二日目 3
さくさくUPしていきます。
書いてそのまま出す感じなので誤字脱字があったらすいません。
わたしと彼女は並んで、黙々と掘り返されていた土を埋め戻す。
ちらりとわたしは彼女を見た。
話しかけたいが、少し迷う。
昨日、助けたことを覚えていますか?――なんてさすがに恩着せがましすぎる。
だがそれ以外、話の糸口はなかった。
(うーん。困った)
考え込んでいると、彼女の方から口を開いてくれる。
「あの……」
呼びかけられた。
顔を上げて彼女を見ると、思いの他近くに綺麗な整った顔があった。
(おっと、びっくり)
美人のドアップは心臓に悪い。
思わず、後ろに身を引いてしまった。
そんなわたしの態度を気にすることなく、彼女は言葉を続ける。
「昨日はありがとうございました」
礼を言われた。
覚えていてくれたことにほっとする。
話がしやすくなった。
「いいえ」
わたしは首を横に振る。
「実は昨日、名前も聞かずに別れたことをちょっと後悔していたの。お名前、教えていただける? わたしはマリアンヌ・ランスロー。国境ギリギリにある辺境地の男爵令嬢です」
簡単な自己紹介をした。
「フローレンスです」
彼女は名乗る。
「フローレンス……」
わたしはひどく驚いた。
心臓が止まりそうになる。
いやもしかしたら、一秒か二秒、本当に止まっていたかも知れない。
それくらいびっくりした。
「……」
何も言えず、黙り込む。
「どうかしました?」
フローレンスは固まったわたしを覗き込んだ。
綺麗な顔が近づいてきて、別の意味でわたしの身体はびくっと震える。
「いえ。母と同じ名前だったので、驚いたのです」
わたしは微笑んだ。
母が亡くなっていることを言うのは余計なことだろう。
たがちょっとだけ、わたしは運命を感じた。
彼女のことがとても気になるのは、母と同じ名前だからなのかもしれない。
「ファミリーネームはなんておっしゃるの?」
わたしはさらに聞いた。
「エリキスです。フローレンス・エリキスと申します」
フローレンスは教えてくれる。
(エリキス……。エリキス伯爵? 子爵? それとも侯爵?)
わたしは記憶の中を探った。
貴族名鑑みたいなものがこの国にはある。
貴族の子弟は誰もが社交界にデビューする前にそれを覚えた。
わたしももちろん覚えたのだが、すでに記憶にはない。
たいして興味がないので、忘れてしまった。
(ううーん、駄目だ。全く思い出せない)
わたしは思い出すのを諦める。
「フローレンス様もやはり、お妃様になりたいの?」
愚問なのはわかっていたが、確認した。
なる気がなかったら、ここにはいないだろう。
「ええ」
フローレンスは頷いた。
「マリアンヌ様もでしょう?」
聞き返される。
「いいえ」
わたしは静かに首を横に振った。
「え?」
ひどく驚いた顔をされる。
驚いた顔も美人は綺麗だ。
ちょっと羨ましい。
お金持ちに美男美女が多いのは、お金を持っている男性は美人の奥さんを貰うことが出来るからだそうだ。
その美人の奥さんの遺伝子が子孫に受け継がれ、その他にも何代にもわたって美人の奥さんを貰う度に、美形の遺伝子が増えて受け継がれていくらしい
そんな話を前世で何かの折に目にした。
とても納得したのと同時に、お金持ちの上に容姿端麗なんてなんだがずるいと思ったことを覚えている。
母が美人だったのもそんな理由からだとアルフレットやルイスを見て納得した。
フローレンスもそんな感じなのだろう。
ザ・主役というイメージがある。
お金持ちに違いない。
「わたしはもともと、10位辺りを狙って賞金を貰って帰るつもりだったのです。でも、それも諦めて明日帰ります」
わたしは告げた。
「どういうことですの?」
困惑した顔で問われる。
弟が帰りたがっているので、帰るのだと話した。
「弟さんのためにですか?」
フローレンスは首を傾げる。
納得出来ないらしい。
「弟はたぶん、わたしのことが心配なのです。とても優しい子ですから。そんな弟を心配させてまで、お妃様レースに参加する意味がわたしにはないのです」
わたしの言葉に、フローレンスは落ち込んだ様子を見せた。
わたしの代わりに悲しんでくれるらしい。
(なんて優しい子なのだろう)
わたしは感動した。
やはりシエルのお嫁さんに欲しい。
「本当は今日、ここに来ないで帰ろうとせがまれたんです。でもわたし、フローレンス様にどうしてももう一度、お会いしたかった。会えて、本当に良かった」
わたしがそう言うと、フローレンスは目をぱちくりと瞬く。
予想外の言葉だったようだ。
「何故でしょう?」
会いたかった理由を問われる。
「わたしにはシエルという弟がいるんです。フローレンス様にお似合いな、天使のように綺麗な弟です。わたしの家は辺境地の男爵家で、ただの田舎です。でも農作物は豊富で、そこに住む人はみんな穏やかで、とても暮らしやすい良い土地なのです。フローレンス様のような方には田舎は退屈で何もないと思われるかもしれませんが、住めば都です。野菜も果物も何でも美味しくて、良いところですから弟のお嫁さんに来てはいただけませんか?」
回りくどい言い方を避け、ずばり頼んだ。
のんびり口説く暇はないので、直球を投げる。
「えっ……」
思いもしなかったという反応が返って来た。
(そうでしょう、そうでしょう。驚くのも当然です。王子妃になるつもりでいたら、辺境地の男爵夫人はいかがかと打診されたのだから)
