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その他大勢のわたしの平穏無事な貴族生活  作者: みらい さつき
第三部 その他大勢のわたしの平穏無事ではない後宮生活  第一章 再び、王都へ
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内緒

秘密ってほどでもないので、内緒です。





 父との話を終えて部屋を出ると、わたしの部屋の前でセバスが待っていた。

 父の部屋から出てきたわたしに気づき、向こうから声を掛けてくる。


「マリアンヌ様。ルイス様がお帰りになられました」


 ルイスの帰宅を教えてくれた。


「それはわたしに会いたがっているということかしら?」


 セバスに尋ねる。


「はい。こちらへどうぞ」


 案内するセバスについていった。

 何故か居間には向かわず、わたしが行ったことのない方向へ歩いて行く。


「わたしはどこに向かっているのかしら?」


 訝しく思い、尋ねた。


「こちらには貴賓室がございます」


 セバスは多くを語らず、ただそう答える。

 わたしはなんとなく事情を察した。


「そう」


 ただ頷く。

 セバスは少し先の通路を右に折れた。

 そこから先は通路そのものが豪華だ。

 装飾が凝っている。

 重厚な感じのドアには叩くためのわっかのようなものがついていた。


(これ、見たことがある。なんて言うんだっけ)


 前世のTVで見たことがあるな~なんて考えながら、セバスがそのわっかを掴んでドアをノックするのを眺める。

 返事の代わりにドアが開いた。

 ルイスが顔を出す。


「マリアンヌ様をお連れしました」


 セバスが告げた。


「では、マリアンヌだけ中へ」


 促され、わたしは一歩横に引いて軽く頭を下げているセバスの前を通り過ぎた。

 部屋の中に入る。

 そこには予想通りの人物がいた。


(貴賓室ってことはそういうことよね)


 わたしは心の中で納得する。

 いかにも高そうな椅子に座って、にこにこと微笑んでいるラインハルトを見た。


「王子様というのは、こんな風にポンポンと好き勝手に城を出て自由に歩き回っていいものなのですか?」


 尋ねる。


「もちろん、駄目です」


 ルイスは即答した。


「もっときつく叱ってください」


 わたしに頼む。

 そういうルイスが止めればいいのに。――そう思ったが、止めていないはずがない。

 無理だったのだろう。

 やれやれという顔をしていた。


「二週間ぶりに会ったのに、つれない挨拶だな。私は元気な顔を見るまでは安心できなくて、じっとしていられなかったというのに」


 ラインハルトは拗ねる。

 わたしはふっと笑った。


「もちろん、わたしも会いたかったですよ」


 囁く。


「ラインハルト様も元気そうで何よりです」


 にこやかに微笑んだ。


「ルイス」


 ラインハルトはルイスを呼ぶ。


「駄目です」


 言われる前に、ルイスは断った。


「まだ言っていない」


 ラインハルトはムッとする。


「席を外せというのでしょう? 外しません」


 ルイスは首を横に振った。


「5分だけ」


 ラインハルトは強請る。


「嫌です」


 ルイスは冷たく言い放った。


「そうか。では、そこにいても構わない」


 ラインハルトはそう言うと、椅子から立ち上がる。

 そのままわたしに近づいてきた。


(え?)


 突進してくるとは思わなかったので、驚いて固まってしまう。

 逃げ損ねた。

 ラインハルトに抱きしめられる。


「元気そうで良かった。会いたかった」


 耳元で囁かれた。

 自分の顔が赤くなるのが見なくてもわかる。


(恥ずかしさで死ねるっ)


 オタオタした。

 嬉しいけど恥ずかしい。

 同時に、ルイスの視線が気になった。


「ラインハルト様」


 困ったように名を呼ぶ。

 腕の中から逃げようとした。

 だが、がっちり腰をホールドされて逃げられない。

 わたしはじたばた暴れた。


「ルイス」


 ラインハルトはもう一度、呼ぶ。


「……5分だけです」


 ルイスはわざと大きなため息をついた。

 部屋を出ていく。

 ドアがパタンと閉まる音が聞こえた。

 わたしは暴れるのを止める。


「苦しいので、腕を……」


 少し緩めてくれと頼もうと開いた口は、直ぐに塞がれて意味がなかった。

 二週間分だと言いたげに、いつも以上に執拗で濃厚なキスが続く。

 トントントン。

 5分経ったとルイスがノックする音が響くまで、ラインハルトは唇を離してくれなかった。

 ようやく離れた唇にわたしはほっとする。

 だが、唾液が銀の糸を引いた。

 慌ててわたしは唇を拭う。

 恥ずかしくて、逃げたくなった。

 そんなわたしにムラッとしたらしいラインハルトがもう一度キスをしようとする。

 わたしは抗った。

 そこにもう一度、ノックの音が響く。


「入りますよ」


 宣言する声も聞こえた。


「……」


 ラインハルトは不満そうな顔をしながらも、わたしから離れる。

 見せつける趣味はないようでほっとした。

 わたしも少しラインハルトと距離を取る。

 少し待った後、ドアが開いてルイスが入ってきた。

 わたしとラインハルトの間に距離があるのを見て、満足な顔をする。


「さて。マリアンヌの元気な顔が見られたので、安心したでしょう。騒ぎになる前に城に戻りましょう」


 ルイスはラインハルトを促した。


「本当に抜け出してきたんですか?」


 わたしは驚く。

 一応、許可を取って出てきたのだと思っていた。


「外出許可の申請時間は終わっているんです」


 ラインハルトではなくルイスが答える。

 時間外の申請は出来ないようだ。


「私にはマリアンヌと会えない二週間はとても長く感じたが、マリアンヌはそうでもないようだな」


 ラインハルトはむっかりと怒る。

 わたしは内心、ギクッとした。

 実はこの二週間、わたしはかなりのんびりし、穏やかな日常を満喫した。

 シエルともたくさん一緒に過ごしたし、家族三人で出かけたりもする。

 なかなか充実した日々で、あっという間に過ぎてしまった感じがしていた。

 ちょっと後ろめたい気持ちになる。


「そんなことないですよ」


 わたしはラインハルトの機嫌を取った。


「ただ、城を抜け出すのはいかがかと思います。呼ばれたら、わたしの方から明日、伺いましたのに……」


 やんわりと責める。

 それに関してはラインハルトも後ろ暗い気持ちがあるらしい。

 気まずい顔で黙り込んだ。


「また明日、今度はわたしから伺います」


 わたしは約束する。

 だから帰れと促した。

 ルイスもラインハルトを促す。

 ラインハルトは渋々、頷いた。


「わたしは見送らない方がいいですよね?」


 わたしはルイスに確かめる。

 ルイスは頷いた。


「では、お見送りはドアのところまでで」


 わたしは部屋のドアのところまで一緒に歩く。

 自分からラインハルトと手を繋いだ。

 ラインハルトはちょっと驚いた顔をする。


「わたしはちゃんと約束を守って、王都に来ましたよ。何がそんなに不安なんですか?」


 ラインハルトに問うた。


「不安なわけではない。ただ……」


 ラインハルトは言葉に詰まる。

 わたしはそれ以上、尋ねなかった。


「また、明日」


 ただそう言う。


「ああ、明日」


 ラインハルトは頷いた。

 ドアのところで、わたしは手を離す。

 ラインハルトは顔を寄せてきた。

 触れるだけのキスをして、何もなかったように歩き出す。

 ルイスは何も見ていない顔をした。




好きって気持ちで突っ走るラインハルトってかわいいと思います。

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