02話 再び異世界へ
空を飛ぶことができるウイングという機械の翼。そして空を飛ぶことのできる者をウイングライダーと呼ばれている。そんなウイングライダーの一人である豊餅奏楽は異世界へ遭難する体験をし怖い思いしかできなかったことで異世界という舞台に消化不良な気持ちを抱えてしまった。そんな彼は再び異世界へ行こうと決心するのであった。
ウイングを収納したリュックを背負い夜中に一人出かける奏楽。
どうしたら異世界に行けるか分からない。警察のエクスマキナの少女は自らの腕を取り外し光の輪を出現させることで、その光の輪を潜ることによって異世界から元の世界に移動することができていた。だとしたらまた警察官のあの怪しい黒ずくめの2人を見つけた方が早いかもしれない。なぜならばあの段ボールの中に少女のエクスマキナが入っているのであれば、異世界の探知を行い捜査している可能性が高い。
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探すのにそんなに時間はかからなかった。奏楽が遭難した辺りを歩いていると再び黒ずくめの警察官の男2人が大きな段ボールを抱えて歩いているのが見える。これは立派な肉体労働に見えるが、実際は異世界パトロールなのだろう。
警察官の男が奏楽を発見すると驚いた顔を見せた。
「なんでここにいるんだ! 危険な目にあっただろうに」
これは見つからない方がよいらしい。奏楽はすぐさま警察官の視界から外れ町角の塀に身を隠した。
……俺だって戦えるはずなんだ。リュックを手に持ち自信を自分に与える。
すると突然また女の笑い声が聞こえ始めた。
――フフフ、フフフフフ。
耳鳴りがしてキーンとという金属音のような音が耳から離れない。
「さあ、はじまるぞ。リベンジだ」
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再び視界が霧に包まれていく。だが同時にエクスマキナの少女の起動音が聞こえる。
「起動完了。これより任務を開始する」
奏楽はリュックを開きそこから折りたたまれたウイングを取り出して背中に装着した。これでいつでも空を飛ぶことができる。
「これで俺も戦える」
背中にウイングを付けたまま歩き出し霧の町を散策する。転生しなくても勇者になれる。奏楽はそう考えていた。
歩いていると、遠くで剣と剣がぶつかり合うような音がした。興奮してきた奏楽。クラウチングスタートの姿勢をとり、助走をつけると機械の翼が徐々に熱を帯び、地上から離れ空中へと飛び上がった。
空中から様子を窺うつもりだ。
剣と剣がぶつかる音。どうやら決闘中のようだ。一人は鎧を着た人間の男なのだがもう一方は触手が何本も生えておりその触手で剣を持ち振るっている怪物だった。
どうやら男の方は鎧の姿から見ても異世界の住人らしい。男は剣を地に刺し叫んだ。
「シャイニングエキストラソード!」
彼の影が分裂し同じ姿の存在が8体にまで増え、ありとあらゆる角度から怪物を囲む。
「いくぞ!」
怪物は四方八方からの攻撃を受けもがくが、最終的に剣が胴を貫き勝負はついてしまった。
奏楽は戦いの様子を空中から眺め呟いた。
「勇者だ」
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彼の存在が気になった奏楽は下に降りて男に話しかけた。
「あなたはこの世界の方ですか?」
空から降りてきた奏楽を警戒する男。
「君はなんなんだ?」
「俺はこの世界の住人じゃないんです」
男は剣をしまい「なんだ転生者か」と呟く。
「違います。転生者ではありません。異世界にやってきただけす。そういうあなたこそ転生者ですか?」
戦いつかれていた男は上半身のみ鎧を脱ぎながら話を聞いていた。
「俺は転生者さ。まだ仲間もいない独り身さ。それよりあんたは空が飛べるんだな? 魔法じゃないだろ?」
「転生していない俺は魔法は使えません」
「だよな」
奏楽はつい最近のことを語った。初めて異世界へ訪れた時のこと。そしてまたこの世界へ舞い戻ってきたことを。
「で、君は何がしたいんだ?」
男からの質問に奏楽は答える。
「あなたは勇者でしょう? あなたの仲間に入れてほしい」
男は即答はしなかったものの腕を組んで空を眺めながらつぶやいた。
「俺って勇者なのかなあー」
まるで自分は勇者じゃないと思っているようだ。
「まあ確かにモンスターを倒してはいるがな。それが冒険者の仕事だから」
冒険者、様々なクエストに挑戦し依頼を達成しお金をもらう仕事だ。
モンスターが冒険者によって倒され、異世界は人間にとって住みやすい場所として改善される。モンスターは人を襲い命を奪う。だとしたら異世界で遭難してしまう事象があったとしてもモンスターが減れば異世界の住人だけではなく救われる人も増えるはずだ。
奏楽は冒険者と仲間になることによって異世界を体験しようとする。モンスターを倒す仕事など異世界にしかないのだ。
