相談
さらっと流すはずが流せませんでした^^;
わたしとルイスは王宮に向かった。
馬車に揺られながら、こうしてルイスと一緒に王宮に向かうのは初めてだと気づく。
なんだか不思議な感じした。
「ルイスは何でこんなにもラインハルト様に尽くせるの?」
ふと、気になっていることを口にする。
今回の結婚について、ルイスはあまりにも頑張ってくれていた。
わたしの教育係まで買って出てくれる。
他にもたくさん仕事をしているだろう。
普通に考えて、結婚式の準備も担当していそうだ。
仕事の負担は半端ないと思う。
それだけ頑張れる理由を知りたいと思った。
「主に尽くすのは臣下の役目でしょう?」
ルイスらしい言葉が返ってくる。
だがその主は誰でもいいはずがない。
ラインハルトだから頑張っているのだ。
「わかった、質問を変えるわ。何故、ラインハルト様だったの?」
わたしは聞き直す。
「何故でしょうね」
ルイスは呟いた。
誤魔化したのではなく、自分でも不思議なようだ。
「自分の主になるのだと紹介された子供の時、ラインハルト様に仕えるのが当然のことだと感じたのです。今もその気持ちは変わらないし、あの人を国王にするのが自分の役目だと思っています。だから無事に結婚してもらいたいし、マリアンヌには早く王子を生んでいただきたいと思っています」
真顔で圧を掛けられた。
(おっと。やぶ蛇だった)
わたしは心の中で苦笑する。
「その件に関しては、鋭意努力しますとしか言いようがありません」
小さく頭を下げた。
それ以上の会話は拒否されている感じがしたので、わたしは黙り込む。
ルイスも黙っていた。
馬車の中には沈黙が続く。
だが不思議と気まずくなかった。
互いに干渉しないのが、むしろ心地良い。
(わたしとルイスの関係って不思議)
そう思った。
仲間というのとは少し違う。
例えるなら、敵の敵は味方って感じだ。
わたしたちには共通の敵がいる。
その敵に立ち向かうことがわたしとルイスの間に絆を作っていた。
従兄弟なのだが、親戚という感じはあまりない。
あくまで、ラインハルトの側近という立場にルイスは立っていた。
これがアルフレットだと逆になる。
親戚のお兄さん感が凄くあった。
だからマルクスの側近であるアルフレットには違和感を覚える。
(同じ兄弟でもこうも違うのね)
そんなことを考えていると、城の門が見えてきた。
久しぶりに見たら、なんだか懐かしい気がする。
それをポロっと口にしたら、今後はここが自分の家になるのだからそれでいいのだとルイスに言われた。
(そうか。これからはここが自分の家になるのか)
そう思ったら、少し気が重くなる。
肩にどどんと何かが乗っかってきた。
「胃が痛くなってきた」
お腹を押さえる。
「今からそんなことでどうするんです?」
ルイスに叱咤された。
「そんなこと言われても。基本的にわたしは小心者なんです」
反論する。
「それは気のせいです。小心者は壇上で相談もなく勝手なことをしたりしません」
ルイスは否定した。
お妃様レースの表彰式のことを持ち出される。
(まだ根に持っていたのか)
またやぶ蛇になりそうなので、わたしは黙ることにした。
城に入り馬車を降りる。
わたしはルイスに連れられてラインハルトのところへ向かった。
「そういえば、大丈夫だったんですか?」
何がかは言わずに問う。
昨日のことを聞いた。
「誰に聞いているのです?」
ルイスは自信たっぷりな顔をする。
「愚問でした」
わたしは質問を取り下げた。
ルイスに抜かりがあるはすがない。
ルイスはドアの前で立ち止まった。
そのドアにはわたしも見覚えがある。
王子の部屋のドアだ。
トントントン。
ノックして、ルイスは返事を待つ。
「どうぞ」
ラインハルトの声が聞こえた。
ドアを開けると、昨日より3割り増しキラキラしている王子様がいる。
とても機嫌がいいようだ。
ラインハルトに勧められて、わたしはソファに座る。
隣にラインハルトが来た。
無言でわたしの手を握る。
向かい合わずに横に並ぶのは手を繋ぎたいからだ。
わたしもすでにそのくらいのことでは動じなくなっている。
二週間ぶりの対面ということになっているので、昨日、王都に戻ったことなどを報告した。
「元気そうで良かった」
昨日も会ったのに、それをまるごとなかったことのようにラインハルトは振舞う。
「ラインハルト様もお元気そうで良かったです」
わたしもその芝居に乗った。
この二週間何をしていたのか聞かれ、父やシエルと過ごしたことを話す。
「久しぶりにのんびりさせていただきました」
ラインハルトに礼を言った。
ラインハルトは頷く。
「ルイスから今後の日程は聞きましたか?」
問われて、わたしも頷いた。
「一週間後に結婚、二ヵ月後に挙式と聞きました」
聞いたままを答える。
ちなみにこの場合の結婚は、籍を入れる云々ということではない。
そもそも戸籍というものがないので、入籍という考えもなかった。
