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閑話:親子でぎゅー

三つ目です。




 ルークとユーリは楽しそうに野菜を収穫していた。

 ジェームスおじいさんが二人の相手をしてくれている。

 頼まれたわけでもないのに、自ら子供たちの相手を買って出てくれた。

 シエルは任せて身を引く。

 アルフレットと二人、少し離れたところから子供たちを見守っていた。

 子供たちはきゃっきゃっと楽しげな声をあげている。

 アルフレットはその光景に目を細めながら、ちらちらとマルクスのことも気にしていた。

 マルクスは少し離れたところにいる。

 姿は確認できるが、何を話しているかは聞こえない。

 だが、楽しそうなのはわかった。

 アークにいろいろ聞いているようだ。

 アークは付きっ切りでマルクスの相手をしている。

 事細かに世話を焼いているのが見えた。

 マリアンヌとシエルの従者としてついてきただけあって、アークは気遣いが出来る。

 そういうところをマルクスは気に入ったのかもしれない。

 アルフレットの主であるマルクスは穏やかな優しい人だ。

 物静かで、我侭も言わない。

 だが実は人のえり好みは激しかった。

 気に入らない相手は側に寄せ付けない。

 アークのことを気に入るか、実はアルフレットはかなり心配していた。

 だがそれは杞憂だったらしい。

 マルクスは直ぐにアークを気に入った。

 昼食の時から、気になっていることをいろいろ質問する。

 アークはどの質問にも丁寧に答えていた。

 その親切な態度が良かったらしい。

 人に頼ることのないマルクスが珍しく、アークには頼っているようだ。

 とても楽しそうにしている。

 どちらかといえばいつも沈みがちなマルクスが楽しげに話をしている姿はそれだけで珍しい。

 アルフレットは嬉しかった。

 思わず微笑む。

 そんなアルフレットをシエルは冷たい目で見た。


「何、にやけているの?」


 渋い顔をする。


「いやらしい」


 毒づいた。

 アルフレットは苦笑する。


「マルクス様が楽しそうで良かったと思っただけだよ」


 言い訳した。

 こんな言い訳をする必要なんて無いのだが、どうもシエルには弱い。

 泣いているのを抱きしめて慰めて以来、シエルはますますアルフレットに遠慮がなくなった。

 言いたい放題、言われている気がする。

 だがそれも甘えているのだと思うと、可愛く思えた。

 よしよしと頭を撫でたくなる。


「ちゃんとルークとユーリのことも見ているよ。シエルのことも」


 にこやかに言うと、嫌な顔をされた。


「僕のことはいい」


 首を横に振る。

 どうやら子供扱いされるのが嫌なようだ。

 そんなところがまた可愛い。


「いやいや。お前もまだ子供だよ」


 アルフレットはつい、シエルの頭を撫でてしまった。

 甘やかしたくなる。


「!?」


 シエルは驚いた顔をした。

 露骨に逃げる。

 アルフレットと距離を取った。

 その反応にアルフレットの方が驚く。


「あっ、いや。つい」


 アルフレットは苦く笑った。

 気まずい顔をする。

 シエルはムッと顔をしかめた。


「姉さんを落すことも出来ない根性なしが触らないでよ」


 文句を言う。

 恨めしげに睨んだ。


「根性なしって」


 アルフレットは小さく肩を竦める。

 ひどい言われようだ。


「間違ってないでしょ。二人きりの時間があんなにあったのに」


 シエルは怒る。

 馬車での移動のことを言っているらしい。

 その間に口説き落とせば良かったのにということのようだ。


「仕方ないだろ」


 アルフレットは苦い顔をする。


「思ってしまったんだから」


 ため息をついた。


「何を?」


 シエルは尋ねる。


「マリアンヌならいい王妃になるんじゃないかって」


 アルフレットは答えた。

 マリアンヌは関わった人間を見捨てられない。

 王妃になれば、国民みんなを守ろうとするだろう。

 いい王妃になると思った。

 マリアンヌが王妃を務める国ならば、安泰な気がする。

 アルフレットはアルフレットなりに国のことを考えていた。

