第九話 ドラゴンチクチク
ラハヴャは自身の縄張りであり住処である緑穣谷に向かう中、竜の姿で飛びながらも背に乗せる三人について考えていた。
(……ウチ、何やってるのよ。
いつもだったらこんなことしないし、
ウチに乗る三体は全員格下……)
今まで彼女が背中に誰かを乗せたことはない。それはこれからもないと思っていたこと。
(やろうと思えば……いつでも……なのに、なんでウチはペルポネっていう古代の魔族を目の当たりにして、その気が消えちゃったの?)
ラハヴャは軽く混乱していた。
自分らしくないことをしてる自覚に伴い、
今、こうして三人に協力していることに、
強い困惑と違和感を抱いていたのだ。
「空を飛ぶのは久しいな」
「ペルポネ様って飛ぶのかにゃ……?」
ユニムが聞けば代わりにリフルが答える。
「ペルポネ様は全盛期じゃ空は飛ぶし、
地は一瞬で駆け抜けてなんでも壊せたし!
どんな敵も瞬殺の最強魔族だったんです!」
ユニムはそれを聞いて大袈裟だと鼻で笑い、その様子を見たリフルに頬を引っ張られ始めるのであった。
「……余も昔は竜の配下が居てな。
よく、そやつと空を飛び回ったものだ」
ラハヴャはそんなことを聞いては、
質問するようにペルポネに話しかける。
「なーんだ。背中に乗って飛んだのね」
「? 余は隣で飛んでいたが?」
「……えぇ? 乗ってないの?」
「氷で翼を作って飛んでいた」
ラハヴャは全盛期のペルポネは、
どれだけ規格外の存在か思い知った。
(翼って……そんな簡単に魔法で再現できないでしょ。それに維持するのに魔力の使うし……ほんと、どれくらいの怪物だったのよ……)
* * *
「着いたわよ」
「早かったな」
ペルポネはラハヴャの背中から降りると、
彼女は人の状態へと戻る。
「いて」
「にゃぁ、まだ降りてなかったんにゃ」
ラハヴャはペルポネが降りた瞬間に人型へと戻ったため、リフルとユニムは地面に落下。
「さてラハヴャ。案内しろ」
「……わかったわよ。ついてきなさい」
そうして先頭を歩き出すラハヴャ。ペルポネの背中にくっつくリフルとユニムは、周囲の景色を視界に映しながらも歩く。
毒緑竜の縄張りである緑穣谷。
そこは緑溢れながらも水多き谷であり、崖にくっつくように道と連なっている。谷底には太い川が流れており、ここに住む者らは翼で高低差のある谷を上に行ったり来たりしている。
「綺麗な場所ですね〜」
「ほんとだにゃ〜」
ペルポネが見つめるラハヴャの後ろ姿は、
相変わらず自身よりも身長が低く感じる。
しかし、彼女は今どんな顔をしているだろうか、そんなことを気にしているペルポネ。
「お姫様! 後ろの者らは?」
「客人、それと……一応まだ協力者!」
「そ、そうでございますか……」
道を歩く毒緑竜の男性、
ペルポネは彼の表情を見て何かを悟る。
「ラハヴャ、笑ってるのか?」
「!? 笑ってない!!」
焦ったように振り返って否定するラハヴャ。
ペルポネは歩みを止めると背中に後ろの二人がぶつかり、少し前へと足を踏み出す。
「そうか? だが、歩調は少し乱れて──」
「なんもないから!! 行くわよ!!」
ラハヴャはそう言って再び背を向け歩き出す。
「リフル、余はなにか変なことを言ったか?」
「ラハヴャは照れ屋なんですよ〜」
「そうなのにゃ〜」
「っ、早く来ないと噛み殺すわよ!!」
それから──数十分。
ラハヴャの案内によっておそらく、
この縄張りの中心地の建物へと到着。
「テルト!! 帰ったわよ!!」
「お姫様……お帰りなさいませ。
凍塵の方はちゃんと倒せました……か?」
ラハヴャの呼びかけにより建物内から出てくる一体の毒緑竜。テルトと呼ばれる彼は彼女の後ろを見て、ペルポネらを視認する。
「……な、なんで?」
「協力関係になることにしたの」
「いや、その……ですがお姫様」
「うるさい。ウチが決めたんだから」
ペルポネはこちらを見るテルトを見返し、
その魔力量などを勝手に測り始める。
(魔力量はラハヴャほどではないが多いな。
あの目……余との協力関係が不思議か?)
