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その他大勢のわたしの平穏無事な貴族生活  作者: みらい さつき
第二部 第五章 結婚?!
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小姑・ルイス

ルイスは出てこないのにタイトルは……





 アルフレットたちが家の中に入った後、シエルはわたしと父を見た。


「話はもう終わったの?」


 問われる。

 わたしと父は互いに顔を見合わせた。

 笑い合う。


「終わったような、終わっていないような」


 わたしは曖昧に首を傾げた。

 そもそも何を話したかったんだっけ?、と考える。

 父に結婚することをきちんと報告しなければと思ったような気がした。


(でもこういうのって、わたしの感覚だと夫が妻の父親に娘さんをくださいって頭を下げるのがパターンなんだよね)


 前世の常識が頭の中を過ぎる。

 だがラインハルトがそんなことをする必要はもちろんなかった。

 お妃様レースに参加する時点で王子との結婚を親は承諾した形になっている。


「冷静に考えたら、特別、話すこともない気がしてきたわ。結婚したからって、二度と会えないわけではないし里帰りが出来ないわけでもない……と思う。確認してはいないけど」


 わたしの言葉を聞いて、シエルは苦笑した。


「戻ってくるかもしれないしね」


 嬉しそうに言う。


「シエル」


 そんな弟を父は窘めた。

 わたしは笑う。

 その通りだと思った。


「王家に嫁ぐから、すごく大変なことになったって思ったけど。考えてみると、嫁ぐのはどこだろうと大変なのよ。生まれ育った家を出て、昨日まで他人だった人と家族になるんだもの。習慣が違ったり、考え方が違っても当然よね。人は一人一人みんな違う生き物なんだから」


 そう思ったら、なんだか気が楽になってきた。

 上手くいかないのが普通だし、きっと大変なこともある。

 だがその他大勢のわたしに出来ることなんて高が知れているだろう。

 悩んでも迷っても、その高が増えるわけではない。


「駄目なときは駄目で仕方ないって思えてきたわ」


 開き直ったわたしに父は苦笑した。

 そういえば、駄目な時は別れればいいんだから一度くらい結婚してみればいいのにと前世ではよく言われた。

 みんな上手くいかないことを前提で結婚を勧めてくる。

 上手くいかないってわかっているなら、初めからチャレンジする必要なんてないだろうとあの時のわたしは思った。

 結婚するより、離婚する方が大変なことも知っている。

 だが今なら、あのお勧めの意味がわかる気がした。

 結婚はしてみなければ、上手くいくのかいかないのか、本人たちにだってわからない。

 わからないから、チャレンジするのかもしれない。


(なんというか、前世でやらずに逃げてきたことを今生でやり直させられている気分)


 自分が前世の記憶を持っている理由はこれなのかと、ちょっと思ってしまった。

 恋愛から逃げ、結婚からも逃げ、一人で気楽に好きなことだけして前世は生きた。

 それが出来る時代だった。

 女が一人でも、生きていけなくは無い。

 わたしはわたしなりに幸せであったが、そのために手に入らなかった幸せももちろんある。

 今生は前世ではいらないと捨てた幸せを全て拾わなくてはいけないようだ。


(正直、面倒くさい)


 心の中でぼやく。

 恋愛は自分だけで完結しないから、大変だ。

 とても疲れる。


「私はマリアンヌが幸せなら、それでいいよ。一人で生きていくことが心配なだけだから」


 父の優しい言葉に、わたしはうるっとした。


「父様」


 甘えるように抱きつく。

 優しく父は抱きしめ返してくれた。


(実家が居心地良すぎて、出て行きたくない)


