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第10話 第二次宇都宮城攻防戦 その1

 慶応4年(1868年)4月25日早朝――。

 江戸を発って宇都宮に向かう勇記に、驚愕の報せがもたらされた。

「我が方、宇都宮城を奪還」

 報せをもたらした戸田三左衛門からの使者に対し、勇記は穏やかな表情で答えた。

「確か攻撃は昨日のはず。昨日の今日での早速の報告、誠にかたじけない」

 言い終えた勇記の顔は、とても晴れやかだった。

「これで落城の恥辱を晴らせたというもの。我が藩士の戦いぶりはいかがであったか?」

 弾む心が勇記を饒舌にした。しかし、使者は下を向いたまま勇記の質問に答えようとしなかった。

「いかがした? 早く申せ!」

 勇記の言葉に(とげ)はなかった。少しの間をおいて、使者は声を絞り出した。

「それが……」

 城奪還という喜ばしい報せ。詳細を聞きたいと逸る勇記の心に苛立ちが生まれる。

「はっきりせぃ! それでも伝令か!」

 深呼吸をした使者は、静かに口を開いた。

「我が藩は戦に参加しておりませぬ。24日の総攻撃に向けて準備を進めておりましたが、総攻撃は一日早く、23日に実施されましてございます!」

「……」

 勇記は言葉失った。そんな勇記を見ながら、伝令は申し訳なさそうに続けた。

「一刻も早くお伝えしようと、時を惜しんで駆けつけて参りましたが、中老殿を探して館林、板橋を経由してきたため、本日のご報告となりました。誠に申し訳ございません」

 伝令の言葉を呆然と聞いた勇記は、しばしの沈黙の後、ぼやくように口を開いた。

「何たること……。これでは宇都宮藩の面目は丸つぶれではないか……」

 先ほどまでの勇記の晴れやかな表情は影を潜めた。勇記は、重い足取りのまま宇都宮への帰路についた。


 ――事の発端は二日前の4月23日に遡る。

 朝10時頃、伊地知率いる宇都宮城第二救援軍は日光道中・小山宿にあった。翌24日の宇都宮城総攻撃のため、この日のうちに石橋宿(宇都宮の南約3里/13㎞)着を目指して進軍していた。

 小山宿で伊地知は、宇都宮の方角からかすかな砲声を聞いた。斥候を放った伊地知は、胸騒ぎを覚えつつそのまま日光道中を宇都宮に向けて軍を進めた。

 しばらくして斥候からもたらされた報せ――。

「すでに宇都宮で戦闘が行われております!」

 報告を聞いた伊地知は言葉を失った。


 ――更に遡ること4月22日早朝。

 壬生城と宇都宮城のほぼ中間に位置する安塚村で新政府軍と大鳥軍が激突した。

 宇都宮城奪還のため、宇都宮城の南南西約4里(約16㎞)の壬生城に集結した新政府軍と宇都宮城維持のため壬生城の攻略を企図する大鳥軍。一進一退の攻防の末、新政府軍が大鳥軍を撃退した。

 この戦闘で相当な損害を被ることになった新政府軍。指揮官は第一救援軍を率いる鳥取藩士・河田佐久間。河田は、この頃、結城にあった伊地知と伝令によるやり取りを行い、宇都宮城総攻撃を24日と定めた。

 ところが、安塚村の戦いの後に第三救援軍が壬生城に入ると状況は変わった。

「賊は疲弊しているうえ、我が軍が間を空けずに攻勢に出るとは思ってない! 速やかに軍を進め、宇都宮を奪い返すべきだ!」

 第三救援軍を率いる薩摩藩士・野津七次と大山弥助(ともに後の元帥陸軍大将、野津道貫と大山巌)。二人の若き指揮官が気勢を上げると、23日早朝、第三救援軍200人は壬生城を出発。街道を進み宇都宮城への攻撃を開始したのであった。


(先走りおって……)

 伊地知は苦虫を噛み潰した。それと同時に危惧を抱いた。

 斥候の報せでは、宇都宮城の大鳥軍は3,000人近い。それに対して、板橋を出府した救援軍は総勢約1,000人。一般的に城攻めには5倍の兵力が必要と言われている。しかも、その一部の部隊による攻撃。明らかに攻め手が不利と言えた。

 伊地知の危惧は現実のものとなる。

 23日午前10時頃、第三救援軍は、壬生と宇都宮をつなぐ街道の入口である六道口で大鳥軍と戦端を開いた。

 六道口を守るのは、大鳥軍の精鋭である伝習隊。序盤は大鳥軍の優位に戦況は進むも、野津と大山の指揮により大鳥軍は敗走。勢いに乗る第三救援軍はさらに進撃を続け、宇都宮城の西・松ヶ峰門に攻めかかった。

 一方の大鳥軍。六道口での戦闘開始を知った大鳥は、宇都宮城の各城門と城の北にそびえる明神山に部隊を配置し、守りを固めた。

 第三救援軍は松ヶ峰門を三方面から攻撃。大鳥軍の激しい迎撃が繰り返され、大鳥軍の一部が救援第三軍の背後に回り込む。指揮官の野津が負傷し、多くの死傷者を出した救援第三軍の攻撃は頓挫。六道口まで撤退したのであった。

「急ぎ宇都宮に向かう!」

 始まってしまった以上仕方がない。伊地知は、進軍の速度を上げて宇都宮へ向かうよう全軍に指示した。そして、斥候にも更なる指示を出した。

「急ぎ館林に向かい、宇都宮勢に報せよ」

 斥候は差し出された水を一気に飲み干すと馬にまたがり、館林藩へ馬を走らせていった。

「もはやどうにもなるまい……」

 その背中を見つめながらつぶやく伊地知。

(あがた)殿……すまぬ)

 伊地知は、宇都宮城へと向かった。

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