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追放術師の修復録(リライト・ワールド)  作者: 紅葉 紅羽
第二章『揺り籠に集う者ども』

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第八十七話『行く先を照らす灯に』

「パーティ名……そういや決まってなかったっけか」


 成り行きで動き出してしまったこともあって、確かに特定の呼び名もないままここまで来てしまった感じがあるな。もっと重大なことを予測していて身構えていたのだが、これはこれで確かに大事な要素の一つのような気がした。


「だろう? 『双頭の獅子』を超えるパーティに呼び名がないなんて、そんなのは少し締まらないじゃないか。こういう気を抜いていられるだけの時間があるうちに、そういうのはやっておかなきゃいけないと思ってさ」


 そんな俺に対して、ツバキはぶんぶんと首を縦に振る。その姿を見つめながら、ゆっくりとリリスは顎に手を当てた。


「……と言っても、いきなり気の利いた名前が出てくるかと聞かれると難しいわね。『対クラウス連合』とか、あまりにパーティ感が無さ過ぎるし」


「お、候補を積極的に出してくれるのはありがたいね。……まあ、それは少し見送りたいところだけど」


 ゆっくりとリリスから発されたその名前を、ツバキは苦笑しながらやんわりと却下する。確かにパーティ名には相応しくないのだが、とっさに考えてもそれくらいしか出てこないというのが正直なところではあった。


「クラウスに関連する活動以外も多いしな。長く付き合ってく名前になることを考えると、あんまり個人名とかは入れない方がいいと思うぞ」


「そうだね。ボクとしては『双頭の獅子』のネーミングスタイルを真似するのがアピール的にも見栄え的にも一番丸いと思うのだけれど、二人はどう思う?」


 俺の意見に笑顔で頷きながら、ツバキは俺たちをぐるりと見まわしてそう発言する。さすがは発案者ということもあるのか、その意見は確かに筋が通っているように思えた。


「確かに、そこを踏襲すればパーティ名ってのも分かりやすいしな。変にひねりを入れ過ぎるのもよくないし、俺もそれをベースにして考えてみるよ」


「そうね。完全にそれに絞るわけじゃないけど、八割くらいはその命名法で考えてみるわ」


 ケーキの最後のひとかけらを口に入れつつ、リリスもツバキの方針に同意する。いつも通りの静かな口調ではあるが、なんだかんだノリノリで知恵を絞っているようだった。


「ちなみになんだけど、ボクたちが所属していた商会は『金色馬車』って名前だったんだよ。初めて聞いたときに違和感が凄かったから、よほどのことがない限りその名前を使うことはなかったけど」


「私たちの馬車、別に金色でも何でもなかったしね。金にしか興味がないっていう主の意向がよく出たナンセンスな名づけだと思うわ」


 それぞれ考えこむようなしぐさを取りつつ、二人はそんな風に過去へと思いを馳せている。どこを切り取っても罵倒しか出てこないのは、もはや恒例行事というほかなさそうだった。


「あんまり欲を前に出し過ぎても俗っぽいもんな。かっこつけすぎてないけど幻想的で、かつパーティネームだってすぐにわかるのが理想的ではあるけど」


 そうやってまとめてみるのは簡単なのだが、いざそれに当てはまる気の利いたネーミングが出来るかというとそうでもないのが悲しいところだ。時々びびっと来るのもあるのだが、それも総じて口に出すと野暮ったく聞こえるのが問題だった。


「少しばかりカッコつけになってもいいから、イメージから名前を考えてみようかしら。私たちが目指すゴールとか、あるべき姿なら言葉にできるかもしれないし」


「おお、それは良い試みだね。リリス、その考えボクも乗っからせてもらうよ」


 暫くの無言を破ったリリスの呟きに、ツバキが目を輝かせて賛同する。少しばかりカッコつけたものになりすぎる可能性は否定できないが、その考え方自体は確かに悪くない気がした。


「俺たちが目指すもの……まあ、一番のゴールは『クラウスの打倒』だよな」


 ちゃっかりと俺もそのアイデアに乗っかることにして、俺は二人にそう投げかける。すると即座に二つの頷きが返って来て、俺は思わず目を細めた。


「クラウスが倒されれば、王都は嫌でも激動の時代に入るでしょうね。あの冒険者の話だと、かなり長い間目の上のたん瘤で居続けてるらしいし」


「そうだね。……逆に言えば、ボクたちは新しい時代を生み出そうとしてるってことになるのかな? 今のままがいい人たちからしたら、破壊者っていう称号が一番相応しくなってしまうんだろうけどさ」


