10話 解かれる呪い
退院した大木吉塚は奏楽という友人とともに病院から出てきた。
奏楽は転生冒険者として先輩である吉塚に今の現状を伝えどうしたらよいか意見を聞いた。魔女を倒すわけにはいかない。助けなくてはならない。
吉塚は腕を組んでうーんと唸る。
「呪いを解除するということは、ヒーラーが必要になるかもしれない。もしくは僧侶だな」
奏楽は「そんな手があるのか!」と声を上げる。
「考えられる限りではな」
奏楽は思った。だから魔王は呪いを解除することができない。魔王の味方をする僧侶がいるとは思えない。そして人を癒すのが仕事なヒーラーも同じことだ。
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ギルドに戻ると魔女の呪いを解除するためのヒーラーを募集した。一緒にギルドまでやってきた吉塚はそこにいた女性に言葉を失った。ショートヘアでカチューシャを付けた十代後半くらいの黒い服を着た女性。まさに夢で見た女性そのままだった。
奏楽は明らかに様子のおかしい吉塚に声をかける。
「どうしたの?」
「夢で見た人だ」
吉塚の視線に気づいたナナはノワールの影に隠れる。
「……この人、いい人だ」
ヒーラーに頼み色々な治癒魔法を試したが結局は呪いは解けなかった。ノワールは「でしょ? こうなると思った」と言い不貞腐れる。確かにヒーラーの治癒魔法で解けるのであれば未だに呪いで苦しんではいないだろう。
奏楽は思った。女神やその恩恵を得ている僧侶なら解けるのではないだろうか。
吉塚も同じように頷いたが問題は女神がどこにいるかだった。二人とも女神に会ったことはあるものの死んだときだ。死んだ時に会える女神と生きている時にどうやって出会えるかが問題となる。
吉塚はある提案をする。
「教会へ行ってみよう」
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教会へ行くとそこには僧侶がおり、道半ばで死んでしまった者たちを蘇生する仕事をしていた。モンスターに負けてしまった者やダンジョンの罠で死んでしまった者などがここで蘇生される。
僧侶にノワールとナナが呪われている話をすると僧侶は深くお辞儀をして「さぞかし辛かったことでしょう」と言い呪いを解く準備に入った。僧侶の仕事は蘇生だけでなく、エクソシズムや除霊やら呪いを解く仕事など幅広かった。
ノワールとナナは早速入浴させられ白装束に着替えさせられると教会のステンドガラスの前で膝をつき聖水を頭からかけられた。
そして僧侶による呪いを解くための詠唱が行われる。
「この者たちの罪汚れを落とし、自らの苦しみとなる呪術を解きたまへ……」
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玉座に座る魔王は怒りで頭の中が憎い魔女のことでいっぱいだった。
「なぜこの我だけが呪いをかけられたままこのままこの椅子に座っているしかないのだ!」
どこからともなく声が聞こえてくる。
「もうすぐですよ。もうすぐあなたを倒す人が現れます」
魔王は怒り心頭で荒ぶる声を上げる。
「この我が倒されるだと、馬鹿な!」
外が騒がしくなっていく。どうやら戦闘が始まったようだ。
魔王の城の前でモンスターを狩りまくる吉塚。そして援護にエクスマキナの少女の姿も。上空には白い翼で羽ばたく奏楽。さらに魔女と呼ばれていたノワールとナナの姿もあった。
魔王城の周辺には仮面をかぶった裸の大男やら肩に針を無数に刺している女やらそんなモンスターたちがうろうろしているが、奏楽とその仲間たちによって倒されていく。
呪いが解かれたノワールの本領が発揮される。魔法を使い空中に水流を作り出し渦を巻かせると、それをモンスターどもにぶつけた。
「ウオーターハザード!」
水流に溺れる仮面をかぶった裸の大男たち。さらにナナが人差し指を針を無数に肩に刺している女型モンスターへと向ける。
「サンダーライト!」
人差し指から雷が飛び女型モンスターどもを焼き尽くす。
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玉座に座っている見た目が男性老人である魔王。奏楽がそこへたどり着くのにそんなに時間はかからなかった。
