる道具を使っているのかも」
「そっか、ありがとう。そんな物があるんだね」
奏楽はお礼を言い、あとは吉塚の身をいたわるような会話に変えるのであった。
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あの女性が魔女なのか。確かにあの女性がいる時、霧が町を包んでいた。いなくなってから町が晴れたようにも思える。
道具じゃなく羽虫のモンスターを呼び寄せるスキルの可能性もある。
こんな自分は嫌な奴だと思いながらもあの女性を疑った。
次に会う時は確かめよう。そう思ったのである。
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再び異世界遭難者の救出またはパトロールのためクエストを受けることにした。もしかしたら今もどこかで誰かが異世界に引きずり込まれているかもしれない。
モンスターが発生した町があれば果敢に行くしかない。
町のギルドの掲示板から一枚の張り紙を見つけそれを窓口へ持っていきクエストの受注をする。今回の内容は羽虫のモンスターの群れの討伐だ。何やら羽虫のモンスターが大量発生しているらしく、町の住人たちはみんな逃げ出している状況らしい。
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奏楽とエクスマキナの少女は羽虫のモンスターが大量発生した町へと向かった。
今回は歩きで移動ではなく奏楽がペガサスの翼を使い少女を抱えて移動という形となる。こちらの移動方法の方が効率が良い。
すぐに霧の発生した町にたどり着き二人は地上に降りてモンスターを狩り始めた。
羽虫のモンスターは無数に蠢いていて地獄絵図である。
少女は遠慮なく拳銃で発砲し一匹ずつ仕留めていく。奏楽は飛行しながらペガサスの翼で打ちつけて攻撃した。
少女は弾切れになるとカートリッジを交換して次々と発砲。
そんな中でとある建物の二階からカーテン越しに二人の戦いを見る者がいた。長い後ろ髪に髪留めを付け額を出し黒い服を着ている二十代くらいの女性。魔女として疑われている女だ。
「あんなに頑張って。私のために……」
笑みがこみあげてくる女。
「フフフ、私のために、フフフフフ。フハハハハハッ」
彼女は狂乱していた。自分でも何がおかしいか分からない。だが笑いが自分で止められないのだ。
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目に入る羽虫のモンスターを全て片づけると少女と奏楽は一旦町の様子を確認した。霧はまだ晴れない。
つまり、モンスターがまだどこかにいるということだ。
魔女として疑われる女は笑みを浮かべながら部屋の端っこで体育座りしてした。
「……もう少しで。フフッ」
少女はモンスターの反応がある彼女を見つけて家の中に入っていく。奏楽も少女の後に続いて家の中に入っていく。
二階へ向かいそこにいたのは部屋の隅っこで座る彼女であった。
少女は「危険分子確認」と言い拳銃を向ける。奏楽はそれを止めることもせず質問する。
「あなたは魔女なんですか?」
女性は「フフッ」と笑う。
「なぜ私が魔女なの? こんなに虫を呼んじゃうから?」
「では違うんですか?」
女性は笑いを止められない。
「ハハハハハハハ!」
女は笑いながら泣いていた。
「私が魔女なら、私にかけられた呪いは誰がかけたの?」
奏楽は少女に拳銃を下げるように言い、少女は了承し拳銃を下ろす。
「あなたは呪われているのですか?」
「そうよ、そうに決まっているじゃない! 私はアラクネ」
泣き笑いで忙しい女は自らのことをアラクネと呼んだ。魔女に呪われている者がアラクネと呼ばれるらしい。
「私はアラクネなの! 私に罪はない! あなたは勇者なの? 勇者なら助けてよ!」
自らをアラクネと呼ぶ女性の本当の名はノワール・セブーン。魔女に呪われ羽虫のモンスターを呼び寄せてしまう呪いを受けた。だから女性がいるところに必ずモンスターがいる証明の霧が出てしまう。
どこにいても羽虫のモンスターが発生してしまう。それを止めるためには魔女の呪いを解かなくてはならない。
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ギルドの窓口へ行くと奏楽は抗議した。なぜ魔女の討伐クエストがないのか。魔女はどこにいるのか。ギルドの窓口では何も答えられなかった。なぜならば報復を恐れているためだ。
もし冒険者が魔女を倒せなかった場合、その報復を受けるのは誰か。そんな依頼を出したギルドということになる。
力ある魔女は恐れられる。特に呪いを知り覚えている魔女は。
ノワールをギルドまで連れてきたことも問題になる可能性もある。魔女に嫌われている者をギルドの建物内に入れてしまうと、匿っていると魔女に受け取られかねない。
そしてこのギルドのある町も霧に包まれる始末だ。
どこにいても邪魔者なノワールは町を転々としていた。
奏楽は思った。ここで終わらせようと。少女に彼女の護衛を頼むとペガサスの翼を展開し、どこかへ飛び立っていく。
「任務了解。ノワール・セブーンを警護する」
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奏楽がやってきたのは魔王城だった。魔王城の扉を叩き、奏楽はモンスターに囲まれながら謁見の間へと通された。
相変わらず玉座にて退屈そうに座る男性老人。彼がこの城の魔王となる。
「魔女っていったいどこにいるんですか?」
魔王に詰め寄る奏楽。魔王は面倒そうに頬杖をつく。
「奴がまだまだとぬかしそうな質問じゃな」
「どういうことだ?」
どこからともなく女性の笑い声が聞こえてくる。
――フフフ、フフフフフ。
「戦いはまだ終わらぬようじゃな」
奏楽は何が何だか分からず質問を重ねる。
「この声は誰なんだ! 奴って何なんだ! 魔女は一体どこにいる!? それに戦いってなんだ? 終わらないってどういう意味なんだ!」
老人は語り始める。
「この声は知れたこと。魔女の声よ。奴というのも魔女。魔女は目的があって人を誘拐している。戦いとはモンスターと冒険者の戦いよ。終わらない」
奏楽は声を張り上げる。
「誘拐だけじゃない! 異世界の住人にまで呪いをかけている。惨い。人間のやることじゃない」
「奴は人間ではなく魔女だ。道理は魔法以外通じんよ」
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魔王は困り果てていた。モンスターを統率し魔界の力でこの異世界を征服しようとしていたのだが、この世界には魔女がいた。魔女は魔王より強かった。世界を魔の力で陥れようと目論むも、魔女はあらゆる手で妨害してきた。今では魔王も呪いを受けて自由に動けない状況だ。その呪いとは魔法が使えなくなる呪いだ。
魔界のトップである魔王が魔法を使えなくなってしまった。こんなことがあっていいのか。そして魔界のモンスターたちは自由に動き始めたり魔女の手下になるものまで現れてしまう。
今の異世界の状況だと悪さをするには魔女に従う方が早いのだ。そして驚くことに魔女に会ったものは誰もいないらしい。
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ギルドでエクスマキナの少女と奏楽の帰りを待つノワール。ノワールは涙を流しながら高笑いをしている。その様子から周りにいる冒険者やギルド職員にも怪しまれている。
自分でもなぜ泣くのか、なぜ笑うのか分からない。
助けを求めようとも奏楽は魔王城で魔王と謁見中だ。
ノワールは自分でコントロールできない惨状に「ごめんなさい」と声を上げた。そしてこうも呟いた。
「あともう少しのはず……」