 心の呟きは心の中だけに仕舞っておく。

 今生は逃げないことをわたしは心に誓った。






 お茶の準備が出来たと、メイドは庭までわたしたちを呼びに来てくれた。

 わたしたちはお茶が用意されている居間に向かう。

 アルフレットとルークはすでに居間にいた。


「そういえば、マルクス様は残してきて大丈夫だったの?」


 アルフレットに尋ねる。

 護衛として離れて見守ると言っていたのに、置いてきては不味いのではないかと今さら思った。


「終わったら、アークがここまで送ってくれるというので任せてきた。マルクス様が楽しそうにしていたので、邪魔するのも忍びなくてな」


 アルフレットは答える。


「アークを気に入ってもらえて、良かったわ」


 わたしが微笑むと、アルフレットも頷いた。


「意外と人のえり好みが激しい人なので、実は心配していたんだ」


 思いもしないことを打ち明けられる。


「あんなに穏やかな優しい人なのに?」


 わたしは驚いた。


「穏やかで優しいけれど、頑固な時は頑固だし、嫌いな人間は側に近づけもしない」


 アルフレットは教えてくれる。

 それを聞いて、わたしはなんとも微妙な気持ちになった。

 わたしの中のマルクスのイメージと合わない。


「わたしには最初から親切で、優しかったけど……」


 小さく首を傾げた。


「それが特別なのだ。正直、ランスローに行くと言い出した時は驚いた。気に入っているとは思ったが、まさか領地まで追いかけて行くほどとは……」


 アルフレットはしみじみと呟く。

 わたしは困った。


「わたしを気に入ったのではなく、わたしが話したランスローに興味を持ったのでしょう。わたしのことは園芸仲間くらいにしか思っていないと思います」


 言い訳がましいことを言う。


「そんなことはわかっている」


 アルフレットは当たり前の顔でわたしを見た。


「マルクス様は基本的に女性は嫌いなのだ。母君とお妃様で懲りている。女性とはメイドであっても口をきくことは少ない」


 その言葉に、わたしは驚く。

 そんなこと誰も教えてくれなかった。

 国王にマルクスとの結婚を勧められたことを思い出す。

 あの時はラインハルトの代わりに宛がわれたのだと思ったが、本当の理由はこちらの方だったのかもしれない。


「もしかして、ラインハルト様がやたらとマルクス様のことを気にしていたのって、女性嫌いのマルクス様がわたしとは普通に話をするせいかしら?」


 恐る恐るわたしは尋ねた。


「まあ、そうだろうな。マルクス様がマリーを気に入ったのは確かだろう。女嫌いを返上するほどマリーのことを気に入ったのか、マリーを女性の枠に入れていないのか、どちらなのかは私にもわからないが」


 わたしとアルフレットの会話を聞いていたシエルがやれやれという顔をする。


「相変わらず、変な感じにモテているね、姉さんは」


 ため息を吐かれた。


「いいえ。女性の枠に入っていないだけだと思うわよ。……たぶん」


 言いながら、自分の立場の不味さに気づく。

 そんなわたしをアルフレットは気の毒そうに見た。


「まあ、マルクス様がラインハルト様のものに手を出すことはない。あの方は自分のものをラインハルト様に譲ることはあっても、ラインハルト様のものを自分のものにすることは絶対にない。もしかしたら、マリーと普通に話すのはラインハルト様の妻になるからかもしれないな」


 アルフレットの言葉はわたしには少し意外に思えた。


「マルクス様とラインハルト様ってそんなに仲がいいの?」


 三人の王子はそれぞれ母親が違う。

 仲が悪いという話は聞いた事はないが、仲がいいとは思っていなかった。

 次期国王を狙うライバルとして、少しバチバチしていることを想像する。


「ラインハルト様には同母のご兄弟がいらっしゃらないからな。マルクス様は生まれた時からラインハルト様のことを可愛がっていらっしゃる」


 アルフレットは教えてくれた。

 そう言えば、二人はちょっと年が離れている。

 ラインハルトが生まれた時にはマルクスはそれなりに大きかったはずだ。

 自分の意思で自分の行動を決定することが出来たのだろう。

 わたしがなるほどと感心していると、アルフレットは苦く笑った。


「こういう話、ルイスとはしないのか?」


 問われる。

 今、アルフレットが教えてくれたことはルイスだってもちろん知っていた。

 わたしがルイスに聞いても良かったし、ルイスが気をきかせてわたしに教えてくれても良かったのだろう。

 だがこういう話をルイスとする機会はない。


「ルイスとは何故かバチバチした感じになるのよね」


 わたしはため息をついた。

 決して、仲が悪いわけではない。

 ルイスが味方であることはわかっているし、仲よくしたいと思ってもいた。

 だが口を開くと、何故かバチバチしてしまう。


「まあ、ルイスはラインハルト様を何より大事にしてきたからな。そのラインハルト様を取られるのは面白くないのかもしれない」


 アルフレットは困った顔をした。


「それって、小姑・ルイスってこと? わたし、ルイスとラインハルト様を取り合って、勝てる気は1ミリもしないんだけど……」


 私は凹む。


「いや、マリーがラインハルト様の利益を損なう行動をしなければ大丈夫だ。アイツにとって、ラインハルト様の結婚は最大の難関だったからな。結婚が決まったことにはほっとしているだろう。今は王子を産んでもらい、その王子の教育を自分がすることを楽しみにしていると思うぞ」


 上手に付き合えとアルフレットは励ましてくれた。

 だが、それは全然励ましになっていない。


「今、まだ生まれてもいない息子の教育問題がすでに勃発している気がしたんだけど、気のせいかしら?」


 わたしは青ざめた。


「それは、まあ……」


 アルフレットは言葉を濁す。


「頑張れ」


 ただ、そう言った。


「……頑張れない」


 わたしはがっくりと肩を落とす。


「大丈夫だよ、姉さん。僕がついている」


 手を握ってそう言ってくれるシエルはやはり天使に違いないと思った。





ルイスが小姑であることが発覚しました。

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