「まさか、お姫様。赫海への対抗として、
この者らを? それはさすがに……」
「だーかーらー……ウチが決めたんだから、
全部正しいの、これ以上口答えしないで」
ラハヴャはツンツンとした態度で口を開き、
テルトはしょんぼりとして黙ってしまった。
「……あの三体はここで暮らしてもらう。
空き部屋ばっかなんだしいいでしょ?」
話を聞くに、ラハヴャはどうやらこの目の前の大きな建物に、ペルポネらを住まわせようとしている。
「お姫様……う……うん。はい。
良いと思います。そうしましょう」
テルトは諦めたように肯定すると、
ラハヴャはこちらへと振り返ってきた。
「そう言うことだから。
どうせ住む場所もないんでしょ?」
「ないですね!」
リフルの清々しい家無し発言に、ラハヴャは深く息を吐きながらも、建物の中に入る際に彼女は手で軽く手招きをしてきた。
招かれるがままに三人は中に入ると、
綺麗だと感じる廊下が広がっている。
「協力関係なんだから、ちゃんとオマエたちも赫海の討伐に力を貸しなさいよ」
「約束は守ろう」
ペルポネの返答にふんっと息を漏らすラハヴャ。桜色の長い髪が揺れながらも少しすると揺めきは止まって、ペルポネらはある部屋の前にやってきていた。
「三体だったらこのくらいの部屋でいいでしょ。綺麗にはしてあるから綺麗に住みなさい」
ラハヴャが扉を開けると、四つのベッドに机や椅子と、最低限の生活感が保証された部屋が広がる。意外に住みやすそうな内装である。
「……詳しい話とかは明日。
ウチは今から用事があるから、
ここで変なことはしないでよね!」
三人を部屋の中へとラハヴャは背を押して入れ、彼女は扉を閉めて足音を遠ざけていく。
「……ここまでしてくれるなんてにゃぁ」
「意外……というか、なんでですかね?」
リフルとユニムは不思議そうな様子で、
ペルポネは部屋を歩き椅子を引いて座れば、
くすっと笑って嬉しそうに話す。
「竜の姫も、初見ほどの暴君ではない、
ただ……それだけのことだろう」
そんなペルポネは窓から入り込む陽光に、
夏特有の暑さを感じながらも目を瞑る。
* * *
その日の夜──
「リフル〜。にゃんであたし連れてくのにゃ」
「なんでって夜は一人じゃ怖いんです……」
真夜中に当たる時間に無理矢理起こされたユニム。リフルはどうやら水が飲みたいそうだ。
「……一人で行けるようになれよな〜」
「一生無理ですからね……!」
ユニムにしがみつくリフル、
そんな彼女を見てユニムは問う。
「リフルってなんでペルポネ様にさぁ、
あんな……なんというか一途にゃんだ?」
リフルはそう聞かれて即答する。
「憧れだからですよ」
思った以上に早い返答にユニムは驚き、
ぎこちない様子で「そ、そうか」と言う。
「逆に……ユニムはなんでいきなり、
ペルポネ様に対して従順になったんです?」
質問が返される。
「あたしは〜……まあ、気楽だからにゃ。
ペルポネ様は最初は怖かったけど、
意外にあんな感じで良い魔族にゃ」
ユニムは過去を思い出しながらも話す。
「猫廟は魔族扱いが荒い神魔だったにゃ。
あたしは下っ端だから見向きもされないし、
名前すら覚えてもらえなかったんにゃ……
でも、ペルポネ様は一発で覚えてくれた」
ユニムは軽く笑って話を続ける。
「ま、こんなのが理由ってのも軽いけどにゃ。
あたしにとっては……それが一番なんにゃ」
すると、ユニムはリフルに手を触られ、
ギュッと握られながらも彼女の声を聞く。
「よかったね」
「……そうだにゃ〜。今は生きてて──」
ユニムはリフルの手を握り返す。
「楽しいのにゃ」




