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その他大勢のわたしの平穏無事な貴族生活  作者: みらい さつき
第二部 第五章 結婚?!
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提案

みんながwin-winな関係が理想です。





 アークがマルクスを送り届けてくれたのは夕方近かった。

 わたしやアルフレットが二人を心配して、迎えに行こうかどうか話しているところに帰ってくる。

 やきもきしていたわたしたちとは裏腹にマルクスは機嫌が良かった。

 楽しかったようで、にこにこしている。

 マルクスが喜んでくれたのならまあいいかとわたしやアルフレットが思っていると、予想もしていないことをマルクスが言い出した。

 この辺りに家と土地を買い、別荘にすると言う。

 それには父も驚いた。

 父の領内なので当然、父の許可が必要だ。

 勝手なことをされると、例え王子でも困る。

 マルクスももちろんそれは知っていた。

 そのことで相談したいと父に持ちかける。

 父はとりあえず話を聞くことにした。

 マルクスを書斎に招く。

 アルフレットはマルクスについて行った。

 わたしは迷った末、送ってきたアークの方から話を聞くことにする。


「どういうことなの?」


 尋ねると、アークは少し困った顔をした。

 状況を説明してくれる。

 どうやら、マルクスは畑で野菜を育ててみたいらしい。

 一年の半分くらい滞在する予定で、小さな家と畑を買うつもりのようだ。

 留守の間はアークが畑の管理をするらしい。

 家にはアークが住み、管理人を兼ねるそうだ。

 話を聞く限り、無謀な計画ではない。

 農業で生計を立てるわけではないから、畑はそんなに広くなくてもいい。

 家も大きな屋敷ではなく、こじんまりとした家を探すつもりのようだ。

 普段はアークが一人で住むそうで、基本的に使用人は置きたくないという。

 アルフレットが人のえり好みが激しい人だと言っていたのを思い出した。

 他人を自分のスペースに入れたくない人なのだろう。

 料理も出来れば料理人を雇わず、自分で作ってみたいそうだ。

 そうなると、経費はそれほどかからない。

 王子のポケットマネーで十分、足りるのだろう。

 ただし、一年のうち半分もこんな片田舎に住むことができるほど王子が暇なのかどうかはわたしにはわからない。


「なんか、地に足がついている話ね」


 わたしはちょっと感心した。

 王子が思いつきで計画したのだと思ったが、そういう感じではない。

 もしかしたら、いつかそういう生活をしてみたいとずっと温めていた案かもしれないと思った。


「なんか、似ているんですよね」


 アークは笑う。

 意味深な顔をした。


「もしかして、わたしに?」


 尋ねると、アークは頷く。


「自分で野菜を育てたり、それを調理したいとか。何でも知りたがり、何でも自分でやりたがるところとか」


 そう言われると、否定出来なかった。

 わたしも他人事には思えなくなってくる。


「そんなこと言われると、協力したくなってしまうわ」


 わたしは困った。


「でも、話を聞く限りかなりアーク頼みのところが多くない? 畑や小屋の管理を頼んでいるわたしが言える話ではないけれど、アークの負担は大きいのではないかしら? 大丈夫なの?」


