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REBIRTH  作者: 和泉結菜
8/9

7






参考にならないどころか、意味がわからない。

小さな失望感を覚えて、あたしは絵本を閉じた。



「意味分かんないよねー、その絵本」

「うん、ぜんぜんわか……え?」



突然隣から聞こえた声に驚いて、あたしはそちらに顔を向ける。

そこには銀色の髪に金色の瞳をした男の子がいた。

顔立ちは整っていて、どことなく雰囲気がリヒトに似ている。



「だ、だれ?」

「え、僕?僕は……ナナシだよ」

「ナナシ?」



ナナシって……名無し?――――親も酷い名前の付け方をするなぁ。

って、そうじゃなくって。



「知り合い……じゃないよね?」

「えー、ひどいなぁ。僕のこと忘れちゃったのー?」



……こんな間延びした話し方をする人に覚えはないんだけど。

これって、あれかな。おれおれ詐欺?

いや、でも名前名乗っちゃってるもんなぁ、この人。



「いっつも孤児院に来てくれるのに、僕のこと覚えてないのー?なんだかショックー」

「孤児院?」



え、孤児院の子?こんな子いた?……いたかもしれない。

でも……孤児院の子どもの名前は全部覚えていると思ったのに、なんだかショックだ。

ずーん、と沈んでしまったあたしを見て、ナナシはけらけらと笑った。



「嘘嘘。僕が一方的に知ってるだけだよー。僕孤児院にはいるけど、一度もお姉さんの話聞いたことないから。僕を見たことがないのは当然だよ」



ナナシはそういうと、そんなにがっかりしないで、と二回あたしの肩を叩いた。

……お話を聞いたことないって、それはそれでがっかりだ。

やっぱり楽しんでるのは小さな子どもだけなのかな。――――ってことは、楽しんでる"弟"って意外と精神年齢低い?

ナナシは再び口を開いた。



「今度はそれを話すつもり?止めたほうがいいよー、面白くないよ。それ」



……いや、そういう目的でこの絵本を読んでたわけじゃないんだ。ナナシ。

わたしは心の中で返答して(だって本当のことは言えないし)、実際は笑ってごまかした。

ナナシはそれを訝しむ様子もなく、あたしの持っていた本をひょいっと取る。

そしてぱらぱらと捲って、全てに目を通し終わったのか少し乱暴にそれを閉じた。

……絵本に目を通すその表情を、あたしは怖いと思った。



「――――――――――のか」



小さく何かを呟いたナナシは、先ほどの表情とは打って変わってあたしに満面の笑みを向ける。



「お姉さん、まだこれいる?」



あたしは首を横に振った。……だって、それ全く意味分からないし。

すると、ナナシは突然席を立ち、ひらひらと手を振った。



「それじゃあ、これ僕が返しとくから。またね、お姉さん」



そしてスタスタと去っていく。

突然いたかと思えば、今度は突然去っていくのか。……変な人。

あたしも席を立つと、再び本棚の前に行くことにした。






 ◇ ◇ ◇






「あれ?結局なにも借りないんだ」



そんな"弟"の声に少し苛立ちを感じながら、あたしは溜息を吐く。

結局あたしは、1時間以上本棚を眺めたところで諦めることにしたのだ。

……まさかこんな初っ端から躓くなんて予想外。

てっきり、本が多すぎて困るっていう展開だと思っていたのに……まさか、全くないなんて。

本当、予想外。

家へ帰るために歩きだすと、弟は口を開いた。



「結局姉さんって何を調べたかったの?」

「あんたには関係ない」



即答すると、"弟"は不機嫌そうにむすっとする。

いつものことのはずなのに、どうしてだか"弟"の態度がいつもと少し違うように感じた。

"弟"はあたしに聞こえるように大きなため息を吐く。



「姉さんっていっつもそうだよな」



突然何を言い出すんだ、と思いながら「なにが」と聞き返す。

"弟"は再び溜息を吐いた。



「いっつも喧嘩腰で態度悪いし、返事は短くて素っ気ない」



"弟"はイライラしているのか、軽く舌打ちをした。



「最初はそんな性格なのかもって我慢してたけどさ……姉さんがそうするのって、俺の前だけだろ?」

「そんなこと……」


ないこともない、かもしれない。

そう思いながらも否定しようとしたのに、隣にいる"弟"は口をはさんだ。



「知らない男には普通に話せるくせに、否定すんなよ」



……ナナシと話していたところを見られていたのか。

覗き見なんて悪趣味な奴、と思いながらあたしは"弟"を睨みつけた。

"弟"も負けじとあたしを睨みつける。



「そんなに俺のこと嫌いか、姉さん」

「……ええ」



あたしはそう言うとすぐに、"弟"から目をそらした。






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