第203話 歴史
「明るい方なんですよ」
「まあ、そうね……よし、こんなものね。ごめんなさいね」
ノーラさんがそう言って、ペンを置き、こちらにやってくる。
「いえ、こちらこそ、忙しいのにすみません」
「いいの、いいの。それよりもあなた達、歩いてきた?」
「ええ。暑かったです」
「あー、ごめん。言うのを忘れてたけど、受付の子に言えば、馬車を手配してくれるわよ」
あ、そうなんだ。
「先代の巫女様?」
「ええ、そう。あの方はこの町を良い町って言ってくださってたけど、暑さだけはマジ勘弁って言ってたわ」
ギャルですか?
「次からは太陽が出てる時はそうします」
「そうしてちょうだい。さて、話を聞きたいんだっけ? 何から聞く?」
えーっと……
「歴史ですかね? この町の始まりみたいな感じの話」
「ふむふむ……町の始まりね。では、その話をする前にこの辺りの歴史を話しましょう」
この辺り?
「町じゃなくてですか?」
「ええ。遺跡があるって言ったでしょ? それはつまり、この聖都ができる前に文明があったってことなのよ」
確かにそうだ。
でも、遺跡ってことは……
「滅んだんですか?」
「まあ、そういうことね。昔は川沿いに結構な文明があったらしいのよ。それが推定で2000年前」
2000年って……
「すごいですね……」
「本当かどうかはわからないけど、相当前なことは確かね」
「そういう資料があるんですか?」
本棚を見渡しながら聞く。
「説明しましょう。この辺りに文明があり、それはかなり発展していたそうよ。ただ、今のその辺の国のように王様がいた感じではなかったみたい」
ん?
「どういうことでしょう?」
「一人の王が治めていたわけではなくて、力を持った豪族がそれぞれ権力を持った国だったみたい」
「へー……争いが起きそうですね」
「起きてたみたいね。実は遺跡発掘の際にはかなりの人骨が出てきているのよ。それも頭が陥没してたりするやつね。要は戦死者よ」
ミイラじゃなくて、スケルトン……
「動きだしたりしないですよね?」
俺、そういうのが苦手。
「魔物じゃないんだからそういうことはないわよ。この辺の魔物はヘビだったりの爬虫類や昆虫系が多いわ。ゴブリンやオークはまずいない」
昆虫系……サソリ、スカラベ……
「スケルトンは?」
「スケルトン? あー、西の方にいる魔物ね。この辺ではまず見ないわよ」
あ、そうなんだ。
それは良かった。
「それでその国はどうなったんです? 戦争で滅んだ感じですかね?」
「滅んだ理由は諸説あるけど、主流なのは2つある」
主流なのに2つなんだ。
「何でしょう?」
「まずは川が氾濫したこと。治水なんかしてなかったし、川が氾濫して、町に被害が出ちゃったのよ。さらにはこの気候だからあっという間に良くない病気が流行った。これが主流なのは遺跡にそういう洪水の跡がいくつも発見されているからね」
洪水か。
砂漠なのに……
「もう1つは?」
「飢饉ね。作物が育たなかったわけ。この2つが主流なのはどちらかではなく、両方が起きたんだろうってこと。川の氾濫で貴重な畑や家畜が死んだのよ」
なるほど……
この気候では作物を育てるのも家畜を育てるのも大変だろうしな。
「確かにそれっぽいですね」
「この説が主流なのは周辺の部族達もそう証言しているから」
あ、盗賊達……
「そうなんですか?」
「ええ。私が研究のために聞き取りをしたから間違いない」
えー……
「いくらなんでも危なくないですか? 盗賊でしょ?」
「教会関係者に手を出す部族はいないわよ。こっちは水だったり、作物なんかも援助してるのよ? それに何より、女神様に矢を射る人間はいないわ。罰が当たって雷が落ちるわよ」
俺、スナイパーのるんを撃っちゃった……
「そ、そうですか……部族の方は歴史に詳しいんですか?」
「そりゃね。歴史を話すならこれも話しておきましょう。周辺の部族っていうのはね、要はその時の国の豪族の末裔達なわけよ」
あ、そうなんだ。
「豪族なのに盗賊?」
「そういう国だったわけ。2000年も前からそういう生活をしている人達なの」
あー、そういえば、そんなことを魔導帝国の魔法ギルドのお姉さんが言ってたな。
「討伐とかはしないわけですか……」
「しない、しない。むしろ、余所者は私達だからね。聖都を置かせてもらっているわけだし」
うーん、何とも言えんな。
「町ではそういう声はないんですか?」
「ないわね。なんでって町の人は外に出ないもん。出るのは冒険者や探検家なんかの他所の人達」
町の人達は被害に遭わないのか。
出るとしても列車を使うし、列車は教会が管理、運営しているから襲われない。
「部族の方々もこの町ではそういうことをしないわけですね」
「もちろん、そうよ。交易なんかもするし、お祈りに来たりするけど、そういうトラブルは滅多にないわ。たまに歓楽街で騒動が起きるけど、それはまあ、別に部族の人に限ったわけじゃないしね」
酔っ払いはね……
「じゃあ、部族の人達も氾濫や飢饉で滅んだって言ってるんですか?」
「ええ。色々と教訓があるみたいよ。あんまり言いたくないけどね」
えーっと……
「聞く?」
ジュリアさんに確認してみる。
「私はどちらでも……実は想像がついています。大学でどこぞの島が飢饉にあって、どうなったかを習いましたし」
へー……
「聞いてもいいです?」
「まあ、これも歴史学よ。飢饉にあって、食べ物がなくなると人間はどうするかって話」
あー……
「食べちゃったんですか」
「ええ。前に部族の長老に遺跡に案内してもらったことがあるわ。お墓ね。そして、2度とこういうことをしないという誓いと贖罪のための祈りの場所らしいわ」
カニバリズム……
要は食べるものがないから人を食べたんだ。
「それは何とも言えませんね」
非道な行為だが、餓えはな……
タマヒメ様も昔は山に行く人もいたって言ってたし……
「この辺りって肉料理が有名でしょ? 本当に豊富なのよ。それは肉だけは絶やさないようにしようっていうことでそういう産業が盛んになったから。部族の方々も放牧をしているのよ」
なるほどね……
あの美味しい肉料理にはそういう歴史があったわけだ。
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