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冒険者の名を大木吉塚といった。彼の用意したキャンプで朝を迎え、さっそく2人は近くの町の冒険者ギルドへと向かった。きっと元の世界では奏楽は行方不明扱いとなっているはずだ。異世界から元の世界に戻る方法を知らないのが問題だ。戻るためにはあのエクスマキナの少女に頼むしかないが、そんなことをすれば次はないかもしれない。もう異世界に行けなくされるかもしれない。
異世界の経験は貴重だ。警察にマーキングされて異世界を経験できないように日々の行動を監視され止められかねないだろう。
冒険者ギルドへ着くなり窓口で冒険者の登録をしようとするも「転生者ではない」この事実により厳しい顔をされることとなる。転生者でないということは魔法も使えない。剣士になることも難しい。吉塚のように剣士としてのスキルを身に着けることも困難だからだ。
結局転生しなければ魔法もスキルも身につけられない。
それでも奏楽はギルドの登録を受けたいと下がらなかった。
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ギルドで登録が終わるとすぐさま吉塚と次のクエストの受注へ。掲示板に張り付けてある。依頼書はモンスターの討伐もあれば植物の採取などの依頼まである。
奏楽にできることは空が飛べること。つまり空が飛べることで役に立つ依頼を得ることが好ましい。だが……。
「空が飛べるからこそ有利な仕事、ないな」
崖の上に生える植物などあればよいかもしれないが、そんな仕事はなかった。
吉塚は「やっぱりモンスター討伐だな」と意気揚々に張り紙を手にして窓口へと持って行った。依頼内容は牛頭の巨人の討伐であった。
恐ろしいモンスターに襲われた経験があり奏楽は少しの不安があった。だが今は自らの意思でこの異世界に存在している。きっと自分にもできることがあるはずだからここに来たのだ。
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モンスターの討伐依頼を受けた2人は霧の発生している町へと向かった。町の名はミーズガモルド。ここに牛頭の巨人が発生したと依頼書には書かれていた。町のほとんどの住人は別の町に避難していて町の中はシーンと静まり返っている。
町にたどり着いた吉塚と奏楽は霧に包まれた町の探索から始めた。
町のほとんどがレンガ造りの家で町の中心には時計塔がそびえ立っている。町の様子は霧に包まれていてそれでいて人が一人もいない。怪物改めモンスターがいるからこその異世界の異様な光景がそこにはあった。
奏楽は呟く。
「ここがモンスターが発生した町か。どこにいるんだ。前は逃げてもあっちから遭遇してきたのにな」
鎧を纏った吉塚も鎧の擦れる音をガシャガシャ鳴らしながら町の様子を見ながらモンスターを探していた。
ここから始まる冒険。奏楽は自らの力や役割が分からない状態でもこれから起こるであろう戦いにわくわくを感じていた。
「いたぞ」
吉塚は遠くの時計塔の下に斧を持った巨人がいるのを発見した。角が生えている。霧でよく見えないが顔が牛になっているはずだ。
奏楽に「いくぞ」と言い、あらゆるスキルの詠唱を始めた。
「――今身体の耐久値を上げよ、エクスタフネス! ――今身体のスピードを上げよ、スピードソルジャー! ――今我が剣の威力を上げよ、スラッシュナイフ!」
ゆっくり歩いていく転生勇者の大木吉塚。その背中に頼もしさを感じる奏楽。
奏楽もウイングをリュックから取り出し空を飛ぶための準備を始める。
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クラウチングスタートの姿勢を取り助走をつけ、機械の翼で空へ羽ばたいていく奏楽。
牛頭の巨人の斧と吉塚の剣がぶつかり合い火花を散らしている。
――ウボオオオオオ!
声を上げながら斧を振るう牛頭の巨人。奏楽はこの戦いに入っていくことに困難を感じていた。まず武器がない。空から奇襲するにも武器が必要だ。これには準備不足を感じずにはいられなかった。
「でも、注意をそらすことはできる」
奏楽は思いっきり急降下し牛頭の巨人の背後に回り込むと飛び降りる速度で蹴った。牛頭の巨人は一瞬後ろを向くとその一瞬で奏楽の足を掴み、そのまま地面にたたき落とした。
思いっきり地面に仰向けに叩きつけられあまりの痛みに身動きが取れなくなる奏楽。
「あっ、……あ……ああ」
声も出せない。
「奏楽! 大丈夫か奏楽!」
心配する吉塚の声が聞こえてくる。
奏楽は思った。俺、ここで死ぬかもしれない。
そんな時、とある聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「保護対象確認。任務了解。これより保護活動に入る」
エクスマキナの少女が戦闘に介入し牛頭の巨人と戦闘を始めたのだった。




