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その他大勢のわたしの平穏無事な貴族生活  作者: みらい さつき
第三部 第三章 妃になりました。
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結婚

やっと妃になります。





 王宮に着くとたくさんの人に出迎えられた。

 今まではそんなことなかったので、驚く。

 自分の身分が変わったことを露骨に感じた。

 今日からわたしは王子の妃として扱われるらしい。

 正式に王族として扱われるようになるのは結婚式の後からだと聞いていたので、油断していた。

 対外的にはそうだとしても、王宮内では違うらしい。


「笑顔」


 顔が引きつっていたわたしにルイスは囁いた。

 笑えと言われる。

 とりあえず、わたしは笑みを浮かべた。

 それだけで乗り切る。

 ルイスについて歩き、その場をそそくさと後にした。


「あの人たち、何のためにあそこにいたの?」


 わたしは歩きながら小声で尋ねる。


「歓迎の意を示したんですよ」


 ルイスは答えた。


「ふーん。多いのか少ないのかいまいちわからない人数ね」


 わたしは呟く。

 結構な人数がいたように思うが、城で働く人数を考えると多くはないだろう。


「とりあえず、手が空いている者が並んだということでしょう」


 ルイスの言葉にわたしは納得した。

 そのまま王の間に向かう。

 ラインハルトは先に王の間に入っているはずだ。

 今日の段取りはルイスから聞かされている。

 わたしの知っている教会での挙式とあまりかわらなかった。

 新郎が待つところに新婦が入っていき、神様にではなく、国王に愛を誓う。

 指輪は交換ではなく、わたしだけが貰う形だ。

 ラインハルトの紋章が入った指輪を左手の中指に嵌めて貰う。

 ラインハルトは元々、自分の指輪を左手の中指にしているのでお揃いになる。

 ちなみにこの指輪は子供が生まれたら子供にも与えられるそうだ。

 夫婦の証というよりは、家族の証らしい。

 ラインハルトも16歳までは父である国王の紋章の指輪をしていた。

 成人した16歳の時にそれを自分の紋章の指輪と交換したらしい。

 それが王族の成人の儀式のようだ。

 普通の貴族も成人した男性は家紋が入った指輪を中指にするものだが、女性や子供にはその習慣はない。

 女性や子供も紋章入りの指輪をするのは王族だけの慣習だ。

 ルイスからいろいろ教えてもらったが、王族には独自の慣習が意外と多い。

 すごく面倒くさいが、慣れるしかないと諦めていた。


 王の間の前で、ルイスは立ち止まる。

 わたしに道を譲った。

 わたしはルイスの前に立つ。

 ルイスは合図を送った。

 音楽が鳴り、扉が開く。

 ファンファーレが恥ずかしかった。

 結婚式で鳴り響くパイプオルガンの曲みたいなものだと、その大仰な音をわたしはスルーすることにする。

 ラインハルトが振り返った。

 正装しているラインハルトを初めて見る。


(王子様だ)


 当たり前だが、そう思った。

 キラキラ感が半端ない。

 前世で子供の頃に読んだ絵本の中から抜け出てきたようだ。

 そんな人と自分が結婚するのが、不思議でならない。


(その他大勢のわたしで良かったのかな?)


 今さらだが、少し怖気づいた。

 周りから注がれる視線も、なんだか痛い。

 予想以上にたくさんの人がそこにいた。


(これ、結婚式ではないんだよね?)


 わたしの感覚では十分結婚式の規模だが、本当の挙式はもっとずっと大掛かりなものらしい。

 今日は集まっているのは王族と重臣たちだけだと聞いた。

 子供の姿がちらほら見えるのは、王子たちの子供かもしれない。


 わたしは真っ直ぐ、ラインハルトへと向かった。

 ラインハルトは嬉しそうに微笑んでいる。

 手を差し出した。

 そこにわたしは手を置く。

 ラインハルトに手を引かれて、歩いた。

 国王の前に進む。

 二人で国王に愛の言葉を誓った。

 ちなみに、誓いのキスなんてものはない。

 ただ、宣誓するだけだ。

 そして妻となった証として、ラインハルトの紋章が入った指輪をラインハルトが嵌めてくれる。


 さすがにそのあたりではわたしもテンションが上がった。

 結婚式とかには興味がないつもりでいたが、こだわる女性の気持ちがわかる。

 一生に一度の晴れ舞台なら、思い出に残るものにしたいと考えても許される気がした。


 無事に結婚は承認され、わたしはラインハルトの妻になる。

 ラインハルトと腕を組んだ。

 これからは、どこに行く時もこうしてラインハルトと腕を組んで歩くことになる。


 この一週間、この瞬間のために頑張ってきたので、わたしは達成感でいっぱいだ。

 緊張が解け、自分が緊張していたことに気づく。

 どうやら、緊張していたことにも気づかないほどわたしは緊張していたようだ。


「この後は大広間でパーティですよね?」


 ラインハルトと二人、王の間から退室しながらわたしは尋ねた。

 昼食を兼ねたパーティが大広間で開かれると聞いている。


「その通りだが、私たちは出ないよ」


 ラインハルトは答えた。


「え?」


 わたしはきょとんとする。


「新郎新婦はパーティに出ないのが慣習だ。私達はこのまま自室に向かって、二人で篭る」


 ラインハルトの説明に、考えるより先に口が動いてしまった。


「どうしてですか?」


 問うてから、失敗したと気づく。


「理由を聞きたいですか?」


 ラインハルトはにやりと笑った。


「……いえ、大丈夫です」


 わたしは首を横に振る。

 そんなの、聞くまでもなかった。

 王族にとって、最優先なのは王子の誕生だ。

 パーティで愛嬌を振りまく暇があるなら、子作りに励めということだろう。

 合理的と言えば、合理的だ。


(でも、まだ昼前なのに……)


 わたしはなんとも微妙な気分になる。

 逃げたくなった。

 それに気づいたのか、ラインハルトは組んでいた腕を解いて、わたしの手を握る。


「散々待ったので、これ以上待つ気はありません」


 先手を打たれた。


「……はい」


 わたしは頷く。


「でもその前に、ご飯が食べたいです」


 朝食も食べていないことを説明した。

 正直、お腹はペコペコだ。


「それくらいは待ちますよ」


 ラインハルトはくすくすと笑いながら、頷いた。





どのくらいまで書いて許されるのだろう。

全年齢。^^;

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