魔王はやってきたノワールの姿を見るなり眉間に皺を寄せる。
「それで、これで我を倒すつもりか?! 舐めるなあ」
男性老人は身体の部位のあちこちが膨らみ破裂するとそこから腕が生え体のあちこちから大量の手を生やした。
奏楽は「気持ち悪い」と呟いてしまう。魔王は笑みを浮かべる。
「毒を食らわば皿までもというだろう?」
吉塚はため息を吐きながら魔王に突っ込む。
「まさに往生際が悪いってやつだな」
吉塚は「魔王、覚悟!」と言って剣を構え走り出す。
剣を振り無数の手の一部で受け止める魔王。
「舐めるなと言っておるのが分からんか!」
ナナが両手を吉塚へと向ける。
「――彼を守って、リフレクトバリア!」
吉塚の剣は魔王の手によって掴まれ動きを止められ、さらに他の無数の手によって殴りつけられる。
「吉塚!」
奏楽は空中を舞い翼で打つ姿勢で魔王に突っ込む、さらにエクスマキナの少女は背中のホルスターから拳銃を引き抜いて吉塚の剣を掴む腕を撃ち抜いた。銃弾が命中した手が吉塚の剣を放し、奏楽が天から急降下し翼で打つ攻撃を受け魔王は壁に衝突する。壁は崩れ魔王は力なく横たわる。
立ち上がる魔王は雄たけびを上げながら突っ込んでくる。吉塚はみんなの前に立ち詠唱をする。
「シャイニングエキストラソード!」
吉塚の影が分裂し同じ姿の存在が8体にまで増え、ありとあらゆる角度から魔王を囲んだ。
8体の吉塚は剣を構え魔王めがけて走り出す。
「これで……」
ノワールは冷静な態度で「終わりね」と呟く。
8体の剣が黒ひげ危機一髪のようにすべてが胴を貫き魔王はその場に崩れ落ちた。
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魔王は血反吐を吐きながらノワールをにらみつける。ノワールの方はつまらないものを見る視線だ。
「魔法が使えたら勝っていたなんて言わないわよね?」
「つまらん。全てがつまらん」
目を瞑り何も語らなくなる魔王。
ノワールは目を閉じる。
「さようなら。退屈な魔王さん」
魔王も今の現状をよくするために誰かがくるのをずっと待っていた。だが異世界を暴力で征服しようと企む者の味方になる者などいなかったのだ。救われる魔女とそうでない魔王の違いはここだった。
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魔王を倒した後、この異世界に平和が訪れるかというとそれは違う。魔女たちが存在するようにまだまだ呪いで苦しんでいる者たちがいる。呪いのせいで、自分がいるせいで霧が発生しモンスターを呼び寄せてしまったり、無関係な別世界の者たちを呼び寄せてしまうこともある。
これから奏楽一行は旅をして霧を発生させてしまう魔女を救うこととなる。
ノワールは浄化された心を表すように白いワンピースを着て気持ちよさそうに天日のよい野原を駆け回っていた。その姿はとても楽しそうである。そして吉塚と仲良く横を歩くナナ。魔女だった頃にはなかった純粋な笑顔が二人とも今ここにはあった。
そして魔王を倒したことで異世界の様々な国に魔女を救わなければならないことが伝わったのだった。
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光が差さない暗い場所で一人頬杖をつく女がいた。
「ああつまんない。救済が進むなんて退屈極まりないにもほどがある。退屈しない理由がこの世には必要なのに」
頬杖をつく女は己の爪を噛みつまらなそうな態度である。
魔女にはランクがあった。つまり、呪いは連鎖しており、もっとも高い位置にある魔女のランクは呪いの始まりを受けた者になる。呪いを受けた魔女が他の女の魔法使いに呪いを移していく。
魔女の呪いのトップである原初の呪いを癒さぬ限りは永遠に魔女の呪いを解く旅は続くことになるだろう。
退屈な女は己が女の魔法使いたちにかけた呪いの数を指を折って数えていた。
「いち、にい、さん、……あっ分かんない。覚えられるはずがないわ。当たり前だけども」
女は笑い声をあげるとどこかの町で霧が出ていることを感じ一人気持ちよくなっていた。
「――フフフ、フフフフフ。まだよ。まだまだ」




