07話 羽虫のモンスター
再びエクスマキナの少女と共に行動することになった奏楽。異世界への扉を開く少女に続き異世界へと入っていく。右手を外して右脇に抱えて右腕を構えると光の輪が現れる。この輪を潜って異世界へと向かうのだ。
異世界へ入ると霧の町へと到着した。そもそもがエクスマキナの少女は何らかの方法で異世界のモンスターもしくは遭難者を追尾しているのでほぼ絶対に霧の町へと出ることになる。
町の中を探索する奏楽と少女。
それらしきモンスターもいなければ遭難者の姿も見当たらない。
「任務続行。遭難者の探索、敵の探索および排除を行う」
少女は地上で探索し奏楽は空から探索することにした。
「ペガサスの翼!」
背中から真っ白な翼が生え、天へ向かって飛び立つ。
空から探索といっても霧の中なのでよく見なければ見逃してしまう。塔の下やパン屋の陰になっている部分。ありとあらゆる場所を見逃さない。
「いた!」
塔の頂部に真っ黒な肌で宇宙人のように細長いシルエットの一つ目のモンスターがそこにはいた。遭難者の姿はない。
〇
奏楽は塔の頂部へと降りるとモンスターに話かけた。
「おい。お前は何者だ?」
宇宙人のようなそれは変な声を上げた。
――キュルルルル。
攻撃してくる様子はないと思ったが、ダンスのような何やら不気味な身体の動きで近づいてくる。
奏楽はペガサスの翼でいつでも迎撃できる体勢である。
一つ目のモンスターはゆっくりと奏楽の顔を舐めるように見定めている。
気持ち悪さに耐えられなくなり思わず翼で弾いてしまうが、その瞬間に一つ目のモンスターはバク転をしながら後ろに下がり再び変な声を上げた。
――キュルルルル。
塔の頂上へとエクスマキナの少女も辿り着くが、この状況の分析をしているようでじっとしている。
奏楽は少女に近づいてあれを倒すべきか問う。
「危険分子と判断。討伐する」
〇
背中のホルスターから拳銃を取り出し射撃する。だが一つ目のモンスターは踊るように躱していた。
「当たらない」
思わず事実を口走ってしまう奏楽。少女はナイフを引き抜き走り出す。
「遠距離での撃破は不可能と判断。近距離で仕掛ける」
だがしかし柔らかい身体の動きでナイフ捌きも当たらない。
奏楽は飛び上がり背後に回るとそのまま背中から体を掴んで動きを封じた。
「今だ!」
少女はナイフで首を一刺し。一つ目のモンスターは動かなくなったのだった。
「任務完了。これより一時帰還する」
右手を取り外し右脇に挟むと右腕を構え光の輪を出現させた。奏楽と少女は光の輪を潜り、一時帰還するのだった。
〇
病院で入院していた大木吉塚は、この間見た夢のことを思い出していた。――あなたにはあなたにできることがある。そんな自由をもっと感じてみて。ショートヘアでカチューシャを付けた十代後半くらいの黒い服を着た女性にそんな言葉を言われたのだった。
夢でいいからまた会えないかな。そんなことを思っていた。
「ずっと一人だった俺が誰かを求めるとはな」
異世界へやってきてからというものの誰かと冒険も豊餅奏楽との討伐クエストを共にする以外に経験がなかった。誰かと冒険したいという欲求はなかったが、夢で誰かと話す時の説明のしようのない安心感。これをまた感じたいと思っていた。
「まさか恋だったりしてな。はっはっは」
ベッドの上でケラケラ笑う吉塚。
するとナースが病室に入ってきて「バイタル測りにきましたよ」と言ってきた。
「ああ、お疲れ様」
血圧を測るため血圧計を腕に巻かれながらも吉塚はナースに話しかける。
「お姉さん、お姉さんは夢とか見ますか?」
「え? 夢? 最近は見ないかな。夢を見るのですか?」
吉塚は「ああ」と答える。
「会ったこともない人と夢の中で話したんだ」
「それで夢の中で会った人に会いたいと?」
「図星だねえ」
吉塚は楽しそうにケラケラ笑うのだった。
〇
再びエクスマキナの少女と異世界へやってくる奏楽。まだどこかにモンスターがいるらしく一度元の世界に戻ってからこの異世界へと舞い戻ってきたのである。
町は霧に包まれた状態だ。以前もそうだった。倒したと思ったら二体目がいてそれを倒したら霧が晴れたのだ。