「ま、破壊してるのも間違いじゃないしな。……だけど、新しい時代を生み出すっていう方が聞こえは間違いなく良いと思うぞ」


 周囲に掲げるスローガンとしても分かりやすいしな。俺たちが目指すのは、クラウスがいろんな冒険者たちを押さえつけている現状からの脱却でもあるんだから。


「となると、そういうのをもう少しかっこよく言い換える言葉が欲しいところだね。……そう言えば、ボクの故郷では時代が変わることを夜明けに重ねて表現することがあったっけ」


 目線を上にやりながら、過去を懐かしむようにツバキはぽつりとつぶやく。それを聞きつけたリリスは、名案だと言わんばかりに手を打った。


「へえ、ロマンチックでいいじゃない。夜明けって言葉はもう採用でいいんじゃないかしら?」


「そうだな。ちょうど行き詰り始めてるところだし、俺も夜明けを含めた名前を考えてみることにするよ」


 それを前に置くか後ろに置くかはともかく、一部分が定まれば少しは考えが楽になるからな。そういう意味では、この言葉が出てきたことは大きな前進だと言えそうだった。


 しかし、そのやり取りを区切りとして俺たちの間にまた沈黙が落ちる。あごに手を当てたり後頭部を掻いたりしているその様子を見るに、二人もまだまだ苦戦しているようだった。


 その二人の例に漏れず、俺もそう都合よくすっと言葉が出てくるわけではない。イメージは少しづつ固まりつつあるのだが、それが言葉にできないままなのがもどかしかった。


「……夜明け、夜明けなあ……」


 そう言えば、今までの人生で日が昇る様はあまり見たことがなかったな。だが、日が上ったばかりはまだまだ薄暗いんだろうなということは分かる。明かりが無ければ、きっと足元も分からないくらいになってしまうだろう。


 でも、そこさえ乗り越えれば明るい昼間が待っていることは言うまでもない事だ。……俺たちがクラウスを打倒した先にある景色も、同じように明るく在ってくれればいいなと思う。


 これが童話や昔話ならクラウスを倒して「めでたしめでたし」で終わってくれるんだろうが、現実はクラウスを倒しても続いていくわけだからな。変わりゆく時代の責任を負うのは、それを始めた俺たちでなくちゃならないのだ。ちょうど、足元を照らすための灯みたいに。


「……夜明けの灯、か」


 ここまでの考えをまとめるように、俺はぽつりと口元でそう呟く。普段だったら聞こえないレベルの声量だったが、沈黙の中でその言葉はよく響いた。


「……マルク、今なんて?」


「なんだかすごく収まりのいい名前が聞こえた気がするね。……それ、もう一回はっきり言ってみてくれるかい?」


 それを聞きつけた二人が、目の色を変えてこちらに身を乗り出してくる。いきなりの食いつきの良さに、思わず俺は軽くのけぞってしまった。


 何の気なしに呟いた言葉だし、正直言ってもう一回は恥ずかしいんだけどな……でもまあ、ここで断るのも野暮って奴か。


「夜明けの灯、って言ったんだ。……もしかして、これが気に入ったのか?」


 今度ははっきりと言い切って。俺は二人に向けて首をかしげる。……俺を見つめる二人の目がキラキラと輝いたのは、その直後の事だった。


「夜明けの灯……うんうん、凄く良い響きじゃないか! リリス、君はどう思う?」


「私も同感よ。これなら自信を持って名乗れると思うわ」


 あまりひけらかすつもりもないけど、とリリスは苦笑する。……どうやら、二人の意志は一致しているようだった。


「……それじゃあ、この名前で行くか? 成り行きで出た言葉だけど、俺も悪くないとは思うし」


 一応確認の問いを投げかけると、二人は迷うことなく頷く。……なんというか、思った以上の歓迎っぷりだった。


「オッケー、それならこれで決定だな。今この時より俺たちのパーティは、『夜明けの灯』を名乗る事にしよう」


「そうね。『夜明けの灯』所属のリリス・アーガスト……うん、良い響きじゃない」


「ああ、とてもいいセンスだ。……ボクたちが、この王都の夜明けを導く優しい灯になって見せようじゃないか」


 名乗りのなじみの良さにリリスは頷き、ツバキはこの先の活躍を誓う。……その名前は、なんだか前からあったかのように俺たちになじんでいた。


「よーし、そうと決まればレインにも伝えるとするか。次に会った時にでも、な」


「そうね。何一つ恥じることなく、堂々と名乗ってやろうじゃない」


 俺の提案に、リリスは上機嫌で乗っかってくる。――その名前をこの王都に知らしめられる日が来るのが、俺は楽しみで仕方がなかった。

名もなき集団だった彼らにもついに呼び名が生まれました。『夜明けの灯』となった彼らの活躍、どうぞ今年も応援いただければ嬉しいです!

ーーでは、また次回お会いしましょう!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これ「夜明けの灯」の読みは「よあけのひ」? 「よあけのあかり」? [一言] 楽しみに読んでます。
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