では何を持って二人が夫婦になったとするのかというと、王族の場合は国王への宣誓だ。
今日から夫婦になりますと国王の前で宣誓し、国王が認めたら結婚が成立する。
それが一週間後で、今日はその日程を国王に報告し、許可を得るそうだ。
もちろんこれは形式的なもので、日程を決めているのは王族側だし、国王の許可は一番最初に取っている。
こんな茶番的なやり取りが今後はたくさん増えるようだ。
「日程も式の内容も王家のしきたりに則った形になるので、マリアンヌの要望を何一つ汲むことが出来ないことを申し訳なく思っています」
ラインハルトに謝罪された。
だが、わたしは気にしていない。
「別に要望は何もないので大丈夫です」
答えたら、ラインハルトは目を丸くする。
「女性は皆、結婚式に夢があるものではないのですか?」
問われて、わたしは悩んだ。
「どうでしょうね? わたしはわりと面倒だなって思う方なので、何もしなくていいならそれはそれで楽だなと思いましたけど。夢や希望を持っていたら、何も思い通りにならないのは寂しいかもしれませんね」
答えると、ラインハルトはくすくすと笑い出した。
「マリアンヌは本当に、私の予想を悉く裏切るね」
楽しげな顔をされる。
「他人のことなんて予想できるわけがないんですよ。人は自分の心さえ理解出来ないことがあるのに、他人の考えていることがわかるわけないでしょう?」
わたしの言葉にラインハルトは頷いた。
「本当にそうだね。人の心は難しい」
複雑な顔をする。
「……何かありました?」
ラインハルトが一瞬、何か言いたげに口を動かしたような気がした。
「実は兄上とマリアンヌのことが噂になっている」
ラインハルトは渋い顔をする。
わたしがマルクスを唆して、田舎町に追いやったと噂になっているらしい。
夫の王位継承の邪魔になるマルクスを王宮から排除したということのようだ。
「なるほど。そっちですか」
わたしは呟く。
マルクスの件で何かしら言われることは最初からわかっていた。
わたしの故郷で、わたしの土地を借りてマルクスが住むのだ。
何か策略を巡らせたと疑われるのは十分、ありえる。
だがわたしは別パターンの方を予想していた。
「わたしがマルクス様を誑かしたと言われるかと思っていたのですが、それだとマルクス様にも傷がつくから駄目なんですね」
一人で納得していると、ラインハルトは戸惑った顔をする。
「驚かないんだな」
苦笑した。
「ラインハルト様だってパーティーから戻った時、わたしが何かしたのかと疑ったじゃないですか。そう思うのが普通なら、わたしが何かしたと言われるだろうと思っていました。誑かしたと言われる方が厄介だったので、唆した方で良かったです」
わたしはほっと息を吐く。
「どうするつもりですか?」
ルイスは静かに尋ねた。
「これから考えます」
わたしは答える。
「要は、王宮を離れることがマルクス様の不利益でなければいいわけでしょう? 国益のために農作物や花の品種改良を進めるとでも言っておけばいいんじゃないですか?」
思い付きを口にした。
「それをランスローで行わなければならない理由は?」
ルイスは尋ねる。
それは十分に想定される質問だ。
わたしはにやりと笑う。
「気候、土地柄。協力者である農民たちの存在。そして何より一番重要なことは、ランスローはその研究に関して権利を一切主張しません。他の貴族の方々が同じ条件で協力してくださるなら、手を挙げてもらえばいい。その中からマルクス様に選んでもらえばいいんじゃないですか?」
わたしの提案をルイスは気に入ったようだ。
「では、その方向で話を詰めましょう」
頷く。
さっそく、マルクスと話をするために出て行った。
それを見送ったラインハルトは少し不安な顔をする。
「それでは兄上は本当に品種改良をしなければならなくなるのではないか?」
マルクスが困るのではないかと心配した。
「してもらえばいいじゃないですか」
わたしは簡単に言う。
「品種改良って、同じ作物の中でも暑さに強い個体、寒さに強い個体があるから、それを選別して強い個体同士を交配させて、より暑さに強い個体や寒さに強い個体を作りましょうってことでしょ? 普通に農作物育てるのとたいして手間は変わりませんよ。農家の中にもそういうのをやっているところもあります。それに大義名分と品種改良という大仰な名前をつけるだけです」
この世界には遺伝子レベルで品種改良するような専門的な施設はない。
それはつまり、品種改良なんて大層な言い方をしても、やれることは人工的に受粉する程度ということだ。
素人でも十分可能だろう。
マルクスならノリノリでやってくれるかもしれない。
そういうのが好きなタイプだとわたしは思っている。
ちなみにわたしも好きで、自分の畑でちょっと試したりしていた。
「マルクス様がそれに乗るかどうかはルイスの返事を待ちましょう」
わたしはラインハルトを元気付けるように優しく微笑む。
「そうだな」
ラインハルトは頷いた。
無駄に長くなってしまいました