 心配した。

 マルクスの計画はアークが畑や家を管理してくれるから成立する話になっている。


「それがむしろ、助かるんです」


 アークは苦く笑った。

 実はアークにとってはかなり都合のいい話らしい。

 長男ではないアークはいずれ家を出なければならないそうだ。

 畑も少しは分けてもらえるが、大部分は長男が継ぐらしい。

 今は働き手が足りないから実家で実家の畑を手伝っていられるが、長男夫婦の子供たちが大きくなる頃には独立する約束だと聞いて、驚いた。


「そんな話、知らなかった」


 アークのことを何も知らなかった自分に気づく。

 知らずに、アークの都合も考えず優しさにただ甘えていた。

 なんて勝手だったのだろうと、自分が恥ずかしくなる。

 ちょっと凹んだ。


「こんな話、マリー様に話すことではないですから」


 アークは、わたしは悪くないと慰めてくれる。


「もしかして、シエルはそういうことも知っているの?」


 わたしが尋ねると、アークは小さく頷いた。


「アークを従者として時々雇うのって……」


 アークに独立の資金を貯めさせる為なのかもしれないと気づく。

 アークは黙って頷いた。


「わたしは何でも知っているつもりで、本当は何も知らなかったのね」


 前世から数えればかなりの年齢なのに、わたしはいつまで経っても未熟なままだ。


「そんなに落ち込まないでください。マリー様に言わないように口止めしたのは、オレですから」


 その言葉に、わたしはびっくりする。


「どうして?」


 問いかけた。


「知ったら、何とかしようと頑張ってくれたでしょう? でもオレはそれに甘えたくなかった。くだらない意地を張ったんです」


 アークの苦笑に、きゅんとする。

 好きな女に頼りたくないなんて、アークは格好良すぎた。

 でもわたしは、やはりアークのために何かしてあげたい。


「ちょっとした提案があるんだけど、聞いてくれる?」


 わたしはアークに自分の思い付きを話した。






 トントントン。

 わたしは父の書斎をノックした。


「どうした?」


 父の声が聞こえて、ドアを開ける。

 アークを連れて書斎に入った。


「お話中、失礼します。話は纏まりました? 纏まっていても、決める前に私の話もきいてもらえませんか?」


 父とマルクスに頼む。

 マルクスの後ろに立っていたアルフレットがわたしを見て微妙な顔をした。

 余計なことはしないでくれと言っているように見える。


(余計なことだったら、ごめんなさい)


 わたしは心の中で謝った。


「纏まるも何も。どうして家や畑が必要なのか、理由を聞いていただけだよ」


 父は答える。


「わたしもアークから話をちょっと聞いたんです。それで、提案したいことがあります」


 わたしの言葉に驚いたのはアルフレットだけだ。

 父はなんとなく察していたらしい。


「どうしますか?」


 マルクスに聞いた。


「とりあえず、聞かせてください」


 その言葉に、わたしはさっきアークに話したことをもう一度、繰り返す。


「マルクス様さえ良ければ、わたしの畑と作業小屋をお貸しします。売ることは出来ないので、あくまで貸すだけになりますが、作業小屋と畑の周りの空いている土地もわたしのものなので、そこに家を建てたければ建てても構いません。大きな屋敷は建てられませんが、普通の家なら十分建てられる広さはあります」


 わたしの言葉に、父はなるほどという顔をした。

 正直、マルクスのために適当な畑と家を手配するのは簡単ではないのだろう。

 安堵の表情が見えた。

 わたしはさらに言葉を続ける。


「もし、畑の面積が足りなければ、将来、アークが譲り受ける畑も貸してもらえるよう、交渉するつもりです。こちらは現時点で確約は出来ませんが。その場合、アークの土地代はアークに支払い、わたしの土地代はわたしにください。わたしはその中から畑や作業小屋の管理費をアークに支払います」


 わたしの説明を聞きながら、マルクスはアークを見た。

 アークは小さく頷く。


「なるほど。わたしとしては助かりますが、売らずに貸すだけなのは何故ですか?」


 マルクスは気になったようで聞いてきた。


「わたしに必要になった時は、返してもらうためです」


 その意味がわかっているアルフレットや父やアークは困った顔をする。

 だが、マルクスは意味がわからなかったようだ。

 説明する気がないわたしはそのまま流す。


「この提案には実は、もう一つメリットがあります」


 言いながら、アルフレットを見た。

 視線に気づいて、アルフレットは戸惑う。

 嫌な予感がするのか、渋い顔をした。


「わたしはマルクス様が一年の半分もこんな片田舎に引っ込んでいられる立場なのかどうか、正直、存じません。でも、誰もつけずにいらっしゃるのはさすがに無理でしょう。それなら、今回のようにアルフレットを連れてくればいいのです。我が家とわたしの畑までは徒歩で10分の距離です。滞在中、アルフレットは家に泊まって、時々、マルクス様の様子を見に行けばいいのではないですか? その時はついでにルークとユーリを連れてくれば二人も喜ぶし、マルクス様はご子息も連れていらっしゃるつもりのようだから、二人は遊び相手になるかもしれないですね」


 そして二人が来れば父も喜ぶだろう。

 最後の一言は口に出さなかった。

 だが父には伝わったようで、嬉しそうな顔をしている。


「なるほど。アークがそれで構わないのなら、私の方は問題ありません」


 マルクスはアークを見た。

 大丈夫ですとアークは頷く。


「ではそういうことで。詳しい話は明日、現地で直接土地の広さなどを確認しながら相談しましょう」


 父はマルクスに言った。


「そうですね」


 マルクスは頷く。

 話が纏まりそうで、わたしはほっとした。

 わたしが嫁いでも、我が家は賑やかになりそうだ。

 アルフレットと一緒にルークやユーリが来れば父やシエルも寂しくないだろう。

 我が家のためにもいい話だと、心密かにわたしは思っていた。





自分が嫁いだ後のことを実は心配していました。

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