 ルークやユーリが将来、困ることの無い国であって欲しいと願っている。

 本当はそんな国を作る助けに自分がなりたかった。

 自分の主であるマルクスならそんな国が作れると思う。

 他の王子と比べても、劣らないくらいマルクスは有能だ。

 ただし、本人にその気はない。

 国王になりたがっておらず、第三王子のラインハルトが王になることを強く望んでいた。

 それを知って、アルフレットは国政に携わることを諦める。

 ラインハルトが愚かな王にならないのはわかっていた。

 任せることにする。

 何より、弟のルイスは優秀だ。

 きっと良い国を作ってくれるだろう。

 だが、不安な気持ちもアルフレットにはあった。

 ルイスは合理主義で少し情に欠けるところがある。

 ラインハルトも当たりは誰にでも優しく柔らかいが、基本的には他人に関心が無いようだ。

 人前ではそんな素振りは見せないが、たいていつまらなそうにしている。

 そんな二人に国を任せるのは心配なところもあった。

 だがマリアンヌなら、二人に欠けている部分を補ってくれるだろう。

 自分は優しくなんてないと言いながら、やっぱりマリアンヌは優しい。

 ラインハルトと二人で良い国を作ってくれると思った。

 安心してしまう。

 心のどこかで、マリアンヌが妃になることを望んだ。

 そう願ってしまった時点で、マリアンヌに求婚する資格はないだろう。


「シエルは思わないか?」


 アルフレットは尋ねた。


「思うよ。思うから、嫌なんだよ」


 シエルは唇を尖らせる。

 拗ねた顔をした。


「大事なものが増えすぎて、僕なんてどうでも良くなっちゃうじゃん」


 ぼやく。


「せっかく帰ってきても、追いかけてくるし。おかげで姉さんとゆっくり話をする時間も取れやしない。なんなの、あの人。大人しく待つってことが出来ないの?」


 愚痴った。


「だから、ラインハルト様を避けているのか?」


 アルフレットは笑う。


「避けてなんか……」


 シエルは否定した。


「いや、避けているだろう? 不自然に近づかない」


 アルフレットは言い切る。

 シエルは気まずい顔をした。


「当たり前じゃん。仲良くなんて、したくない」


 目を潤ませる。

 おもちゃを取られた小さな子供みたいだ。

 泣くのを我慢している。


「大丈夫だ。お姉ちゃんに甘えられない分、私が甘やかしてやるから」


 アルフレットは慰めた。


「は? 頼んでないし」


 シエルはいらないと首を横に振る。


「遠慮するな。なんなら、この前みたいに抱きしめてやろう。夜寝るときも、寂しいなら抱いて背中をポンポンと叩いてやるぞ」


 アルフレットはからかった。

 シエルを抱きしめようとする。


「何、それ。すごくおじさんくさいんだけど。鬱陶しいよ」


 シエルは逃げた。

 冗談だとわかっているが、逃げずにいられない。

 アルフレットは笑いながら追いかけた。


「お父様たち、何しているの?」


 そんな二人に気づいて、ユーリが尋ねる。


「シエルはマリアンヌが構ってくれなくて寂しいそうだ。可哀想だから、ユーリがぎゅってしてあげなさい」


 アルフレットは息子を煽った。


「うん」


 ユーリは頷く。

 シエルを追いかけた。

 可愛い子に追いかけられると、シエルも逃げ難い。

 結局、捕まった。

 ユーリにぎゅっと抱きつかれる。


「ルークも」


 兄を呼んだ。

 わけがわからないまま、ルークもシエルに抱きつく。


「お父様は?」


 ユーリはアルフレットを見た。


「そうだな」


 アルフレットはにやにや笑いながらシエルに近づく。


「いい。それは本当にいらない」


 シエルは断った。

 だが構わず、アルフレットはシエルを後ろから抱きしめる。

 前からは子供たちに抱きつかれ、後ろからはアルフレットに抱かれ、前と後ろから挟まれた。

 愛が重い。


「おやおや、坊ちゃん。ずいぶん仲良くなったんですねぇ」


 ジェームスおじいさんに笑われた。


「違うよっ」


 シエルは必死で否定する。

 だが信じてもらえなかった。




次は本筋に戻ります。

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