二日目 2
サブタイトルで頭を悩ますくらいなら、本文にその能力を使おうと開き直りました。
二日目に用意されていたのは宝探しだった。
庭のどこかに50個の宝箱が埋めてあるらしい。
宝箱は両手で包めるくらいの小さな木の箱だ。
箱には鍵がついていて、開けられないようになっている。
その宝箱を掘り当て、ゴールで待つ王子のところで日が沈むまでに持っていくシステムだ。
王子は鍵を持っていて、宝箱を開けてくれる。
宝箱には当たりとハズレがあって、当たれば合格。
外れればその場で失格となる。
宝箱を開けるチャンスは一度しかなかった。
選別する方法の大筋は変わっていないが、昨日よりゲーム性が加味されている。
わたしはちょっとわくわくした。
前世であった脱出ゲームの推理が必要ないバージョンという感じがする。
まさかこの世界で脱出ゲームもどきに出会えるとは思えなかった。
(でも前世では一度も脱出ゲームに参加できなかったのよね。一緒に行ってくれるような友達はいなかったし、一人で行くのはちょっと怖かったから)
心密かに残念には思っていたので、今回はリベンジだ。
ただし、合格するわけにはいかない。
(ハズレの宝箱を目指して、頑張ろう)
普通ではない目標を立てる。
ただ掘り当てればいいだけなのだから意外と簡単だと説明を聞いた時点では思っていた。
それが甘いことには庭に案内されてから気づく。
王宮の庭は当たり前かもしれないがとても広かった。
(大公家もバカみたいに庭が広かったけど、ここはさらに広いのね)
やれやれという気持ちになった。
これは故意に失格になる必要はないかもしれない。
普通に挑戦してもクリアは難しい気がした。
今日のゲームには制限時間がある。
日が沈むまでに宝箱をゲットできなければ、その場で失格だ。
付き添いのアルフレットに見送られて、わたしはスタート位置につく。
昨日の半分とはいえ、50人もいるとかなりの混雑だ。
見渡せるのは周囲の数人だけど。
それ以上は人の陰になって、姿が見えない。
昨日のあの子をスタート前に捜すのは難しいようだ。
園芸用の小さなスコップが一つ、支給される。
それで宝箱を掘れということらしい。
(ちゃちいな)
普段、農作業をしているわたしは普通に農機具を使っている。
それに比べたら、なんとも心許なかった。
だが、ゲームのためにわざわざ埋めたということはどれも浅いところに埋まっているのだろう。
少し掘れば出てくるのでこの程度の道具で十分なのだ。
そもそも淑女の皆さんに、深く土を掘る体力なんてない。
きっと、スコップを持つのもはじめての人たちばかりだ。
その点は考慮されているだろう。
スタートの合図と共に、50人の女の子はバラバラに庭に散って行った。
わたしはわざとスタートを遅らせる。
人が少なくなるのを待って、昨日の子を探した。
だが、見回した限りでは見当たらない。
先に出発したのだろう。
探して歩くことにした。
宝箱を探すことが目的ではないので、しゃがんで土を掘り返している子たちの顔を覗き込みながら、歩く。
その内、掘り返した土をみんながそのまま放置して次の場所に移動していることがどうにも気になった。
(なんで元に戻すという、たったそれだけのことができないのだろう)
わたしは心の中でため息をつく。
王宮の庭はそれは見事に管理されていた。
庭師の苦労が忍ばれる。
その庭を荒らし、そのままにしておける神経が信じられない。
せめて、掘り返した場所は元通りに戻して欲しかった。
(まあ一番悪いのは、こういう事態になることがわかっていながら、宝箱を庭に埋めたルイスだけど)
このゲームも企画したのはルイスだろう。
どうやら、ルイスはこの企画の総責任者的な立場にいるようだ。
わたしは昨日の女の子を探しながら、荒らされた庭を埋め戻して歩く。
庭が少しでも元に戻るのは気分が良かった。
天気もいいし、いつの間にかただ散歩をしている感じになる。
(お弁当を持ってくれば、庭でピクニックが出来るわね)
そんなことを考え、ふふっと笑った。
自分の屋敷の庭を思い出す。
わたしの家の庭はそれほど広くないが、よく手入れがされ、たくさんの花が一年中咲いていた。
どの季節でも何かしらの花が見られるよう、父が母のためにそうする。
