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その他大勢のわたしの平穏無事な貴族生活  作者: みらい さつき
第三部 第四章 王宮生活
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米騒動 3

自分の評判にびっくりです。





 わたしとフェンディの会話をラインハルトは黙って聞いていた。

 余計なことに口を挟まないのはさすがだ。

 会話の流れをただ黙って、見守っている。


「何が言いたい?」


 フェンディはわたしに問うた。

 その声は冷たい。

 どちらかといえば激情型に見えるフェンディにそんな真逆な声が出せるのだと、驚いた。

 王族はやはり王族だ。

 見た目で判断してはいけないのかもしれない。


「この国では米は一般的な食材ではありません。正直、そんな食材を特産物として作っているローレライ領には驚きました。フェンディ様にとっては、米とはローレライ領、ひいてはその当主を指すのですね。でもわたしにとって、米はただの穀物です。食材の一つに過ぎません。わたしはただ単に、米が食べたかっただけなのです。それ以外の他意は本当にないのです」


 説明した。


「ミカエルに手を出す気はないと?」


 フェンディは確認する。


「ローレライの領主はミカエル様とおっしゃるのですね。名前さえ、今、知りました」


 わたしは頷いた。


「……」


 フェンディは黙り込む。

 長い沈黙が続いた。

 わたしとラインハルトは困って顔を見合わせる。

 このまま、時間が過ぎて行くのを待つのは無意味だ。


「一つ、聞いてもいいですか?」


 わたしはフェンディに問いかける。


「なんだ?」


 少し乱暴な口調で返事が返ってきた。


「フェンディ様はどうして、わたしが何かを企んでいるなんてあらぬ誤解をされたのでしょう?」


 わたしは首を傾げる。

 ラインハルトはあっという顔をした。

 心当たりがあるのか、苦く笑う。

 それを見て、フェンディはため息を漏らした。

 詰めていた息を吐き出す。


「第二王子の派閥に喧嘩を売ってやり込めたラインハルトの妃が、私のミカエルに米が欲しいと声をかけて来たんだ。何かあると考えるのが普通だろう?」


 関係がバレたと察したからか、フェンディはしれっとローレライ領主のことを私のミカエルと呼んだ。

 フェンディの独占欲の一端が見える。

 ミカエルに手を出すなと、牽制されている気がした。

 だがわたしはミカエルの顔も知らない。


 それでも、自分がそれとは知らずに第一王子のアキレス腱に触れてしまったことはよくわかった。

 わたしを強欲で気の強い女だと思っているフェンディはそれを脅しと受け取ったらしい。

 二人が秘密にしている関係をわたしは知っている。だから、わたしに逆らうな――と言われていると感じたようだ。


 それを知って、わたしは眩暈を覚える。

 周りから自分がどんな人間だと思われているのか、考えるのが怖くなった。


(喧嘩を売ってやり込めたって何? 喧嘩なんて売っていないわよ!!)


 わたしは心の中で叫ぶ。

 ひどい誤解だ。

 せめて、そんな誤解は解きたい。


「わたし、喧嘩なんて売っていません」


 フェンディの言葉を否定した。


「喧嘩を売りたいと思ったことなんて、一度もないし、第二王子の派閥をやりこめてやろうなんて考えていません」


 ふるふると首を横に振る。

 とても心外だという顔でフェンディを見た。

 腹が立つより、凹んでしまう。

 自分の評価にショックを受けた。

 わたしはあまり他人の評価は気にしないタイプだが、だからってどう思われてもいいと割り切れるほど強くもない。

 出来るなら人には良く思われたかった。

 誰とでも仲良くしたいとも思っている。

 だが、周りのわたしの評価を聞く限り、それは難しそうだ。


「わかっていますよ、マリアンヌ」


 ラインハルトが慰めてくれる。


「貴女がそういう人でないことは知っています」


 優しい手が私の頬に触れた。

 撫でてくれる。

 そのまま肩を抱かれた。


「ラインハルト様がわかっていても、意味ないですよね? わたしは策略をめぐらせ、他人を脅してでも権力を欲する女だと思われているんですよね?」


 ラインハルトに問う。


「それは……」


 ラインハルトは言葉に詰まった。


「ラインハルト様はそういう噂があることを知っていたんですよね?」


 わたしは恨めしげにラインハルトを見る。


「知っていて、放置しているんですよね?」


 責めた。

 口を尖らせて、怒る。

 ラインハルトは困った顔をした。


「わたしがどれほど言葉を尽くして否定したところで、誰も夫である私の言葉は信じないでしょう。それなら、むきになって否定して火に油を注ぐより、噂が消えるまで静観するのがいいということになったんです」