少女は辺りを見回し探索する。すると何かに反応したように走り出した。奏楽も後を追って走り出す。
塔の下の待合室のような場所。そこに何かはいた。
「任務了解。危険分子の反応あり。気を付けるように。」
少女に危険を忠告され気を引き締める奏楽。
二人で待合室へと入るとそこにいたのは。――一人の女だった。
長い後ろ髪に髪留めを付け額を出し黒い服を着ている二十代くらいの女性。
奏楽は「あなたは!」と声をかける。
「以前はガラスを割ってしまい申し訳ございませんでした」
女性は「ああ、あの時の」と言って微笑む。
「気にしないでください。あそこはたまたま逃げ込んだ部屋で私の部屋じゃないんですよ」
「そうだったんですか。あ、でも本当の持ち主に迷惑かけてしまったわけで」
女性は「健気な方ですね」と言いながら唇を触る。
少女は女性をじーっと見ている。
奏楽は女性の紹介をする。
「この人はこの世界の人で、モンスターに襲われたことがあってその時に会ったんだ」
本当であれば巨大な羽虫に襲われていた時にこの女性が一人で逃げなければあの時に少女とも顔を合わせたはずだった。
少女は目を光らせた。
「危険分子。任務了解。これより敵を打ち倒す」
奏楽は「なんだって?!」と声を荒げた。
「どこが危険なんだ? よくこの人をよく見て。安全だよ」
少女は首を横に振った。
「いいえ、安全ではありません。モンスターと同じ反応を検知。これより打ち倒します」
〇
女性は奏楽に泣きついてすがる。
「あの子何言っているのか分からない。ねえ、助けて」
奏楽は女性と少女の間に立ち塞がる。
「この人は、俺が守る」
女性はにやっと笑い思わず高笑いしそうになるのを必死にこらえた。
「この人は危険なんかじゃない。前にも会ったことがある。危険なはずがない!」
すると再び巨大な羽虫が現れ待合室の天井を這い歩く。女性は「怖い」と言いながら奏楽にすがるように抱きつく。
「ねえ、前みたいに助けて」
奏楽は頷きながらも前と同じような状況に困惑していた。本当に危険分子なのか。危険分子にしても何か事情があるのかもしれない。
奏楽はペガサスの翼を生やし天井の巨大な羽虫に向かって飛んだ。
「翼で打つ!」
翼で薙ぎ払うように巨大な羽虫を叩き落とす。叩き落とした巨大な羽虫を無視して女性に近づく少女。
「やばい! 逃げて!」
女性は背中を見せて逃げ出す。
急いで奏楽は少女を羽交い絞めにして動きを止める。
「どういうつもりだ?」
「それはこっちのセリフだ。異世界の一般人を狙うだなんて。どうかしている! どう考えても保護対象だろ!」
少女は奏楽の縛りを自力で解いてそのまま背負い投げで投げ飛ばすも、翼で地面への衝撃を回避しそのまま立ち上がる。
「あの人は巻き込まれているだけなんだ! 危険分子というが説明がない! 説明しろよエクスマキナなんだろ!」
少女は「危険分子の反応が出ている」と言いそれ以上の説明はしなかった。
立ち上がる巨大な羽虫、明解な敵に対して奏楽は再び翼で打ち倒す。
「本当に危険なのはこっちじゃないのか? あの人は狙われていた。前にもこの巨大な虫に狙われていたんだ! 狙われる理由があるのかもしれない! 分かれよ!」
〇
一度元の世界へと戻ってきた奏楽は今回の事情を異世界研究捜査部の大島警部と佐々木警部補に聞いてもらった。異世界の一般人を狙う事態が起こった。助けなくてはならない人に対して危険分子として対処しようとしたこと。
大島警部も佐々木警部補も困ったように首を曲げて顎の周りを触っていた。
「こんなことは前代未聞なんだよ。悪いがこのまま何かあれば君の方で止めてほしい」
大島警部から佐々木警部補からも頭を下げられる。
だが大島警部は一つ付け加えた。
「もしかしたらだが、あくまで憶測でしかないが、その女性が魔女である可能性はないかね?」
「なんですって……」
奏楽は思考が止まり今までのことを振り返った。確かに決まって巨大な羽虫に襲われるパターン。もしあの虫をその女性が操っていたとしたら。
考えられることが脳裏に浮かび、嫌な汗が流れた。
佐々木警部補は「そうじゃなきゃいいな」と声をかけ奏楽の肩をトントンと叩いた。
「あの人は狙われる理由があるんだ。きっと……」




