第212話 渇きのハルト
サクヤ様が転移を使い、すべての本を回収すると、上に戻った。
「ノーラさん、水を戻してもいいですね?」
一応、確認する。
「ええ。建物自体を調査したいとも思うけど、さすがに無理よ。貴重なオアシスの泉の水を捨てるわけにはいかないし、部族の方々にとっては貴重な水源だもの」
俺ももう魔力が尽きるしな。
何気にここまで魔力を使ったのは初めてな気がする。
「では、戻しますね」
ゆっくりと水の固まりを降ろしていき、穴に戻すと、魔力を込めるのをやめた。
すると、水が泉に入り、波打っていくが、次第にその波も収まり、元の泉に戻る。
「金銀財宝はなかったが、ええもんを見つけたのう」
「はい。これから解読や研究です」
ノーラさんはすごく嬉しそうだ。
「帰りましょうか」
俺達が車に乗り込むと、サクヤ様が転移を使う。
すると、遠くに聖都が見える位置まで飛んだ。
「あっという間ですね……」
ノーラさんが聖都を見ながら呆然とつぶやく。
「まあの。サラやディーネはもっと遠いところから来たぞ」
「それもそうですね。神の力というのは素晴らしいと思います。では、戻りますね」
ノーラさんは車を動かし、聖都に向かった。
そして、西門を抜け、車を置くと、教会まで歩き、ノーラさんの部屋となっている資料室まで戻ってくる。
「あー、暑かった」
「ですねー」
ここは涼しいわ。
「お疲れ様。遺跡探索ツアーじゃなくなったけど、ありがとうね。今、お茶を淹れるわ」
「ノーラ、その辺に本を置くぞ」
「お願いします」
ノーラさんは頷くと、部屋の端に行き、お茶の準備をする。
その間にサクヤ様が回収した本をデスク周りに置いていった。
「何冊くらいですかね?」
本を1冊取りながらサクヤ様に聞く。
「軽く100冊はあるな。この部屋のように資料室だったのかもしれん」
「ですかねー……」
手に取った本をパラパラと見ていくと、ジュリアさんも適当な本を取り、同じようにパラパラと見ていった。
「ふーん……」
「へー……」
俺とジュリアさんは同時に本を戻すと、顔を見合わせる。
「何イチャついてんの? お茶よ」
ノーラさんが戻って来て、呆れながらお茶をテーブルに置いた。
「イチャついてないですよ」
「普通です」
そうそう。
イチャついているっていうのはどっかの大佐さんのところみたいなカップルなのだ。
「普通かー……」
「ノーラ、終わったぞ」
サクヤ様は本を置き終えたようだ。
「ありがとうございます。どうぞ、お茶です」
「うむ」
俺達はテーブルにつくと、お茶を飲んで一息ついた。
「この数の本を解読するのは大変じゃないですか?」
100冊を超えているんでしょ?
「そうでもないわよ。逆に多い方が解読は進むの。一冊だったらわからない言葉や文字も出てくるけど、これだけあれば共通項なんかを見比べて、文字や言葉の意味を推察できるわけよ。だからこの本の中身も価値がありそうだけど、これまでわからなかった言葉や文字の解読がぐっと進むというのがすごいことなわけ」
なるほどねー。
「再来週にピラミッドに行くって話でしたけど、そちらの解読なんかを優先しても良いですよ? 俺達はいつもでいいんで」
「いや、そこは行く。解読も大事だけど、私は巫女だから女神様への祈りが最優先なの」
ノルン様、ちゃんと祈りを聞いているのかな……
怖いから聞かないけど。
「では、再来週、お願いします」
「ええ。私も転移で楽に帰れるのは嬉しいわ。祭壇もちょっと遠いから」
「確かにそうですね。サクヤ様もお願いします」
「任せい」
俺達はその後も話をしていたが、夕方になったのでお暇することにした。
そして、転移で家に帰ったのだが、ノルン様もタマヒメ様もいなかった。
「あやつらはまだ出かけておるのか……今日はどうするんじゃ?」
「タマヒメ様が帰ってきたら火の国の方に行きませんか? ぐつぐつを食べたいです」
今日は暑かったが、そんな時にこそ、逆に辛いものを食べたい。
「ええの」
「ジュリアさんは?」
「私もぐつぐつが良いです」
俺達はタマヒメ様が帰ってくるのを待つことにし、リビングでゆっくりと過ごしていく。
「ジュリアさんさー、あの2000年前の本をどう思った?」
気になっていたが、あの場では言えなかったことを聞いてみる。
「それですね……昔の文字でしたっけ? よくわかりませんでした。普通に読めましたもん」
「うん……読めたよね」
異世界の町にある看板とかの文字と何が違うのかすらもわからなかった。
「そうか……おぬしらはノルンの加護で言葉が通じるだけじゃなく、文字の読み書きもじゃったな。それは古代の文字もか」
多分、そう。
「言った方が良かったですかね? なんとなくやめた方が良いかなと思って、あの場では言えませんでしたけど」
「私も言えませんでした」
ねー?
「それで良いじゃろ。仕事を奪ってはいかんし、あの楽しそうでワクワクしているノーラに水を差すのはやめよ」
目が輝いていたもんな。
どこか大人っぽいノーラさんが子供に見えた。
「ですよね……」
「そうします」
俺が解読は大丈夫かって聞いた時も自信があるようだったし、そういう研究するのが好きで巫女と学者を兼務しているんだから余計なことはしない方が良いだろう。
将来的には世界を見て回りたいと思っているくらいに情熱があり、生きがいとしているなら野暮ってもんだ。
「よほど悩んで苦しんでいるようだったら助け船を出すのはありかもしれんが、今はやめておけ。多分、今が一番楽しい時じゃろうし、あやつ、今日は寝ないぞ」
そうだろうなー……
健康面では心配だが、それは教会の人達が止めてくれるだろう。
「気持ちはわかります。俺も異世界を冒険するのが楽しいですから」
「ええ。今日もすごく楽しかったです」
本当に楽しかった。
異世界で泉の水を抜いてみた的なこともしたし、あの封印された建物を見た時に何でも開く鍵が手に入るなって思ったもん。
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