母は思い立ったが吉日の人だ。
朝に突然、天気がいいからピクニックに行こうと言い出す。
わたしや父に予定が何もないならいい。
だがたいてい、わたしたちが忙しい時に母は言うのだ。
放っておかれるのが嫌だったのかもしれない。
そして父もわたしも母には弱かった。
駄目と言えず、ピクニックに付き合うことになる。
そこで、わたしたちは考えた。
庭でピクニックが出来れば、時間はそう取られない。
母が満足するよう、たくさんの花を庭に植えた。
そしてその花たちは、今も庭で咲き誇っている。
もう、庭でピクニックをしようと子供みたいな駄々を捏ねる人はいないのに。
何年経っても、わたしも父も母のことは忘れられないらしい。
それは少しだけ、胸が痛くなった。
だがそんなわたしが、息を飲むような光景が目の前で繰り広げられようとしていた。
花壇の花を掘り起こそうとしている大ばか者たちがいる。
数人の若い女の子たちが、花壇の中に入っていった。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと」
わたしは慌てて、その子たちを止める。
その中の一人が振り返った。
吊り目気味のきつい顔立ちをしている。
どうやら、その子がリーダーっぽい。
「何よ、おばさん」
柄の悪い返事が返ってきた。
お妃候補の淑女の皆さんとはとても思えない。
(まあ、おばさんですけどね)
心の中で肯定した。
「あなた達、何をしているの?」
わたしはとりあえず確認する。
「見てわからないの? 宝箱を探しているのよ」
女の子は答えた。
(そうだよね。見てわかったわよ)
わたしは心の中でべーっと舌を出す。
「あなたたちは、バカなの?」
わたしはにこやかに聞いた。
怒っているので、声は冷たい。
口調が厳しいのは自分でもわかった。
「は? なんなの?」
女の子たちは怒る。
「冷静に考えなさい。宝箱を埋めるために掘り起こしたら、花壇の花はどうなると思うの? そんな風にきちんと植えられている花たちの下に宝箱が埋まっているわけがないことがわからない?」
わたしの言葉に、女の子たちは花壇を見た。
確かにそうだと思ったらしい。
少し気まずい顔をした。
「掘るなら、何も埋まっていない場所や、直ぐに埋め戻すことが出来る場所を探しなさい。最近、掘り返されたような跡がある場所でもいいわよ」
わたしはアドバイスする。
それはもちろん、親切心からではない。
バカなことを繰り返させないためだ。
毎回、わたしが見つけて止めることが出来るとは限らない。
出来たとしても、そんな面倒なことはご免だ。
この子たちの世話を焼く理由がわたしにはない。
シエルはわたしを面倒見が良くてお節介な人間だと思っている。
否定はしないが、正解でもなかった。
わたしは自分にとってどうでもいい人間の世話をするつもりなんてこれっぽっちもない。
目の前で野垂れ死んだりしない限りは、放っておくつもりだ。
さすがに死なれるのは気分がよくないので、誰であろうと助けるけれど。
「ここはわたしが戻しておくから、あなたたちは他の場所に宝箱を探しに行きなさい」
静かに囁く。
花壇から女の子たちを追い払った。
女の子たちは何も言わず、去って行く。
途中、少し気まずそうに何度か振り返っていたが、手伝うとは言わなかった。
もっとも、手伝うと言われても邪魔になりそうなので、わたしとしてはさっさと立ち去って欲しい。
女の子たちの姿が見えなくなってから、わたしは花壇を振り返った。
「あなた達、命拾いしたわね」
花たちに話しかける。
掘り返された周りを埋め戻した。
「手伝いましょうか?」
声をかけられる。
断るつもりで振り返ったら、昨日の子だった。
昨日はどこかおどおどしていたのに、今日はちょっと印象が違う。
探し歩いていた時は見つからなかったのに、探さなかったら出会えたことに驚いた。
(神出鬼没の忍者みたい)
わたしはくすっと笑う。
「じゃあ、お願いします」
頼んだ。
話をするチャンスだと思う。
彼女はわたしの隣にしゃがんだ。
予定では二日目は5まであります。
あくまで予定ですが。←今から書くから
細切れUPですいません。
可能なら、今日で第四章を終わらせたい。><




