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「ここは?」


気が付けば、俺は見知った天井を見上げていた。

国境の防衛拠点、その自室の天井だ。

一体、何が起きたんだ。

俺は気を失う前の出来事を思い返し、王宮での騒動を思い出す。

あぁ、そうだったな。

未来視が別の予知をした時は流石に驚いた。

地下牢獄で兄がトリニティの血を全て抜き取ろうとした所までは読めていた。

だがそれを救出した途中で、俺が流れ矢に撃たれ、命を落とすというのは想定外だった。

当然、見捨てる選択肢はない。

彼女が生きる望みを捨てていなかった時点で、俺の意志は決まっていた。

兄と決別する意志だ。

罪悪感と僅かな憧れにケリを付けるため、俺は王宮に舞い戻った。

隠し通路を使ってギリギリだったから、数分でも遅れていれば彼女の首は斬り落とされていただろうな。

あわよくばと思って、飛んでくる槍や矢は全て叩き落としたんだが、駄目だったか。

どの道、俺は死ぬ運命にあった。

でも、最後にトリニティを救い出せたことだけは覚えている。

誰か一人でも助けられたのなら、それで満足だ。

俺はベッドに身を委ねて、目の前の走馬灯に浸ろうとした。

するとそこへ意外な人物が現れた。

従者のルークだ。

ルークは俺を見て酷く驚いていたが、それは俺も同じだった。


「で、殿下! 御目覚めになられたのですね! 良かった……本当に……!」

「ルーク!? おい、何、お前まで死んでるんだよ……付いて来るなって言っただろ!?」

「死んでいませんよ! 僕も、殿下も! 生きて、此処にいるんです!」

「……は?」


どういう事だ。

俺は死んだんじゃなかったのか。

ゴソゴソと身体を漁ってみると、腹部全体が包帯でぐるぐる巻きにされていた。

治療が終わったかのような見た目。

ついでに辺りを見渡すと、ベッドの隣にある棚には天望のイヤリングが置かれていた。

これは夢でも、走馬灯でもないみたいだ。


「未来が、変わったってのか? そんな筈が……」


自分が助かった事に動揺していると、ルークの背から見覚えのある少女が姿を見せた。

濁った目は相変わらずだが、心なしか血色が良いような気がする。

彼女は安堵しながら俺に問い掛けた。


「セルジュ様、私の事が分かりますか? 何処か、痛むところは……?」

「いや……」

「そうですか……良かった。何かあれば、直ぐに仰ってくださいね」

「あぁ……って、トリニティ!? 待ってくれ、一体どうなってるんだ!?」

「ええと……簡単に言うと、私の王器で貴方を助けたんです」


アッサリとトリニティは言った。

それはつまり、純血の宝玉で俺を救ったという事なのか。

彼女は胸の内に手を当てて、その時の事を思い返す。


「貴方を助けたい。その一心で語り掛けたんです。そうしたら私の血が反応して、貴方の身体の中に」

「……輸血?」

「純血の王器は、使用者の願いに応じて性質を変貌するんです。なので、そういう意味合いに近いかも。ただ、失った命までは取り戻せません。あの時、セルジュ様が命尽きるその前に、全てを明かしてくれたからこそ、なし得た事なんです」