 ルイスと相談したであろう結果をラインハルトは教えてくれる。


「その話、どうしてわたしにはしてくれなかったんですか? そういう相談をしたなら、教えてください。わたしのことなんですから」


 わたしは文句を言った。


「自分がどう思われているか知ったら、マリアンヌが傷つくだろうとルイスが心配したんだよ。平気そうに見えて、本当は人一倍、人のことを気にするからと」


 ラインハルトは言い訳する。


「いつ知っても傷つくんだから、一緒です。むしろ、覚悟がなかった分、ダメージは大きいです」


 わたしは恨めしげにラインハルトを睨んだ。


「マリアンヌ」


 ラインハルトはぎゅっとわたしを抱きしめる。

 背中を擦った。

 わたしはラインハルトに身を委ねる。


「お前たち、本当に仲がいいんだな」


 呆れたような声が聞こえて、わたしとラインハルトははっとした。

 ショックのあまり忘れていたが、フェンディはまだいる。


「ラインハルトが次期国王になるため、戦略として年の離れた頭の切れる女を妃に選んだという話も聞いたが、それは嘘のようだな」


 その言葉に、わたしはキッとラインハルトを睨む。

 そんな噂があることも隠していたのかと疑った。


「そちらの噂は私も初耳です」


 ラインハルトは否定する。


「今朝、妃が起き上がれなくなるほど可愛がられたという話も、政略結婚ならぬ戦略結婚であることを隠すためのフェイクだという噂も聞いたのだが。どうやら本当に可愛がられ過ぎて、起きられなかったようだな」


 フェンディはにやけた。

 わたしとラインハルトは赤くなる。

 からかわれているのだと、さすがに気づいた。


「フェンディ様って意地悪ですね。そういう意地悪を言うと、わたしも……」


 言いかけて、口を噤む。


「ミカエルのことをばらす、か?」


 フェンディは問うた。


「言いません」


 わたしは首を横に振る。


「言ったら、フェンディ様だけでなく、ミカエル様も困るでしょう? わたし、ミカエル様とは仲良くなりたいんです。お米を作っている人ですもの。今後も米を融通していただくつもりでいますから」


 わたしの言葉に、フェンディはきょとんとした。


「本当に、米が食べたいだけなんだな」


 呟く。


「最初からそう言っています」


 わたしは頷いた。


「わかった」


 フェンディは笑う。


「今度、ミカエルをここに連れてこよう。米のことは直接、頼めばいい」


 その言葉に、わたしは目を輝かせた。


「本当ですか?」


 確認する。


「ああ」


 フェンディは頷いた。


「約束ですよ。忘れないでくださいね」


 わたしは微笑む。

 にやけてしまった。

 定期的に米が手に入るなら、こんなに嬉しいことはない。

 だがそんなわたしの隣で、ラインハルトは渋い顔をしていた。


「兄上、何を企んでいるのですか?」


 尋ねる。


「何も企んでなどいないよ。ただ、私にも事情を知っている人間がいる場所があるのは都合がいい。ここなら私のミカエルに手を出すような人間も近づかないだろう。滞在させるのもちょうどいい」


 フェンディは堂々と答えた。

 都合よく、この離宮を使うつもりでいる。


「それくらい、いいではありませんか。わたしもお米の話をしたいので、ミカエル様なら歓迎します」


 わたしは頷いた。


「マリアンヌ」


 ラインハルトは頭が痛い顔をする。


「ミカエルが来るときは、もれなく兄上も来るつもりでいるのだよ」


 わたしに説明した。


「それは……、ちょっと不味いですね?」


 ラインハルトに聞く。


「かなり面倒なことになりそうだね」


 ラインハルトは頷いた。

 突然、今まで疎遠だった兄弟の間に親交が生まれたら、いろいろ勘ぐられるだろう。

 だが、兄には何を言っても無駄なことはわかっていた。

 わが道を行き、曲げない。

 ラインハルトはため息を漏らした。






いろいろ勘ぐられているのです。

それが王宮……。

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