フローレンスの気持ちは察するに余りある。
「もちろん、将来、国王になるかもしれない王子妃の方が素敵なのはわかります。綺麗なドレスも華やかなパーティも何でも思い通りになる権力も、辺境地の男爵夫人にはありません。でもその分、重責を背負うこともなく、気楽ですよ。わたしたちと楽しく仲良く暮らしてみませんか?」
にこっと笑うと、フローレンスも笑ってくれた。
その顔が引きつっていなくて、ほっとする。
「それはとても素敵な提案ですね」
フローレンスは頷いた。
思いがけない好感触に、口説いたわたしの方が驚く。
だが、貴族の言葉は額面どおり受け取ってはいけないのが常だ。
OKの返事だと思うのは甘い。
「一つ、聞いてもいいですか?」
遠慮がちに問われた。
「何でもどうぞ。一つと言わず二つでも三つでもいいですよ」
わたしはにこっと微笑む。
フローレンスは笑った。
花のような笑顔というのはこういうものだと思う。
同じ名前だと知ったせいか、母に似ている気がしてきた。
わたしはこういう顔に弱い。
「マリアンヌ様がお妃様になりたくない理由はなんなんですか? そしてそれなら何故、このレースに参加したのでしょう?」
当たり前と言えば当たり前のことを聞かれる。
「お妃様になりたくないのは、わたしには荷が重いからです。わたしのようなその他大勢ではなく、例えばフローレンス様のような主役を張る人がお妃様にはなるべきです。この国の将来を守っていく人なのですから、人格者で頭のいい人が」
わたしはきっぱり言った。
「それがわかっていてこのレースに参加したのは、どうしても王都に来たい理由があったからです。長い間、絶縁状態だった祖父に呼んでもらえたのですから、このチャンスを逃すわけにはいかなかったのです。将来、男爵家を継ぐ弟のために」
そこまで言って、わたしはふっと笑う。
真面目な表情を崩した。
「それにわたし、どういうわけか最後の10人に残れる自信があるんです。ついでに、賞金を貰おうかなとちょっと欲が出ました」
小さく肩を竦める。
「賞金は何に使うつもりだったんですか?」
くすくすとフローレンスは笑った。
「弟が結婚して家を継いだら、私は屋敷を出るんです。その時に住む家とか自分の畑をすでに持っているんですが、自給自足の生活をしていても現金って何かの折には必要でしょう? その時に使う資金にしようと思っていました」
わたしの説明に、フローレンスは小さく首を傾げる。
「自給自足って何ですか?」
問われた。
貴族様には耳慣れない言葉らしい。
「自分で食べる野菜とかを自分で作ることです。わたし、自分の畑で野菜を作っているんです。我が家の食卓には、すでに半分くらいわたしが作った食材が調理されて並んでいるんですよ」
自慢したら、フローレンスはだだでさえ大きい目をますます大きく見開いた。
「凄いですね」
感心される。
「一度、遊びにいらしてください。遠いですけど」
わたしは笑った。
満更、社交辞令ではない。
「ありがとうございます。ぜひ」
フローレンスは頷いてくれた。
これでわたしも思い残すことはない。
「じゃあそろそろ、わたしたちも宝箱を探しに行きましょう。 私には必要ないけど、フローレンス様には必要でしょう?」
フローレンスを促した。
こうして話をしている間にも、時間は過ぎていく。
宝箱を見つけた女の子たちがはしゃいだ様子でゴールに向かう姿が見えた。
「ああ、そのことなんですが」
フローレンスはふっと笑う。
「実はわたくし、宝箱をすでに見つけましたの。……二つ」
そう言って、ポケットから二つの箱を取り出した。
「二つ?」
わたしは首を傾げる。
持って行けるのは一つだけだ。
「昨日のお礼に、箱を一つ差し上げたくて。マリアンヌ様を探していましたの」
わたしはフローレンスを探していたが、フローレンスもわたしを探してくれていたらしい。
箱をわけてくれる気持ちはとてもとても嬉しかった。
でも、困る。
「その箱はわたしには必要ないので、どなたか別の方にあげてください」
わたしはお断りした。
箱の中身が当たりだったら、誰かのチャンスを潰すことになる。
それは忍びなかった。
「いいえ。わたくしはマリアンヌ様に差し上げたいのです。どうか、この箱を貰ってください。そしてもし中身が当たりだったら、明日もう一日だけわたくしと会ってくださいませんか? ここで」
フローレンスはわたしの手を握った。
わたしはドキッとする。
(あれ?)
同時に違和感を覚えた。
ある考えが頭の中を過ぎる。
だが、それを確かめる術はなかった。
「でも……」
わたしは困る。
母に似ていると思ってしまったからか、どうにも断り難かった。
「お願いします、マリアンヌ様」
目をうるうると潤ませて、フローレンスは懇願する。
そんな顔をされると、わたしは弱い。
「……」
押しに負けた。
「わかりました。もし、当たりだったらもう一日だけ、お会いしましょう」
約束する。
二人で王子の待つゴールへ向かった。
宝箱を開けてもらう。
二人とも当たりが出た。
わたしは複雑な気持ちになる。
故郷に帰る日が延びることが確定した。
あと2つ、今夜中にUPできたらいいなーと思っています。
思っているだけにならないように頑張ります。
何故こんなに急いでいるかというと、やらなければならないことを後回しにしているからです。
終わったらそちらをやりたい。
時間的にもう無理なのに、こちらを書いているのです。