「ん? 全て?」

「覚えていませんか? 私に、今までの事を全て話してくれたことを」

「全く覚えてねぇ……一体、何を言ったんだ?」

「いえ。覚えていらっしゃらないなら、それで良いんです」


トリニティは微笑むだけだった。

おいおい、俺は何を口走ったんだ。

もし昔の事を話していたとしたら、恥ずかしすぎるんだが。

でもまぁ、今更彼女に聞いても、喋った事実は無かったことにはならない。

知らない方が良い事もあるし、聞かないでおこう。

取り敢えず、俺は口を噤んでおく。


「血だらけの殿下を見た時は、本当に肝が冷えましたよ。だから、僕も同行すると言ったんです」

「お前を連れてったら、予知的には俺より先に死んでたんだ。引き止めるに決まってるだろう?」

「し、しかし、殿下が斃れられては元も子もありません。どうか、自分の身体を大切になさってください。皆、心配していたんです」

「そ、そうか……悪かったな」


どっちにしても俺は死んでいた筈だから、選択肢はなかったんだがな。

それでも少し急ぎ過ぎた感じはあった。

皆を心配させたことに変わりはないし、素直に謝っておく。


「まぁ、過程がどうあれ、だ。トリニティ、お前のお蔭で俺は生きて帰ってくることが出来た。感謝の言葉もない」

「いえ……これは私の力だけじゃありません。お父様やお母様が力を貸してくれたお陰。だから少しだけ、嬉しいんです。この身体も、悪い事ばかりじゃないって、ようやく思えるようになったから」

「光明が見えたって事か。良いことじゃねぇか。俺も首を突っ込んだ以上、助けて終わりにするつもりはねぇ。王宮で宣言した通り、身柄は俺が預かる。望むなら、何度でも力を貸そう」


俺は彼女に命を救われた。

その恩はどんな形であれ、必ず返す。

きっと兄達が何か仕掛けてくるだろうが、関係ない。

恩人である無実の少女を守り通す。

王族である以上に、男としてコレは果たすべき責務だろうな。

はにかむ彼女の姿を見て、俺はその先の事を見据えた。


「それにお前が死ななくても良い方法が、何処かにあるかもしれないからな」

「死ななくなる……?」

「その王器の継承には、自分の命を使うんだろう? だったら、それを無くす方法を探すのも俺の務めだ」

「そ、そんな方法があるとは思えませんが……」

「ないとは限らないだろう? このイヤリングみたく、物に変える事だって出来るかもしれねぇ。前に置かれた轍の上を走るんじゃなくて、その間の生き方を、変えられる筈さ」


別に血に囚われる必要もない。

血である事に何かしらの意味があったとしても、それが彼女を苦しめているなら、取り払う動機にはなる。


「それにお前の力も頼りにしてるんだ。何てったって、コイツの未来視を変えたんだからな。未来を見る王器と、その未来を変える王器……最強の組み合わせだと思わねぇか?」


まぁ、ぶっちゃけた話、王器を持つ者は国内でも片手で数えるレベルだ。

そうそう見つかる逸材じゃない。

トリニティが協力してくれるなら、この先の困難も切り抜けられる。

そんな予感があった。

だから少し茶化すように言うと、彼女は安心した様子で俺に答えた。


「ありがとうございます、セルジュ様。私、諦めずに探したいです。貴方と一緒に」


まだ瞳は濁ったままだが、何れはそこに光が灯るだろうか。

俺は期待も込めて頷く。


「取り敢えず、小腹が空いたなぁ。食事と一緒に紅茶でも飲みたい気分だ。トリニティ、シャーリーに頼んで紅茶を淹れてもらえるか? あの味、結構好みだったからな」

「は、はいっ! 勿論です!」


トリニティは隣のルークと顔を見合わせながら、元気そうに返事をする。

そこには年頃の少女らしい反応が、あったような気がした。


それから暫らくして。

父上の死を発端に、国内では王位継承を継ぐ争いが起きた。

俺達は先ず、国境で争っていた隣国と協定を結び、その戦いに身を投じる。

乱心した兄や、それを操っていた連中との戦いは避けられなかった訳だ。

だがその辺も含めて、俺達の手で粉砕。

他の兄弟達が仲違いや自滅をした果てに、俺が第一継承の座につく事になった。

最終的には謎の連中が目論んでいた、王器による世界征服とやらを打破。

奴らが持っていた情報からトリニティの王器を分離させ、彼女を一人の少女として生き長らえさせることも出来るのだが、それはまた別の話だ。

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